保育・学校での死亡事故対応の実際 〜調査報告書から学ぶ

BLS横浜では、スローガンとして、


「実用業務に耐えうるハイエンドな救急救命スキルを」

を掲げています。

学校の先生や保育士さんと話をしていると、「毎年救命講習を受けているので大丈夫です」とおっしゃる方が少なからずいらっしゃいます。

しかし、救命講習で実技試験に合格するのと、現場で心停止の疑いを持った子どもに対峙するのは、残念ながらまったくと言っていいくらいに別ものです。

そのギャップをなんとかお伝えしたい、そんな思いでBLS横浜では救命講習を組み立てて展開しています。

事故報告書の記録から現場をイメージする

仰向けに置かれた人形に対して、決められた所作をこなす一般的な心肺蘇生法のイメージと、実際の現場感覚の違い。

それを理解してもらうために活用したいのが、実際に起きた保育園事故に関する事故報告書です。

現場で何が起きて、職員は何を見てどう判断したのか? そしてどんなアクションを起こし、傷病者(子ども)の状態はどう変化していったのかが生々しく描かれています。

今日はその中のひとつ、平成29年7月に出された「大阪市たんぽぽの国保育事故調査報告書」を紹介します。

昼食後の午睡中に、1歳児が窒息(嘔吐による誤嚥と推察される)を起こし、死亡した事故です。

大阪市のホームページから、事故調査報告書(PDF)をダウンロードできます。

「大阪市たんぽぽの国保育事故調査報告書」
 https://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000364024.html

直リンクも掲載しておきます。

今回、特に注目してほしいのが、第二章の「事実経過」の部分、職員が子どもの異変に気づいてからの動きです。

「大阪市たんぽぽの国保育事故調査報告書」報告書(本文) p.13〜15
2 主な事実経過 (2)事故日

 カ.異変認知(うつぶせ寝・チアノーゼ)
 キ.緊急対応 I
 ク.緊急対応 II
 ケ.救急隊到着後の経緯

ここは必ず読んでください。

ここだけでいいので、読んでください。

異変を覚知してから、心停止を判断し蘇生を開始するという意思決定が難しい

現場の様子、子どもの様子、慌てふためく職員たちの様子が生々しく描写されています。保育士さんであれば、実際の状況がまざまざと目に浮かぶことと思います。

この対応の良し悪しという点は、ここでは論じません。

見てほしいのは子どもの様子がおかしいと気づいてからも、状態が変化していくこと。


「人工呼吸をしたら「ウーッ」という声がした、途中で嘔吐した」

また救護処置を始めるタイミングの判断の難しさも感じると思います。


「心臓の音を聞こうとしたが自分の音で聞こえず、」



職員が何に見てどう判断して行動したのか、対応の流れを少し書き出してみます。

午睡中の児の唇にチアノーゼが出ていることに気づいた
 ↓
ぐったり、ふにゃっとしており、抱っこの刺激に反応がない
口元は紫色、顔は白く、呼吸は不明
 ↓
酸欠だと思い、顔や背中を叩いたらチアノーゼが引いたように思えた
 ↓
人工呼吸を開始
3,4回人工呼吸をしたら「ウゥー」という声
 ↓
耳を当てて心音を聞こうと思ったが自分の音でわからなかった
脈を取ろうとしたができなかった
 ↓
保育室から事務室に移動させた
 ↓
嘔吐
 ↓
119番通報(覚知から約25分)
その4分後、同一建物内にある運営会社に応援要請の電話
 ↓
119番の指令員指示で胸骨圧迫を開始

ぜひ、この状況を頭に思い描いてみてください。

異変に気づいて、応援要請や胸骨圧迫や人工呼吸などの救助行動を開始する判断の難しさ。

救命講習で繰り返し練習したはずの下記の手順も、現場判断からすると、実際はかなり難しいというのが実感できると思います。

反応なし → 応援要請 → 呼吸確認 → 10秒で正常な呼吸と判断できなければ胸骨圧迫開始 → 感染防護具が届いたら人工呼吸を併用+AEDが到着したらすぐに装着

逆にいうと100%心停止していることが前提でなんの変化も示さない心肺蘇生練習用マネキンで練習している限りは、まったく気づくはずもない生体の変化。

それを報告書から学べるのではないでしょうか?

このように事故報告書を読み込むことで、救命講習とはまったく違う世界観とも言える現場の実際をイメージできること、これはいざというときに実際に動けるようになるために重要なステップです。

ぜひ、上記報告書を保育園や学校の教職員たちで共有し、職員会議や勉強会の場で皆さんで話し合う場を設けてみることをお勧めします。

それだけで職員の意識が変わり、実際に必要な準備がなんなのか見えてくるはずです。

小学校でのシミュレーションを含めた小児救命講習

想定外を模擬体験する シミュレーション訓練

より具体的に備えるためには、ハプニング要素を加えた想定練習を体験し、その後みんなで振り返りことが有用です。

BLS横浜が、保育園や学校からの依頼救命講習で大事にしているのはこの部分です。この点は、詳しくは、ぜひ下記のブログ記事をご参照ください。

救命講習を受けても「できる」ようにはならない その理由
学校教職員に救命処置トレーニングの話をすると、「毎年救命講習を受けているので大丈夫です」と自信満々に言われることがあります。 救命講習を受ければ、心肺蘇生ができるようになるの...

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする