人工呼吸の重要性が見直された G2020 BLS 

2021年1月現在、日本語版の映像教材がまだリリースされていないので、まだ暫定版という形で展開されている AHA-BLS-G2020。

暫定コース教材としてAHAから提供されているG2015テキストの修正箇所一覧には記載されていませんが、実は密かに小児の蘇生アルゴリズムが変更されていることに、皆さん、お気づきだったでしょうか?

AHA蘇生ガイドライン2020で改定された小児BLSのアルゴリズム

小児は脈拍60回/分未満でCPR開始 脈のカウントはいつする?

思春期未満の小児の場合は、中枢の脈拍が触れていても、脈拍数が60回/分未満で灌流不良の兆候があれば胸骨圧迫を開始するわけですが、その脈拍触知をするタイミングが明示されるようになりました。

10秒以内で(呼吸確認+脈拍確認)をするときは、あくまでも触知の 有無 だけをみます。

そこで、(呼吸なし+脈拍あり)と判定した場合は、まずは補助呼吸を開始します。

2~3秒に1回(G2020変更点)の人工呼吸を開始するほうが先です。

そして、補助呼吸をしながら、脈拍数をカウントして、60回/分未満と判定したら、胸骨圧迫を始めてCPRに移行する、という形です。

 

もしかしたらG2015でも同じことを言っていたのかもしれませんが、アルゴリズムの表記上わかりづらく、脈と呼吸を同時にみつつ、脈拍数もカウントするように解釈されることが多かったのではないかと思います。

人工呼吸を急げ、というメッセージ

この変更から強調されたのは、(呼吸なし+脈拍60回/分未満)であっても、いきなり胸骨圧迫ではなく、まずは人工呼吸! という点ではないでしょうか?

ここは PALS や PEARS の理解からは当然かもしれませんが、BLSプロバイダーコースでは、全体として成人蘇生とC-A-B手順が強調されているため、やもや小児に対しても胸骨圧迫のみの Hands only CPR でいいと誤解される可能性を想定しての、あえての強調なのではないかと考えました。

 

溺水者の脈拍確認は後回し まずは人工呼吸

人工呼吸の重要性の強調が見て取れるのは、G2020版BLSコースで初登場の溺水者に対するCPRの項目でも明らかです。

そこでは、

Rescue Actions Based on Cause of Cardiac Arrest

という見出しの下、BLSプロバイダーは心停止の原因によって救助手順を変える必要があるとされています。

突然の卒倒であれば心室細動を疑って通報&AED手配ファーストでいいものの、溺水の場合は、脳と心臓に酸素を送ることが優先事項であるとはっきり書かれています。

G2020-AHA-BLSプロバイダーマニュアルの溺水の救命法

これは近年はACLSプロバイダーコースで言われていたことですが、それがBLSレベルにも下りてきたわけですね。(実はG2005まではBLSにも含まれていた内容なんですけどね)

さらに、ここはAHAガイドラインとしてまったく新しい部分だと思いますが、溺水者の救助手順が下記のようにドラスティックに規定されました。

溺水者発見 → 呼吸確認(なし)→ 気道確保し補助呼吸2回 → 脈拍確認(なし) → 胸骨圧迫開始(30:2)

G2010で華々しく登場し、いまでは誰もが疑わなくなった C-A-B 手順を覆すこのやり方!

重要な概念として、「まずは人工呼吸を! 溺水者への最も重要な処置はできるだけ早く人工呼吸を行うこと」とまとめられていることが物語っています。

まとめ

G2020のBLSコースの変更点からわかることは、G2010から始まった心原性心停止に偏りすぎた方向性の修正、ということじゃないでしょうか?

これは日本の保育現場などで救命法指導をしていても感じますが、今は胸骨圧迫とAEDが強調されすぎてしまい、とりあえずAEDを貼っておけばいい、胸を押しておけばいいという、心室細動以外の原因を無視した流れが主流となってしまい、小児蘇生や溺水の救助がないがしろにされています。

BLSプロバイダー教育は、バイスタンダー教育とはわけが違います。

業務対応として目の前の傷病者を救う責務がある。

そのためには、最大公約数的に一般化されたCPR習得だけでは不十分で、ちゃんと考える蘇生ができるように、という点がはっきり打ち出されてきたのだと考えています。

そして、これは、これまでのBLS横浜の BLSプロバイダーコース 開催コンセプトとまったく同じです。

BLS横浜では、ファミリー&フレンズCPRハートセイバーCPR AEDコースなど、フルサイズでAHA-BLS講習を展開しているからこそ、BLSプロバイダーコースの存在意義を、理解と応用 だと確信を持って伝えていきたいと考えています。

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