蘇生ガイドライン2020一覧

人工呼吸の重要性が見直された G2020 BLS 

日本語版の映像教材がまだリリースされていないので、まだ暫定版という形で展開されているAHA-BLS-G2020。

暫定コース教材としてAHAから提供されているG2015テキストの修正箇所一覧には記載されていませんが、実は密かに小児の蘇生アルゴリズムが変更されていることに、皆さん、お気づきだったでしょうか?

AHA蘇生ガイドライン2020で改定された小児BLSのアルゴリズム

小児は脈拍60回/分未満でCPR開始 脈のカウントはいつする?

思春期未満の小児の場合は、中枢の脈拍が触れていても、脈拍数が60回/分未満で灌流不良の兆候があれば胸骨圧迫を開始するわけですが、その脈拍触知をするタイミングが明示されるようになりました。

10秒以内で(呼吸確認+脈拍確認)をするときは、あくまでも触知の 有無 だけをみます。

そこで、(呼吸なし+脈拍あり)と判定した場合は、まずは補助呼吸を開始します。

2~3秒に1回(G2020変更点)の人工呼吸を開始するほうが先です。

そして、補助呼吸をしながら、脈拍数をカウントして、60回/分未満と判定したら、胸骨圧迫を始めてCPRに移行する、という形です。

 

もしかしたらG2015でも同じことを言っていたのかもしれませんが、アルゴリズムの表記上わかりづらく、脈と呼吸を同時にみつつ、脈拍数もカウントするように解釈されることが多かったのではないかと思います。

人工呼吸を急げ、というメッセージ

この変更から強調されたのは、(呼吸なし+脈拍60回/分未満)であっても、いきなり胸骨圧迫ではなく、まずは人工呼吸! という点ではないでしょうか?

ここは PALS や PEARS の理解からは当然かもしれませんが、BLSプロバイダーコースでは、全体として成人蘇生とC-A-B手順が強調されているため、やもや小児に対しても胸骨圧迫のみの Hands only CPR でいいと誤解される可能性を想定しての、あえての強調なのではないかと考えました。

 

溺水者の脈拍確認は後回し まずは人工呼吸

人工呼吸の重要性の強調が見て取れるのは、G2020版BLSコースで初登場の溺水者に対するCPRの項目でも明らかです。

そこでは、

Rescue Actions Based on Cause of Cardiac Arrest

という見出しの下、BLSプロバイダーは心停止の原因によって救助手順を変える必要があるとされています。

突然の卒倒であれば心室細動を疑って通報&AED手配ファーストでいいものの、溺水の場合は、脳と心臓に酸素を送ることが優先事項であるとはっきり書かれています。

G2020-AHA-BLSプロバイダーマニュアルの溺水の救命法

これは近年はACLSプロバイダーコースで言われていたことですが、それがBLSレベルにも下りてきたわけですね。(実はG2005まではBLSにも含まれていた内容なんですけどね)

さらに、ここはAHAガイドラインとしてまったく新しい部分だと思いますが、溺水者の救助手順が下記のようにドラスティックに規定されました。

溺水者発見 → 呼吸確認(なし)→ 気道確保し補助呼吸2回 → 脈拍確認(なし) → 胸骨圧迫開始(30:2)

G2010で華々しく登場し、いまでは誰もが疑わなくなった C-A-B 手順を覆すこのやり方!

重要な概念として、「まずは人工呼吸を! 溺水者への最も重要な処置はできるだけ早く人工呼吸を行うこと」とまとめられていることが物語っています。

まとめ

G2020のBLSコースの変更点からわかることは、G2010から始まった心原性心停止に偏りすぎた方向性の修正、ということじゃないでしょうか?

これは日本の保育現場などで救命法指導をしていても感じますが、今は胸骨圧迫とAEDが強調されすぎてしまい、とりあえずAEDを貼っておけばいい、胸を押しておけばいいという、心室細動以外の原因を無視した流れが主流となってしまい、小児蘇生や溺水の救助がないがしろにされています。

BLSプロバイダー教育は、バイスタンダー教育とはわけが違います。

業務対応として目の前の傷病者を救う責務がある。

そのためには、最大公約数的に一般化されたCPR習得だけでは不十分で、ちゃんと考える蘇生ができるように、という点がはっきり打ち出されてきたのだと考えています。

そして、これは、これまでのBLS横浜の BLSプロバイダーコース 開催コンセプトとまったく同じです。

BLS横浜では、ファミリー&フレンズCPRハートセイバーCPR AEDコースなど、フルサイズでAHA-BLS講習を展開しているからこそ、BLSプロバイダーコースの存在意義を、理解と応用 だと確信を持って伝えていきたいと考えています。


