保育園ではAEDは不要?

子どもの救命には、人工呼吸は欠かせないというのは、これまで何度も書いているとおりです。

withコロナ時代の救命講習(市民小児編)-人工呼吸をどうするか?

子どもの心肺蘇生法で、人工呼吸が大事だと強調して教えてくれる指導員さんは、ちゃんとわかっている方なんだろうなと一安心なのですが、その1歩先としてAEDの位置づけをどう伝えるのかも重要なポイントです。

AEDと小児用キー

 

「子どもの救命はAEDより人工呼吸!」

そう言ったときに、間違いではないのですが、じゃAEDは使わなくていいのか? という疑問が生じます。

実際のところ、保育園の場合、全国的に見たら、自施設内にAEDを配備していない園の方が多いんじゃないでしょうか?

「AEDを置いたほうがいいですか?」との保育施設からの質問が多いのも事実です。

このあたりを今日は解説していきます。

1.子どもの心停止のしくみとAED

例外はあるにしても、子どもの心停止の原因は呼吸のトラブルに起因する低酸素がメインに考えられています。

息ができなくなり、低酸素で心臓が停まるとしたら、それは心臓のけいれん(不整脈の一種である心室細動)ではなく、心臓が弱っていって心拍数が低下し始め、最後は停まってしまうという流れが想定されます。

呼吸停止 → 低酸素 → 徐脈 → 心停止(無脈性電気活動PEA → 心静止)

AEDは「除細動器」ですから、心室細動などの心臓のけいれん状態のとき以外は電気ショックはしません。

ゆえに酸素不足で弱って停まってしまった心臓は、けいれん状態ではありませんから、AEDの心電図解析結果「ショックは不要です」と言われるのは想定できます。

そのため、子どもの心停止はAEDでは救えない、と言われることがあるのも理解はできます。

2.子どもに心室細動はないのか?

小児蘇生科学の一般論からすると、AEDより人工呼吸が大事とは言えますが、子どもであっても突然の心停止(≒心室細動)がないわけではありません。

ありがちなケースとすると、胸にボールがあたったあと卒倒したなど、いわゆる心臓震盪と呼ばれる事故は心室細動が原因と言われています。

また運動中に急に倒れた場合、心臓への負担がかかることで心臓がけいれんを起こしてしまう、という可能性はなくはありませんし、WPW症候群やブルガダ症候群のように、突発的に心室細動を起こしてしまうような体質(持病)を抱えている場合もあります。

3.子どもの心停止にAEDを装着するべきか?

心停止の原因はなんなのか? 発見したときの状況である程度推察することはできたとしても、決定的な判断はできません。

仮に電気ショックが必要な心室細動だった場合、AEDが非常に効果的で、早期に電気ショックを行えば呼吸がトラブルからの心停止より助かる可能性は高いとも言われています。

電気ショックが必要な心停止かどうかを判断してくれるのがAEDですから、AEDがその場にあれば、もしくは届き次第、子どもであってもすぐに装着するべきである、と言えます。

保育園でも胸骨圧迫+人工呼吸+AEDの基本は変わらない

以上のことから、保育園で行う救命講習であっても、胸骨圧迫+人工呼吸+AEDという基本形は他と変わるところはないはずです。

まずは、発見した人は助けを求めつつ胸骨圧迫開始。人工呼吸の感染防護具(フェイスシールドやポケットマスク等)が届き次第、人工呼吸も開始し、30:2の比率で継続。AEDが到着したら、可能な限り胸骨圧迫を続けながら急いでAEDを装着。

こんな流れでトレーニングを行うべきでしょう。

保育園にAEDがない場合

ただし、現実保育園ではAEDを置いていない場合があります。

その場合でも、基本としてAED使用を前提としたトレーニングも含めるべきですが、現実の運用としてどうするか?

AEDを置いていない保育園で尋ねると、近くの ○○ から借りてきます、という答えが多いです。

その場合、さらに次の点を質問します。

1.取りに行って帰ってくるまで何分かかりますか?
2.職員人数が少ない時間帯で現実的に取りに行けますか?
3.いざというよりには借りるという事前承諾は得てますか?

