PEARS/PALS一覧

小児の人工呼吸比率、15:2を深掘りする

今から書く話は、主に医療従事者向けのBLSプロトコルです。市民向け救命法とは別の話なので、ご注意下さい。

さて、ヘルスケアプロバイダー(医療従事者や救命のプロ)向けの心肺蘇生法の中では、小児に関しては、30:2ではなく、15:2という胸骨圧迫と人工呼吸の比率がでてきます。

これはAHAガイドラインでは、思春期未満の子どもに対する二人法CPRの場合の圧迫対換気比です。

今日は、この15:2に着目して、掘り下げていってみようと思います。

まず、そもそも30:2に較べて、15:2という胸骨圧迫と人工呼吸比率のメリットはなんでしょうか?

肺に送り込まれる空気の量が多い。

ということですよね。

そして、この比率が適応されるのは小児・乳児の場合だけです。

なぜ、子どもの場合は、人工呼吸の送気が多いのか?

理由は、皆さん、わかりますよね?

BLSコースのDVDでも言っているように、子どもの心停止の原因として呼吸のトラブルが多いからです。

BLSプロバイダーマニュアルG2015では、52ページに、「乳児や小児が心停止を起こした場合は、呼吸不全またはショックが認められ、心停止に至る前から血中の酸素濃度が低下していることが多い」と書かれているとおりです。

その他の理由としては、PALSプロバイダーマニュアルにヒントがあります。

その114ページには次のように書かれています。

「小児は代謝率が高いため、体重1kgあたりの酸素需要量が多い。乳児の酸素消費量は6~8ml/kg/分であり、成人の3~4ml/kg/分よりも多い。」

子どもは大人に較べて、酸素の消費量が多いから、人工呼吸の比率が成人より高い、ということです。

このような理由から、子どもは酸素の供給量を上げてあげようということで、15:2という比率が採用されています。

ここまでは納得いただけるかと思いますが、よく考えると、さらなる疑問が湧いてきます。

子どもの場合であっても、救助者が一人のときは大人と同じ30:2とされている。酸素の消費量が多いのが理由であれば、救助者人数で違ってくるのはおかしいのでは?

この点は、皆さんはどう考えるでしょうか?

ここは単純な小児の生理学だけの問題ではなさそうですね。

そこで、30:2と15:2で何が違うのかを改めて考えてみると、、、

15:2の方が胸骨圧迫の中断時間が長い、という見方もできませんか?

そうなんです。15:2のデメリットは、胸骨圧迫の中断時間が多いため、累積で考えると、圧迫によって生まれる血流量が少ないとも言えます。

換気回数は多いため、肺胞に到達する空気(酸素)の量は多いですが、その後の組織への酸素運搬を司る血流量が少なければ、結局、心筋細胞や脳細胞へ到達する酸素量で考えたらマイナスになってしまう。これが30:2のデメリットです。

ましてや、一人法ですから、胸骨圧迫を終えたら、感染防護具を手にして、頭部後屈顎先挙上をし直してからの送気です。これには10秒弱がかかってしまいます。

しかし、二人法の場合を考えてみて下さい。

胸骨圧迫の間、バッグマスクを顔に密着させて気道確保して構えているわけですから、15回の圧迫が終わったらすかさず送気。そうすれば中断時間3-4秒程度ですぐに血流を再開することができます。

つまり、一人法で15:2で実施した場合は、血液の酸素化までは良くても、その後の血流が低下するために組織への酸素化を考えたら効率が悪い。救助者二人で、圧迫と換気を分担した場合に限り、血液の酸素化と組織への酸素化が有効に行える、というわけです。

この点は、BLSプロバイダーコースのDVDにも、テキストにも書かれてはいませんが、組織の酸素化の理屈を考えてみると、導き出されるひとつの理解です。

漫然と15:2と覚えるのではなく、理由を考えてみると、記憶に残りやすいのではないでしょうか?