G2020新概念【CPRコーチ】 ACLSでこそ効果を発揮

ここのところ連日 ACLSプロバイダーコース を開催しています。

新しい蘇生ガイドライン2020 が発表されて、ACLS もG2020 版にアップデートされました。

日本語の教材が出ていないために、いまは G2020 Interim (暫定) コースということで、G2015 の DVD とテキストを使いつつも、G2020の変更点を反映させた形で開催しています。

 

ACLS はその中身として大きく変わったことはないのですが、BLSプロバイダーマニュアルにも記載されている 「CPRコーチ」 という概念を取り入れることで、チームダイナミクスが大きく変わってきていることを実感しています。

CPRコーチというのは、蘇生チームの全体リーダーとは別にCPRをコントロールするサブリーダーを設定しましょう、というもので、気道管理係やモニター・除細動係が兼務することが例示されています。

 
今までチームリーダーは、蘇生チーム全体の管理者として、各役割に対して指示を出し、注意を払い続ける必要がありました。

次に使う薬の指示を出しつつ、情報収集して原因検索を進めつつ、質の高いCPRが終始行われていることを確認する。

ショック適応のリズムであれば、まだいいのですが、心静止/PEA のアルゴリズムでは原因検索に思いが持っていかれるため、どうしても CPR の質管理がおろそかになってしまいます。

そんなとき、気道管理係、胸骨圧迫係、モニター・除細動係からなる CPR チームの中で、CPR コーチを立てて、その人に役割交代などを含めて心肺蘇生を管理してもらい、任せておけば、チームリーダーは原因検索や薬剤などに専念できる、というわけです。

 

今までの ACLS でも実質的にそのような動きになることはあったのですが、今回、CPR コーチという概念ではっきりと銘打ってくれたおかげで、ACLSプロバイダーコースでのシミュレーションの動きが顕著にスムースになったのを感じます。

この概念は BLSプロバイダーコースでも言及されています。医療現場において、BLSプロバイダーは CPRコーチとして、蘇生チームにおけるサブリーダー的な役割が期待されているということなのでしょう。

AHAテキストに記されているCPRコーチの役割は下記のとおりです。

  • 胸骨圧迫や人工呼吸を注視し、アドバイスすることで質の高いCPRを維持する
  • 胸骨圧迫担当者の身長に合わせてベッドの高さを調整したり、足台を準備する
  • 具体的にCPRを指揮する。例えば「2サイクルごとに交代しましょう」「圧迫のテンポは110回/分で統一しましょう」など。

詳しくは、新しくなったG2020版テキストをご覧ください。

いまのところ、G2020日本語版はBLSプロバイダーマニュアルが電子書籍版で販売開始になっています。

書籍としてのBLSプロバイダーマニュアルとACLSプロバイダーマニュアル(電子書籍も紙媒体も)の販売時期は未定です。


【速報】AHA-BLS G2020で何が変わった !?

2020年10月21日に発表された新しい蘇生ガイドライン2020。

今回は、ガイドライン発表とともにBLSプロバイダーマニュアルも同日発表という異例の展開となりました。

さて、気になるのはAHA-BLSの改定で何が変わったのか?

プロバイダーマニュアルの変更点を速報でお伝えします。
 
AHA-BLSプロバイダーコースG2020 蘇生ガイドライン改定で何が変わった?

G2020-BLS テクニカルスキルに大きな変更はナシ 認知スキル部分は拡大

BLSの手順や内容については大きな変更はありません。基本的にはG2015講習のままで概ね対応できます。

ただ、BLSプロバイダーマニュアルに記載される学習範囲は大幅に拡大しました。

成人・小児・乳児の蘇生法や講習の練習内容や実技試験にはほぼ変わりがないものの、これまで「特殊なケース」とされていた妊婦の蘇生や溺水、アレルギー対応なども記載されるようになりました。

特に溺水に関しては通常のアルゴリズムとは完全に異なる内容が盛り込まれています。

実務面での変更は補助呼吸の秒数

アルゴリズムや手技の点で大きく変わったことはありませんが、強いて言えば補助呼吸、すなわち「呼吸なし、脈アリ」の場合の人工呼吸回数の頻度が整理されました。

G2015
成人への補助呼吸 5〜6秒に1回
小児への補助呼吸 3〜5秒に1回

G2020 NEW!
成人への補助呼吸 6秒に1回
小児への補助呼吸 2〜3秒に1回

妊婦の蘇生

これは昔からガイドラインには書かれていた点ですが、今回初めてBLSレベルで記述されるようになりました。(もともとはACLS-EPコースの範疇でした)

