AHA-BLS実技試験ーバッグマスクで実施するには

バッグマスクは一人法 BLS では推奨されていなかった

バッグバルブマスクは、救助者一人による心肺蘇生では推奨しない。

 
これは AHA 蘇生ガイドライン 2010 で強調されていたポイントでした。(過去の話です)

当時、BLSヘルスケアプロバイダーコース の筆記試験でも問われていた部分だったので、印象に残っている方も多いのではないでしょうか?

その理由は、胸骨圧迫の中断時間が長くなる から。

頭側から側方への移動が問題

通常、バッグマスクは患者の 頭側から E-Cクランプ法 で使います。

患者の頭側からのバッグバルブマスク換気

救助者が一人の場合は、胸骨圧迫のために患者の側方に移動する必要があり、胸骨圧迫の中断時間が長くなってしまいます。AHA-BLS においては、許容される胸骨圧迫の中断時間は10秒以内。

この実現が困難なため、「一人法 CPR ではバッグマスクは推奨しない」ということになっていました。

そのため、AHA講習は、BLS でも ACLS でも PALS でも、BLS 実技試験のデモ映像ではポケットマスクが使われています。

ポケットマスクは、患者の側方、つまり胸骨圧迫の位置から使うことができるため、圧迫の中断を最小限にするためには、一人法ではバッグマスクよりポケットマスクが望ましいということが暗に例示されていました。

病院の医療者がポケットマスクで呼気吹き込み人工呼吸をしますか?

しかし、現実問題として、医師や看護師、救急救命士が業務中にポケットマスク人工呼吸をしますか? という話になります。

保育園やスポーツ施設ならいざしらず、医療機関内で呼気吹き込み人工呼吸というのはありえません。特に病院ではバッグバルブマスク換気以外の選択肢はない、と言っても過言ではないですよね。

ですから、例えば ACLS プロバイダーコース内の BLS 実技試験で、ポケットマスクを使った CPR をやらせるのは、不自然なこと、でした。

トレーニングサイトによっては、ACLSプロバイダーコースの受講要件としてポケットマスクを購入させているところもあるようですが、現実を考えると、やや謎です。

G2015で変わった潮目 人工呼吸の実技試験は現場で使うものにするようにと

そんな不自然な流れが修正され始めたのが、AHA蘇生ガイドライン2015 からです。

G2015の教材改定で、BLS でも ACLS でも、BLS 実技試験においてはポケットマスク一択ではなく、「使用する防護具は受講者が現場で使用するものと同じようなものでなければならない」と変更されたのです。

これは、BLSインストラクターマニュアル G2015 の 34 ページからの抜粋ですが、さらにこんな記述もあります。

「バッグマスクしか利用できない現場もある。このような場合、受講者はバッグマスクを使ってスキルテストを受けてもよい」

バッグマスクしか使えない現場と言ったら、病院はまさにそうですよね。

となると、G2015 からの新ルールでは、日本の医療者向け BLS 実技試験はバッグマスクで実施するべき、ということになります。

BVMを側方から使えればいい

問題は、頭側と体側の移動時間。

移動に時間が掛かるのでであれば、バッグバルブマスクを患者の横側から使えればいいわけです。

正式な方法ではありませんが、側方からでもきちんと E-C クランプ法でバッグマスクを使うことはできます。

手の置き方はいろいろありますが、いちばん基本に忠実なやり方は下の写真のようになります。

バッグバルブマスクを患者の側方から使えば中断時間10秒を越えない

頭側の手を、向こう側に回しこむようにします。

こうすると、患者のあごに3本指が掛かり、あごを引き上げることができます。(頭部後屈-あご先挙上にするにはあごに指をかけることが必要)

コツは肘を床につけること


やってみると、肘がつっぱる感じになってちょっとつらいところもありますが、ポイントとしては自分の肘を床につけるくらいにして、体をかしげること。

こうすると、肘の突っ張りが解除されて、比較的自然に患者のあごを引き上げつつ、マスクを密着させることができます。

実技試験、皆さん合格しています


BLS横浜で開催しているBLSプロバイダーコース、ACLSプロバイダーコース、PALSプロバイダーコース、PEARSプロバイダーコースは、今はほぼすべてこのやり方でBLS実技試験を受けてもらっています。

もちろん、練習はします。

側方からの BVM 換気の手技と、その後、中断時間10秒でできるかを反復練習してもらっています。時間にしたら5分くらいでしょうか。

その後で実技試験に臨むと、皆さん、ふつうに合格しています。

どんな感じになるかは、下の動画をご覧ください。16秒ほどの短い映像です。

正式なやり方ではないけれど

患者の横からバッグマスクを使う方法は、AHA の公式な指導項目ではありません。

医療界でも手技として確立したものでもないかと思います。

またマネキンだからできるんだという意見もあるでしょう。

ただ、実際のところ医療現場にはバッグマスクしかなく、病院内のベッドは頭が壁側についていることが多いです。

またベッド柵が邪魔で、ベッドを引いて柵を外さない限り、レギュラーな BVM 換気が開始できない現実を考えると、バッグマスクを横から使うという選択肢があるかないかは意味があるのではないでしょうか?

AHA講習としてはどうする?

AHA 講習内の BLS の実技試験に関して言えば、実技試験の合格率を考えたら、ポケットマスク人工呼吸がいちばん簡単だと思います。

ただ、実際に病院内勤務の医療者が現場で使う道具ではないので現実的ではないという点、また、今のコロナ禍を考えたときには、もともとポケットマスク練習が含まれていない ACLS や PALS、PEARS プロバイダーコース で呼気の飛沫を飛ばすことは避けたいという問題があります。

BLS横浜としては、技術としてやや難しいということは認めつつも、受講者の皆様には側方 BVM を練習してもらっています。

どうしても難しければ、床ではなくベッド(講習会場ではテーブル等)にマネキンを置いて、救助者が立位で CPR するようにすれば、立ち位置移動のタイムロスは減りますので、頭側からのふつうの BVM 換気でも10秒以内という実技試験項目はクリアできます。

また、プレホスピタル・プロバイダーの場合は、希望によってはポケットマスクで実施してもらう場合もあります。

試験に受かるのが目的ではなく、臨床現場で使える技術を学ぶのが受講目的のはず。

現実を考えると、お作法だけではなく、臨機応変な工夫が大切、と考えています。

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