BLS(心肺蘇生法)一覧

蘇生現場でポケットマスクを使った後の洗浄・消毒

人工呼吸用のポケットマスクは、一度使ったら再使用できるんですか?

そんな質問をよくいただきます。

ポケットマスクの洗浄・消毒と交換パーツ

ポケットマスクとは


家族相手ならいざしらず、職業的に救命処置にあたる人にとって、いくら救命のためとはいえ、口対口人工呼吸はありえません。(医療従事者が病院内でダイレクトなmouth to mouth人工呼吸をしてしまったら、それは感染事故です)

感染防護機能や、医療機器承認を受けているかという点では、現実的なところで人工呼吸をしようと思ったらポケットマスクが最低ラインと考えています。

そのため、BLS横浜では、保育士や学校教職員など職業人向け心肺蘇生法研修では、ポケットマスク を基本として練習して頂いています。

ポケットマスクは洗える部分と使い捨ての部分で構成されている

結論からいいますと、マスク部分は洗浄消毒可能、フィルターと一方向弁(マウスピース部分)は交換、というのがメーカーの推奨です。

フィルターは構造上、洗浄ができないので、再生使用はできません。無理やり洗うことはできるかもしれませんが、繊維状の部分の目が潰れてしまって通気が悪くなるので現実的ではありません。

そのため、マネキン相手に練習する場合は、フィルターは外しておくことを推奨しています。BLS横浜で講習中に貸し出しているポケットマスクにフィルターがついていないのはそのためです。

一方向弁(マウスピース部分)については、マネキンでの練習の場合は、洗浄・消毒して再生使用することはできますが、実際の傷病者に対して使った場合は、なるべく交換する方向で考えたほうがいいかと思います。現実的にはフィルターをつけていれば、吐瀉物等が一方向弁まで及ぶことはないと思いますが。

ポケットマスクの洗浄方法


さて、マスク部分と一方向弁の洗浄についてですが、洗い方は家庭用の食器洗いと同じです。

スポンジなどに食器洗い洗剤をつけて普通にこすり洗いします。

一方向弁の内側については、哺乳瓶などの筒物を洗うときのブラシを使います。100円ショップなどで太さ違いのものがセットで手に入ります。

消毒前には洗浄が必要

外部の救命講習の手伝いに行くと、ポケットマスク使用後に洗わずに消毒液入りのバケツにボチャンと漬けているのを見ることがありますが、これは間違いです。

消毒前には、タンパク成分を落とすための洗剤での洗浄が必要です。消毒薬はタンパク成分を固着させる働きがあるからです。これは医療界の常識です。

ポケットマスクの消毒方法


洗剤をすすいだ後、0.5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に10分間浸漬し、その後、水洗、自然乾燥 というのが正式な消毒方法になります。

次亜塩素酸ナトリウムというのは、家庭用の漂白剤と同じ成分です。キッチンハイターを薄めて作れます。

0.5%というのは恐らく米国のEPA勧告に従ったものと思われますが、実際のところかなり濃い目で、家庭で扱う上ではすこし危ない気もします。

そこで、ノロウィルス対策などでも一般的な0.1%の溶液に少し長めに漬けるというやり方でいいかと思います。

家庭用のキッチン用漂白剤の場合、濃度は6%程度ですので、500mlの水に対してペットボトルのキャップ2杯くらいです。

この濃度でも、服に跳ねると色落ちしますので、気をつけて。

ポケットマスクの交換パーツ


本来、ポケットマスクのフィルターと一方向弁は単回使用の使い捨てですから、製品として交換パーツも販売されています。

アップデートパック ということで、フィルターと一方向弁のセットのものが販売されていますが、価格は約2千円。

ポケットマスクは新品で買っても2700円程度ですから、実際に傷病者・患者に使って汚染されたのであれば、まるごと新品に変えてしまったほうが精神衛生上もいいのではないかと思います。

その他、フィルター だけを単体で買うと約700円。一方向弁(吹き込み口) だけだと約1600円。

いずれにしてもメーカー純正品は高いですね。

米国では練習用のサードパーティー品が多数あるので、ある程度数をまとめて購入するのであれば輸入のほうがおすすめです。


歯科クリニックでの外来環(AED、BVM、酸素、SpO2、血圧計)対応研修

今日は東京都内の歯科クリニックからの依頼で、患者急変対応研修を行ってきました。

歯科領域では、通称、外来環(歯科外来診療環境体制加算1)と呼ばれる保険点数加算があります。

いくつもの項目があるのですが、その中に、

 

緊急時の初期対応が可能な医療機器(AED、酸素ボンベおよび酸素マスク、血圧計、パルスオキシメーター)を設置していること。

 

という要件があり、歯科医院では、AEDを始めとした救急セットをまとめて導入するケースが増えています。

 

今回の研修も、外来環関連機材導入にあたり、歯科クリニック職員に救急対応機器の使い方を教えてほしいということで、院長先生から相談を頂いて開催に至ったものです。

バッグバルブマスクとAEDを使ったBLSであれば、通常の医療従事者向けBLSと変わらないのですが、今回は酸素ボンベと血圧計、パルスオキシメーターの使用法も含めてほしいというのがご依頼の内容。

そこで、歯科領域の急変対応では欠かせない局所麻酔によるアナフィラキシー対応を想定し、BLS+アナフィラキシー対応研修で3時間としました。

 

歯科診療中の気分不良に対して、最悪の事態であるアナフィラキシーによる気道閉塞とショックを予測した場合、なにをどう観察していくか?

