ウィルダネス・ファーストエイド一覧

雨の中の野外救急法トレーニング

この前の日曜日、横浜は数日降り続いている雨の真っ只中でしたが、市内の山林でウィルダネス・ファーストエイド講習を実施しました。

雨の中、レインウェアを身に着けて、雨に打たれながらのレクチャー&即時の実践体験&シミュレーション。

蚊に刺されながら、泥だらけになりながらの1日講習でした。

BLS横浜では、ファーストエイド系のレギュラープログラムがいくつかありますが、その最終型とも言えるのが、このウィルダネス・ファーストエイドです。

BLSやACLSと違って、明確な答えがないのがファーストエイドの世界。

だからこそ、シミュレーションによって、観察、評価、判断、実践をしてもらい、「振り返り」を行う中で、「考え方」を固めていきます。

ファーストエイド訓練は、救急対応の「答え」を学ぶのではなく、「考え方」を学ぶの目的です。

だからこそ、机上のディスカッションだけではなく、体験をしてもらう必要があるのです。

通常の講習会場の中で行うシミュレーションでも、座学だけに比べると相当な気づきや学びがあるのですが、しかしそこはやっぱり講習会場。スライドで風景写真を流したりと工夫をしていますが、安全確認や搬送の必要性判断などの環境要因の現実性がどうしても乏しくなってしまうという限界があります。

その点、この部分で強烈に効くのが、実際の屋外フィールドで開催するファーストエイド・シミュレーショントレーニングです。

今回は肌寒い時期の雨の中でしたので、応援を待つ間、傷病者の安静を保つにはどうするかという課題が突きつけられました。

寒さと雨を凌ぐにはどうするか? 本来なら動かさないほうがいい傷病者ですが、救助がくるまでの時間と、日没までの時間を考えた場合、少しでも安全などこかに移動させるのか、それともその場で夜明かしする準備を始めるのか、など切迫して考えなければならない状況になります。

ウィルダネス・ファーストエイドでは、脈拍数、呼吸数、意識レベルといったバイタルサインの評価も含めていますが、雨に濡れた寒い環境の中、傷病者は健常者の演技にも関わらず、毛細血管再充満時間は3~4秒に伸び、本当に唇も青くなったりして、このあたりも今回、雨天の中、決行したからこそのリアルな学びだったと思います。

講習会というイベントを企画する側としては、安全上の問題から中止を決断することもありますが、テーマが野外救急法ですから、危険がない程度の悪天候であれば、むしろ学びの場としては好条件ともいえます。

今回、悪天候ゆえのデメリットといえば、「記録」が取りづらいという点はありました。

野外救急法においては、傷病者の状態と行った処置、そして時刻などの記録が重要となります。この点、雨だと書けないという、リアルな現場でもありうる問題点に直面しました。

また、参照資料を取り出すことができないため、学習者の持っているもともとのファーストエイドの引き出しが重要という点も、ふだんの好条件の講習より際立ったように思います。

やはりウィルダネス・ファーストエイドのシミュレーションに参加するには、ハートセイバー・ファーストエイド コース程度の疾病やケガの基礎知識はほしいところです。

 

 

さて、そんなウィルダネス・ファーストエイド講習ですが、今回はNPO法人日本災害救護推進協議会との共催でしたが、次回は春前くらいにBLS横浜主催として開催していきたいと思っています。

興味がある方は、年明けくらい過ぎくらいから BLS横浜講習スケジュール をチェックしてみて下さい。


10月15日(日)横浜ウィルダネス・ファーストエイド受講者募集中

次の日曜日、横浜市内で野外救命法、ウィルダネス・ファーストエイド講習を開催します。

 

AHAハートセイバー・ファーストエイドコースと違って、講習会場は山林。屋外で開催します。

ザックを背負い、野山を歩きながらシミュレーションを繰り返して練り歩く、そんなスタイルの講習会です。

シミュレーションも、野山の地形を利用して行いますので、シチュエーションとしては、まさにリアルです。

BLS横浜のハートセイバー・ファーストエイドや、PEARSプロバイダーコースで、シミュレーションで学べることの意義を感じられた方、次回はぜひ、山で本格的なシミュレーションを体験してみませんか?