妊婦であってもCPRはすべきであるし、AEDも普通に使う(胎児に影響はない)という基本事項の確認に加えて、手的子宮左方移動(LUD)が紹介されています。

これは周産期では普通に知られている話ですが、妊婦が仰臥位になると大静脈が圧排されて静脈還流が悪くなります。ただでさえ不安の血流の1/4しか出せない胸骨圧迫下では、突き出た腹部を左側に引き寄せるようにして大静脈の圧迫を軽減させることが重要とされています。

具体的には2人以上の救助者がいる場合は、一人は妊婦の左側に位置して、両手で腹部を左側に引き寄せるようにした状態で、もうひとりが胸骨圧迫を行います。

心停止以外の緊急事態の記述が拡大

G2005以降、シンプル化の方向だったBLSプロバイダーコースですが、ここに来てG2000時代に戻ったかなように心停止以外の緊急事態の記載が増えました。

・心臓発作
・脳卒中
・溺水
・女性
・アレルギー(エピペンの使い方)

心臓発作と脳卒中は、以前のガイドラインでは記載されていましたが、溺水、女性、アレルギーというのはまったく新しい新項目です。

溺水についてはインパクトが大きいので別項で取り上げます。

女性の傷病者の場合の注意点としては、胸骨圧迫の段階では必ずしも服を脱がせなくてもよいという点が明記されたのと、AEDを装着する際は必ず服を脱がすこと、アクセサリー類はパッドにかからなければ外す必要はないことがはっきりと書かれるようになりました。

アレルギーについては、エピペンの使い方がかなり詳しく解説されていて、内容はハートセイバー・ファーストエイドコースとほぼ同程度です。

心臓発作と脳卒中もかなり詳しく書かれており、BLSの概念に心停止以外の緊急事態も盛り込まれてきたのはたいへん興味深いところです。

溺水の救助は人工呼吸が先!

溺水者の蘇生はC-A-Bではなく、A-B-Cが望ましいという点は、ガイドラインレベルでは言われていましたが、今回、これが更に発展した形でBLSプロバイダーコースに入ってきました。

この内容は衝撃的と受け止める方もいるのではないでしょうか?

溺水の救助手順として示されているのは下記のとおりです。

溺水の救助手順
呼吸確認・なし → 人工呼吸2回 → 脈拍確認・なし→ 30対2のCPR開始

プロバイダーマニュアルのレベルでは詳述はされていませんが、最初の人工呼吸2回は、酸素供給というだけでなく、喉頭痙攣などで喉が閉じているのを開放させるという意味合いがあるものと考えられます。

このあたりはこれまでもヨーロッパ蘇生協議会のBLS手順では溺水は人工呼吸が先、とされてきましたが、AHAもヨーロッパに寄せてきた印象です。(同じようなことは成人への胸骨圧迫の深さは6cmを超えないという記述の採用でも見られました)

CPRコーチという新しい概念

今回初登場した目新しい点として「CPRコーチ」という新しい概念があります。

これは主に病院内でのチーム蘇生に関して言われている点ですが、ACLSチームの全体リーダーとは別に、CPRの質管理を行う別のリーダーを配置するというものです。

日頃の病院の中での蘇生でも実際にそれに近い動きはなされているかと思いますが、これが明文化され、CPRコーチと命名されました。

CPRコーチの役割は、胸骨圧迫のための足台を準備したり、ベッドの高さを調整したり、蘇生の質に関してフィードバックを行うなど、チームリーダーが薬剤指示や原因検索に専念できるようにCPR部分の調整を図ります。

興味深いのは、CPRコーチの役割として具体的な指示を出すことが例示されていることです。例えば胸骨圧迫は100〜120回/分でしましょうというのではなく、110回で圧迫してください、と指示するように、など。

抽象的なガイドライン表記の先を超えた具体性にフォーカスされているのを強く感じます。

 
 

まとめ

全体的な所感としては、シンプル化の方向からの脱却、現実に目を向け始めたという印象です。

これまでは、救える命を救おうということで、目の前で卒倒した心室細動による心停止にフォーカスしてBLS全体がデザインされていました。

そんな潮流が2005年から続いていたわけですが、G2015からは現実社会に目を向けようということで、リアルが追求されるようになり、今回は心原性心停止以外の緊急事態までも内包する概念としてBLSが再構築された印象です。