パルスオキシメーターは、いざというときは、あてにならない

今日は、PEARS®プロバイダーコースに基づき、「パルスオキシメーターはあてにならない」という話をしたいと思います。

現代医療界においては、すっかりとバイタルサインズ(vital signs)のひとつとみなされているパルスオキシメトリ(経皮的酸素飽和度:SpO2)ですが、アメリカ心臓協会AHAのPEARS®プロバイダーコースの中では、SpO2を過信しないように! というメッセージが強く打ち出されています。

AHA-PEARSプロバイダーコースwithシミュレーションの中では、酸素飽和度はあまり重要視されていません。むしろ五感を使った観察・評価に重きを置いています。

 

パルスオキシメーターでわかること/わからないこと

末梢循環が悪いとパルスオキシメーターは正しく作動しない

ショックなどの重篤な身体状況のときにはSpO2はエラーとなって表示されないというのは医療者の皆さんはよくご存知と思います。

大抵の場合、プローベは指先につけますが、ショックのときは末梢血管が締まって末梢循環を制限しますから、血管の拍動と血液の吸光度(簡単にいうと色)をもとに計算しているパルスオキシメーターは正しく作動しません。

これは、ショックに限らず、冬場で患者さんの手が冷たくて、血行が悪くなっているときにもよく見られる現象です。

皮肉な話ですが、状態が悪ければ悪いほど、パルスオキシメーターはあてにならない可能性が高いということです。

パルスオキシメーターでわかるのは呼吸機能の半分だけ

パルスオキシメーターで測ることができるのは、脈拍数と経皮的酸素飽和度の2つです。

正常に動作していれば、動脈血の酸素飽和度の近似値はとれますが、これを持って「サチュレーション98%だから呼吸状態はOK」と早合点することはできません。

酸素飽和度は、動脈血中のヘモグロビン総数に対して、酸素分子と結合した酸化ヘモグロビンの割合がどの程度かを示したパーセンテージです。

大事なことは、パルスオキシメーターでは、ヘモグロビンと酸素のくっつき具合しか判断できない、という点です。

ご存知のように呼吸の働きは、体内に酸素を取り込むことと、二酸化炭素を排出することの二つの側面があります。

つまり、パルスオキシメーターでは呼吸の2大機能のうちの半分しか見れていないということです。

酸素が十分に取り込めていても、二酸化炭素が吐けずに体の中に溜まってしまうと、これはこれで問題です。

ですから、パルスオキシメトリだけで、呼吸に関しては介入の要なし、とは言い切れない点に注意が必要です。

例えば、喘息発作などの下気道閉塞は、息が吐きづらくなる病態です。この場合、酸素化だけではなく二酸化炭素排出も、考慮しなければいけませんし、PEARS®で言ったら呼吸調整機能障害は「換気」の問題として、酸素飽和度が良好であってもバッグマスク換気(空気の出し入れ)が必要とされているものもあります。

SpO2が十分だから、酸素投与は不要、とは言えない

呼吸の評価という視点で見たとき、パルスオキシメーターでわかるのは呼吸機能の半分だけであるという話はしましたが、酸素化だけに着目しても、落とし穴がありますので、注意が必要です。

それは、SpO2は、組織の酸素化を示すものではない、という点です。

心臓や脳といった重要臓器の細胞に酸素が届かないと、人は命を落とします。

例えば、極度の貧血の人。

ヘモグロビンの量がふつうの半分しかない状態で、酸素飽和度が100%あったとしても、細胞への酸素運搬能力で見たら安心できる状態とは言えませんよね。

あとは出血多量などでショックを来している場合も、酸素飽和度だけをもって人体の酸素充足度をはかることはできません。

酸素飽和度が94%ないしは95%が基準値であっても、その人の生命維持の上で本当に酸素量が十分であるかどうかは判断できないのです。

サチュレーションが96%であっても、明らかに呼吸努力が見られて呼吸数も40回/分以上という人がいたら、酸素供給が十分とは言えません。当然、酸素投与を考えますよね?

考えてみれば当たり前の話なのですが、数字が出てくると、それだけでころっと騙されることが多いので注意が必要です。

バイタルサインズは個々の値ではなく総合的に判断する

今回は、酸素飽和度を例にとりましたが、バイタルサインというものは、個々には基準値がありますが、それを一個一個照らし合わせて個々に評価するものではなく、すべてを総合的にみて、判断する必要があります。

あたりまえといえばあたりまえなのですが、このためには、人が生きるしくみである「大気中の酸素が組織の細胞に届くまでの過程」がイメージできている必要があります。

言葉としては教わっているものの、きちんと理解しているかというと、現場で働いていてもなかなか怪しい部分はないでしょうか?

