病院内の救急対応を学ぶなら、ACLS より PALS。
そんな新しい常識がだいぶ広まってきていますね。
昔は PALS プロバイダーコースを受講に来るのは小児科医か PICU の看護師ばかりでしたが、最近は小児を受け持たない一般病棟の看護師や、ほとんど子どもは受けていないけど、という ER の看護師の受講が増えてきています。
ACLS = 標準的な二次救命処置PALS = ACLS の小児版
そんなイメージ・空気感がありますが、中身を考えるとまったく逆であることに気づきます。
むしろ PALS が標準の二次救命処置であって、ACLS が全般的な救急対応の一部を切り取った限定版であるという点。
守備範囲で言ったら PALS のほうが断然広いです。ACLS は成人の二次救命処置と言ってしまうのがはばかれるほどの視野の狭さ。
結局のところ、ACLSは不整脈を前提とした心原性二次救命処置 に過ぎない、ということが日本国内でもだいぶ知られるようになってきたのでしょう。
意識改革のきっかけは PEARS®
日本の医療者、特に看護師の間での意識変容は、おそらく、というか間違いなく PEARS の普及によるものだと考えます。
急変対応というと、今までは BLS → ACLS だった中に、2008年に私たち(AMR AHA US-Cardグループ)が日本に持ち込んだ PEARS® プロバイダーコースが、「急変は急じゃない。防げる」という概念を日本に定着させました。
今では、看護師にとっての急変対応は BLS からでは遅い、というはすっかり定説になりましたが、その始まりは間違いなく PEARS® です。(患者急変対応コース for Nurses もINARS もどちらも PEARS® にインスパイアされてできた教育コースです)
命を落とす原因は組織細胞への酸素化障害
病院内の心停止は、成人であってもVF(心室細動)は2割程度に過ぎない、ということはACLSプロバイダーマニュアルにも書かれています。
防ぎ得る心停止で人が命を落とす原因は、突き詰めれば、組織細胞への酸素化の障害です。
その酸素不足、が呼吸器で起きるのか、循環器で起きるのか?
循環器由来で発生する組織細胞の酸素不足をショックと呼んでいますが、ショックの原因の1つが不整脈による循環不全です。致死性不整脈の他、心拍が遅すぎたり、速すぎたりして、血圧を保てなくなっている状態。
ACLS が扱っているのは、この不整脈による循環障害と心筋梗塞だけ、です。いうなれば心原性ショックだけ。
PALS の守備範囲の広さ
しかし、PALSでは、心原性ショック以外に、病院内で圧倒的に多い血液分布異常性ショックと循環血液量減少性ショックをがっつり扱いますし、さらには限定的ながら閉塞性ショックも含まれます。
さらには、循環器以前の酸素の取り込みを問題とする呼吸障害も、
・上気道閉塞
・下気道閉塞
・肺組織疾患
・呼吸調整機能障害
に細分してメカニズムと対応をしっかりカバーしています。
PALS の限界
そんなPALSではありますが、やはり限界はあります。その1つがやはり「子ども」が前提ということで、心筋梗塞と脳卒中が含まれていないという点。
さらに言えば生活習慣病や加齢が想定されていないので、臨床症状が基本に忠実すぎるというか、高齢者にありがちな動脈硬化の影響や、基礎疾患、内服薬の影響などがまったく言及されていないという点。言い換えれば、生理学的な原則をきっちり学べるということではありますが。
もちろん、子ども、特有の臨床症状のクセ、みたいなものはあります。
ただ、今現在、日本で展開されている教育プログラムの中で、これだけ幅広く包括的に救急を扱ったものは PALS をおいて他にありません。(強いて言えば AMLS や概念としての JMECC でしょうか?)
小児という癖を加味しても、小児に限定しない価値はあると考えています。
PALS の前の基礎固めとして PEARS® と ACLS
近年、BLS横浜の講習に参加してくださる方の動向・傾向を見ると、看護師、救急救命士の場合、BLS から始まって、PEARS® へ、そして ACLS を 学び、最後は PALS へ、という流れができつつあるのを感じています。
総合的に救急を学べるのは PALS である、というのは間違いないとしても、いきなり PALS 受講となると、看護師、救急救命士の場合は、2日コースであってもかなり学習負荷が大きいのは否めません。
最後は PALS としても、その前に PEARS® と ACLS を知っておくのは意味があると考えます。
PEARS® で学ぶ体系的アプローチと非心停止対応、そして ACLS の心停止と不整脈のアルゴリズム対応を知った上で、PALS に臨めば、 PALS 本来の総合救急対応というツールの使い分けという PALS 固有の部分を最大限に学べるはずです。