PEARS/PALS (小児救急・急変対応)一覧

看護師の急変対応研修のアウトカムは報告にありーSBAR

この表は、PEARSプロバイダーコースのシミュレーションでホワイトボードに書かれた内容を再現したものです。

PEARS は、心停止前の危険な徴候(生命危機状態)を見分けるアセスメント能力を高めるアメリカ心臓協会のトレーニングプログラムです。

まずは観察して、この表のような情報を整理して、命を落とす原因となる6つ生命危機の中からタイプを判定し、さらに重症度を判定しましょうというのが、PEARSのアセスメントです。

結論から言えば、これは循環障害のうち、「循環血液量減少性ショック」というタイプの生命危機状態で、重症度は「低血圧性ショック」というのが答えです。

やもするとPEARSでは、この判定にたどり着くことがゴールと思いがちな節がありますが、なにもお医者さんごっこや病名当てクイズでやっているわけではありません。

看護師として、このステップのあと、どんなアクションを起こすのか、こそが重要です。

 

評価 → 判定 → 介入

このアクションのことをPEARSでは、「介入」と呼んでいます。

ショックが起きていると判定できれば、それに対する介入は「20ml/kgの等張性晶質液のボーラス投与」が正解です。

 

じゃ、その正解にたどり着いたとして、看護師のあなたは、独断でVラインを取って生理食塩水の輸液を始めますか?

 

と、考えると、ナースがショックという病態を認識して必要や薬剤(等張性晶質液)と投与量が分かったとして、じゃ、どうするの? というところが問題になってきます。

もしかしたら、ここが米国のナースと日本のナースの違うところかもしれません。

日本の看護師は、原則的に医師の指示がない限り、輸液も含めた薬剤投与はできません。となると、PEARSで安定化のための治療法が見えたとしても、最終的な業務としてのアウトカムは輸液の実施ではなく、もっと別のことになるかもしれないのです。

 

それでは、日本で看護師がPEARSコースから学べることはなんなのか?

ヒントはPEARSプロバイダーマニュアルG2010日本語版の20ページにあります。

「臨床状態の判定に基づいて、適切な処置により介入する。処置内容はプロバイダーの業務範囲と施設のプロトコールによって決定される。PEARSプロバイダーの介入には以下のものが含まれる。

応援を呼び、救急医療チームや迅速対応チームの出動を要請する
・CPRを開始する
・(中略)

最善の行動は応援を呼ぶことである。応援が到着するまでの緊急の処置を行う」

PEARSでいう介入(intervene)の第一義は、応援要請・報告なのです。

医師が不在の場で緊急事態に遭遇したのであれば、医師に状況を報告し、医師が来るまでの間の緊急の処置を行うのが日本のナースにおけるPEARSのアウトカムです。

そして忘れてはいけないのが、日本の看護師は、医師の指示があれば、かなりの範囲の医療行為を行えるということです。

この中には、PEARSプロバイダーコースに出てくる酸素投与や生理食塩水の輸液は含まれますし、ネブライザーによる薬剤の噴霧投与や、状況によってはアドレナリンの筋注もあり得るかもしれません。

そう考えると、日本のPEARSプロバイダー看護師に求められるPEARS学習のゴールは、医師に的確に報告し、迅速な治療に繋げること。そして、緊急度が高い場合は、処置に関する指示を受ければ、それを実施することも含まれます。

 

 

そこで考えたいのが冒頭の症例です。

もしこのような患者にナースだけで対応している場面があって、医師に電話連絡がつく状況だったら、どう報告するでしょうか?

 

こんなことをPEARSのシミュレーションで体験してもらっています。

インストラクターが医師役を演じ、受講者さんに報告をしてもらうのです。そうすると多いのは、一次評価の内容を最初から読み上げていって、「で、先生、どうしましょう?」という報告の仕方です。

冒頭の表を見てもらうと分かる通り、この症例では、呼吸に関しては回数が多めという以外は目立っておかしなところはありません。このあたりの報告を聞いている限りは、「だからなんなの? さっさとしてよ」という医師の心持ちは想像できます。で、肝心なところは中盤以降から登場します。

つまり、報告の仕方の善し悪しによって、伝わり方や緊急度が違ってきてしまう懸念があります。

 

SBARという報告ツール

そこで役に立つのが、最近流行りのSBARという報告の様式です。これはAHA講習の中で言及されているものではありませんが、日本の看護業界ではそこそこ広まっている印象があります。このSBARを意識するだけで、報告がぜんぜん違ったものになってきます。

例えば、こんな感じです。

「ショックと思われる患者さんがいます。HR136で頻呼吸、抹消も中枢も脈の触れが弱く、CRT延びてます。手は冷たいです。血圧も84/68と下がっており、意識レベルも低下していて重症度は高いと考えられます。すぐ来ていただけますか?」

これはあくまでも例ですが、SBARという論理構造がわかるでしょうか?