NPO法人JAEA(日本災害救護推進協議会)との共催です。

申し込みや、詳細は JAEAのホームページ からどうぞ。


ウィルダネスファーストエイドの医行為、法的懸念への声明

おそらく日本国内でもっともアクティブに活動しているウィルダネス・ファーストエイド教育プロバイダーのWMA JAPANが、ウィルダネス・ファーストエイドに含まれる医行為に関する声明を発表しました。

WMAは以前から、厚労省への照会や顧問弁護士を付ける等の法的な取り組みをしていることを広報に取り入れており、法的問題には積極的に取り組んできた団体と認識しています。

今回の声明も、業界としては非常に画期的な出来事であろうと思います。

中身はというと、法律の話なので、読み手によっては理解しづらいところもあるように感じますので、すこし解説を加えようと思います。

この公式見解は、一般社団法人 ウィルダネス メディカル アソシエイツ ジャパンのFacebookページで公開されています。まずはこちらをご覧ください。

WMA 野外・災害救急法への法的な懸念

論旨をまとめますと、まず、結論は下記のとおりです。

「したがって、WMA野外災害救急法を躊躇せずに、参加者の命を救うべきである。」

命題は、3つです。

・医師法違反への懸念
・傷害罪(刑法)への懸念
・緊急時無管理(民事責任)への懸念

この3点に関する懸念に対して検討した結果ということで、上記のように述べているという論理構造になっています。

1.医師法違反への懸念

これはこのブログでも何度も取り上げているとおり、WMA JAPANの声明の通り、医師法違反を問われる可能性は低いと考えられます。反復継続の意志の有無が問題となるわけですが、厚生労働省見解として、学校教職員がエピペン注射をするにあたって反復継続の意志がないという考えるという前例ともいうべき定説があります。

学校教職員としては、必要とあれば2度目でも3度目でもエピペン注射をする心づもりがあり、訓練を受けているわけですが、それであっても「反復継続の意志はない」と判断されている以上、ウィルダネス・ファーストエイドにおいても、同様の判断がされるだろうと考えられます。

2.傷害罪(刑法)への懸念

これについての、WMA声明での論拠部分を引用します。

「刑法上、違法性を阻却する緊急避難は、要件が厳しく、参加者の生命・身体を守るために処置した行為が救助しようとした結果を実現しない限り、要件を満たさない危険をはらむ。そこで、より広く違法性阻却の道を確保するために、刑法35条の正当行為としての違法性阻却を認めるべきであると考える。」

この文章だけをみると、結論である「したがって、WMA野外災害救急法を躊躇せずに、参加者の命を救うべきである」という文章とはつながりません。

ゆえに間に下記のような一文があります。

「WMA野外災害救急法により結果的に危害を生じさせてしまった場合、弁護士により処置の必要性・相当性
等が証明できれば緊急避難や正当行為として傷害罪等の刑事上の責任を問われない可能性は十分にある。」

つまり、傷害罪を問われないためには、弁護士により処置の必要性・相当性を証明してもらう必要がある、というように読み取れます。

これをもって躊躇せずに、と結論付けられると、なるほど、と納得できる人はあまり多くないのではないでしょうか?

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「山と渓谷」誌 ウィルダネス・ファーストエイド関連記事の問題点

昨日は、アウトドア雑誌Garvyに掲載された「ウィルダネス・リスクマネジメント・カンファレンス」のレポートを紹介しましたが、山岳雑誌「山と渓谷」でも同じ話題が載っていました。

山と渓谷社 ウィルダネス・ファーストエイド記事

ウィルダネス・ファーストエイドの医行為に関するシンポジウムの下りは下記のようにまとめられていました。

「山岳事故の法的課題などに詳しい弁護士の溝手康史さんは緊急事態下では『医療行為』に該当する応急処置を一般人が行っても医師法には反しないとの原則を説明した上で、『ガイドなどは職務上の注意義務があるが、本来なすべき処置を行っていれば、責任を問われることはない』として、対応を恐れないように呼びかけた。」

(山と渓谷, 2017年8月号, p.187)

1ページだけの簡単な記事で、非常に簡略化されている印象ですが、前後の文脈はなく、当該部分はこれだけです。

昨日のGarvy誌の掲載内容についての記事をご覧頂いた方は、お気づきと思いますが、主たるメッセージがまったく違います。ほぼ正反対に近い印象を受けるのではないでしょうか?