 ・窒息(上気道閉塞)
 ・血圧低下(血液分布異常聖ショック)

ここで、パルスオキシメーターと血圧計の出番が出てきます。血圧計とパルスオキシメーターの使い方、またその数値判断と臨床所見からのアセスメントを説明していきました。

そしてそれらの生命危機から心停止に移行するとしたら、CPR開始の前にできることはないか?

酸素ボンベについては、残量計算は今回は省略しましたが、バルブの開ける順番や閉じる順番、マスクとカニューレ、またバッグマスクのリザーバーに対する流量設定などを、実物を使って練習していただきました。

 

 

急変対応研修というと、とかく観念的な焦点がぼやけたものになりがちなのですが、今回のように具体的に使う機器が決まっていて、その現物があり、メンバーとシチュエーションも限定されると、かなり具体的な中身に踏み込んだ講習展開ができます。

もちろん最後は、復習の歯科診療スタッフでのシミュレーション訓練で総まとめ。

119番通報の実際や救急隊への引き継ぎ、記録のとり方など、デブリーフィングの中から参加者相互気づいた点、職場としての課題が明確になり、クリニック内でいつものメンバーで行う急変対応研修ということで、実りの多い3時間となったようです。

急変対応研修というと、外部のBLSプロバイダーコースに職員を派遣するなどがありがちですが、あえて休診日のクリニック内での研修を企画された院長先生、聞いてみるともともと歯科麻酔科のご出身とのこと。

講習会場でできるようになっても、実際の現場ではわかりません。

トレーニングはあくまでもトレーニングに過ぎませんが、それでもやはりいつもの現場内でのシミュレーションの効果には期待したいところです。


小児の人工呼吸比率、15:2 を深掘りする

今から書く話は、主に医療従事者向けのBLSプロトコルです。市民向け救命法とは別の話なので、ご注意下さい。

さて、ヘルスケアプロバイダー(医療従事者や救命のプロ)向けの心肺蘇生法の中では、小児に関しては、30:2 ではなく、15:2 という胸骨圧迫と人工呼吸の比率がでてきます。

これはAHAガイドラインでは、思春期未満の子どもに対する二人法CPRの場合の圧迫対換気比です。

今日は、この 15:2 に着目して、掘り下げていってみようと思います。

小児の心停止の原因と、代謝による酸素消費量

まず、そもそも 30:2 に較べて、15:2 という胸骨圧迫と人工呼吸比率のメリットはなんでしょうか?

肺に送り込まれる空気の量が多い。

ということですよね。

そして、この比率が適応されるのは小児・乳児の場合だけです。

なぜ、子どもの場合は、人工呼吸の送気が多いのか?

理由は、皆さん、わかりますよね?

BLSコースのDVDでも言っているように、子どもの心停止の原因として呼吸のトラブルが多いからです。

BLSプロバイダーマニュアルG2015では、52ページに、「乳児や小児が心停止を起こした場合は、呼吸不全またはショックが認められ、心停止に至る前から血中の酸素濃度が低下していることが多い」と書かれているとおりです。

その他の理由としては、PALSプロバイダーマニュアルにヒントがあります。

その114ページには次のように書かれています。

 

「小児は代謝率が高いため、体重1kgあたりの酸素需要量が多い。乳児の酸素消費量は6~8ml/kg/分であり、成人の3~4ml/kg/分よりも多い。」

 

子どもは大人に較べて、酸素の消費量が多いから、人工呼吸の比率が成人より高い、ということです。

このような理由から、子どもは酸素の供給量を上げてあげようということで、15:2 という比率が採用されています。

15:2 のメリット、デメリット

ここまでは納得いただけるかと思いますが、よく考えると、さらなる疑問が湧いてきます。

子どもの場合であっても、救助者が一人のときは大人と同じ 30:2 とされている。酸素の消費量が多いのが理由であれば、救助者人数で違ってくるのはおかしいのでは?

この点は、皆さんはどう考えるでしょうか?

 

ここは単純な小児の生理学だけの問題ではなさそうですね。

そこで、30:2 と 15:2 で何が違うのかを改めて考えてみると、、、

15:2 の方が胸骨圧迫の中断時間が長い、という見方もできませんか?

そうなんです。15:2 のデメリットは、胸骨圧迫の中断時間が多いため、累積で考えると、圧迫によって生まれる血流量が少ないとも言えます。

換気回数は多いため、肺胞に到達する空気(酸素)の量は多いですが、その後の組織への酸素運搬を司る血流量が少なければ、結局、心筋細胞や脳細胞へ到達する酸素量で考えたらマイナスになってしまう。これが 15:2 のデメリットです。

ましてや、一人法ですから、胸骨圧迫を終えたら、感染防護具を手にして、頭部後屈顎先挙上をし直してからの送気です。これには 10 秒弱がかかってしまいます。

一人法では胸骨圧迫の中断が長くなる

しかし、二人法の場合を考えてみて下さい。

胸骨圧迫の間、バッグマスクを顔に密着させて気道確保して構えているわけですから、15回の圧迫が終わったらすかさず送気。そうすれば中断時間 3-4 秒程度ですぐに血流を再開することができます。

つまり、一人法で 15:2 で実施した場合は、血液の酸素化までは良くても、その後の血流が低下するために組織への酸素化を考えたら効率が悪い。救助者二人で、圧迫と換気を分担した場合に限り、血液の酸素化と組織への酸素化が有効に行える、というわけです。

この点は、BLSプロバイダーコースのDVDにも、テキストにも書かれてはいませんが、組織の酸素化の理屈を考えてみると、導き出されるひとつの理解です。

漫然と 15:2 と覚えるのではなく、理由を考えてみると、記憶に残りやすいのではないでしょうか?