特に 2 が重要です。

人手が十分にあるなら、多少時間がかかっても救急車が到着するより速いと判断したのであれば、AEDを取りに行って装着するべきです。

しかし、夕方や早朝で動けるスタッフが3人しかいないという状況の中で、一人が遠方まで取りに行って離れてしまうというのは現実的ではないかもしれません。

倒れたのが成人(教職員等)であれば、人工呼吸よりもAEDを取りに行くという判断もありかなと思いますが、呼吸原性心停止がデフォルトの子どもの蘇生では、人工呼吸の開始を遅らせてまで AED を取りに行くプライオリティがあるかどうか?

ということで、施設にAEDがない場合は、人手に余裕があれば取りに行く、という体制が適当と思いますが、判断に迷う場合は、119番した際に消防の司令員に状況を伝えて指示を仰ぐというのがいいかと思います。

AEDを使わないことのリスク

子どもの救命ではショック不要と言われるはずだから、AEDはあったけど装着しませんでした、というのは、少々まずいと思います。

もしかしたら結果としてはそうなるかもしれませんが、その判断をするのがAEDなわけですから。

学校や施設管理下での救命処置を巡っては、裁判がよく起きていますが、遺族側の訴えとして目立つのが「AEDを使わなかった」「AEDの使用が遅れた」というものです。

世間一般としては、心停止の種類などは認識していませんから、AEDを使えば助かったに違いないという「希望的幻想」があります。

AEDを装着したらショック不要だったと言われば納得してもらえるとしても、装着していないと、その時の心臓がどんな状態だったのかのデータも残りませんから、心室細動であった可能性を主張された場合、証明のしようがありません。

そうした法的なトラブルを考えたときは、とにかくAED があればすぐつける、という救急法の大原則を貫いたほうがいいでしょう。

AEDを外部施設から借りるつもりなら協定と明文化を

子どもではAEDで救えるタイプの心停止が少ないということから、1台30万円以上するAED、保育園に設置するまでもないという組織判断も否定はしません。

しかし、法的トラブルを考えたときに、保育園や運営企業・法人としてのリスクマネージメントをどうするかはきちんと検討しておく必要はあります。

救護をめぐる裁判で指摘されることが多いのは、「予見できることなのに備えていなかった」という点です。実稼働頻度は低いとしても、保険としてAEDを備えてすぐに使える体制とトレーニングをしておく、というのが最善です。

もし近隣施設から借りるという体制で「備える」のであれば、それをきちんと制度化・明文化しておくことです。

事故を巡ってしばしば問題になるのが、事故対応手順が決まっていたか? マニュアルがあったか、です。

事故対応マニュアルの中に、緊急時には近隣施設である ○○ からAEDを借用するという点が書かれていることが重要です。そしてそのためには当該施設との事前承諾があってしかるべきです。それは単なる口約束ではなく協定のようなものを書面で取り交わすのが理想です。

それらがなく、一方的に「いざというときに借りに行くつもりだった」と主張しても、それは「備えていた」ことにはなりません。

まとめ

以上、蘇生科学の視点と、法的なリスクマネージメントの2つの側面から保育園でのAEDについて考えてみました。

結論です。

  • 小児に対してもAEDを装着する価値はある(心室細動の可能性、最善を尽くす努力)
  • 施設にAEDがあり、人手もあるなら、胸骨圧迫をしながら人工呼吸準備とAED準備を同時進行する
  • 施設にAEDがあり、二人しかいなければ胸骨圧迫に加え、AED準備を優先し、可能な限り人工呼吸準備を急ぐ
  • 施設にAEDがなく、人手に余裕があれば多少遠くてもAEDを取りに行く
  • 施設にAEDがなく、取りに行く余裕がない場合は、119番オペーレータに状況を伝え指示を仰ぐ
  • 外部施設からAEDを借りる予定なら、承諾を得た上で、救急対応マニュアルに明文化しておく
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