山と渓谷誌の記事:
一般人が行う医療行為は医師法には反しない → 本来なすべき処置を行えば責任は問われない → 恐れるな

Garvy誌の記事:
一般的なファーストエイドを緊急時対応として行うことは問題ない → ウィルダネス・ファーストエイド(医行為を含む)は万が一の場合は傷害罪になる → 今後の課題

山と渓谷誌の記事では、先のカンファレンスでの展開と同様、ファーストエイドと医行為の関係性が明確になっておらず、日本の既存概念の応急処置と北米のウィルダネス・ファーストエイドの違いが混沌としています。

一般人が医療行為を行ったとしても「反復継続の意志」がなければ医師法違反を問われないのはよく知られた既知の内容です。

しかし、日本の一般的な応急手当の概念では、医行為は行わない、教えないことになっており、応急手当に医行為が入るのはありえないことです。

ですから、本来なすべき処置 ではない 医行為を行っている以上、2番目の「本来なすべき処置を行えば責任は問われない」という文脈の意味が通りません。本来はなすべき立場にない人(医師免許を持たない人)が行う行為なわけですから。

短い文脈の中でも論理が破綻しており、結局何をいいたいのかわからず、そこに残るのは「恐れるな」という、根拠性のない空虚なメッセージだけです。

・医師法の問題
・刑法の問題(傷害の罪と緊急避難)
・ガイド等の注意義務

シンポジウムで話されていたこの3点が混在となって意味不明な一文になってしまっています。

なにより、医師法違反は問われないとしても、傷害の罪を問われる可能性があるという弁護士の重要な発言部分がまったく触れられていないのは、恣意的なものか、大きな問題と考えます。

字数制限ゆえの「舌っ足らずさ」なのかもしれませんが、非常に重要な部分だけに配慮と責任が感じられず、あまりに残念です。

無駄に大きい写真の意味が気になるばかりです。

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ウィルダネス・ファーストエイドに含まれる医行為は傷害罪?

2017年に6月16日にお台場で開催された ウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンス の様子が、アウトドア雑誌Garvyに掲載されました。

Garvy 野外救急法の最前線 ウィルダネスファーストエイドの危険性

このカンファレンスに関しては、医療や法律に明るくないアウトドア専門家たちをミスリードする危険をはらんでいたことは以前にブログでも書かせていただきました。

カンファレンスには、メディア関係者も来ていたため、どのように報じられるかを懸念していましたが、Garvy誌に関しては、きちんと正しく伝えてくれていたため、一安心。

どのような内容だったのかは、ぜひ Garvy誌2017年8月号 の106〜107ページを御覧いただきたいのですが、かいつまんで要点だけを確認し、補足をしておきます。

(ウィルダネス・ファーストエイドが)「一般的に知られる救急法と異なる点は、救急車が来ないようなウィルダネスエリアで、より高度な救急処置を行うことです。例えば、一般的には救急隊員が判断し、医師が処置するような頚椎保護の診断や、脱臼の整復深い創傷の洗浄や、注射の使用などがこのウィルダネス・ファーストエイドには含まれます」

(小清水哲郎:野外救急法の最前線, Garvy 2017年8月号, p.106, 実業之日本社)

記事の中では、まずは日本の一般的なファーストエイド(救急法)とウィルダネス・ファーストエイドの違いを明確にしていました。

この点は、先のカンファレンスではまったく言及されていなかったという問題点は以前に指摘したとおりです。

パネラーとして登壇した弁護士や医師が言及する「ファーストエイド」が日本の一般通念によるファーストエイドなのか、北米の特殊なウィルダネス・ファーストエイドなのかはっきりしないまま議論が進んでいたため、オーディエンスに誤解を与える問題点となっていました。

  • 日本の一般的なファーストエイド(日赤や消防で教える内容)……医療行為は含まれない
  • 北米発祥のウィルダネス・ファーストエイド……注射や脱臼整復などの医療行為を含む

まずは、この違いをきちんと区別して考えることが重要です。

それがウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンスでは抜けていました。

その点、Garvy記事はきちんと補足してくれています。

その上で、法的な視点ということで次のようにまとめています。

「一般的なファーストエイドを緊急時対応として行うことは問題ないが、『ウィルダネス・ファーストエイドの場合は、実際の個々の案件による』とのこと。事例が多くなく、また判例もないことから、現時点では万が一の場合は『医師法違反にはならないが傷害罪になる』可能性がある、という話でした」

(小清水哲郎:野外救急法の最前線, Garvy 2017年8月号, p.107, 実業之日本社)

この部分ですが、前回のBLS横浜ブログ記事で書いたとおり、フロアからの質疑応答によって初めて言及された部分でした。つまり、たまたまの質問がなければ全くスルーされていた部分です。ここをきちんと拾ってくれた記者の方には感謝です。

医師法違反が問われるのは、「反復継続の意志」を持って医行為を行った場合ですから、単発の偶発的な医療行為が医師法に抵触しないのは、AEDやエピペンの市民解禁ですでによく知られているとおりです。

しかし、医師以外が行う医行為は、その正当性を担保するものがありませんから、社会的相当性によって判断され、否となれば、人を傷つけたという傷害の罪が問われる可能性は十分にありえます。これは医師法とはまったく別の問題としてウィルダネス・ファーストエイド・プロバイダーの前に立ちはだかっているのです。