誰かを助けたいのではなく、目の前のこの人を救いたい。

そんなシフトチェンジを感じました。


10月21日 新しい蘇生ガイドライン2020が発表されました

10月21日、予告通りAHAから新しい蘇生ガイドライン2020が発表されました。日本時間では21日の夜中11時半過ぎから情報にアクセスできるようになりました。

うれしいことに蘇生ガイドライン改定のポイントをまとめた「ハイライト」が日本語でもリリースされています。公式には下記ページから公式にダウンロードできます。

https://cpr.heart.org/en/resuscitation-science/cpr-and-ecc-guidelines

英語サイトで、日本語版が見つかりにくいと思いますので、直リンクも貼っておきます。

下の画像をクリックすると32ページのPDFファイルが開きます。

 
また蘇生ガイドライン原本そのものは下記ページで章ごとにPDFファイルで無料ダウンロードできます。(英語版のみ)

https://professional.heart.org/en/science-news/2020-aha-guidelines-for-cpr-and-ecc


蘇生ガイドライン2020ーインストラクターアップデートと暫定コース移行は2月1日まで

先ほど、AHAからメールが来て、新ガイドライン2020に向けての、インストラクターアップデートの指針が示されました。

AHA蘇生ガイドライン2020への移行期限のアナウンス

AHA蘇生ガイドライン2020は、2020年10月21日に発表されますが、それと同時にインストラクター向けのアップデート教材が e-Learning の形で利用できるようになるそうです。

すべてのAHAインストラクターは、2021年2月1日までにこのオンライン・アップデートを完了する必要があります。

また、併せて、

Interim Training Materials will also be available to Instructors and Training Centers through the AHA Instructor Network to show you where to incorporate the new science into your courses until you begin teaching with the new course materials.

と書かれていましたので、新しいテキストやコースDVDが出るまでの、つなぎの「暫定トレーニング教材」もインターネット経由で提供されるようです。

これを使った新ガイドラインコースに移行するまでの期限も、2021年2月1日までとなっています。

 
以上は、恐らく英語教材を前提に設定された期限だと思われます。

これらの資料の日本語化によるタイムラグも問題など、日本での展開については不透明な部分はありますが、思いの外、早く新2020蘇生ガイドライン準拠講習が始まりそうです。


子どもの心肺蘇生法 ー新型コロナウイルス感染疑いの場合

アメリカ心臓協会が発表した COVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染対策を盛り込んだ心肺蘇生法のうち、今日は市民向けの小児CPRについて解説します。

こちらは、AHAが公開している “COVID-19 and Child and Infant CPR” というフライヤーを独自に日本語化したものです。(AHAの公式日本語版がでるまでの暫定公開です)

新型コロナウイルス感染症が疑われる子どもへの救命処置

 
もともと米国の市民向け小児蘇生を知っている人からしたら、どこにコロナウイルス対策が入っているんだ? と不思議に感じるかもしれません。これまであったら小児CPRとなんら変わるところがないからです。

成人の Hands only CPR のフライヤーでは、胸骨圧迫をする前に傷病者の口と鼻をマスクや布で覆うという「変更点」がありましたが、こちらにはなにも目新しいところがないのです。

子どもの救命にはやっぱり人工呼吸は外せない

結論からすると、COVID-19への危惧があったとしても、呼吸原性心停止を前提に考える子どもの救命の上では人工呼吸は欠かせない、成人CPRとは違って「人工呼吸は省略する」ことをデフォルトとはできない、との意思を見ることができます。

このフライヤーの中で、唯一、新型コロナウイルス感染への対策が感じられるのが、「あなたにその意志があり、可能であれば」という部分です。

原語では、if you’re willing and able となっています。

 

コロナウイルスに感染しているかもしれない子どもに対して、胸骨圧迫と人工呼吸をやろうとする意思があり、可能であれば、やってください。

(その意思がない、もしくは技術的に物理的に装備的に出来ないのであれば、やらなくてもいいですよ)

 

このかっこの中が本当のメッセージなのですが、それをあえて積極的には明言したくなかった、という姿勢が見て取れると思うのです。

CPRを開始しない場合の対応はどうなるのかというと、フライヤーの STEP 2 の前半部分まで、つまり心停止の可能性を探り、心停止が疑われれば 119番通報 するだけでもやってくださいね、ということになります。

フライヤーのタイトル下にある言葉を見てください。

 

それでも、あなたにできることがあります。
you can still help.

