業務としての市民救急一覧

保育士が書いた保育安全ガイドブック-「保育救命」

今日紹介するのは、「保育士が書いた応急手当の本」です。
 

 
珍しいかもしれません。
 
ふつう、救命法とか応急手当の解説書というと、医学的な内容なことから医師などの医療従事者が書くことが多い印象です。そのため、どうしても医療者目線の内容、どれも似通った切り口で書かれがち。
 
応急手当や救命への意識や目線が、医療従事者と一般の方では相当違いますので、市民向け本としてはすこしピントがずれているということもあります。
 
その点、保育士が保育士目線で書いた保育園での安全を考えた本ということで、現場の方にはドンピシャな内容なのではないでしょうか?
 
 
 
本屋で見かけたらぜひ手にとってほしいのですが、保育救命はただの応急手当のマニュアル本ではありません。応急手当という限局された視点ではなく、もっと広い範囲で上から見下ろすような、保育の現場での安全を俯瞰したガイドブックです。
 
 
 第1章 ハザードマップを作ろう
 第2章 保育現場で重大事故になりやすいトップ3
 第3章 保育現場で起こりやすいケガ・症状
 第4章 保護者対応と研修の大切さ
 
 
特に大切なのが第1章です。
 
筆者の遠藤登さんは、事故事例や、危ない!と思った「ひやりはっと」を書き留めて、職員で共有することを提唱しています。
 
室内で、園庭で、そしてお散歩の時など、どんなキケンがありそうかを地図に書き入れて、ハザードマップを作ることで、危険性を可視化していくのです。
 
その地図を職員に目立つところに貼っておいて、日々、情報を更新し、朝のミーティングなどで積極的に情報共有していくことが、事故を未然に防ぐ対策につながり、個々の意識づけになります。
 
応急手当というのは、起こってしまった後の対応であり、いわば最終手段であるという点を忘れてはいけません。
 
応急処置の勉強にのめり込んでしまうと、ケガした後どうしようという部分に視点が行きがちですが、一歩目線を引いいて考えれば、事故が起きてからの対応を学ぶよりも、事故を起こさないことを学ぶのが先、ということは熱心な人ほど意外な盲点になりがちです。
 
ちょっとした工夫で防げる事故も多いわけですから、まず取り組むべきは園全体の意識づけと共有で「防ぐ」取り組みなのです。
 
小児の救命の連鎖の最初の輪は、昔から「予防」です。
 
そんなことを思い出させてくれて、具体的に何をしたらいいかを提案してくれているという点でも、やはり現場の方が書かれた本なんだなと強く感じます。
 
 
まえがきで書かれていますが、筆者の遠藤登さんは、ご自身が保育園の園長をしていたときに、午睡中に子どもの心停止事案に直面したことがきっかけで、保育の救命救急や安全管理に関わる仕事をするようになったそうです。
 
その後、いろんなことと向き合い、考え、活動してきた中で辿り着いた、すべてのキケンを排除するのではなく、リスクと向き合いつつ学びを最大にしていく、という遠藤さんの理念が詰まったのがこの1冊です。
 
ただの応急手当のマニュアル本ではないところの所以です。
 
その他、特筆すべき点をあげるとすると、
 
・保育の現場では、「注意義務」があるという視点
・記録の大切さ
・手袋の使用や下痢・嘔吐の処理などの感染対策
・保護者対応
・ワークショップの開き方
 
などが、他にはない視点で非常に勉強になると思います。
 
保育士はもちろん、幼稚園や小学校の教職員にとっても参考になる情報源といえるでしょう。
 
保育園・学校現場の安全は、養護教諭や保育所ナースの個人的な力量に左右されるようなものではなく、全職員を含めた施設としてのシステムの問題です。誰か1人が意識が高いだけでは有効なパフォーマンスは発揮できません。
 
職員全体で共通認識を持つためにも、「保育救命」を施設の休憩所にいつでも読めるように置いておくというのもいいかもしれません。
 
 
 

 

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水辺の事故、人工呼吸の準備はOKですか?

梅雨明けもして、夏に突入した今日この頃。夏のレジャーの話題とともに水難事故のニュースも目立つようになってきましたね。
 
そこで気をつけたいのが、心肺蘇生法トレーニングの内容と準備についてです。
 
 
人工呼吸、できますか?
 