そんなバイタルサイン評価の原点を、生理学に立ち返って学びなおすのが PEARS®プロバイダーコース なのです。

 

最後にまとめとして、PEARS®プロバイダーマニュアルの中の一文をご紹介して終わります。

パルスオキシメトリで表示される数値の解釈
パルスオキシメトリはヘモグロビンの酸素飽和度を示しているだけであることを認識することは重要である。以下のことは評価できない。

  • 血液中の酸素含有量(すなわち血液によってどのくらいの量の酸素が運搬されているか)
  • 組織への酸素供給量
  • 換気の効率(血液中の二酸化炭素レベル)

PEARS®プロバイダーマニュアルG2010版 p.33


PEARS®を知ると看護業務の仕方が変わる

BLS横浜でも提供しているアメリカ心臓協会のPEARS®プロバイダーコース。

PEARS®を受講した看護師さんからは、「日々の仕事の仕方が変わった」という感想をいただくことが多いです。

PEARS®は、BLSやACLSと同じ急変対応研修のひとつと思われがちですが、そこで身につけるスキルは急変時だけに使うものではありません。ここがPEARS®とBLS/ACLSの大きな違いです。

PEARS®コースで学ぶのは、「酸素化と灌流」という人間(動物)が生きる基本的なしくみとそれが破綻するメカニズムを理解すること。そして、その変化を先読みして、予兆を探す訓練、さらに他者を巻き込み、救命の連鎖をつなげることで患者の安定化を図る(心停止を予防する)ということです。

通常の医療現場における観察は、現状維持を確認することがメインで、ある意味、「変わらない」ということを前提に見ていることが多いのではないでしょうか。

しかし、この視点を「変わるかも、、、こういう症状が出てくるかもしれない」に変えると、あたりまえですが、「気づく」レベルが上がります。

なにかあったら報告してください、とはよくいいますが、その「なにか」がわからないから、見落としてしまうのです。

その点、PEARS®を勉強すると、生命維持が破綻しかけてくると、人体にどんな変化が現れるかがわかるようになります。

そうなると、それらの「症状が出ていない」ことを確認するのが日々の観察の視点となるのです。

変化なしというのは、予想される症状が出現していないということです。この考え方は看護師教育ではあまり教えられることがない部分かもしれません。そんな思考をPEARSのシミュレーションから身につけることができるようになるのです。

 

これが、おそらく日々の業務の仕方が変わった、という感想につながってくる部分なのではないかと思っています。

看護師の記録では、「著変なし」といった現状維持を示す記載をよく見かけますが、病態から懸念される悪化傾向がはっきり頭の中にあれば、「○○は見られない」といった具体的な記載に変わるかもしれませんし、記録として残すアセスメントも、もっと焦点化された内容になるかもしれません。

先読みができるということ。

大抵の場合は、懸念していたことが起きずに終わることが多いと思います。

しかし、そこで「こんなことがあるかも」と考え、その生理学的身体的変化をイメージして、予測的に関わっていくようになると、日々の仕事の取り組みがまるで違ったものになる可能性があります。

 

例えはうまくないかもしれませんが、オフィスビルの入り口に立っている警備員を想像してみてください。今日もなにもないんだろうなと思いながら立っているのと、「もしかしたらあの人はテロリストかもしれない」と常に考えて立っているのでは、仕事の密度は違いますし、仕事が終わった後の達成感も違うかもしれません。

今日も暇だったなと思って終わるのか、今日も何事もなく仕事を負えられたと思えるのか。

 

PEARS®は、医療現場にいる臨床家としての基本姿勢や考え方にも大きなインパクトを与える可能性を秘めています。

 

PEARS®プロバイダーコース


看護学生さんから見たPEARSプロバイダーコース

BLS横浜主催の PEARSプロバイダーコース with シミュレーション を受講してくださった看護学生さんから、感想を頂きました。

看護学生の実習前のトレーニングにも最適なPEARSプロバイダーコース

このときは、現役の看護師さん4名と、救急救命士さん1名、そして看護大学4年生の学生さん1人という6人編成。

そんななかで、学生さんが感じたこととは、、、

 

受講前は、他の受講者の方は臨床経験を積んだ上での受講で、学生の自分が参加するのは早すぎるのではないかと不安に思っておりました。

ですが、実際受講してみてPEARSで学ぶ体系的アプローチの方法は、小児だけでなく成人にも通ずる部分が多数あり、(第一印象による評価、ABCDEによる一次評価の方法など)これらの概念を実習へ行く前に知っておきたかったと感じました。

私は実習中、報告を行うことが苦手でした。

観察から得た情報を適切に他者に伝えていくことが重要であることは理解していましたが、いざ報告となるとあれもこれも…と情報を盛り込んでしまい、上手く報告することができていませんでした。