気道異物の窒息解除法-意識を失った後の方が取れやすい?

今日はBLSの範囲内から、喉にモノが詰まったときの解除法についての話題です。

まずはおさらいです。

誰かが喉にモノを詰まらせて、苦しがっているのを見つけたら、どうするんでしたっけ?

反応がある窒息者に対する気道異物除去法

  • ハイムリック法(腹部突き上げ法)
  • 背部叩打法
  • 胸部突き上げ法

 

米国ではシンプル化のためにハイムリック法しか教えていませんが、蘇生ガイドラインを見ると、ハイムリック法に加えて背部叩打法と胸部突き上げ法も列記されていて、どれもエビデンス的には優劣はないということになっています。

そして、どれかひとつではなく、複数の方法を試す必要があるかも知れないという記載もありました。

乳児の場合は、肝臓損傷のリスクから、腹部突き上げ法は推奨されず、一般的には背部叩打法5回と、胸部突き上げ法5回を交互に実施するように教えられているかと思います。

さて、ここまでは、皆さん、よくご存知のところなのですが、この先、異物が取れず、意識を失って反応がなくなった場合の対応については、曖昧なところではないでしょうか?

反応がなくなった場合の窒息解除法

ハイムリック法や背部叩打法をしているうちに、ぐったりと意識を失ってしまったら、そのまま継続は困難ですから、まずは床に寝かせます。

周りに人がいれば119番をお願いしますが、もし誰もいなければ、通報より優先して次の解除ステップに移ります。

それはなにかというと、傷病者を寝かせた状態で行なう胸部突き上げ法です。

窒息解除の胸骨圧迫は心臓マッサージとは違う

こういう言い方をすると、怪訝に感じるかも知れませんが、傷病者を寝かせて行なう胸部突き上げ法とは、すなわち胸骨圧迫のことです。

テキスト的には、「胸骨圧迫からCPRを始める」と書かれていますが、窒息で意識を失った直後は、まだ心臓は動いていますから、胸骨圧迫は血流を生み出すのが目的ではありません。

胸腔内圧を上げて、喉に詰まった異物を外に押し出そうとしているのです。

通常のCPRとの手順の違い

胸を押す目的は、窒息解除です。ですから30回押した後は、人工呼吸の前に口の中を覗いて、異物が目に見えるところまで上がってきていないかを確認しろという手順が追加されています。これが通常のCPRとは違う部分です。

異物が見えるところまで上がってきていなくても、30回も胸を押せば、それなりの空気圧がかかっていますから、異物が動いて気管内に隙間ができている可能性もあります。

ですから、その可能性にかけて、とりあえず人工呼吸の吹き込みをトライします。

少しでも隙間ができていて空気が入ればラッキーです。弱りかけて徐脈になっていた心臓に多少なりとも酸素を送り込めれば、心停止までの時間稼ぎができます。

空気が入らなければ入らないで、異物の位置がずれて隙間ができることを期待しつつ、また30回の胸部突き上げ(胸骨圧迫)を行っていきます。

通報と解除の試み、どちらが優先か?

2分の間、CPRと口腔内確認を続けてみても、奏功しない場合は、いちど手順をやめて119番通報を行い、あとは指令員の指示に従って救急隊到着まで、窒息解除の試みを続けることになると思います。

ここはAHAの小児BLSで教えている呼吸原性を疑った「目撃のない心停止」と同じで、通報よりも一刻も早い介入が優先されるところです。

119番をしたことがある人ならわかると思いますが、まずは住所を聞かれて、それから、何があったのかという状況を聞かれます。場合のよっては5分以上電話口に拘束されます。少なく見積もっても数分間。その間、息ができない状態が続いたらどうでしょうか? すでに意識を失うレベルまで酸素が減っている中で、さらに数分間放置したら、脳細胞のダメージがより深刻になります。

そこで、AHAガイドラインでは、呼吸原性が強く疑われる心停止や窒息の場合は、通報よりも窒息解除手順着手の方を優先しています。

この点で、日本のJRCガイドラインでは、いかなる場合でも通報が先と規定している点は、指導者レベルの人は知っておいて下さい。

反応がなくなってから、異物が除去できる可能性

さて、窒息解除法は、反応がある場合とない場合で2つのステップがあるのですが、もし目の前で窒息が発生した場合、どちらのステップの方が解除できる可能性が高いのでしょうか?