 

    S:Situation「状況:なにが起きてるのかをざっくりと」
    B:Background「背景:アセスメントの根拠となる情報」
    A:Assessment「評価:アセスメント、考えたこと」
    R:Recommendation「提言:どうしてほしいか?」

 

逆から考えていきます。報告をする目的はなにかといったら、Recommendation 提言のためです。医師に何かをしてほしいとか提案をしたい、それが報告の目的です。

そこにフォーカスしている点をまず認識して下さい。

忙しい医師にとにかくすぐ来てほしい! そのためには理由を伝える必要がありますが、死んじゃいそうだからとにかく来てよ、という結論めいたことだけを言っても、なぜ??という疑問が発生し、先方も迅速な行動には繋がりにくいです。

なぜ緊急度が高いと思ったのか、またそもそもなぜショックを疑ったのか、根拠となるデータを客観的に手短に示します。それがバックグラウンドです。

さらには、結論を最初に、ということも大事。まずは要件の全体像を伝えたほうが話が速いということで、Situation「状況」から話し始めます。今回は例としては、ショックというキーワードを入れましたが、そこまで絞り込めていなければ、「急変です!」の一言でもいいと思います。

報告の目的は、「死にそうだから速く来てよ」なわけですから、その部分とは直結しない呼吸に関する情報などはあえて言及しないことで、問題をクローズアップできます。余計なことをダラダラ言わない! ということです。

看護職の方の報告の傾向を見ていると、状況を伝えるだけで、なんのための報告かという、目的意識が弱い印象があります。

「先生、○○なんですけど…」という語尾をはっきりさせない感じで、現状報告だけを行い、判断やその先のアクションは完全に丸投げしている傾向がないでしょうか?

医学的判断は医師が行うという医療界の構造を考えれば自然なことなのかもしれませんが、体系的アプローチやアルゴリズムによって医師以外でもある程度、先行きが見通せるような状況が広まりつつあります。

そして、まさにそこを学ぶのがPEARSですから、判定により問題点がある程度見えるし、その安定化のための手立ても先読みできれば、それをぜひ積極的に報告に取り入れることで、医師が来てから診断をつけて処置の準備を始めるのではなく、先読みした準備が奏功すれば処置までの時間を短縮して、救命の可能性を高めることができるかもしれません。

 

「先生! すぐ来てください」のもう一歩先へ

そう考えると、SBARの最後のRecommendation「提言」が極めて重要で、単に「すぐ来てください」にもう一言、「何分で来れますか? 到着までの指示をください」などが入るといいですね。

さらにいえば、この先の処置や展開が予想できていれば、「ラインとっておきましょうか?」とか「生食1リットルつなげておきます」とか「ネブライザを準備しておきます」など、具体的な提言もできるかもしれません。

指示を受ければ薬剤投与も含めてある程度の処置ができるのが看護師免許の強みです。

それを活かすも殺すも、ナースからの報告次第といっても過言ではありません。


PEARSのシミュレーションってどんなもの?

今日は、横浜で PEARSプロバイダーコース with シミュレーション でした。

PEARSプロバイダーコースのシミュレーション風景

気づけば、いつの間にか日本国内のPEARSプロバイダーコースは、シミュレーションを「省略」するやり方が一般化してしまったので、PEARSのシミュレーションと言ってもなんのことかわからないPEARSプロバイダーさんが多いのが現状かもしれません。

G2010版のPEARSコースのシナリオ進行は、「ラージグループ・ディスカッション」と「スモールグループ・シミュレーション」の2つのやり方から選べることになっています。(参考まで、今後移行していくはずのG2015版ではシミュレーション省略のオプションは撤廃されました)

教育工学を学ぶ立場である、私たち日本医療教授システム学会ITCメンバーとしては、シミュレーション抜きの「ラージグループ・ディスカッション」だけで終わらせることはありえないという考えから、旧来のG2005-PEARSのやり方を踏襲して、シミュレーションありの選択をしています。

PEARSのシミュレーションとはどんなものかを紹介しますと、、、



PEARSシミュレーションの例


PEARSのシミュレーションというのは、BLSを2人ないしは複数人で行うことではありません。PEARSの体系的アプローチ(アセスメント)をマネキンの前で展開し、障害のタイプを判定し、介入し、再評価を行うことを言います。


まずは、症例DVDの映像をちらっと見てもらいます。第一印象はパッと見の評価ですから、そう長々とは映像は流しません。数秒間、患児の様子を見てもらった後、第一発見者の受講者さんはマネキンの前に立ってもらいます。

