心肺蘇生法の講習では、「疑わしければ胸を押せ」と伝えています。
呼吸があるのかないのか? 死戦期呼吸じゃないのか?
この判断は非常に迷うため、特に市民向け救命講習では、10秒以内に正常な呼吸をしていると確信できない場合は、胸を押せ! を強調しています。
迷ったら胸を押せ!を実行してもらうために
疑わしきは胸を押せ! を実行レベルに高める工夫として、救命講習の中で胸骨圧迫の練習を始めた後は、傷病者の顔を見るように促しています。
「押しながら傷病者の顔を見てください。痛がってませんか?」「痛がるそぶりがなければ、自信を持って強く速く押し続けましょう」
呼吸がない、死戦期呼吸だ! と自信を持って決断することは難しい。
だからこそ、胸を押す痛み刺激への反応をもって最終確認する、みたいなニュアンスと言ってもいいかもしれません。
これは昔の蘇生ガイドラインであった循環のサイン(呼気吹き込みに対して「息・咳・体動」という反応の有無を見て循環の可能性を探る)に近い考え方です。
学校や保育園での 死亡事故の報告書 を見ると、異変に気づきながらも「心停止している」という判断、心停止の覚知に大きな課題があることがわかります。
だからこそ、迷ったら胸を押す、を徹底させていきたいところです。
更に強調するために
これは保育園などの子どもの救命講習でよくやることですが、胸骨圧迫を始めたあとに「子どもの顔を見てください」と伝えます。
その後、
「痛がってます! 胸を押すたびに顔をしかめてます。どうしますか?」
と声をかけています。
想定外の展開に、とまどってフリーズする方が大半。
改めて「大丈夫?」と呼びかけてみても反応がない。でも、胸を押すと痛がる。
つまり、意識がないけど、反応がある、という状態です。
ここまで確認したら、次は改めて呼吸確認ですよね。
胸を見てもらったときには、「よく見たら、浅いゆっくりな呼吸をしています」と伝えます。
こんな体験をしてもらって、「『疑わしければ胸を押せ!』なので皆さんの行動は大正解。正しく行動できました」と、この展開の意図をお伝えしています。
救助者としては、間違ったらどうしよう? という思いが絶対にありますから、間違えてもいいんだ、ということを体験を通して実感してもらう取り組みです。
この場合の事後説明として、小児の場合は、舌根沈下の気道閉塞で呼吸がなかったところを、胸骨圧迫の刺激で気道が開いて呼吸がわかるようになった、などの説明をすることがあります。
このまま、小児急変の気道確保の大切さの話に繋げさせることができます。
さらに、受講者の心理を考えると、必要ないのに間違って胸を押したらどうしよう? という猜疑心、不安があります。
これに関してはAHA蘇生ガイドライン2010に、必要ない胸骨圧迫をした場合の傷害発生率は1.4%なので心配しなくていいという記載があったことをお伝えしています。
一般市民向けの救命講習の目的は、精度よりも着手率を上げること。
愛と勇気、という精神論で励起するのではなく、いかに自信を持ってもらうかの工夫。
今後も改善を続けていきます。