一般の方はあまり考える機会がないかもしれませんが、医療行為のほとんどは、目的や妥当性を誤れば、人を傷つける行為、傷害と紙一重です。

つい先日も、睡眠導入剤を飲み物に混ぜた(薬剤投与した)准看護師が傷害容疑で逮捕されたという事件が記憶にあたらしいところでしょう。

人に薬物を投与したり、針を刺すという行為は、基本的には傷害です。

しかし、高度に訓練を受けて免許を与えられた「医師」が医学的な妥当性をもって行うときに限り、その判断と行為が正当化されて、診断・治療という名前に変わるというのが法的なロジックです。

ここで3つのポイントがあります。

1.行った行為(処置:医行為)は正しく実施されたか?
2.行為を実施するという判断(診断)は妥当だったか?
3.実施者は、1と2を行うだけの訓練をされた人間であったか?

日本では、医学部に入学し6年間の教育を受け、医師免許を取得することで上記の1〜3が担保されるとみなされます。

つまり、傷害と医行為を区別するポイントは、一言で言えば「免許」です。

緊急避難ということで大目に見たとしても、「教育・訓練」が問題となるのは必至でしょう。

今は、判例がなく、なんとも言えませんが、今後は、この教育・訓練の妥当性が焦点となっていくはずです。

Garvy誌の記事の中で、「ウィルダネス・ファーストエイド講習に参加した医療者は、対処法に問題はないと考えています」「医師も学ぶ点が多いなど、好意的な話や」と言った一文があり、医学的な妥当性があることを示唆していますが、医学的に正しいことであっても、それをウィルダネス・ファーストエイドという国家資格とは無縁の外国の教育を受けることで、基礎知識のない一般人が、妥当な判断をできるように人材に育つのか、また技術の保証がされるのか、ということこそが問題です。

そこに関しては、カンファレンス中でも言及はされませんでしたし、記事にも書かれていません。

だからこそ、記事の結論として、「現時点での考え方は、従来からの現場課題であり、カンファレンスだけで問題解決する話ではありませんでした」としているのは妥当だと思います。

医学的正当性を検証するだけでは不十分です。教育的な妥当性も検証されなければならないのです。

「この先の良き前例の積み重ねによって、ウィルダネス・ファーストエイドへの理解と必要性を作り上げていくことの確認がなされました」

この当事者になる覚悟は重いです。

簡単にいえば、訴追される、裁判になるという覚悟です。

そうして、裁判や、社会問題として検討されていく積み重ねが、今後必要だということです。

次回は来年の6月に長野でウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンスが開催される予定です。

このカンファレンス自体は、ファーストエイドに特化したものではなく、あくまでも野外リスクマネージメントという視座の中のひとつとして、今回たまたまファーストエイドが選ばれただけです。ですから、次回のテーマは、遭難かもしれませんし、落雷かもしれません。

しかし、今回、懸案だったウィルダネス・ファーストエイドの現状確認の第一歩が行われたわけですから、この先のウィルダネス・ファーストエイドの日本国内定着に向けての議論は、今後も続けていってほしい永代のテーマだと思っています。

WRM関係者ならびにすべてのWFA講習提供者の方たちには、この点、切にお願いしたいと思います。

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ウィルダネス・ファーストエイドの法的問題考

2017年6月16日(金)に開催された 第1回ウィルダネス・リスクマネジメント・カンファレンス に参加してきました。
 
初回開催の今年のテーマは「日本における野外救急法の現状と課題」
 
主に北米で発展してきた Wilderness First Aid 講習プロバイダー(提供事業者)が日本にもいくつか入ってきていますが、野外救急法が一般の救急法と違うのは、救急車が来てくれる環境ではないという点。
 
そのため、通常だったらプロの救急隊員や医師に委ねるべき判断や医療処置(脱臼整復、アドレナリン注射、ジフェンヒドラミン投与、創洗浄、頚椎保護解除診断など)までも含むのがウィルダネス・ファーストエイドの特徴です。
 
そのため、北米の講習プログラムをそのまま日本国内で展開したときの危険性や法律に抵触する可能性がしばしば問題となってきました。
 
今回は、複数のウィルダネス・ファーストエイド講習展開事業者が集い、実現したカンファレンス。
 
野外教育の専門家、弁護士、医師による野外救急法をテーマにしたシンポジウムで、ウィルダネス・ファーストエイドの日本での法的な位置づけがはっきりすることを期待しての参加でした。
 