先ほど見た映像の子が目の前にいますよ、どうしますか? という設定で、シミュレーションを始めていきます。

第一印象の評価で、自分1人の手に負える状態じゃないと思えば、他の医療スタッフ(受講者)たちに応援要請し、3人程度のチームでアセスメントを進めていきます。

第一発見者の指示で、チームメンバーが心電図モニターを装着すれば、手元のモニター画面に心電図波形と心拍数が表示され、パルスオキシメーターを装着すれば酸素飽和度が表示されます。(BLS横浜では iPadのシミュレーター を使っています)

それらのモニターの値や、映像で見た児の呼吸の様子から、呼吸数や努力呼吸の有無などをアセスメントしていき、判定をしつつ、必要な介入を行っていきます。

例えば、小児は舌が大きく、気道閉塞が起きやすいという解剖学的特徴があります。その為、体位を整えるという気道確保が極めて有用です。肩枕を入れたり、抱っこをしたり、ということを実際に試していきます。

酸素投与という話になれば、実際に手元にあるデバイス(経鼻カニューラ、マスク、リザーバー付きマスク、BVM)を選択肢、酸素流量を具体的に指示し、マネキンに装着してもらいます。そうするとリアルタイムにモニターの酸素飽和度が変化していきますので、それを見ながら流量や投与経路を調整します。

吸引も大切な気道確保の手技ですが、小さな子ども相手の吸引は難しく、泣いてしまったらより状態は悪化してしまうかもしれません。また酸素マスクを当てようとしても子どもは嫌がるかもしれません。机上のディスカッションではなかなか考えが及ばない部分です。

講習の前半で知識として学んだことを、マネキン相手ではありますが、アクションとして実施し、結果や反応を見ながら、考え、悩むのがシミュレーションです。

シミュレーションのゴールは?


障害の「タイプ」と「重症度」を判定するのがPEARSコースのゴールと思われがちですが、臨床で使うスキルとしては、判定結果をもとに自分がどう行動するか? が重要です。

判定だけで終わってしまったら、ただの診断ごっこです。

特に、BLS横浜では、看護師向けにPEARSを展開しています。

看護師としては、例えば患児の呼吸障害のタイプが「下気道閉塞」で重症度は「重症」と判断して、すぐに酸素投与と気管支拡張剤のネブライザー投与が必要だとわかっても、ナースの判断で勝手に薬剤を使用することはできません。

となると、臨床的な実行動としては、状況を医師に報告し、必要な医行為の指示を取り付けるというのが看護師の実務です。

そこでPEARSのシミュレーションでは、医師へ電話で報告する、という介入をしてもらっています。

インストラクターが医師役となり、報告を受けるのですが、実際にやってみると、要領のよい報告はなかなか難しいものです。

そんなときは、AHAコンテンツには含まれていませんが、SBARという報告様式を提案してみると、これがしっくりと収まるということに皆さん気づいてくれます。


看護師は、独断や単独で医療処置を行うことはできませんが、医師の指示があれば薬剤投与を含めた大概の医療処置は合法的に行えます。医師がその場にいなくても、医師の目となるような観察をして報告をし、指示を取り付ければ、救命処置を行えるのが看護師です。

そして、体系的アプローチの視点や考え方は、医師も含めた医療界で標準的なもの。

それに則れば、診断は行わない看護師であっても、状況の先読みはある程度できます。しかしそれを診断として行えない立場だからこそ、主観ではなく、客観的な事実の情報を含めて医師に報告して、科学的な推論をアセスメントとして述べて、必要な処置を提案し、具体的な指示を取り付けること。これがSBAR報告です。

そんな風に、指示を待つのではなく、提案(recommend)するという一歩踏み込んだ思考で考え、行動し、実際に声に出して行動してみるというのが看護師にとってのPEARSシミュレーションの主要なゴールと考えています。

そんな医師への報告までの間は、チームメンバーで情報共有し、意見交換し、記録や処置などの役割を分担しながら、評価を進めていくというチームダイナミクスも体験し、「できる医療者が1人」いるだけでは、物事はうまく進んでいかないという大事なポイントも実感していくのです。

PEARSプロバイダーコースの教育的意義

PEARSコースの画期的なところは、嘘偽りのないホンモノの生命危機状態患者の映像を使って観察・評価の練習ができるところにあります。

これは、AHA-PALSやAHA以外の標準化教育プログラムをもってみても類を見ない、PEARSの唯一無二な部分です。

これにより認知スキルが鍛えられます。

例えば、PALSプロバイダーコースでも、陥没呼吸や呻吟といった異常な呼吸様式は出てきますが、主に言葉として出てくるだけで、「見て判断する」という部分は「できてあたりまえ」として扱われており、教育フォーカスは症状の認知ではなく、その先の診断(二次アセスメントと診断的検査)に向けて重きが置かれています。

PEARSをアセスメントのための認知スキルトレーニングと位置づけるなら、映像を見て、受講者同士でディスカッションしながら理解を深めるという学習方法で十分かもしれません。

しかし、それはアセスメント訓練で終わってしまいます。

生命危機状態に陥っている患者をアセスメントする目的は何か?