イメージ的には、意識を失う段階までいってしまったら、窒息解除も厳しいんじゃないかと感じるかも知れませんが、G2015版のBLSプロバイダーマニュアルには、興味深い記述が追加されています。

 

窒息状態にある傷病者が意識を失ったとき、咽頭の筋肉は恐らく弛緩状態である。これにより完全な/重度の気道閉塞が部分閉塞に変わる可能性がある。

BLSプロバイダーマニュアルG2015版、p.74

 

イメージできるでしょうか? 喉にモノが詰まって苦しがっているうちは全身がこわばっています。これにより喉のあたりもギュッと収縮する力がかかっているので、取れにくい状態です。

しかし、意識を失ってしまえば、ダランと脱力して筋肉が緩むため、異物が取れやすい状態になるのでは? ということなんです。

そのため、次のような文章が続いていきます。

 

さらに、胸骨圧迫により、少なくとも腹部突き上げと同程度の力が生み出され、異物の排出に役立つ可能性がある。

 

もしかしたら、意識を失った後のほうが、異物が取れやすいのかもしれない。

そう考えると、反応がなくなった後のCPRという窒息解除法もきちんと理解しておきたいですよね。

ということで、表題のようなタイトルにしてみました。

 

さらにワンポイントアドバイスをすると、窒息解除としてCPRを行なう場合は、胸骨圧迫から開始して下さい。

くれぐれも脈拍触知は行わないこと。

CPR開始というのを、心停止の認識から始めてしまうと、まだ脈がある可能性が大なので、肝心の胸骨圧迫ではなく、補助呼吸の手順に入ってしまう恐れがあるからです。

そのため、BLSプロバイダーマニュアルでも73ページの手順の中で、「胸骨圧迫からCPRをを開始する。脈拍は触知しない」とはっきり書いてあります。

 

以上、BLSプロバイダーコース の中で受講者のみなさんと確認している窒息解除のメカニズムの話でした。

プロフェッショナル向けのBLS講習では、「なぜ?」という理解が重要ですね。


医療者にありがちなAED使用法の勘違い(充電中の圧迫)

 
(AEDの指示に反して)
心電図の充電中に胸骨圧迫を行うことは危険です。
 

なに言っているの? あたりまえじゃない? と思われる方は、ここでページを閉じてください。この先を読む必要はありません。

おそらく市民救助者の方の大半は、上記の点を正しく理解しているはずです。

 

しかし、なぜか医療従事者の中には、AEDの充電中に少しでも胸骨圧迫を行うことが正しい、と勘違いしている人が少なからずいるのです。

そこで、このような記事を書かせてもらいました。

この勘違いの原因は、AHA の BLSプロバイダーコース で使われているDVD にあります。

AED使用に関するデモ映像の中で、心リズム解析のためにいったん患者から離れたのに、充電の最中に胸骨圧迫を再開している場面が描かれているのです。

さらにはDVDのナレーターの解説として、下記のような言葉が入っています。

 

「この圧迫担当者は、AEDの充電時間すら無駄にせず、数回、圧迫を行っています。これはとても重要なことです。」

 

これが受講者を混乱させ、誤解を生じさせている原因です。

さらに悪いことにインストラクターの中にも、これを真に受けて、「DVDのようにAED充電の間、少しでも圧迫するように」と指導し、実際に練習時にもそうさせている指導員がいる(らしい)ということも問題を増長しているようです。

しかし、結論から言います。

 

AEDからの指示がないのに、勝手に充電中に胸骨圧迫をしちゃダメです。

 

じゃ、AHAのDVDが間違っているのか? というと、そういうわけでもありません。

先ほどのナレーターの言葉には、前置きがあります。画面に表示されるクローズド・キャプションが途中で切れているので分かりづらいですが、つなげるとこのような一文になります。

 

また、AEDの指示に従うことも大切です。この圧迫担当者は、AEDの充電時間すら無駄にせず、数回、圧迫を行っています。これはとても重要なことです。」

 

つまり、この場面は、とある固有のAEDが充電中に圧迫するように指示を出したので、それに従って行動した、という場面なのです。

一般論の話ではありません。米国には、充電中に圧迫を指示するようなAEDが、数ある中の一つとして存在するということです。

参考まで、英語の原文では、このように言っています。

 

“And it’s also important to follow your device’s prompts. You may have noticed there that the compressor took advantage of the time the device was charging to deliver a few crucial compressions.”

 

言うまでもなく、AED操作の基本は、音声メッセージに従って行動することです。これはBLSプロバイダーコースであっても同じです。

BLSプロバイダーマニュアルG2015 の 35ページにはっきり書かれています。

 

「聞こえてくるAEDの指示に必ず従うこと」

そして、2018年現在、日本国内で承認されているAEDの中で、充電中に圧迫を再開するように指示を出す装置は存在しません。

ですから、今の日本ではAEDの充電中に少しでも胸骨圧迫を行なうように、という指導は適切ではない、ということになります。

この先、日本でもそのような機種が承認される可能性はありますが、現時点は少なくともありませんし、米国においてもすべての機種がそうだというわけではなく、あくまでも個別のAEDの指示としてそう言われたのであれば、それに従えというだけの話です。

このあたりはDVDの訳語が不親切なので、インストラクターが正しく整理して伝え直す必要がある部分と言えるでしょう。

難しくはありません。「とにかく音声メッセージに従って下さい」と、テキストに書いてあるとおりに伝えればいいだけです。

 

それでは、実際のところ、日本国内において、AEDの充電中に(指示もないのに勝手に)胸骨圧迫を行ったとしたらどうなるかというと、胸骨圧迫の刺激を「体動あり」と検出して充電がキャンセルされる可能性があります。AEDの多くは、充電中も心電図解析を続ける仕様になっているのです。

つまり、ショックが必要な心電図波形なのに、ショックができないという事態になりえるのです。

ご存知のように除細動は1分遅れると、助かる可能性が10%近く低下すると言われています。

AEDの指示を無視して勝手なことをして、それが救命の可能性を下げたということになったら、、、、

 
 

あくまでもアメリカ心臓協会のプログラムは、米国のものですから、社会環境や通念の違いをきちんと埋めてフォローアップするのが日本人インストラクターの役割です。

二次救命処置(ACLS)における手動式除細動器の充電中の圧迫とは、条件が違いますので、この点を混同しないように、きちんと日本の法的側面や機器としてのAEDの使用説明書(添付文書)にも習熟しておくことが必要でしょう。


「パニックで人工呼吸できず」・・・業務上過失致死容疑送検|指導側の対策は?