 
昨今、心肺蘇生法では人工呼吸は不要になったという、やや不正確な情報が広まっていますが、水辺の事故を想定した心肺蘇生法としては、人工呼吸は重要です。
 
直感的にイメージしてもわかると思いますが、溺れて心停止になったら、呼吸ができないことで起きる酸素不足が原因となっている可能性が高いです。
 
血液中に溶け込んだ「酸素」を使いきってしまったために起きた心停止ですから、胸を押して血流を生み出すだけでは不十分です。
 
血液中に酸素を供給するための「呼吸」を、人工的にしてやる必要があるのです。
 
 

善意での救命では胸骨圧迫だけでもOK

とはいえ、知らない人に口をつけて、人工呼吸をするのは抵抗あると思います。
 
ですから、通りすがりの立場であれば、胸を押すだけの蘇生法でも、何もしないよりは遥かにマシということは間違いありません。
 
なんの責任もない立場であれば、できるかぎりのことをすれば、それで十分です。
 
 

責任ある立場の人はきちんと人工呼吸の準備と練習を!

しかし、あえて水辺での緊急事態に備えるのであれば、人工呼吸の訓練と、実行を容易にするための準備をしておきたいところです。
 
例えば、幼稚園や小学校のプール授業のまえの心肺蘇生法講習で人工呼吸練習を省略するのはあり得ません。
 
さらに言えば、人工呼吸の技術を身につけるだけではなく、「実際にできる」状態に高めるための準備も必要です。
 
 
それはずばり感染防護具の準備です。
 

小児や水難事故では必須の人工呼吸感染防護具ポケットマスク

 
職業人が人工呼吸をする以上、感染防具を使うのは必須です。それがないからできない、という状況は通りすがりの素人ならいざしらず、プールの授業の安全管理を行う立場であれば許されないことでしょう。
 
AEDと一緒に人工呼吸の感染防護具が入っているか、確認しておく必要があります。
 
できれば人工呼吸は、より安全で、より使いやすいフェイスマスク(通称ポケットマスク)の準備が望まれます。フェイスシールでは、どうしても相手の口の周囲に自分の唇が触れる感触がありますので、気持ち的な抵抗が強いからです。
 
人工呼吸を本気で行うことを考えたら、フェイスマスクの準備をし、使用が望ましいでしょう。
 
 
このように救命法は講習を受ければいいというものではなく、安全管理システムの一部として講習の受講があり、さらにはAEDや感染防具の準備があり、さらには防災訓練のような実地でのシミュレーションが必要なのです。
 
 

 

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「救急対応システム」とは

アメリカ心臓協会の講習プログラムでは、「救急対応システムに通報する」とか、直訳的に「救急対応システムを発動する/起動する」という表現が出てきます。
 
一般には119番通報のことなのですが、なぜ、このようなまどろっこしい言い回しをするのかというと、第一選択の救急対応システムが必ずしも119番(消防)とは限らないからです。
 
例えば、病院内での急変では119番通報はしないですよね?
 
同じように、大きな工場や施設では、消防とは別に独自に救急対応システムを持っている場合があります。
 
船舶の中や、消防署のない離島でも独自のシステムがあるのは想像できると思います。
 
特にそういった決まりがなければ日本全国共通の119番でいいのですが、地域や場所に合わせた適切な緊急通報をしてほしい、ということで、AHAテキストでは、あえて「救急対応システム」という表現をしています。
 
 
 

 
 
 
 

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たった2%だから、子どもの蘇生法は不要?

心停止者の年齢区分
心肺機能停止傷病者の救命率等の状況」総務省消防庁救急企画室より

 
先日の日本蘇生科学シンポジウムでは、小児の心停止は2%未満で、ごくほんの一部にすぎないため、日本のガイドラインでは、大人の手順に吸収させたと言っていました。この点は前回のガイドラインから見直しはされませんでした。
 
最後に少し座長からのフォローが入りましたが、たった2%であっても、平均余命を掛けたら見過ごせない数字です。
 
公衆衛生として考えたら、最大公約数である大人の救命法を優先すべきというのはわかります。しかしCPRを学ぼうとする人は、日本国民の寿命統計を上げたいから学ぶわけではありません。目の前にいる人を救いたいのです。
 
ましてやそれが自分の子どもだったら……
 
子どもの特性を考慮した小児BLSは重要です。しかし、それを日本で学べる機会は減りました。
 
だからこそ、市民教育レベルでも、子どもの蘇生を大人の蘇生と明確に切り分けている米国蘇生ガイドラインの講習プログラムが注目されています。
 
 
 


救命講習後、職場に戻ったらすぐチェック!