もちろんそれは命を救うため。状態が悪化して目の前で命を落とすことがないようにするためです。

安定化のための救命処置という「介入」を行うための方向性を定めるツールとしてアセスメントを行うのです。

アセスメントはゴールではなく、過程です。

アセスメントを現場で使えるツールに格上げさせるのがシミュレーション

BLS横浜でPEARSコースを受講した方たちは例外なくシミュレーションの効用を口にします。


  • 座ってアセスメントするのとマネキンの前で立ってやるのではまったく別物みたいで驚いた
  • さっきはわかった気になったけど、いざやってみると意外とできない、わかっていないのを痛感した
  • やったことの反応がちゃんと返ってくるので再評価の大切さを感じた
  • アセスメントを進めるばかりじゃなくて介入のタイミングが重要
  • アセスメントができても、報告につながらないと意味がないとわかった


「わかる」と「できる」の間には大きな隔たりがあります。
そのギャップに気付けるのが模擬体験であるシミュレーションです。模擬体験と実体験もまたギャップがあるものですが、知と行動の溝を認識して隔たりを軽減できる働きが期待できます。

シミュレーションであっても、慌てますし、冷汗びっしょりになることもあります。軽いパニックになることも。

こうした心の揺さぶりを少しでも体験しておくとは、いざというときのためのパニック対策にもなります。

BLSにしてもACLSにしてもPEARSにしても、受講することが目的になってはいけません。

自分はどうなりたいのか、なにができるようになりたいのか?

その最終的なアウトカムに向けての階段のひとつが標準化教育です。

その研修で得たものは、実臨床で実践するためのどのステップに相当しているのか? そこでカバーできていないのはどの部分か?

そんな学びの構造解析をしてみると、学ぶ意義が違ってくるように思います。


溺水の救命のポイントは人工呼吸

「プールで男児溺れる 監視員が救出、搬送 千葉公園」(千葉日報2017年7月21日付)
 
 

プールで男児溺れる 監視員が救出、搬送 千葉公園
https://www.chibanippo.co.jp/news/national/424745

 
プールの底から引き上げたら、意識なし、呼吸なし。人工呼吸をしたら自発呼吸が戻ったというニュース。
 
AHAの小児の救命の連鎖が示しているように、子どもの救命のための最大の武器はCPR(人工呼吸+胸骨圧迫)です。
 
喉頭痙攣による呼吸停止だったのか、低酸素による徐脈性PEA(無脈性電気活動)だったのかはわかりませんが、手早く人工呼吸に着手できたのが救命のポイントだったのではないでしょうか?
 
BLSの原則からすればAEDがあればただちに装着すべきですが、それと同じかそれ以上に、子どもや水辺の救命では人工呼吸が重要です。
 
心室細動に代表されるような心原性心停止であれば、AEDがなければ救命はほぼ絶望的ですが、呼吸原性心停止の可能性があれば人工呼吸+胸骨圧迫だけでも救える可能性があります。
 
AEDが「ショックは不要です」と判断したら、呼吸原性心停止の可能性が考えられますから、今どきの Hands only CPR の概念から切り替えて、人工呼吸の実施も積極的に考えていきたいものです。
 
 
 

 
 

続きを読む


PEARSプロバイダーコースのシミュレーション

PEARSプロバイダーコースのシミュレーション「あり」と「なし」の違いですが、どちらも正式な開催方法です。

PERS with シミュレーション(ペアーズ)

インストラクターマニュアルを見ると、進行方法として、

・Learge-Group Discussion
・Small-Group Simulation

が選べるように設定されています。

大人数の座学で、座った状態でディスカッションして進めてもいいし、少人数に分けてマネキンを前にシミュレーションをしながら進めても良い、と規定されています。

どちらを選ぶかは主催インストラクターの考え方次第。

PEARSを学びに来る受講者のほとんどは、「できる」ようになることを求めているはず。そう考えると、シミュレーションは欠かせない、というのが私達の考え方です。

特に1つまえのG2005版のPEARSでは、シミュレーションを省略するという選択肢はありませんでした。

開発当初のPEARSコースを日本に導入してきた数少ないUSインストラクターの系譜を汲む私たちは、シミュレーションにこだわったPEARSを展開しています。

続きを読む


子どもだけじゃない! 新タイプの急変対応研修 PEARS が注目される理由

BLS横浜がよく話題にしているPEARS(ペアーズ)とはなんなのか? というご質問をいただきました。
 
PEARSプロバイダーコース は、アメリカ心臓協会(AHA)が開発した新世代型の医療者向けの急変対応研修プログラムです。
 

PEARSプロバイダーマニュアル(ペアーズ)