読売新聞 2017年10月6日 付でこんなニュースがありました。

無痛分娩死で院長「パニックで人工呼吸できず」 読売新聞


無痛分娩死で院長「パニックで人工呼吸できず」

大阪府和泉市の産婦人科医院「老木(おいき)レディスクリニック」で1月、麻酔で出産の痛みを和らげる無痛分娩(ぶんべん)をした女性が死亡した事故で、担当した男性院長(59)が府警の調べに、「人工呼吸をしようとしたが、パニックになりできなかった」と供述していることが、捜査関係者への取材でわかった。

府警は、救命に必要な処置を怠ったとして、6日に院長を業務上過失致死容疑で書類送検する。

無痛分娩を巡り、医師が書類送検されるのは異例。院長は容疑を認めている。

捜査関係者によると、女性は同府枚方市の長村千恵さん(当時31歳)。院長は1月10日、長村さんに局所麻酔を実施。長村さんが呼吸困難を訴えたのに、経過観察を怠って容体急変の兆候を見逃したうえ、急変後も人工呼吸を行わず、同20日、搬送先の病院で、低酸素脳症で死亡させた疑いが持たれている。

(2017年10月6日(金) 7:05配信 読売新聞

先日、耳鼻科クリニックで小児の心停止で、(胸骨圧迫のみで)人工呼吸をしなかったことが「過失あり」と認定された ケースを紹介 しましたが、医療機関内における救急対応でも、その中身や質が問われる時代になってきています。

いざという時は慌ててしまって、準備していたものが100%発揮できないというのは、人間としてありえることですが、それを押してでも対策を考えておかないといけないのかもしれません。

AHA蘇生ガイドライン2010で書かれていた点ですが、いざという時に対応できなかった理由の第一位は「パニックになった」(37.5%)でした。

そのため、次のように勧告しています。

 
「CPR訓練によってパニックの可能性に対処し、パニックの克服方法を考えるよう受講者に促すことは効果的である」 (クラスIIb LOE C)
 

救護義務と訴訟を考えたときに、まず問題とされるのは「体制」です。

つまり、きちんと訓練・準備されていたかどうか、です。

学校などでも、しばしば対応マニュアルがあったかどうかが問題とされるのはこの部分になります。

そして訓練をしていたかどうか?

先の耳鼻科クリニックの例に関して言えば、判決の中で医師はBLS訓練をしていなかったことも俎上に上がっていました。

そして仮に訓練がなされていたとしても、その中身が問われる時代になりつつあります。

この産科クリニックの例のようにパニックになってできないというのは、ある意味想定内のことです。

だったら、訓練の中でパニックに対応するようなトレーニングをしていたか、が問題となってもおかしくありません。

ここから、CPR訓練提供者であるインストラクター側の問題として考えていきますが、私たちは蘇生ガイドラインが勧告しているような「パニックの克服方法を考えるよう受講者に促す」ようなトレーニングを提供しているでしょうか?

ありきたりの技術練習に終わるのではなく、受講者が慌ててパニックに陥るようなシチューションを提示し、対応してもらう機会を作ることが重要だと言えます。

この点、AHA-BLSプロバイダーコースでは、2015年のコース改定で「パニックの克服方法を考えるよう受講者に促す」ための訓練とも言うべきものが導入されました。

それが、「ハイパフォーマンス・チームアクティビティ」と呼ばれる10分間のチーム蘇生を行う場面です。

受講者4~6名程度で、どう行動するかが試されるこの場面、シナリオ提示の仕方によっては、効果的なパニックガード訓練にすることができます。

これに限らず、リアルな状況を設定して、そこに予想外の展開を仕込むことによって、パニックを疑似体験させて、その後の振り返り(リフレクション/デブリーフィング)によって「パニックの克服方法を考えるよう受講者に促す」ことができます。

これは、時間が許す限り、どんなCPR講習の中でも、取り入れたい内容ですね。


Kiss of life

口対口人工呼吸のことをイギリス英語で、Kiss of life ということがあります。
give the kiss of life to ○○ といった感じで使うようです。

いまや救命法といったら、人工呼吸を省略する胸骨圧迫のみの蘇生法が主流なイメージですが、これはアメリカ文化に強い影響を受けています。

食生活が影響しているのか、米国では虚血性心疾患や心臓突然死が大きな問題となり、心臓病とともに蘇生法が発展してきた経緯があります。だから、心原性心停止(心室細動)が主要なテーマとなっています。

しかし、ヨーロッパは別で、蘇生練習用マネキンで有名なレールダル社のレサシアン誕生の逸話もあるように、蘇生法は水難事故との関連で発展してきました。つまり、呼吸原性心停止が基本にあります。