PEARSプロバイダーコースの中で、SBAR を用いた報告のシュミレーションを行いましたが、A-B-C-D-E評価を用いることで、どこに問題が生じているのかつかみやすく、おのずと報告の方向性を見出すことに繋がりました。

学生のうちに受講することは決して性急なことではないと感じています。

実習に行く前の基礎看護学や成人看護学などを学んだ段階など、もっと早い時期にPEARSを受講しておくと、基礎と実際の看護の結びつきがより理解でき、思考過程のみならず、実践に繋がる看護をより深めることに繋がったのではないかと感じました。

いずれにせよ、就職前にPEARSを学んだことは私にとって大きな収穫となりました。

 

本格的な病院実習の前に習得しておけば良かった、という感想でした。

BLSより難しい高度な内容、というイメージが強いかもしれませんが、PEARSは緊急事態の対応を学ぶというよりは、日々の観察の仕方を学び、そこで気づいたことをどう医療実践に活かしていくのかという、看護師としての業務を学ぶ講習と言えるかもしれません。

 

こんな学生さんの声もあり、医学科、看護学科、救急救命士学科などの医療系学生のみなさんが参加しやすいような学生限定PEARSプロバイダーコースを企画しています。

一般の医療従事者に混じって学ぶことでの学びもあると思いますが、緊張せずに等身大で学びたいという学生さんは、ぜひどうぞ。

 

【学生限定】 PEARS®プロバイダーコース
医療系学生(医学、看護、救急救命)向け特別版

2018年1月6日(土) 横浜


吸気性喘鳴→上気道閉塞が分かったらどうする?

PEARSプロバイダーコースは、生命危機に陥った原因が呼吸のトラブルか、循環の問題かを考え、それぞれ「タイプ」を判定することで、適切な安定化の介入を行い、目の前で命を落すのを防ぐ方法を学ぶプログラムです。

診断(判定)することが目的ではありません。ゴールはその先にあります。

PEARSで、生命危機の判定ができて、目の前にいる人が上気道閉塞だとわかったとしても、判定しか学んでいないと、「案の定、窒息で目の前で命を落としました」ということになってしまいます。何のために判定をするのか? 介入をするためです。

PEARSで学ぶ介入は一般論であっては、学んでいないに等しいと言っても過言ではありません。職種や、職場環境、訓練の程度によって、できることは変わってくるからです。

医師ならアドレナリンの筋注をするかもしれませんが、看護職はまずは医師に報告して指示を取り付けなければなりません。

救急救命士は救急車内にアドレナリンは積んいても、それを注射することは許されていません。また養護教諭も、本人がエピペンを持っていない限りは注射できません。

であれば、どうするか?

 

アナフィラキシーによる上気道閉塞への介入はアドレナリン筋注と知っていても、それぞれの立場に応じてどう行動するかはまったく違うということこそが重要です。

ですから、「アナフィラキシーによる上気道閉塞→アドレナリン筋注」という一般論を闇雲の教えるのではなく、ここに向けてあなたはどう行動しますか? という点を各自に考えてもらう必要があるのです。

この部分が如実に浮き彫りになるのが、シミュレーション・トレーニングの効用です。

座って他人事としてのディスカッションをするのではなく、(仮想訓練ながら)当事者として、自分の問題として考え行動することからの学び。

現場に自分を投入するからこそ気づき、学べる点が、机上の思考訓練とは違います。

それこそが重要です。

 

アナフィラキシーによる上気道閉塞という生命危機状態。そこで注射用のアドレナリンがない、もしくは使えない状況だったらどうするのか? それでも当事者となれば対応しなければならないのです。ここでなにもできないと立ち尽くすのか、少しでも効果がありそうなことをやってみる、は、大きな違いです。

 

まとめとしては、受講者の個々の実行動につながる学習でないと、それは趣味としての勉強に近いものであり、実務上の研修とはいえない、ということです。

「わかる」と「できる」は違います。この隔絶はあまりに高いハードル。

このハードルを低くするのがシミュレーションの目的です。

 

アナフィラキシーによる上気道閉塞。これままさに学校教職員向けのエピペン講習でも言えることですが、さらに1つ付け加えると、自分で助けようと思うのではなく、システムとして助ける方法という視点に立つことも重要です。学校システム、消防や病院という救急対応システムとの協働をどうするか?