 
医療者向けの急変対応といえば、BLS と ACLS のイメージがありますが、これを一次救命処置、二次救命処置と言い換えた場合、PEARSはゼロ次救命処置に相当します。
 
心停止が起きてしまったらどうしよう、というのではなく、心停止は予兆に気づけば防げるもの、という視座で作られている点で、今までにない画期的なプログラムです。
 
 

(院内)心停止は突然じゃない!

従来型の急変対応研修や救命講習は、「心停止は突然に起きる」という前提で組み立てられていました。
 
これは成人に多いとされる心原性心停止を考えればその通りなのですが、病院内で起きる心停止に関しては必ずしもそうではないと言われだしたのが2005年頃でした。
 
いまでは、病院内の心停止のうち、除細動が適応となる心室細動・無脈性心室頻拍によるものは2−3割程度にすぎないことが知られてきています。
 
逆にいえば残りの7−8割は、段階的に進行する「防ぎ得る心停止」であるというのが、最近の考え方です。
 
とすると、BLS や ACLS といった心停止後の対応を学ぶだけでは、救える命を救えないといえます。
 
そこでいま、ゼロ次救命処置研修である PEARS が着目されているというわけです。
 
 

小児で発達したアプローチを成人に活かす

PEARS の P は Pediatric(小児)。PEARS は本来的には、小児急変対応研修です。
 
小児領域では、もともと子どもは心原性心停止は多くないという理由から、「心停止の予防」にフォーカスした教育展開を行ってきました。その集大成が AHA の PALS (パルス)なのですが、その PALS の中からアセスメントと心停止予防の部分を切り出して、強化されたのが PEARS です。
 
2008年に開発されて、2012年にアップデートされたのが現在の PEARS は、引き続き小児急変をテーマとしていますが、そこで学ぶ呼吸障害と循環障害の病態生理とアセスメントの視点は、子どもに限らず、成人の生命危機のアセスメントにもそのまま使えます。
 
BLS横浜では、特に PEARS を小児以外に応用するという視点を強化した PEARS を展開しています。
 
 

命を落とす仕組みがわかれば救う手立ても見えてくる

ヒトが命を落とす原因を突き詰めれば、呼吸の問題と循環の問題に大別できます。さらにそれぞれの問題のタイプを下記のように分類できます。
 
 呼吸障害
 ・上気道閉塞
 ・下気道閉塞
 ・肺組織病変
 ・呼吸調整機能障害
 
 循環障害
 ・循環血液量減少性ショック
 ・血液分布異常性ショック
 ・心原性ショック
 ・神経原性ショック
 
目の前にいる具合の悪そうな人が命を落としてしまうとしたら、原因は呼吸障害なのか循環障害なのか? さらにはタイプはなに?
 
視点を絞って観察し、アセスメントして障害のタイプが分類できれば、必然的に命を救う手立てが見えてきます。
 

PEARS(ペアース)体系的アプローチの概要

 
例えば吸気時喘鳴があって、上気道閉塞にタイプ分類できれば、咽頭部の腫れを引かせるために血管収縮薬(アドレナリン)が必要という判断ができます。その間にも窒息で命を落とす危険があれば、何らかの方法で気道確保をし、自発呼吸が難しければ人工呼吸によって、酸素供給をして根本治療までの時間稼ぎをする手立ても見えてきます。
 
このように命を落とす仕組みを理解して、心停止にさせないための介入を行う、そのための体系的なアセスメント法を学ぶのがPEARSです。
 
 

ホンモノの患者映像、バイタルサインで観察力を身につける

実際に生命危機に瀕している患者映像とバイタルサインデータ、呼吸音など使って観察とアセスメントを訓練していくというのも PEARS が絶大な支持を受けている理由のひとつです。
 
恐らく日本では倫理的な問題から、このような映像教材を作るのは極めて難しいと思います。
 

PEARSのケース映像(G2005版)
(開発当初のG2005版PEARS ProviderコースDVDより)

 
 
呼吸努力が見られて、呼気延長とウィーズ( Wheeze 呼気時喘鳴 )があったら、下気道閉塞疑いが濃厚、というのは教科書的に学べます。
 
しかし、患者を診たときに呼気延長やウィーズに気づけるか、が問題です。
 
知識と臨床判断をつなげるような訓練は、実臨床で鍛えていくのがいちばんですが、学べる現場は極めて限定的です、そこを体系的に訓練できる教材は PEARS 以外ないでしょう。(PALS の DVD でもそこは学べません)
 