ヨーロッパ蘇生協議会のガイドライン2015ダウンロードページ

横にしたビア樽で体をくくりつけて伸ばすとか、馬の乗せて走らせるといったような胸郭運動を補助するような蘇生法が模索されていたCPRの歴史を聞いたことがある人もいるかもしれません。

2008年にアメリカ心臓協会が、国際コンセンサスとは別にHands only CPRを発表したときに、懸念の意を真っ先に示したのもヨーロッパ蘇生協議会でした。

そんなヨーロッパでは、最新のガイドライン2015でも人工呼吸の重要性が色濃く表現されています。
例えば、ヨーロッパでは、子どもへのCPR手順は、

 

気道確保

呼吸確認(正常な呼吸がない)

人工呼吸5回

胸骨圧迫15回

人工呼吸2回+胸骨圧迫15回

緊急通報

 

となっており、胸骨圧迫や通報より、人工呼吸が優先されるアルゴリズムになっています。米国事情を当たり前と思っていると、意外に感じる人もいるのではないでしょうか?

 

ヨーロッパ蘇生協議会ガイドライン2015の小児BLSアルゴリズム

 

Kiss of Lifeで発展してきたヨーロッパの救命法。

文化によって考え方がずいぶん違うものですね。

胸骨圧迫とAEDが全盛の今の時代、蘇生法の仕組みや歴史的背景を勉強してみるとおもしろいですよ。


人工呼吸をしなかったことが過失と認定された裁判例

少々古い話になりますが、2016年に出た心肺蘇生に関する判決についてクリップしておきます。

女児救命措置に過失 診療所に6100万円賠償命令
女児救命措置に過失 診療所に6100万円賠償命令
仙台市泉区の診療所を受診後に死亡した宮城県内の小学5年の女児=当時(11)=の遺族が、診療所を運営する同区の医療法人に約6800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、仙台地裁は診療所の過失を認め、約6100万円の支払いを命じた。判決は26日付。
大嶋洋志裁判長は「診療所は、救急蘇生のガイドラインで義務付けられた人工呼吸をしなかった。適切に蘇生措置をしていれば助かった可能性が高い」と述べた。
判決によると、女児は2011年8月、診療所で中耳炎の治療中に意識を失った。看護師は心臓マッサージはしたが、人工呼吸はしなかった。救急隊が人工呼吸を始めたが、女児は重い低酸素脳症を経て約3週間後に死亡した。医療法人の担当者は「弁護士に任せており、答えられない」と話した。河北新報
2016年12月28日水曜日
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201612/20161228_13014.html

診療所での救命処置の中で人工呼吸を行わなかったことが、過失と判断されたという事案です。

この報道から考えたことを書き留めておきます。

皆さんは、この報道を目にして、どのように感じたでしょうか?

・人工呼吸はしなくてもいいと教わったけど?
・そこまで求めるのは酷だ
・こんな判決が出たら誰も手出しをしなくなってしまう

この報道が流れたのは2016年の年末。残念ながら、リアルタイムで目にしたわけではないのですが、当時、このような論調が多かったのではないかと想像します。

本件を考える上で、勘違いしてはいけない重要なポイントは次の2点です。

・傷病者は子ども
・診療中の出来事であり、医療従事者の対応であった

まずは、これが「子ども」の蘇生であったという点。これが世間の認識とは少し異なる判決となった要因です。昨今、「人工呼吸はしなくてもよい」という論調が多勢となっていますが、これは成人傷病者を前提とした市民啓蒙のための簡略化であり、医学的に人工呼吸が不要となったわけではありません。

そして次に、本件は医療機関内で免許を持った医療従事者に対する「業務上の過失認定」であるという点を正しく理解する必要があります。プロが行う仕事としての救命処置である、ということです。ですから、この判決が出たからと言って、通りすがりの立場で救護にあたる市民救助者が萎縮するような話ではありません。

この2点を、もう少し詳しく解説していきます。

1.子どもの蘇生法は大人とは違う

蘇生科学の世界では、一般的に子どもと大人では心停止になる要因が違うため、対応の優先順位が異なるとしています。

大人の心停止は心原性心停止が多く、心室細動に代表される心臓のトラブルによって、心臓が停まり、それとほぼ同時に意識消失ならびに呼吸が停まると考えられます。この場合、心肺が突然にほぼ同時に停まるため、倒れる直前までは普通に呼吸をしています。

そのため、血液中には酸素が十分に残っていますので、胸を押して血流を作り出すだけで、脳細胞や心筋細胞に酸素供給を続けることができます。

だからこそ、胸を押すことが優先され、倒れた直後であれば人工呼吸は必ずしも行わなくても良いと言われているわけです。

しかし、子どもの場合は、一般論として呼吸原性心停止が多く、呼吸のトラブルから、まず呼吸が停まり、その後、遅れて心臓が停まる、というケースが想定されます。

つまり、心臓が停まる原因は、呼吸停止により、血液中の酸素を使い切ったことによる酸素不足です。そんな状態で胸骨圧迫のみの蘇生をしたらどうでしょうか?