自分の手で、決定打となる救命処置ができないとしても、救命の連鎖というシステム概念の中で、自分がどんな役割をはたすのかという視座に立てば、なにもできないということは絶対にありません。


マンガで学ぶ「急変対応コースPEARS」

先日、姉妹サイトのチャイルドライフェス横浜主催の「PEARSプロバイダーコース with シミュレーション」講習にメディアの取材が入ったのですが、その記事が完成しました。

 

 

看護roo!
急変時に使えるアセスメント技術「PEARS」

「PEARS」は急変時に使えるアセスメント技術! 成人看護にも役立つ考え方が満載です。 特徴は、ナースが感じる「何かおかしい」を根拠に結びつけられること。 第一印象から評価まで。思考フローをマンガでわかりやすくご紹介します!

https://www.kango-roo.com/sn/a/view/5113

 

ディスカッションで、「気づき」のポイントと認知スキルを高めるだけではなく、マネキンを前にチームでアセスメント&介入するシミュレーションを通して、現場で第一発見者になる可能性が高い看護師の行動力を高めるのがSim-PEARS。

なかなかハードルが高い印象をお持ちの方が多いかもしれませんが、看護職としては臨床に立つ以上は知っておくべき基礎的な能力と言っても過言ではありません。

そんなPEARSがマンガでわかりやすく説明されています。28枚に渡る大作です。ぜひご覧ください。


PEARSの体系的アプローチは、ガイドライン2015でこう変わります

まだ公式な日本語訳はされていませんが、G2015のPEARS/PALSの体系的アプローチはこんな形に変わります。

ぱっと見た感じは、以前のG2010版の方がすっきりしていてわかりやすい印象です。PEARSに関しては、日本語への移行はまだ1-2年は掛かるかと思いますので、当面はG2015暫定コースとして継続していきます。

第一印象の中身も、表現は変更されていますが、実は、これG2005版に戻っただけ。BLS横浜で受講された方にはなにも目新しいことはないかと思います。ご安心ください。

一言でいえば、第一印象での評価項目「呼吸」が消えて、「外観:appearance」に変わったのですが、これは一次評価の呼吸の評価と紛らわしかったからじゃないかと思っています。

BLS横浜のPEARSを受講してくださった方たちは、第一印象の呼吸評価と、一次評価の呼吸評価は意味合いが違うということはよく理解くださっていることと思います。

まだ患者に触れる前の第一印象の段階で、しかも相手が乳児のこともあるPEARSでは、パッと見の意識の評価は、単に開眼しているかどうかという話ではありません。

筋緊張や注視の具合など、意識というよりは、見た目によって判断していくものです。

 

そこでG2005時代には、乳児の外観(意識状態)のパっと見の判断のポイントとして、TICKLSという憶え方がありました。

 

結局、5年経って、このTICLSに舞い戻ったというわけです。

 

この点、G2005時代からPEARSと関わってきたBLS横浜としては、G2010でC-B-Cの評価に変わってからも、本質的にconsciousness:意識をappearance:見た目として捉え、教えてきましたので、今までも今後もなんら変わるところはありません。

 

 


PEARSは難しい? 看護師と看護学生での違い

PEARSプロバイダーコース を受講した看護師さんは、「難しい!」とおっしゃる方が多いです。この難しさはなんなのか? 恐らく病態生理の理解を含めた論理的思考に対する難しさなのだと思います。

病院業務の実務では、まず動くことが求められます。パターン認識と条件反射に近いと言っていいかもしれません。

考えることより、動けることが優先されます。

それゆえに、置いて行かれがちな、「なぜ?」を突き詰めるのがPEARSの体系的アプローチ。

これまでの臨床で培ってきたノウハウとは、違う切り口だからこそ、戸惑い、難しさを感じるのではないでしょうか?