保育園や幼稚園、介護職員向けの心肺蘇生法講習をした際に、講習の最後に配っているメッセージです。
 

救命講習受講後に職場でチェックしたいポイント

 
短い救命講習の中ではCPRという技術を身に付けるのが精一杯。
 
しかし、実際の救急事案では、CPR着手に辿り着くまでのノンテクニカルな部分が重要です。
 
学んだ「技術」を使える「パフォーマンス」に昇華するためのヒント。
 
救命を個人スキルから、施設全体のシステムの問題として考えをシフトしないと救命の連鎖はつながりません。
 
インストラクターの皆さんも、よければ参考にしてください。
 
本当は受講者全員で事例を共有してディスカッションができるといいのですが、なかなか時間が取れないのが現状。
 
よろしければ、このようなメッセージを最後に配ることをおすすめします。
 
この文面をまるごと使って頂いても構いませんし、アレンジしてもらっても構いません。ご自由にお使いください。
 

A4用紙に印刷できるPDFデータも公開します。

「職場のシステムとして考える救命処置」 PDF 312KB】

 
 

 

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職場での救命をシステムとして考える

職場での救命:119番通報AED、チェックポイント

 
講習会で学べるのは、技術(テクニカル・スキル)です。
テクニカル・スキルだけでは救命の連鎖をつなげることはできません。
 
効果的な救命を行うには、個人の技術に加えて、救急対応を「職場のシステムの問題」として考え、組織的に備えておくことが重要です。
 
職員全員が同じ技術を身につけ、共通認識を持っていることが第一歩。
 
そして、職員の役割分担・連携を想定しておくこと、さらに、地域の救急サービス(消防等)と上手に連携する準備をしておくこと。
 
救命の連鎖を思い出してください。
 
多くの場合、もっとも効果のある救命処置は、人を集めること、そして119番通報することです。
 
無駄のない迅速な119番通報、そして施設に到着した救急車から救急隊員が最短ルートで現場に入れる工夫を、ぜひシミュレーションしてみてください。
 
防災訓練と同じです。
 
イメージをして、実際に動いてみること。
 
例えば、いま目の前で、職場の隣の席の人が、喉に食べ物をつまらせたら、どう行動しますか?
誰が救命処置を行いますか? 取れなければ、誰が度のタイミングで119番通報しますか?
 
職場の中で、窒息や心停止対応シミュレーション訓練を行ってみることを提案します。
 
うまく行った点、うまく行かなかった点。
 
なぜ?
 
その振り返りから、スタッフの連携が生まれ、システムの改善点が見えてくるはずです。
 
 


「エピペン使用だけにとどまらない緊急時に備えた救命講習の必要性について」

小児保健の専門誌「チャイルドヘルス」にエピペン関連の記事を書かせていただきました。

エピペン使用だけにとどまらない緊急時に備えた救命講習の必要について

いちはやく2007年頃からエピペン研修に取り組んできたBLS横浜ならではの視点で、エピペン研修のあり方と、心肺蘇生法と有機的に関連付ける必要性、またシミュレーション・トレーニングを取り入れることの意義を4ページに渡って書かせていただきました。

「エピペン使用だけにとどまらない緊急時に備えた救命講習の必要性について」
チャイルドヘルス2014年10月号 vol.17 No.10, p.51-54

エピペン注射を行うからには、心肺蘇生法を心得ていることがその前提条件です。
そして、できればエピペン注射というファーストエイド処置と、心肺蘇生法は深く関連した一連のものとして心得ていることが望ましいと言えます。

さらに、エピペン研修や救命講習は、外部での一般講習に参加するだけでは不十分で、施設内でシミュレーション訓練を行うことが実行性への大きなステップになります。

そんなことを実例を踏まえて解説してあります。

保育園ナースや養護教諭の皆さんにぜひ読んでいただければと思います。

なお、記事の中で紹介したエピペン&小児BLS講習は次回12月7日(日)、横浜での開催となります。
現在、参加者募集中です。

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エピペン講習のデブリーフィング

昨日のアナフィラキシー対応(エピペン)&小児BLS講習の参加者は全員看護師さんでした。
 
保育園勤務の方がいましたので、園を想定したシミュレーションを行いました。ACLSを履修している方や、小児アレルギーエデュケーターの方もいて、非常にスムーズ。
 
子どもたちの誘導や119番通報、注射後の管理と観察など、チームワークもばっちりでした。
 
後の振り返りで、「今日はわかっている人たちばかりだったのでうまくいったけど、これが保育園で同じようにできるか不安」という声が上がりました。
 
これはACLSでもPALSでも同じかもしれません。
 
そこで参加者に尋ねました。「なぜうまく行ったのだと思いますか? もうすこし具体的に良かった要因を挙げてみましょう」
 
シミュレーション後のでデブリーフィングの目的は、できなかった点、うまく行かなかった点を見つけて改善するだけではありません。
 
うまくいったのなら、その要因を明らかにして、たまたまではなく、意図的に同じようにうまくいくように経験を”一般化”していくことも大切です。リアルな事象でも再現できるような経験知に変えていくのです。
 