胸骨圧迫により、血液は巡りますが、血液中の酸素は使い切った状態ですので、心筋細胞と脳細胞に酸素を供給するというCPRの目的を達することはできません。

この場合、人工呼吸によって、大気中の21%の酸素(呼気にも17%の酸素が含まれます)を血液に溶け込ませるというステップが欠かせないというのは理解いただけると思います。

そのため、蘇生のガイドラインでは、子どもの蘇生に関しては、人工呼吸は重要で欠かせないものと位置づけています。感染防護等の準備ができ次第、ただちに人工呼吸を行うことを求めているのです。

さらには、可能であれば胸骨圧迫より、人工呼吸を先に開始することさえ提唱されています。

参考過去記事 → 「溺水の救命のポイントは人工呼吸

2.業務対応としての救命処置と、善意の救急蘇生は違う

子どもの蘇生では、人工呼吸が欠かせないという医学的な理由はご理解いただけたと思います。

人工呼吸は必須というと、体液・血液感染のリスクを負ってまでやらなくてはいけないのか、と疑問に思うかもしれませんが、このあたりは業務としての救命処置なのか、責任がない立場での偶発的な対応なのかが分かれ道です。

通りすがりでたまたま遭遇した子どもの急変に第三者的に関わるのであれば、胸骨圧迫だけでも119番通報するだけでも、自分の安全(感染の問題も含めて)を優先して、できる範囲のことを無理せず行えば十分です。

しかし、今回の事案は、診療所での診療中に起きています。

ですから、感染防護具が準備できずに人工呼吸ができなかった、という言い訳は成り立ちません。

そして、当事者は小児も扱う耳鼻科クリニックの医師と看護師であり、子どもの蘇生には人工呼吸が必要であるという判断ができる立場の人たちです。

ここが、人工呼吸をしなかったことが過失と判断されたポイントと思われます。

医療業務として、やるべきことをしなかった。

もしくは、救急対応ができてしかるべき診療所であるにも関わらず、人工呼吸のデバイスを準備していなかった、もしくは人工呼吸のトレーニングをしていなかったことが、システムの不備、注意義務違反と解釈されます。(参考まで、原告の訴えとしては静脈路確保とアドレナリン投与【二次救命処置】をするべきであったと主張してますが、それは却下されています。)

蘇生ガイドラインは5年ごとに改定されていますが、事案が発生した2011年当時の心肺蘇生法ガイドラインでも、そのひとつ前の2005年ガイドラインでも、子どもの心肺蘇生法では人工呼吸が必要であるという点はずっと変わらず言われている点です。

3.考察

昨今の心肺蘇生法に関する世の中の認識を見ていて感じるのは、市民向け、かつ心原性心停止前提の蘇生法の知識(胸骨圧迫+AEDこそがすべて、みたいな)が広がりすぎて、医療従事者をはじめたとした責任のある立場の人たちが心肺蘇生法について誤解しているのではないかという気がしてなりません。

今回の仙台の事案でも、被告側は、人工呼吸をしなかった正当性の理由のひとつとして「救急医療の専門家が行うものではない段階におけるCPRにあっては,胸骨圧迫のみによる蘇生が推奨された時期もある」という理由を挙げています。

いわゆるHand Only CPRが世界に公表されたのは2008年で、当時は、人工呼吸の省略が許されるのは、「病院外で成人が目の前で卒倒した場合」に限定されており、さらに、子どもや溺水、薬物過量などが疑われるケース(つまり呼吸原性心停止疑い)には適応されず、人工呼吸も行うべきである点が強く強調されていました。

つまり、当時から医療従事者が業務中に行う蘇生に対してはHands only CPRは適応外であり、CPRといったら、人工呼吸+胸骨圧迫である点は、2017年の今に至るまで変わっていません。

医療従事者であっても、人工呼吸準備に時間をかけるなら、まずは胸骨圧迫を始めるというのは正しい判断ですが、その後、スタッフが集まってきて準備ができ次第、人工呼吸を開始するのは、大人であっても子どもあっても同じです。決して人工呼吸をしなくていいと言っているわけではないのです。

心肺蘇生法は、社会啓蒙としての蘇生と、業務としての蘇生では別の流れがあるのですが、この点を医療従事者が把握していないのは残念なことです。市民向けの情報番組を鵜呑みにするのではなく、きちんと医学的に学んでほしいところです。

口対口人工呼吸をしろと言っているわけではありません。

医療機関では然るべき人工呼吸のバリアデバイスを準備して、その使用方法は訓練しておく、というシステムの問題と捉える必要があります。

人工呼吸を試みたがうまくできなかったということが問われているのではなく、準備対策をしていなかったことが問題になっている点には注目すべきです。

この判例について、「厳しい」と感じる医療者の方もいるかもしれません。免許取得過程で小児の救命法を教わっていないというのも事実かもしれません。

しかし、市民の目からみたら、病院勤務の医療従事者であれば、然るべき対応ができると期待しているのは紛れもない事実です。

それに対して、自分の時代は教わっていないからできなくても仕方ない、と遺族に対して面と向かって言えるでしょうか?

しかるべき対応とはなにかの判断基準が、判決でも取り上げられているように日本蘇生協議会のJRC蘇生ガイドラインです。今回は、そこに書かれているエビデンスレベルや推奨度も検討され、クリニックにおけるアドレナリン投与までは求めないものの、人工呼吸は行うべきであったと司法は判断しました。

このニュースを聞いて、少しでも心を揺さぶられるのを感じたのであれば、市民啓蒙のための簡略化された救命法ではなく、医療従事者向けの、そして小児BLSを学ぶことをおすすめします。

日本蘇生協議会のJRC蘇生ガイドラインはPDFで全文公開されています。

ぜひ、第1章 一次救命処置(BLS)と 第3章 小児の蘇生(PLS)だけでも目を通して見てください。

 

http://www.japanresuscitationcouncil.org/jrc蘇生ガイドライン2015/

 

そして、ご自身が勤務する施設に置いてある人工呼吸のためのデバイスを確認してください。

どこになにが置いてありますか?