 

PEARSプロバイダーコースは、看護の学生さんもよく受講にいらっしゃいますが、「現場でのやり方」に染まっておらず、かつ、判断のよすがとなる解剖生理や病態生理の知識がフレッシュな学生さんのほうが、しっくりとモノにしていくような印象もあります。

網羅的に学んでいく基礎医学。学校で教えられているときには、それがどう看護実践に活きてくるのかイメージがしづらいかもしれません。しかし、PEARSを学ぶことで、それらの基礎理解が現場で活用できるということをダイナミックに体感できるのではないかと思います。

そういった意味で、学生のうちにPEARSを知っておくと、将来的な伸び代が大きく変わってくる可能性を秘めています。

PEARSでの学びが難しいいかどうかは、現役の看護師さんと、看護学生さんでは、印象がまったく違ってもおかしくない、と思います。

 

臨床経験のあるナースでさえ難しいのだから、学生には早すぎる、ということは絶対にありません。

 

【医学・救急救命・看護学生限定】
PEARSRプロバイダーコース


PEARSフォローアップセミナー開催報告

台風が通り過ぎていった今日、横浜で「PEARSフォローアップセミナー」でした。

AHA-PEARSプロバイダーコースを修了した人たちを対象とした勉強会。

PEARSの体系的アプローチを臨床で活用するために、シミュレーションで経験値を上げる目的で開催しました。

PEARSを受講したトレーニングサイト/トレーニングセンターは不問の公募講習だったため、BLS横浜での修了生以外からもご参加いただけました。

当初は、医師への報告と指示受け、介入のシミュレーションをひたすら繰り返す展開にしようとも思っていましたが、「呼吸障害とショックの理解」へのニーズが高いことに気づき、前半でこの部分に時間をかけました。

 

PEARSは思考を養うプログラム ー 理解が重要

PEARSプロバイダーコースは、BLSやACLSとは違って、アルゴリズムで機械的に動くことを教える研修ではありません。

白黒つけがたい事象にどう立ち向かっていくという、「思考」を養うプログラムです。

そのためには病態の理解は欠かせません。

テキストにはいちおう説明は書されているのですが、非常に端的にコンパクトにまとまって書かれているため、サラッと読み過ごしてしまって、きちんと腑に落ちる形で理解できるかというとなかなか難しいものがあります。

講習中は非常にタイトな時間枠で進むため、理解は事前学習で求める部分であり、講習会場でフォローアップするのは困難です。

例えば、

・呼気喘鳴と呼気延長はなぜ起きる? なぜそれが下気道閉塞の兆候なの?
・なぜ上気道閉塞では吸気時喘鳴が起きるの?
・循環の評価で、脈拍の触れを中枢と抹消の2箇所で確認するのはなぜ?
・呻吟はなぜ起きる?
・ショックで橈骨動脈の触れが弱くなるのはなぜ?
・血液分布異常性ショックでは手が温かいことがあるのはなぜ?
・神経学的評価で、瞳孔径と対光反射、血糖を測定して、それをどう活用する?

などなど。

今回のフォローアップセミナーでは、こうした「なぜ?」をじっくり掘り下げて考えてみました。

例えば、小児の肺組織病変(肺炎など)を判定するポイントとして出てくる「呻吟(しんぎん)」。

テキストには、

呻吟は小児が声帯が半ば閉じた状態で息を吐いた結果生じる。呻吟することで気道内圧が上昇して末梢気道や肺胞を開いた状態に保つことができる。酸素化や換気を改善するための努力なのである。

PEARSプロバイダーマニュアル p.32

と書かれています。

これを見て、なるほど! と合点できる受講者は多くはありません。

このことを理解するためには、肺組織病変(肺炎)によって、肺胞周囲がどのような状態に陥ってしまっているのかイメージできていなければなりません。

肺実質(つまり肺胞周囲)が炎症を起こして水っぽくなって、肺胞から完全に空気が抜けて虚脱すると、ぺたっと張り付いてしまって、表面張力で張り付いて、次の吸気時に開きにくくなって呼吸がしにくくなる。

それがわかっていれば、テキストの言葉も理解できるかもしれません。

しかし、さらには、炎症を起こすとどうして水っぽくなるのか? という炎症の病理を理解していないと、これも難しいかもしれません。

そこまで基礎の基礎に立ち返って説明している時間はありません。かといって、テキストを読むだけの事前学習では到底フォローできないこの部分。

 

実はBLS横浜のPEARSプロバイダーコースでは、この部分もある程度解説はしているのですが、日頃の講習の中ではあまり時間を割けないという事情もあり、悩ましいところでもありました。

今回、このあたりを時間をかけてディスカッションすることができ、これはこれで、PEARSとは切り分けた「生命危機の病態生理」というテーマの対話型セミナーにしてもいいのかもしれないと感じました。

参加者の声として、きちんと病態生理に立ち返って学べる意義という点はいくつも聞かれたことから、今後、検討していきたいと思っています。

 

 