このように振り返っていくと、公募講習のシミュレーションでできるけど、現場でできないということのギャップが、保育園等の施設のシステム的な部分や、事前準備や教育に大きく関係していることが見えてきます。
 
今回うまくいったのがみんながやるべきことをわかっていたからだ、というのなら、それを再現するには、保育園職員全員が同じ教育を受けることで解決できるのではないか? など。
 
講習が終わる頃には、施設全体のシステムという俯瞰した視点で考えるようになって帰っていきます。
 
施設ごとの個々の問題に、私達インストラクターは個別に対応はできません。ですから、答えを提示するのではなく、考え方と視点と方向性を示すことで、その後の可能性の広がりに期待したいと思っています。
 
シミュレーションベースのエピペン講習に答えはありません。
 
ファシリテーター(インストラクター)にとっても、受講者の皆さんとの情報交換、ディスカッションから毎回新たな学びがあります。
 
 
 


保育園ナースの専門性ってなに?

BLS横浜のサテライト、BLSくまもとのオリジナル企画。
 

保育園ナースの専門性とは? 小児BLSとアナフィラキシー対応(エピペン注射)できますか?
保育所ナースのためのワークショップ「保育園看護師の専門性とは?」 by BLSくまもと

 
子どもたちの命を預かる専門家として 、
『保育園 看護師』の専門性について再確認してみませんか。
 
保育園ナース同士の意見交換会です。
 
【ワークショップのテーマ】
 ・アレルギー・アナフィラキシーへの対応って?
 ・小児一次救命処置 PBLS (Pediatric Basic Life Support)って何?
 ・大人との違いは?
 ・こんな想定はしていますか?
 ・救急箱の中には何がある? 他
 
 
 

 
 
 
 

 

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エピペンを巡る新展開

日本災害救護推進協議会 -JAEA-のホームページで、「反復継続の意思がない」市民救助者であれば誰でもエピペン注射ができる、とする厚生労働省の見解が示されました。
 
このことに驚かれた方も多いかもしれませんが、BLS横浜のファーストエイド講習に参加したことある方は、「ついに来たか!」と思われたことと思います。
 
そもそも医師免許を持った人と、診療の補助が認められた看護師以外には原則認められていない注射という医療行為。
 
それを医療者免許を持たない学校教職員と保育所職員が「できる」とされた法的根拠をご存知でしょうか?
 
それはひとえに「反復継続の意図がない」と厚生労働省が認めたからです。
 
医師免許を持っていない人が勝手に人に注射をすると、医師法違反が問われます。その医師法は医業を禁止する法律です。そしてその医業の定義は「医行為を反復継続の意思を持って行うこと」とされています。
 
つまり、「反復継続の意思がない」と認められる医行為は医師法違反にならないのです。
 
故に学校教職員がエピペン注射をしていいかと文科省が厚労省に聞いたら問題ないという回答を得たというわけです。
 

エピペン注射の法的根拠

 
 
子どもからエピペンを預かって、いざとなれば何度であっても注射をしようと備えている学校教員や保育士ですら、反復継続の意思がないと判断されるとしたら、、、、たまたまアナフィラキシー・ショックの現場に遭遇したレストラン従業員や通りすがりの人にこそ、反復継続の意思があるとは考えられません。
 
ですから、法律の仕組みを考えれば、学校教職員や保育所職員にエピペン注射がOKとされた時点で、すでに医療資格を持たない一般市民の立場の人が使えるというのは自明な話。
 
ただ、それが公式見解として確認されていないことが問題でした。
 
そこを厚生労働省に正式に問い合わせを行なったのが、NPO法人 日本災害救護推進協議会さん。
 
詳しくは、ホームページをご覧ください。
 
 
ここでくれぐれも勘違いしないでほしいのは、誰でも気軽にエピペン注射をしていい、という話ではないということ。
 
学校教職員や保育所職員の場合は、親からの信託を得て、ある意味契約を交わして、代理注射を行うという図式になっています。
 
バイスタンダー的に注射を行うのとはわけが違うという点です。
 
例えばサマーキャンプに引率する自然観察指導員などは、「学校教職員」ではないとしても、学校と同じように親御さんとの信頼関係のもとにエピペン注射を行うことは可能となることでしょう。ただ、いずれにしてもリスクを伴う行為なので、エピペンを預かるかどうかは自己判断、自己責任です。
 
学校教職員や保育所職員ほど守られていないのはれっきとした事実です。
 
また少なくとも、人に針を突き刺すという傷害行為と紙一重の注射行為。
 
普通はありえない話です。
 
そこは再確認しておきたいところです。
 
 
 

 
 
 

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