 

結局のメッセージはここなんだろうと思います。

こんなご時世、コロナウイルス感染が怖いから倒れている人には近づきたくない。そんな心理が広がりつつあります。

しかし、一目散に逃げるのではなく、意識状態と呼吸状態を分かる範囲で確認して、懸念があれば119番通報だけでもしてほしい。

それだけでも大きな助けとなるのだ、ということ。

立場によって違う if you’re willing and able

このフライヤーの真意を探る上で、同じく AHA が公開している Community FAQ: COVID-19 and Pediatric CPR (PDF) という資料が参考になります。

これを見ると、子どもの心停止対応の救助者は誰かと言ったら、まずは親や家族が想定されていることがわかります。

我が子であれば、感染リスクを考えるより、救いたいという意思が先に立つのは当然でしょう。

であれば、一律、人工呼吸はしなくてよい、とは書くべきではないのは理解できます。

まったく無関係な第三者であれば、119番通報だけでも、胸骨圧迫だけでも、何かのアクションを起こしてくれば、それは尊いこと。

しかし、これが注意義務を持って対応する職業人だった場合は、もう少し踏み込んだ対応が必要です。

 

if you’re willing and able

 

人工呼吸を含めたCPRをする willing (意思)はあるでしょう。しかし、それが able(可能)かどうか。それはひとえに「準備」にかかっています。

つまり、ポケットマスクやバッグマスクなどの感染防護機能が実証された人工呼吸器具を備えているか、そしてそれを使えるように訓練されているかどうか、ということです。

新興感染症罹患が懸念される今だからこそ、立場によっては【備える】ことが重要です。


気管挿管を優先-COVID-19患者のACLS【AHA新アルゴリズム解説】

ここのところ連日、新型コロナウイルス感染症患者への蘇生法を解説していますが、最後は二次救命処置 ACLS です。

情報ソースは2020年4月9日付で、アメリカ心臓協会のジャーナル Circulation に掲載された Interim Guidance for Basic and Advanced Life Support in Adults, Children, and Neonates With Suspected or Confirmed COVID-19 になります。

新型コロナウイルス感染症患者へのACLSの変更点

COVID-19患者ならびに疑い者向けに改定されたACLS心停止アルゴリズムは下記のとおりです。

新型コロナウイルス感染症患者用に改定されたAHA-ACLSアルゴリズム

黄色いボックスが追加された他、太字で下線がついた箇所が変更された部分です。

日本語はBLS横浜の独自翻訳です。AHA公式のものではありませんが、AHA公式日本語版がでるまでは、高解像度で印刷可能なPDFファイルもダウンロードできるようにしておきます。

気管挿管の優先度が上がった

Prioritize oxygenation and ventilation strategies with lower aerosolization risk.

新型コロナウイルス感染症対策として、ACLS変更の最大のポイントは、気管挿管を優先するようになった、という点でしょう。

もともとACLSにおいては、バッグマスク換気が有効に行えていれば、気管挿管は急がないというスタンスでしたが、準備でき次第、カフ付きの気管チューブで気道を密封することを推奨しています。

なるべく早く閉鎖回路内での呼吸にすることで飛沫リスクを減らそうということです。

これまでは、蘇生中に挿管するとしてできるだけ胸骨圧迫を中断しないようにという点が強調されていましたが、今回は逆に「挿管のために胸骨圧迫を止める」ことが明示されています。

胸骨圧迫を続けたら、圧迫によって口から呼気が吐き出されて飛沫感染のリスクが高いというのは想像に難くありません。

気道のシール性でいったら、カフ付きの気管チューブが望ましいわけですが、挿管困難が予想される場合などは、声門上器具(ラリンジアルマスク等)も含めて、1発で決まるような器材を選ぶようにと書かれている点も興味深いです。

その他、HEPAフィルターをつける等、回路の閉鎖性とフィルタリングについても注意喚起されています。

蘇生に関わる人数を制限する

COVID-19患者の蘇生に携わる人は感染リスクにさらされているわけですから、その人数は少ないに越したことはありません。

そこで Lucas や AutoPulse のような機械的胸郭圧迫装置(MCCD:mechanical chest compression device)の積極的な使用を考慮するように書かれています。

機械的胸骨圧迫装置LUCASルーカス

本当に蘇生を開始するのか? 続けるのか?