SBARの論理構造を理解すると違う

体系的アプローチのシミュレーションに関しては、日頃のPEARSでも「報告」にフォーカスを当てているのですが、報告ツールSBARについては、もともとはAHA教材の守備範囲でないため、それほど時間をかけた解説や練習はしていません。

そこを、今回は、第一印象による介入から導入してみました。

バックグラウンド(B)で何を伝えるのか、この言葉尻からだとわかりにくいのですが、SBARの論理構造を理解すれば、スッキリ明快です。(このあたりの話は ブログの過去記事 で詳しく書きました)

そうしてやってみると、感じるのは、SBARは報告ツールであると同時に、思考ツールであるという点です。

報告して医師に何をしてもらいたい、どんな指示をしてほしいという点が明確になりますので、手順に従って漫然とアセスメントをするのではなく、意図をもったアセスメントになるのです。

 

PEARSプロバイダーコースは、もともとがかなり盛りだくさんな内容。

こうしたフォローアップセミナー以外にも、PEARSの事前学習会のようなものも企画して、この価値ある学びを形にするためのサポートはもっと積極的に行っていく意義がある、そんなことを感じた勉強会でした。


看護師の急変対応研修のアウトカムは報告にありーSBAR

この表は、PEARSプロバイダーコースのシミュレーションでホワイトボードに書かれた内容を再現したものです。

PEARS は、心停止前の危険な徴候(生命危機状態)を見分けるアセスメント能力を高めるアメリカ心臓協会のトレーニングプログラムです。

まずは観察して、この表のような情報を整理して、命を落とす原因となる6つ生命危機の中からタイプを判定し、さらに重症度を判定しましょうというのが、PEARSのアセスメントです。

結論から言えば、これは循環障害のうち、「循環血液量減少性ショック」というタイプの生命危機状態で、重症度は「低血圧性ショック」というのが答えです。

やもするとPEARSでは、この判定にたどり着くことがゴールと思いがちな節がありますが、なにもお医者さんごっこや病名当てクイズでやっているわけではありません。

看護師として、このステップのあと、どんなアクションを起こすのか、こそが重要です。

 

評価 → 判定 → 介入

このアクションのことをPEARSでは、「介入」と呼んでいます。

ショックが起きていると判定できれば、それに対する介入は「20ml/kgの等張性晶質液のボーラス投与」が正解です。

 

じゃ、その正解にたどり着いたとして、看護師のあなたは、独断でVラインを取って生理食塩水の輸液を始めますか?

 

と、考えると、ナースがショックという病態を認識して必要や薬剤(等張性晶質液)と投与量が分かったとして、じゃ、どうするの? というところが問題になってきます。

もしかしたら、ここが米国のナースと日本のナースの違うところかもしれません。

日本の看護師は、原則的に医師の指示がない限り、輸液も含めた薬剤投与はできません。となると、PEARSで安定化のための治療法が見えたとしても、最終的な業務としてのアウトカムは輸液の実施ではなく、もっと別のことになるかもしれないのです。

 

それでは、日本で看護師がPEARSコースから学べることはなんなのか?

ヒントはPEARSプロバイダーマニュアルG2010日本語版の20ページにあります。

「臨床状態の判定に基づいて、適切な処置により介入する。処置内容はプロバイダーの業務範囲と施設のプロトコールによって決定される。PEARSプロバイダーの介入には以下のものが含まれる。

応援を呼び、救急医療チームや迅速対応チームの出動を要請する
・CPRを開始する
・(中略)

最善の行動は応援を呼ぶことである。応援が到着するまでの緊急の処置を行う」

PEARSでいう介入(intervene)の第一義は、応援要請・報告なのです。

医師が不在の場で緊急事態に遭遇したのであれば、医師に状況を報告し、医師が来るまでの間の緊急の処置を行うのが日本のナースにおけるPEARSのアウトカムです。

そして忘れてはいけないのが、日本の看護師は、医師の指示があれば、かなりの範囲の医療行為を行えるということです。

この中には、PEARSプロバイダーコースに出てくる酸素投与や生理食塩水の輸液は含まれますし、ネブライザーによる薬剤の噴霧投与や、状況によってはアドレナリンの筋注もあり得るかもしれません。

そう考えると、日本のPEARSプロバイダー看護師に求められるPEARS学習のゴールは、医師に的確に報告し、迅速な治療に繋げること。そして、緊急度が高い場合は、処置に関する指示を受ければ、それを実施することも含まれます。

 

 

そこで考えたいのが冒頭の症例です。

もしこのような患者にナースだけで対応している場面があって、医師に電話連絡がつく状況だったら、どう報告するでしょうか?

