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応急救護、免責されるのは「法的に義務のない第三者」

救命講習を開催していて、よく聞かれます。

間違えたり、うまくいかないと責任が問われませんか?

同じ疑問は誰もが感じるようで、SNS 上でも似たやり取りはよくされています。

定番の答えは、「大丈夫です。そういった裁判が起きた事例もありません」というもの。

根拠としては、

 民法 第698条 緊急事務管理
 刑法 第 37条 緊急避難

がよく挙げられています。

日本の蘇生ガイドラインによると

市民が行う救命処置の法的責任ついて、本邦の蘇生ガイドラインである 日本蘇生協議会JRC蘇生ガイドライン でも解説されています。

第8章 普及教育のための方策(EIT)の p.65 です。

JRC蘇生ガイドライン2015普及教育のための方策p.65

確かに「悪意または重過失がなければ、実施者である市民が傷病者等から責任を問われることはない」と書かれています。

しかし気をつけたいのが、その前提条件です。

ここで取り上げている「市民による救命処置」とは、「法的に義務のない第三者」によるものであるという点です。

すなわち、業界用語でいうところの バイスタンダー、たまたまその場に居合わせた通りすがりの人を前提としているのです。

業務上の救護は別枠

学校教職員や警備員、福祉施設職員などは、いわゆる市民であっても、この免責には該当しないと考えられます。

業務中の安全管理下で起きた事案として事故対応にあたる責務があるからです。そして、なにより第三者ではなく、当事者です。

「法的に義務のない第三者」という表現は少しわかりにくいですが、「見て見ぬ振りできる立場の人」というとイメージしやすいかもしれません。

責任のない善意の救護と、注意義務が問われる職務上の救護

つまり、世間一般で言われる「市民は応急救護で責任を問われることはない」というのは、医療従事者に対しての一般市民という意味ではありません。

偶発的に善意から任意で行う救護は免責されるということであり、医療資格を持たない人であっても業務対応の場合はこの限りではない、ということに注意が必要です。

参考まで、「【弁護士に聞いてみた】AEDを使ってもし人が亡くなったら罪になりますか?」という Web 記事中でも、弁護士の見解として「引率者や医療従事者である医師、看護師、教師、保護者、イベントの主催者やプールサイドの監視員など」は別枠で考えられる可能性が示されています。

実際問題、応急救護を巡っては、スポーツ指導者や警察官、学校教職員が訴追されたり、書類送検されたというニュースは珍しくはありません。

最近の大きな事例だと、2018年に大分県の養護教諭や校長が書類送検された事案 がありました。窒息に対して適切な応急措置を取らなかったなどで業務上過失致死で書類送検されています。

適切な救命講習を選ぶ

救命講習では、とかく「訴えられません。大丈夫。自信がなくてもいいから勇気を持って」と教えられがちですが、受講対象が市民であっても業務対応する立場の人であったら、話はまったく違ってきてしまいます。

責任がない一般市民向けの救命講習は、救命の連鎖をスタートさせるスイッチになってほしいというのが最大のポイントで、その中身や質はあまり重視されません。

対して、注意義務が発生する業務対応下の市民の場合は、ある程度、その実施内容と質は問われますし、間違いなく説明責任は出てきます。

つまり、同じ市民であっても両者の救命講習のゴールは違いますし、ここを掛け違えてしまうと、助けられる側も助ける側も、また教えた側にとっても残念な結果になりかねません。

まとめ:

市民であっても職務上行う救護活動は責任を問われます。

一般市民向けではなく、業務レベルのトレーニングを受けましょう。

難しいからやらなくていいですよ、というのは責任の発生しない素人向け。

難しいのであれば、時間をかけてでもきちんと習得するまで練習する。

それが命に関わる業務トレーニングというものです。


ダンスで学ぶ手洗い ジュネーブ大学病院編

コロナウイルス感染拡大で、手洗いの重要性がこれほどクローズアップされた時代はないというくらいに人々の衛生意識が高まっている今日このごろ。

あらゆる感染対策の中で最も効果的と言われるのが、手洗い です。

しかし、医療現場であっても、なかなか遵守率があがらない悩みの種でもありました。

私たちは、正しい手洗い法を幼稚園とか保育園の時期に教わっているはずです。しかし医療従事者に限って見ても、世界的な正しい手洗いの遵守率の平均は40%程度と言われています。

感染の経路と原因がわかっていて、対策もわかっているけど、守れない世界の医療者たち。

そんな中、数年前にジュネーブ大学病院が発表した「手洗いダンス」の動画が話題となりました。

医療者であれば、誰もが手洗いの必要性はわかっているのです。

でも、習慣化できない。

そこで、別の切り口で正しい手洗いを定着させようという取り組みです。

一処置一手洗い

医療現場では、過度な手洗いによって肌荒れを起こしてしまうのが問題となっており、目に見える汚れがないかぎりは、保湿成分が入ったアルコール製剤での手指衛生を勧めています。

その頻度は「一処置一手洗い」とも言われますが、患者に触れる前と触れた後。

遅滞なく手指衛生できるようにアルコール製剤のマイボトルを持ち歩くことが推奨されています。

基本に忠実であればいいだけ。

それだけなのですが、小さな頃から習慣化されたものを変えていくのは難しいようです。

 

この手洗いダンスを、医療現場でどのように広げていくか、という実践編の続編動画がこちら。

今回のコロナウイルス騒動で、医療者の間でも市民の間でも「正しい手洗い」がだいぶ定着してきたように思います。

コロナウイルスが収束した後でも、これが習慣として残っていくことを期待しています。