 

●新しいことはなかった

さて、参加させてもらっての感想ですが、「なにも新たな知見はなかった」、というのが結論です。
 

  • ファーストエイドは医師法に抵触しない
  • しかし、ウィルダネス・ファーストエイドに含まれる医療行為の実施は傷害罪を問われる可能性がある
  • アウトドアガイドなど業務で処置する人は、一般人に比べて結果責任を問われる可能性が高い

 
 
従前から知られていたとおりのことが再確認されただけでした。
 
当初、弁護士の話として、ファーストエイドの実施は医師法違反にならない、という点が強調されており、ウィルダネス・ファーストエイドの実施にはなんら法的問題はないという論調が形成されました。
 
しかし、その後の質疑応答の中で、「ウィルダネス・ファーストエイドに含まれる、本来は医師しか行えない医療行為を無免許者が行えば傷害罪になるのではないか?」というフロアからの意見に対しては、個別のケースは事後に検証しなければわからないが、傷害罪をとなる可能性はあるというのが弁護士からの回答でした。
 
つまり、医師法違反にはならないが、刑法(傷害罪)に抵触することは否定できないという結論です。
 
 

●医師法違反にならないが傷害罪にはなりうる

この部分のシンポジウムの進め方には、少し危険な部分を感じました。
 
医師法違反にはならないが傷害罪になる。
 
それを持って、大丈夫、法的に問題ないという論旨展開していたことになります。
 
質疑応答で刑法のことが質問されなければ、これで終わっていたと考えると恐ろしさを感じます。
 
そもそも、弁護士が真っ先に言及した「ファーストエイドは医師違反にならない」という言葉の中の「ファーストエイド」の中身が定義されていなかったのも問題でしょう。
 
これを日本赤十字社や総務省消防庁がいうところの救急法とするのであれば、なんの違和感も感じない文脈です。
 
しかし、今回は、町中であれば、医師以外がやってはいけないと認識されている行為を含めた「普通ではない」ファーストエイドを論じているのです。
 
この前提を整えずに、法的に問題ないと結論付けるのは、大きなミスリードを生む危険をはらんでいると感じました。
 
 
医師法が規制しているのは「反復継続の意思」を持って医行為を行うことであって、簡単にいうと偶発的な単回の医療行為は医師法違反となりません。これは事実です。
 
だからと言って、例えば素人がナイフを使って気管切開をしていい、という話にはなりません。
 
他人の体に刃物を突き立てれれば傷害です。
 
いくら緊急事態で刑法37条の緊急避難が適応されるとしても、一般的には無謀な行為とみなされるでしょう。そのような判例がないから、ダメとは言えないという意見もありますが、だからといって素人が人の首にナイフを突き立てることをよしとする通念は日本にはありません。
 
緊急避難にあたるかどうかは社会的相当性で判断されると弁護士は言っていました。
 
日本社会におけるファーストエイドには医行為は含みません。これが日本の社会通念。
 
そんな中で、米国の民間団体が行う数日間の講習を受けて取得した民間資格で、素人が医療行為を行う妥当性があると判断されるものなのか?
 
今回のシンポジウムでも、明らかになりませんでした。
 
 
 
今回のシンポジウムには、アウトドア事業者、医療者、野外教育者など、90名近い方が参加していたと聞いています。
 
この話を聞いた人たちがどのような理解を持って帰ったのか?
 
それが気になるところです。
 
今回のカンファレンスの内容はアウトドア雑誌で2ページに渡って紹介されることが決まっているそうです。
 
「ウィルダネス・ファーストエイドは日本の法律的にまったく問題ないことが確認された」というようなミスリードされた理解に基づいた記事が発信されないことを願っています。
 
 

 
 

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野外救急法ウィルダネス・ファーストエイドの指導ガイドライン

野外救急法、ウィルダネス・ファーストエイド。
 

ウィルダネスファーストエイド講習風景:頚椎保護と全身の触診(DOTS)

 
日本でも知る人ぞ知る存在になってきましたが、その中身はというと、受講しないかぎりはなかなか全体像を知る機会はないかもしれません。
 
アドバンスドな本格的なファーストエイドを学ぼうと思ったら、ウィルダネス・ファーストエイド、と言われるくらいにまでなっていますが、意外と門戸は広がっていないようです。
 
そんな、ウィルダネス・ファーストエイドを学びたい! という方に朗報。
 
ウィルダネス・ファーストエイドのインストラクターマニュアル相当のドキュメントが、インターネット上にアップされているのを見つけました。
 
Wilderness First Aid Curriculum and Doctrine Guidelines (PDF直リンク)
(Boy Scouts of America, 2009)
 