 

シミュレーションの効用

PEARSで学ぶのは、大きく次の2点です。
 
・体系的アプローチ(アセスメント法)
・安定化のための介入
 
アセスメント法はリアルな映像教材を見ながら、受講者同士のディスカッションを通して学びます。
 
アセスメントの目的は、障害のタイプと重症度を判定することですが、判定をしたらオシマイ、というものではありません。言うまでもなく、次のステップである急変対応(介入)につなげるための過程に過ぎません。
 
その安定化のための介入をトレーニングするのが、シミュレーション・セクションです。
 
マネキン相手ではありますが、所見を見ながら、気道確保をしたり、経路と流量を考えながら酸素投与したり、輸液をしたり。それによってリアルタイムにバイタルサインや患者の反応が変わってきます。反応を再評価して判定、介入を繰り返していく訓練は机上で行うものとはまったく違います。
 
というのは、そこにはチームが介在するからです。
 

PEARS(ペアーズ)の評価―判定―介入のサイクル

 
 
なぜか2012年の改訂 PEARS では、シミュレーションを省略しても構わないと方針転換されたため、時間短縮のためにシミュレーションを一切行わない PEARS コースも増えてきているのですが、現場でのアウトカムを考えたときに、シミュレーション訓練は欠かせないと考えています。
 
その分、時間が長めになるのは致し方ない部分ですが、せっかく1日かけて、新しい急変対応の概念を学ぶのであれば、しっかりと見につけてほしい、という思いで PEARS 展開しています。
 


 
ということで、PEARS がいかに画期的なプログラムかということを説明してきました。
 
2008年にPEARSが開発されてから、日本でも似たコンセプトでいくつかの研修プログラムが作られてきましたが、やはり、リアルな患者の動画を使うという点では PEARS に追いつくものとはなっていません。
 
今後も倫理的な問題を考えると、日本人の実際の患者映像を使った教育プログラムができるかといえば、難しいのではないかと思います。
 
だからこそ、米国で撮影された非アジア系の子どもの映像であるという、私たちからしたら日本の現場にそぐわない部分があったとしても、それでもあまりある価値があると考えています。
 
 
現時点、横浜での次回の PEARSプロバイダーコース with シミュレーションの開催予定は立っていませんが、2017年3月以降くらいには計画していきたいと思っています。
 
また、
 
 12月23日(祝)・・・福岡県久留米市(CPR-net久留米と共催)
 12月26日(月)・・・静岡県藤枝市(BLS静岡スキルアップラボと共催)
  2月26日(日)・・・沖縄県那覇市(BLS沖縄と共催)
 
での Sim-PEARS 開催は決まっており、引き続き参加者募集中です。
 
 
PEARS自体は今は全国展開されていますが、本来のシミュレーション込みの PEARS プロバイダーコースを開催しているところはほとんどありません。そのため、BLS横浜が提供する Sim-PEARS の需要は高く、求めに応じて全国に出向いて講習展開を行っています。
 
もし病院等で開催希望があれば、出張講習も検討しますので気軽にご連絡ください。
 
 

 
 

続きを読む


呻吟(しんぎん)…肺組織病変の兆候

PEARSを学ぶからには、呻吟(しんぎん)についても知っておいてください。
 
PEARS-DVDの中ではGrantingという英単語で表現されています。そして実際の呻吟を呈している乳児の映像も出てきます。
 
呻吟は泣き声のようにも聞こえる、呼気時の「うめき声」です。
これは息を吐くときに声門が閉じるために生じる音です。
 
なぜ息を吐くときに声門を閉じるのかというと、胸腔内を陽圧に保って、肺が虚脱するのを防ごうとするからです。
 
南山堂の医学大辞典では次のように説明されています。
 
「呼気性呻吟の出る理由は呼気時に声門を閉じることにより、気道内とくに肺胞内に陽圧を残して、肺胞の虚脱を防ごうとするものであり、持続的陽圧呼吸法continuous positive airway pressure(CPAP)の目的とするところと同じである」
 
 
簡単に説明すると、肺炎など、炎症によって肺胞が水っぽくなっている状態で、息を吐き切ってしまうと、肺胞がぺたっとつぶれて、表面張力で張り付いてしまいます。
 
そうなると、次に息を吸って肺胞をふくらませるときに、張り付いたのを剥がすためにより強い力が必要というのは想像できると思います。
 
風船をふくらませる時も最初が一番力がいりますよね? ある程度ふくらんだところから、風船を大きくするのにはさほど努力は要りません。
 
つまり、息を吐き切ってしまうと、呼吸がしにくくなるため、それを防ぐために息を吐ききるまえに声門を閉じて肺胞が潰れるのを防いでいる、そんな体の自然の働きです。
 
このことをイメージしておくと、呻吟を見たときに、肺胞が潰れたら膨らみにくい病態になっているんだなと想像できます。肺胞の問題だから、上気道閉塞や下気道閉塞ではなく、肺組織病変だと関連付けられます。
 