Consider the appropriateness of starting and continuing

ということで、蘇生の開始と継続の適切性を検討するようにと言われています。

ステートメントの中で言われているのは、

  • 蘇生活動によって他の患者へのケアが手薄となる
  • COVID-19患者の心停止の転帰はまだ不明であるが、重症のCOVID-19患者の死亡率は高く、年齢や基礎疾患、特に心血管疾患の増加に伴って死亡率は増加する

そこで、COVID-19患者の蘇生の適切性を判断する際には、患者の状態だけではなく、他の患者へのリソース配分も考えるようにと記されています。

その他

上記の新しいアルゴリズムを見ると、抗不整脈薬としてアミオダロン以外にリドカインが載っている点も、皆さんのお手元にあるACLSプロバイダーマニュアルG2015とは違っている部分です。

ただ、これは COVID-19 患者だから、というわけではなく、2018年のACLSガイドラインアップデートで変更された部分です。

G2015以降は、AHA と ILCOR は5年毎の改定をやめて、その都度の小改定を繰り返す方針に転換しました。(日本のJRCガイドラインは従来どおり5年毎の改定としています)

2018年のACLSガイドライン変更については、下記のブログ記事をご参照ください。

→ AHA ACLS/PALSガイドライン2018アップデート

その他、COVID-19対策としてのBLSアルゴリズムと市民向け Hands only CPR に関する変更点の解説は下記記事をご参照ください。

→ コロナ感染疑い成人患者へのBLS 変更点の解説

→ 傷病者の口と鼻を覆ってから胸骨圧迫する【コロナ対策のCPR】


コロナ感染疑い成人患者へのBLS 変更点の解説

2020年4月9日付で、アメリカ心臓協会の機関誌 Circulation に、Interim Guidance for Basic and Advanced Life Support in Adults, Children, and Neonates With Suspected or Confirmed COVID-19 というステートメントが掲載されました。

コロナウイルス感染症(COVID-19)患者や、その疑いがある人への心肺蘇生法をどうしたらいいのか、という点で、新しい心停止対応アルゴリズムが公開されています。

 
今回は医療従事者向けの成人BLSアルゴリズムの変更点を解説します。(ACLSについては後日取り上げます

一般市民のバイスタンダー対応については、昨晩アップした 「傷病者の口と鼻を覆ってから胸骨圧迫する【コロナ対策のCPR】 」 をご覧ください。

コロナウイルス感染疑い患者への【成人BLS】の変更点

ご存知のAHA-BLSアルゴリズムに、下記のように変更が加えられています。

新型コロナウイルス感染症疑い患者へのBLSの変更

太字で下線がついた部分が変更された箇所です。

日本語はBLS横浜の独自翻訳です。AHA公式のものではありませんが、AHA公式日本語版がでるまでは、高解像度で印刷可能なPDFファイルもダウンロードできるようにしておきます。

1.PPE装着と人員制限

傷病者に取り付く前の安全確認。ここに感染防護具PPE装着も含まれています。今までアルゴリズムとしては記載がなかったところがはっきり明記されるようになりました。(ファーストエイドを学ばれた方にとっては常識だったかもしれません)

業務中のプロであれば備えがありますよね?

少なくとも手袋は必須。昨今であれば業務中はマスクはしているでしょうからいいとして、もうひとつほしいのはアイシールド。目の粘膜からもウイルスは体内に侵入します。

特に人工呼吸担当者は吐息を浴びる可能性が否定できず、目からの飛沫感染リスクが高くなります。

目を保護できないうちは、この点に留意。

BLSアルゴリズムでは明記はされていませんが、市民向けの Hands only CPR のフライヤーによると、胸骨圧迫開始前に傷病者の口と鼻を覆うようにマスクを装着させるか、布でカバーしておくように書かれています。

 

また人員制限というのは、蘇生に関わる人数を減らして、病院組織としてのリスクヘッジをしようという話です。

BLSアルゴリズムには記載されていませんが、ACLS領域の変更点では、機械式の胸骨圧迫装置(LUCAS や AutoPulse 等)の使用が推奨されているのも、蘇生に関わる人を減らして交差感染リスクを少なくするための配慮です。

新型コロナウイルス感染症患者との接触者人数を減らすために機械式胸郭圧迫装置の使用が推奨

2.人工呼吸はバッグバルブマスクで

今まではBLSプロバイダーはその職域に応じて、ポケットマスクやフェイスシールドなどの呼気吹き込み式の人工呼吸も許容されていましたが、新型コロナウィルス感染対策としては、バッグマスク使用に1本化されました。