 
米国ボーイスカウトが出しているウィルダネス・ファーストエイド・カリキュラム&基本指針ガイドラインです。
 
執筆者の中には、私達にウィルダネス・ファーストエイド・インストラクターコースを開催してくれた米国赤十字のJeffreyも名前を連ねています。
 
内容的には、インストラクターコース受講者しか手に入らないアメリカ赤十字のWilderness & Remote First Aidのインストラクターマニュアルのエッセンスがほぼ詰まっています。
 

アメリカ赤十字のウィルダネス&リモート・ファーストエイド・インストラクターマニュアル

 
野外救急法が普通のファーストエイドとどう違うのか、傷病者アセスメントをどう教えたらいいのか、怪我や疾病はどんな項目を取り上げたらいいのかなど、興味がある人には垂涎の情報なんじゃないかと思います。
 
興味がある方はぜひ読んでみてください。
 
 
 

 
 

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ウィルダネス・ファーストエイド in 横浜

先日開催したウィルダネス・ファーストエイド講習のレポートです。
 
前回は10月に沖縄の石垣島で、その前は鎌倉。
 
「BLS横浜」といいながら、横浜で野外で開催するウィルダネス・ファーストエイドは初めてでした。
 
その気になって探すと、横浜市内でも講習に適した野山はたくさんあるんだなと感じました。
 

ウィルダネス・ファーストエイド/BLS横浜

 
 
さて、今回のウィルダネス・ファーストエイド講習は、初めて全員が医療従事者でした。考えてみれば、これまで医療従事者が受講者として参加したことはない!? かもしれません。
 
しかも揃いも揃って、全員AHAインストラクターで、BLSだけじゃなくて、ACLSインストラクターやPALSインストラクターも!
 
全員PALSも修了しているということで、人が死ぬ仕組みの理解やアセスメントの部分はとばして、早々にシミュレーションに突入。1日での展開としてはだいぶ奥まで進めました。
 
医学的な素養があるので、医療現場での知識と経験が、アウトドア環境下という毛色の違う土壌での体験といかに結びつくかがキーポイント。そこが繋がると速かったです。
 
BLSひとつをとっても、都市部とウィルダネス環境下では、相当違います。
 
まず第一に、BLS講習で前提となっている「硬く平らな場所に仰向けで寝かせて」という状態に持っていくのに一苦労。でこぼこだったり、斜面だったり、うつ伏せで背中のザックが邪魔ではずせなかったり。
 
そんな状況では、胸骨圧迫のやり方だけを覚えていても、太刀打ちできません。
 
胸骨圧迫の意味と、その作用機序、目的を理解して、形にとらわれず、与えられた状況でできうる最大限に効果が期待できる方法をその場で考える応用力が必要なのです。
 

うつ伏せでバックパック、呼吸確認どうする? ウィルダネス・ファーストエイド横浜

 
呼吸確認も同じです。
 
今回もいろいろ試してもらいました。
 
冬場だから当然厚着で着込んでいます。さらにはうつ伏せだったり、背中に大きなザックを背負っていたり。
 
あとはシミュレーションで、暗いトンネルの中で倒れているというケースをやってみました。
 
胸・腹の動きを目視するだけ、に変更されたG2010の呼吸確認は暗がりでどれだけ有効なのか?
 
 
日頃、室内講習ではなかなかできない模擬血液を使った血だらけのシミュレーションや、実際に服を切って創部を観察する体験など、野外環境ということをフルに使って、日頃のPALSなどとは違った体を張ったシミュレーションを体験してもらいました。
 
そうして受講者さんに頂いた感想は、「BLS、ACLS、PALSの後の総まとめとしてファーストエイドのシミュレーションが効果的!」とのこと。
 
AHA講習としてはある意味最高峰とも言えるPALSの先に、こうしたウィルダネス・ファーストエイドがあると言っていただけたのはうれしかったです。正直、ガッカリして帰られるのでは、と心配していた部分もありましたので。
 
 
今回、なかなかいい場所も見つけられましたので、春先くらい地面を這う虫が出てくる前にくらいにもう一回、ウィルダネス・ファーストエイド講習ができたらなと思っています。
 
 

 
 
 

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僻地で求められる救急対応スキル-ファースト・レスポンダー育成

今年の10月末に沖縄の離島でファーストエイド講習を開催させていただいたのですが、そこで感じたのは、島で求められているファーストエイドスキルは、都市部のそれとはまったく異なるという点でした。
 