 

 

続きを読む


PEARSプロバイダーコースでは教わらない呼吸障害の兆候の機序

PEARSの学習を楽しくするためのヒントを少々。
 
生命危機状態として、PEARSプロバイダーコースでは、呼吸障害4タイプと循環障害2タイプの判定方法を学びます。
 
そのうち、呼吸障害の4つ、すなわち上気道閉塞と下気道閉塞、肺組織病変、呼吸調整機能障害を判定するためには、それぞれに特徴的な症状・兆候を見つけるのがポイントになります。
 
この表の中では、特徴的な兆候に下線を入れました。
 

PEARS(ペアーズ)プロバイダーコース呼吸障害の判定

 
これがわかれば、PEARSコース上、判定はできるのですが、丸暗記しても面白くありません。そこで予習で下記の点を調べてくることをお勧めします。
 
残念ながらPEARSのテキストにはそこまで細かいことは載っていませんので、手っ取り早くはネット検索などを利用するといいと思います。
 
1.上気道閉塞では、吸気時に喘鳴(狭窄音)が聞かれるのはなぜか?
 
2.下気道閉塞では、呼気時に喘鳴(狭窄音)が聞かれるのはなぜか?
  (このメカニズムが分かれば、呼気延長の理由もわかります)
 
3.呻吟とはなにか? 呼吸のどのタイミングで聞かれるのか? なぜ起きるのか?
 
4.いわゆる断続性ラ音が聞かれる機序は? 肺のどの部分がどうなってる?
 
 
これらをある程度調べておくと、PEARSが俄然おもしろくなってきますので、ぜひ探ってみてください。
 
 

 
 
 

続きを読む


「わかる」と「できる」は違う シミュレーションの効用

わかることと、できることは違う。
 
誰でも頭ではわかっていると思います。
 
しかし、このことを強く突きつけられるのが、シミュレーション・トレーニングではないでしょうか。
 
 
Sim-PEARSプロバイダーコースを例に、説明してみます。
 
PEARSでは、事前学習に加えて、ビデオ教材で体系的アプローチの説明を聞いて、映像を見ながらのディスカッションベースのアセスメント訓練で、A-B-C-D-Eアプローチの仕方を段階的に身に着けていきます。
 
息も絶え絶えに呼吸をする子どもの映像、顔面蒼白で眼球上転している子どもの映像。
 
そんなリアルな教材を使ってアセスメントの練習をする、これまでに経験したことがないリアルな学習体験に、座学でのディスカッションだけでもそれなりに満足感を感じるのがPEARS(Simなし)です。
 
しかし、この後、2010年版からはオプション扱いになっている「シミュレーション」を行うと、受講者の心持ちは変わります。
 
さっき、映像をみて練習して、なんとなくできる気になっていた体系的アプローチが、マネキンの前に立ち、チームメンバーと向き合った時に、ちっとも進まなくなるのです。
 
「頭のなかが真っ白になった」という感想は珍しくありません。
 
分かった気になっていたけど、できない。
 
そんな現実に直面するのです。
 
 
PEARSプロバイダーコースで、体系的アプローチを学ぶのは、試験に合格するためではありません。
 
臨床で使うために学ぶのだという点は言うまでもありません。
 
体系的アプローチという手法を知るのが第一歩ですが、知るだけでは使えない。
 
そのことに気づくだけでも、シミュレーションの効果は絶大です。
 
シミュレーションを通して使い方の練習を行い、チームメンバーとの連携の仕方と報告を体得するというさらなる学習体験が必要です。
 
そして、最終段階として実臨床で使ってみる。
 
そうして、「知る」と「できる」の間の溝を埋めていく必要があります。
 
特に実臨床の前に、患者さんに不利益のないシミュレーション学習で経験値を上げておくことは大きな意味があります。シミュレーションありとなしでは、「できる」までの段階差は雲泥の違いといって過言ではありません。
 
 

 
 

続きを読む


AEDを使ったACLSトレーニング Sim-PEARS

BLS横浜が開催している「PEARS with シミュレーション」での心停止ケースシミュレーションでは、AEDを使った二次救命処置(ALS)を経験してもらっています。
 
病棟での心停止にAEDとバッグマスクで挑んでもらうのですが、BLS-HCPと違うのはチームメンバーの看護師が6人いるということ。そして途中から医師と電話連絡がつき、薬剤投与の口頭指示が出るという点。
 
PEARSでは、PALSと違って、リーダーはインストラクターが行うということになっていますので、このような体裁をとっているわけですが、ここでも重要なのは報告です。チームダイナミクスでいえば情報共有でしょうか。
 
ナースだけでAEDを使っているシチュエーションであれば、医師としては、AEDの解析結果が気になるところです。
 
つまり、除細動のショックをしたのか、それともショックは不要と言われたのか?
 