一方向弁がついたポケットマスクも推奨されない、ということです。

新型コロナウイルス感染症患者にはポケットマスク人工呼吸は推奨されない

3.バッグマスクが使えない場合は受動換気による酸素化

バッグマスクがない、もしくはバッグマスク換気ができない場合は、成人傷病者には人工呼吸はしない、というのが基本方針。

しかし組織細胞の酸素化という救命の基本からしたら、ヘルスケアプロバイダーとしては人工呼吸をしないという選択肢はありえないわけで、苦肉の策としては受動換気による酸素化が浮上してきました。

これは気管挿管を前提で米国アリゾナ州の救急隊員向けプロトコルとしては昔から知られていたやり方ですが、胸骨圧迫による肺の圧縮・拡張効果で受動的に空気の出入りするのに期待しようというもの。

具体的にいうと、非再呼吸式の酸素マスク(リザーバーマスク等)で酸素を流しながら、胸骨圧迫のみを続けるということになります。

アルゴリズムの上では記載はありませんが、舌根沈下等で気道閉塞が起きていたら意味がありませんので、経鼻/経口エアウェイを挿入した上で実施すべきかもしれません。

なお、このやり方は成人BLSのみの適応です。今日は解説しませんが、小児・乳児のBLSでは、受動酸素化は推奨されておらず、バッグマスクによる陽圧換気が必要とされています。

これらは暫定ガイダンス

詳しくは冒頭にリンクした Curcuration 誌の本文をご覧ください。英文ですが、それほど長くはありませんし、無料PDFで全文読めます。

タイトルのとおり、この内容は Interim Guidance であり、この先、さらに変更・改善されていくかもしれません。

情報が刻々と刷新されていく新型コロナ関連ニュース、ぜひ最新情報を追いかけるようにしてください。


BLS/ACLS/PEARS-G2020講習はいつから?

熱心な方はすでに気にしているかもしれない蘇生ガイドラインの改定。

これまで通りであれば5年ごとにアップデートされていますから、次の2020年の改定はいつか? と気になっている方もいるかと思います。

実は、国際蘇生連絡協議会ILCORならびにアメリカ心臓協会AHAは5年毎のガイドライン一括改定はすでに廃止していて、テーマごとに見解がまとまり次第、小改定を繰り返すという方向にシフトチェンジしています。

なので、AHA蘇生ガイドラインに関して言えば、2017年、2018年、2019年とガイドラインアップデートが発表されています。

2017 Focused Updates ハイライト・・・BLSに関する小改訂

2018 Focused Updates ハイライト・・・ACLS/PALSに関する小改訂

2019 Focused Updates ハイライト・・・BLS/ALS/ファーストエイド小改訂

  ↑ 改定の要点をまとめた ハイライト日本語版(PDF) にリンクしています

教材改定は(おそらく)引き続き5年毎

蘇生ガイドライン改定の方向性はすでに概ね見えている状態です。

上記の勧告では、現行のプロバイダーコースに加える修正はない、ということになっていますが、2020年以後に改定される新教材(便宜上G2020教材と表記します)ではどのように反映されるのかは未知数です。

気になるG2020新教材(プロバイダーマニュアルやDVD)のリリース時期の予想は下記のとおりです。(G2015版テキスト発行日データから推察)

英語版 G2020 AHAプロバイダーコース教材 発売予想時期

  • 2020年10月 AHA Guideline 2020 update
  • 2021年2月 BLS Provider
  • 2021年3月 ACLS Provider
  • 2021年4月 Heartsaver® First Aid CPR AED
  • 2021年9月 Heartsaver® Pediatric First Aid CPR AED
  • 2021年10月 PALS Provider
  • 2022年8月 PEARS® Provider

以上はオリジナルの英語版プロバイダーマニュアルの発売時期予想です。

翻訳版である日本語テキストの発売はもう少し後になります。

日本語版 G2020 AHAプロバイダーコース教材 発売予想時期

  • 2021年8月 AHA蘇生ガイドライン2020アップデート
  • 2021年9月 BLSプロバイダー
  • 2022年5月 ハートセイバーCPR AED
  • 2022年7月 ACLSプロバイダー
  • 2023年1月 PALSプロバイダー
  • 2023年7月 PEARS®プロバイダー

日本のITCの場合は、日本語教材が出てからのコース移行になりますので、G2020正式講習が始まるのは2021年の秋頃ということになりそうです。(それまでの間に、もしかしたら以前のように旧G2015教材に補助資料をつけてつなぎの 暫定G2020講習 interim Course が設定されるかもしれません。)