 

こんなことをPEARSのシミュレーションで体験してもらっています。

インストラクターが医師役を演じ、受講者さんに報告をしてもらうのです。そうすると多いのは、一次評価の内容を最初から読み上げていって、「で、先生、どうしましょう?」という報告の仕方です。

冒頭の表を見てもらうと分かる通り、この症例では、呼吸に関しては回数が多めという以外は目立っておかしなところはありません。このあたりの報告を聞いている限りは、「だからなんなの? さっさとしてよ」という医師の心持ちは想像できます。で、肝心なところは中盤以降から登場します。

つまり、報告の仕方の善し悪しによって、伝わり方や緊急度が違ってきてしまう懸念があります。

 

SBARという報告ツール

そこで役に立つのが、最近流行りのSBARという報告の様式です。これはAHA講習の中で言及されているものではありませんが、日本の看護業界ではそこそこ広まっている印象があります。このSBARを意識するだけで、報告がぜんぜん違ったものになってきます。

例えば、こんな感じです。

「ショックと思われる患者さんがいます。HR136で頻呼吸、抹消も中枢も脈の触れが弱く、CRT延びてます。手は冷たいです。血圧も84/68と下がっており、意識レベルも低下していて重症度は高いと考えられます。すぐ来ていただけますか?」

これはあくまでも例ですが、SBARという論理構造がわかるでしょうか?

 

    S:Situation「状況:なにが起きてるのかをざっくりと」
    B:Background「背景:アセスメントの根拠となる情報」
    A:Assessment「評価:アセスメント、考えたこと」
    R:Recommendation「提言:どうしてほしいか?」

 

逆から考えていきます。報告をする目的はなにかといったら、Recommendation 提言のためです。医師に何かをしてほしいとか提案をしたい、それが報告の目的です。

そこにフォーカスしている点をまず認識して下さい。

忙しい医師にとにかくすぐ来てほしい! そのためには理由を伝える必要がありますが、死んじゃいそうだからとにかく来てよ、という結論めいたことだけを言っても、なぜ??という疑問が発生し、先方も迅速な行動には繋がりにくいです。

なぜ緊急度が高いと思ったのか、またそもそもなぜショックを疑ったのか、根拠となるデータを客観的に手短に示します。それがバックグラウンドです。

さらには、結論を最初に、ということも大事。まずは要件の全体像を伝えたほうが話が速いということで、Situation「状況」から話し始めます。今回は例としては、ショックというキーワードを入れましたが、そこまで絞り込めていなければ、「急変です!」の一言でもいいと思います。

報告の目的は、「死にそうだから速く来てよ」なわけですから、その部分とは直結しない呼吸に関する情報などはあえて言及しないことで、問題をクローズアップできます。余計なことをダラダラ言わない! ということです。

看護職の方の報告の傾向を見ていると、状況を伝えるだけで、なんのための報告かという、目的意識が弱い印象があります。

「先生、○○なんですけど…」という語尾をはっきりさせない感じで、現状報告だけを行い、判断やその先のアクションは完全に丸投げしている傾向がないでしょうか?

医学的判断は医師が行うという医療界の構造を考えれば自然なことなのかもしれませんが、体系的アプローチやアルゴリズムによって医師以外でもある程度、先行きが見通せるような状況が広まりつつあります。

そして、まさにそこを学ぶのがPEARSですから、判定により問題点がある程度見えるし、その安定化のための手立ても先読みできれば、それをぜひ積極的に報告に取り入れることで、医師が来てから診断をつけて処置の準備を始めるのではなく、先読みした準備が奏功すれば処置までの時間を短縮して、救命の可能性を高めることができるかもしれません。

 

「先生! すぐ来てください」のもう一歩先へ

そう考えると、SBARの最後のRecommendation「提言」が極めて重要で、単に「すぐ来てください」にもう一言、「何分で来れますか? 到着までの指示をください」などが入るといいですね。

さらにいえば、この先の処置や展開が予想できていれば、「ラインとっておきましょうか?」とか「生食1リットルつなげておきます」とか「ネブライザを準備しておきます」など、具体的な提言もできるかもしれません。

指示を受ければ薬剤投与も含めてある程度の処置ができるのが看護師免許の強みです。

それを活かすも殺すも、ナースからの報告次第といっても過言ではありません。