西表島と小浜島の方から話を聞かせていただきましたが、両島には消防所轄の救急車はありません。救急隊もいません。
 
つまり119番通報しても、救急車は来てくれないのです。
 
119番通報をすると、行政機関の集中している石垣島につながり、必要ならそこから離島の診療所の医師に連絡がいくという体制。(実際のところ島民は119番は使わず、直接消防団長の携帯にかけるのが通例だそうです)
 
例えば、交通事故があった場合に、車から救出して診療所に運ぶのは誰かと言ったら、地元の消防団(消防職員ではなく)もしくは近所の住民。場合によっては医師が現場に来ることもあるといいますが、医師は一人しかいませんので、基本的には、地元の人の軽トラックや車で診療所に運び込むということになっているそうです。
 
日頃、横浜でファーストエイド講習を開催するときは、119番通報すれば10分程度で救急車が到着するというのが前提となっています。ですから、緊急通報を迅速に、かつ的確に行うことが最大の「ファーストエイド処置」となるわけですが、離島の住民にとっては違うのです。
 
そう考えると、離島の住民にとって標準的に必要なファースエイドは、救急車が車での10分間を前提としたものでは不十分かもしれない、そんな考えに至ります。
 
そこで出てくるのが、ある程度のことは自分たちで判断して、対処しようというAdvanced First Aidの考え方です。
 
ファーストエイド講習プログラムは、北米ではBasic講習とAdvanced講習に大別されています。例えばAHAのハートセイバー・ファーストエイド講習はBasic、WMAやARCなどの「ウィルダネス・ファーストエイド」は総じてAdvancedに区分されます。
 
日本ではAdvanced First Aidという概念がありません。近年、野外活動家を中心に広がりを見せているウィルダネス・ファーストエイドの導入によってようやく認知されてきたところです。
 
救急隊員という専門家に頼れない状況下で、どうするのか?
 
日本の救急法の概念では、心肺蘇生法を除けば「素人は余計なことはするな、救急隊員や医療者に任せろ!」で救急法教育が進められてきましたが、野外活動家だけではなく、今回のケースのように離島の住民にとっては、それでは八方ふさがりとなってしまう場合が現実にあるのです。
 
似たことは離島にかぎらず、内地でも山村など、医療僻地は多数存在します。
 
陸路で救急車が来れるとしても、到着までは1時間以上掛かるという場所も珍しくはありません。
 
そんな場所で救急対応を行わなければいけない第一発見者や地元の人たち。
 
そこで、近年、消防庁と厚生労働省で検討会が開かれ、救急車が到着するまでの間をつなぐために、ファースト・レスポンダー隊員を育成しようという動きが出てきています。
 
例えば、石川県の加賀市消防本部では、平生24年11月に「塩屋町ファーストレスポンダー隊」が発足させたというプレスリリースがありました。
 
このように正規の行政サービスとしての救急対応システムでは行き届かない、隙間を埋める発想が広がりつつあります。
 
問題となるのは、そのファースト・レスポンダーにどんな教育を行うのか、という点です。
 
「塩屋町ファーストレスポンダー隊」を例に取ると、「ファーストレスポンダーとは初期対応者という意味で、心肺停止状態等の命の危険がある方に対して救急車が到着するまで救命活動を行うことで、自分の住んでいる地域の方の「助かるべき尊い命」を救うことを目的としています。」とあり、主に心肺停止者対応を想定している模様です。(http://www.city.kaga.ishikawa.jp/article/ar_detail.php?ev_init=1&arm_id=101-0477-4994)
 
人の命にとって最悪の事態である心肺停止に対応できること、これは基本中の基本です。
 
しかし、もともと北米で発達した概念であるFirst Responderとは明らかに異なります。北米的には心肺蘇生法しかできない人はBLSプロバイダーもしくはCPRプロバイダーと呼ばれます。
 
ファーストレスポンダーは、CPRプロバイダーであり、かつ非心停止対応もできるファーストエイド・プロバイダーであり、そのさらに上位概念としてのステイタスです。
 
ファースト・レスポンダーに求められる救命スキルは地域によって異なるかもしれませんが、日本の行政単位で広がりつつあるファースト・レスポンダーの概念は、つまるところ「制度化されたCPRプロバイダー」ということになりそうです。今後、必要に応じて発展していくのかもしれませんが、正直なところ少し違和感を覚える部分もあります。
 
BLS横浜では、今回、西表島や小浜島の方たちにファーストエイド講習を開催させていただく中で、ウィルダネス・ファーストエイドに準じる本来の北米型のファースト・レスポンダー育成の必要性を認識しました。
 
これまではウィルダネス・ファーストエイドということで野外活動を前提としましたが、僻地の山村で、場合によっては診療所に医師と看護師はいるかもしれないという状況下で必要なファーストエイドの知識と技術は何なのか?
 