日本全国の講習が完全移行するのは半年後以降

これらの日付はあくまでもプロバイダーマニュアルの発売時期です。

前回の改定の場合、受講者テキストは発売されたのにインストラクターマニュアルの翻訳やDVDの発売が遅れたせいで、新しいテキスト、でもDVDは古いまま、という現象も起きていました。

また講習を主催するインストラクター側の準備もありますので、G2020新コースが安定して開催されるのは上記の日程の数ヶ月後と思ったほうがいいと思います。

なお、AHAルール的には、新教材が出てから半年後までは移行期間とされるケースが多いです。

つまり、プロバイダーマニュアル、インストラクターマニュアル、DVDがすべて揃ってから、半年経てば、日本全国どこで受講してもG2020新コースに移行している、と思っていいでしょう。

BLS横浜のガイドライン2020コース移行目処

BLS横浜は、米国ハワイ州のトレーニングセンターと提携している関係で、米国のルールが適応されます。

仮に日本語教材が出ていなくても、米国内の完全移行リミットで旧2015版講習は開催できなくなります。

そのため、日本の方には不便はおかけしますが、正式日本語版の出版を待たず、英語DVDに日本語補助を加えた形で、新ガイドライン2020講習に移行するつもりでいます。

BLSとACLSに関しては、英語教材が出てから2ヶ月以内の日本初開催を目指して、準備をしていくつもりでいます。

今後も蘇生ガイドライン2020に向けての最新情報はこの ブログ ならびに ホームページTwitterFacebook でお伝えしていきます。


AHA蘇生ガイドライン2019アップデートが公開されました

先日、アメリカ心臓協会の蘇生ガイドライン2019アップデートが発表されました。

国際コンセンサス2015以後、ILCORとAHAは5年毎のガイドライン刷新をやめて、データがまとまり次第、その都度、ガイドラインの小改定を繰り返す方針になっています。(日本蘇生協議会JRCガイドラインは従来どおり5年改定の道を選びました)

アメリカの蘇生ガイドラインですから、もちろん英文での発表ですが、その要点をまとめた「ハイライト」が18カ国語に翻訳されており、日本語も含まれています。

ぜひ、下記のAHAサイトからダウンロードして見てみてください。もちろん無料で登録等の手続きなく、誰でもダウンロードできます。

 

November 2019 Focused Updates
https://eccguidelines.heart.org/circulation/cpr-ecc-guidelines/

 

上記リンクをクリックして、中段あたりにある”Guidelines Highlights”から日本語(Japanese)を選んで、”View Selection”をクリックするとPDFが表示(もしくはダウンロード)できます。

AHA蘇生ガイドライン2019アップデート「ハイライト日本語版」のダウンロード

ダウンロードできる日本語版のハイライトは17ページ。

AHA蘇生ガイドライン2019アップデートのハイライト

 

AHA蘇生ガイドライン2019アップデートで何が変わった?

さて、気になるのは、なにがどう変わったのか? ですが、今回のトピックは次のようになっています。

Highlights of the 2019 Focused Updates include the following:

  • Dispatcher-assisted CPR (DA-CPR) for adults and pediatric patients
  • Potential role of cardiac arrest centers (CACs)
  • Use of advanced airways during CPR
  • Use of vasopressors during CPR
  • Extracorporeal CPR for adults
  • Use of advanced airways during pediatric resuscitation
  • Targeted temperature management
  • Administration of oxygen to initiate ventilation support for term, near-term and preterm newborns
  • Treatment of presyncope

 

通信指令員による口頭指導の有用性について、薬剤選択の根拠について、気管挿管のタイミングなど、これまでの方向性からは大きくは変わらず、これまで根拠が弱かったところが補強され、推奨に関する語調がはっきりしてきた、という程度のアップデートです。

ACLSやPALS、BLSプロバイダーコースの内容に直接関わる変更はなさそうです。

特に去年あたりから、アドレナリンの効果に疑問を投げかける論文が話題となり、アドレナリンの投与タイミングがもう少し遅くなるのではないかという意見もありましたが、現状のままいきそうです。

新しい点として興味深いのはファーストエイドに関して、失神というトピックが上がっています。

ハートセイバー・ファーストエイドコースでの指導内容にはおそらく変わりはないと思いますが、なかなか興味深いことが書かれているので、ぜひ、ハイライト日本語版を見てみてください。