そして、それを使うことはできますか?

もし、備品としてないのであれば、AEDと合わせて換気器具を配備することと、その訓練を提案してはどうでしょうか? AEDのように高価なものではありません。ポケットマスクなら3,000円程度、バッグバルブマスクでも、ディスポーザブルのものが1万円以下で買えます。

裁判官の判決にあった「適切に蘇生措置をしていれば助かった可能性が高い」という判断や、蘇生ガイドラインが義務であるという表現に引っかかりを感じる部分もあります。しかし、事例から私たちは未来をより良くする改善に目を向けたいと思います。


AEDが「ショックは不要です」というとき

心停止は大きく分けて2種類あります。
 
AEDの電気ショックが必要な心停止と、電気ショックが不要(有効でない)な心停止です。
 
これを判断してくれるのがAEDですから、心停止と認識したら、可能であればすべての症例でAEDは装着するべきです。
 
つまり、市民向けプロトコルでは、「反応なし+10秒以内に正常な呼吸であると確信できない場合」ですし、医療者向けで言ったら、「反応なし+呼吸なしor死戦期呼吸+脈なし」であれば、CPRを開始しつつ、AEDがあれば直ちに装着します。
 
 
AEDの電気ショックのことを専門用語では「除細動」といいます。文字通り、心臓の細かい動き(震え)を取り除くのがAEDです。
 
心臓が細かく震えている心室細動や(無脈性)心室頻拍を検出した場合に限り、「ショックが必要です。充電します」と言って、電気ショックが実行されるようになっています。
 
もう一方のタイプの心停止、つまり心停止の中でも心静止(心電図がピーッと一直線の場合)や、なんらかの原因で血圧が低すぎて有効な血流がない状態などの無脈性電気活動(PEA)と呼ばれるタイプの場合は、心停止の原因が心臓の震えではありませんから、当然、AEDは「ショック不要」と判断します。しかしこれも心停止なのです。
 
ショック不要=心停止じゃない(生きている)というわけではない点、注意して下さい。
 
AEDは心電図の解析しかできませんから、生きているか心停止かの判断は人間が行わなければならない「仕様」になっています。
 
そのためAEDを装着する条件が規定されているわけです。
 
 
※市民向け: 「反応なし+呼吸なし」
※医療者向け: 「反応なし+呼吸なし+脈なし」
 
 
この点は、AEDの取扱説明書(添付文書)で規定されていますし、救命講習でもきちんと教える必要がある部分です。
 

 
 
 
「反応なし+呼吸なし」ということで、心停止と判断して、AEDを装着して解析させた結果、「ショックは不要です」と言われたのであれば、それは電気ショックが有効ではないタイプの心停止だということです。
 
この場合、除細動(AED)では救えないということですから、できることと言えば、救急車が到着するまでの間、できるだけ「質の高い」心肺蘇生法を継続することです。
 
目の前で卒倒した突然の心停止(心原性心停止疑い)の場合以外は、体の中の酸素が枯渇している状態ですから、もし人工呼吸をまだ開始していないのであれば、なんとか感染防護具を手に入れる努力をして、人工呼吸を始めるべき、といえるでしょう。
 
 
 


溺水の救命のポイントは人工呼吸

「プールで男児溺れる 監視員が救出、搬送 千葉公園」(千葉日報2017年7月21日付)
 
 

プールで男児溺れる 監視員が救出、搬送 千葉公園by千葉日報2017年
https://www.chibanippo.co.jp/news/national/424745

 
プールの底から引き上げたら、意識なし、呼吸なし。人工呼吸をしたら自発呼吸が戻ったというニュース。
 
アメリカ心臓協会の小児の救命の連鎖が示しているように、子どもの救命のための最大の武器はCPR(人工呼吸+胸骨圧迫)です。

プールの底から引き上げた人が、胸骨圧迫をしたものの呼吸は戻らず。監視員が到着して、人工呼吸を開始したところ自発呼吸が戻ったという本事案。
 
喉頭痙攣による呼吸停止だったのか、低酸素による徐脈性PEA(無脈性電気活動)だったのかはわかりませんが、いずれにしても、胸骨圧迫だけでは救えなかった事例と思います。

喉頭痙攣の解除にしても呼気吹き込みが必要ですし、低酸素によるPEAなら血中酸素がほぼゼロですから、人工呼吸で血液に酸素を送り込まなければ、胸骨圧迫しても細胞の酸素化は望めません。

 
BLSの原則からすれば、AEDがあればただちに装着すべきですが、それと同じかそれ以上に、子どもや水辺の救命では人工呼吸が重要です。
 
心室細動に代表されるような心原性心停止であれば、AEDがなければ救命はほぼ絶望的です。しかし、呼吸原性心停止であれば人工呼吸+胸骨圧迫だけでも救える可能性があります。
 
AEDが「ショックは不要です」と判断したら、呼吸原性心停止の可能性が考えられますから、今どきの Hands only CPR の概念から切り替えて、人工呼吸の実施も積極的に考えていきたいものです。