 
そこを突き詰めていき、北米型のファースト・レスポンダー育成事業の試みを始められればと考えています。
 
 

 
 
 

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ウィルダネス・ファーストエイド

日本で開催されている一般的な救命講習は、職業人のためものではない!
 
それは日頃からBLS横浜が訴えているところですが、市民向け一般救命講習でお茶を濁してはいけない最たる存在、それが山岳ガイドやアウトドア・ガイドの人たちです。
 

ウィルダネス・ファーストエイド(野外救急法)

 
日本の一般的な救命講習は、救急車が来る場所での心原性心停止に特化した、極めて限定的な内容しか扱っていません。しかも、それが心肺蘇生法のすべてであるかのような空気感をもって伝わっているところが、アウトドア系の職業人には悩ましいところです。
 
救急車が入れない、また病院搬送まで数時間もかかるような場所で活動する人たちが、マジメに人の命を考えたときに、一般的な救命講習では納得し得ないクエスチョンマークが沢山でてきます。
 
・山にはAEDがない。どうするの?
・反応がなければすぐ救急通報をしろ? 携帯が通じなければ近くの山小屋まで傷病者を置いて走るべきなの?
・登山道の斜面に倒れている! そのまま胸を押していいの?
・日が暮れてきた。いつまで蘇生を続けたらいいの?
 
このように、いわゆる心肺蘇生法の技術を身につけても、人里離れた野外環境下では使えない、というか困ってしまう場面がたくさんあります。
 
そこで、野外環境下では野外環境下にフォーカスした救命講習、というのがあるのです。
 
それがウィルダネス・ファーストエイド Wilderness First Aidです。
 
Wildernessという単語は、未開の大自然、荒野、広大な原始林といった意味があります。
 
医療資源の恩恵に預かるのが難しい環境、目安はいろいろ言われていますが、救急隊員や医療機関に引き継ぐまで数時間以上かかるような環境をウィルダネス環境下と呼ぶことが多いようです。
 
通常の心肺蘇生法やファーストエイド(応急手当)講習は、119番通報して、救急隊員に引き継ぐまでの10分前後の時間をどうするか? を学ぶ内容です。
 
ですから、心停止だと認識したら119番通報して無我夢中で胸を押していれば、すぐに救急車が来て、あとはどうにかしてくれます。
 
しかし、ウィルダネス(僻地・野外環境下)ではそうは行きません。
 
専門家の判断に委ねる前に、自分で判断しなければならないことが多い、それがウィルダネス・ファーストエイドの特徴です。普段だったら救急隊員に任せるべき部分も自分たちでどうにかしなくてはいけないのです。
 
そこで通常の救命講習やファーストエイド講習では、ブラックボックスになっている「理由・理屈」の理解が求められると言えます。通常の応急処置講習では難しいからという理由で教えない傷病者評価(簡単にいえば救急隊員の観察・評価の方法)を体得する必要があったり、心肺蘇生についても、その理屈と意味がわかっていないと、危険が多い野外環境下で正しい判断・行動ができません。
 
例えばAED。その作用原理がわかっていれば、なんとしてもAEDを手に入れたいようなシチュエーションと、AEDを手配するより、心肺蘇生法、特に人工呼吸をがんばるべき状況というのが、なんとなく判断できる場合があります。
 
胸骨圧迫と人工呼吸だけで助けられるケースと、AEDがなければ助からないケースがあるのです。
 
また、いつまでCPRを続けるのか?
 
街中なら、単純に救急車が来るまで、と言い切れますが、人的資源が乏しく、環境要因(寒さや暑さ、地形まど)によって救助者の安全が脅かされるような状況下で活動する人に、救助が来るまで続けろというのは酷な話です。そこで、救助者自身の身の危険が迫った場合もやめていいという部分が重要になってくるのですが、その具体的な例を一般救命講習では、自身や建物倒壊といった極端な例でしか示してくれません。
 
夏の北アルプスの稜線上で起きた心停止事案。時刻は14時。雨が降っていて最寄りの山小屋までは2時間。さあ、どうする?
 
そのような場所では、心肺蘇生法の位置づけも内容も違ってきて当然です。
 
一般的な救急法講習では「想定外」なそんなシチュエーションを想定した野外救命法。
 
そんな北米で発展した概念を、BLS横浜では積極的に紹介していきます。
先日、沖縄県の石垣島で開催したウィルダネス・ファーストエイド講習の様子を、次回書きたいと思います。
 
 

 
 
 

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