これによって、アルゴリズムが違ってくるからです。
 
AEDがショックが必要と判断したのであれば、心停止としてはおそらく心室細動(もしくは無脈性心室頻拍)です。そして、AEDがショック不要と判断したのであれば、心停止のタイプは、無脈性電気活動もしくは心静止です。(通常はモニター波形を見て判断するところを、AEDでの蘇生ではAEDの挙動から判断する、ということです。)
 
ACLSにしてもPALSにしても、両者ではアルゴリズムが別です。
 
質の高いCPRが必要という点では同じですが、薬剤投与が違ってきますし、優先すべきもの(除細動/原因検索)も違ってきます。
 
ここを認識しているかどうか、というのが、この心停止シナリオでは試されるところです。
 
 
医師に対して「AEDを使いました!」という報告では不十分だというのはわかるでしょうか?
 
AEDを使ったというのが、パッドを装着したという動作を意味しているのか、除細動のショックをしたという意味なのか明確ではないからです。
 
AEDがショック判定をして除細動をしました、もしくは、ショック不要でした、をはっきり伝える必要があります。
 
この点を認識してもらうために、「ショック不要」設定にしたAEDトレーナーを使ってシミュレーションを行っています。
 
BLSはとりあえず早期除細動と質の高いCPRができればいいと思われがちですが、病院の中でのBLSはBLSでは終わりません。そして小児に関して言えば、ショック不要と言われる無脈性電気活動のケースが多いはず。
 
AEDときたら、必ずショックをするものだという昨今のBLS訓練ゆえの先入観を脱却するという点でも、印象深い学習体験になるようです。
 
 
 

 
 

続きを読む


PEARSシミュレーション・トレーニングの魅力

BLS横浜で開催するAHA-PEARSプロバイダーコースでは、シミュレーション・トレーニングを取り入れています。(正確にいうと「省略」していません)
 
BLS横浜の工夫としては、PEARS-DVDの動画で示されるモニター画面だけではなく、リモコン操作できるiPadのモニター心電図アプリを併用して、リアルタイムにバイタルサインを変化させて、シミュレーションの効果を強化しています。
 

iPhoneの心電図モニターアプリ sim-mon
iPhoneの心電図シミュレーターアプリ sim-mon

 
 
PEARSの根幹は、評価-判定-介入-再評価 のサイクルにあります。
 

PEARS(ペアーズ)の評価-判定-介入のサイクル

 
問題のタイプと重症度を判定して、安定化のための介入をしたらおしまいではなく、その処置の結果を見て、評価をしていくことが重要です。(ビジネスでいうPDCAサイクルと同じです)
 
例えば、酸素投与方法として、単純マスク4リットルとした場合、それが妥当なのか、より高流量が必要ではないかは、酸素飽和度の上昇や呼吸状態の変化を見なければ判断できません。
 
そこで用いるのが、心電図波形や数値を自由に変更することができるモニター心電図のシミュレーターです。
 
酸素投与後の酸素飽和度の変化はどうなのか、言葉だけのシミュレーションだと抜けてしまうことが多いですが、モニターを使うとよりリアリティを出すことができます。
 
他にも、例えば、本来はバッグバルブマスク換気が必要な場面で、低流量酸素投与しか行っていない場合は、いつまでもサチュレーションを上げないことで、インストラクターの誘導ではなく、主体的に問題認識を捉えて考えてもらうこともできます。
 
ショックのケース・シミュレーションでも、輸液のボーラス投与が奏功すれば、呼吸数や心拍数などを斬減させることで、再評価の意義を実感してもらうこともできます。
 
本来は1千万円近くする高規格シミュレーション・マネキンを使わなければ再現できなかった学習体験が、iPadと数千円(2015年12月現在で2,500円)のアプリで再現できるのは魅力です。
 
 
PEARSに限ったことではありませんが、医療現場のトレーニング、特に非心停止対応訓練では、iPadの活用はおすすめです。
 
BLSやACLSと違って、条件反射を鍛えるのではなく、考え方を鍛えるのがファーストエイド系の非心停止対応訓練。考える材料をどう示すか、そして考える時間を確保することが重要です。
 
 

 

続きを読む