インストラクターの仕事は、学習環境を整えること【会場設営編】

前回は、学習環境を整えるのがインストラクターの仕事であると書きました。

特にビデオ学習が中心に据えられているAHA講習では、それは顕著です。

インストラクターになると、うまく教えようと意気込んで準備をしてくる新人インストラクターさんが多いですが、その多くは空回りに終わります。

AHA講習はビデオベースです。つまり、教える主体はDVDであり、学習者はビデオを見て自己学習しており、ビデオに合わせて自己練習をしているというのが基本的な図式になっています。

インストラクターは、それをサポートするに過ぎません。

ここのメインとサブの関係性をきちんと理解していないと、一生懸命がんばってはいるけど、方向性が違うよ、ということになりがちです。

逆にこのことをきちんとわかっていると、会場セッティングがいかに重要かという認識が変わってくると思いませんか?

会場設営は、前準備という脇役的な位置づけではなく、人間のインストラクターが行なうべき最大の業務なのです。

受講者の導線を考える

プロジェクター投影する場合の照明の調整については前回書きました。

それ以外に注意するべきことは、まずは受講者の導線でしょうか。

BLSのように座席とマネキンの間を行ったり来たりする場合、その動きはスムーズでしょうか?

マネキンの前に椅子を配置するだけなら問題はないかもしれません。

しかしそれでは受講者がテキストを開いて置く場所がありません。

講習中にテキストを参照することを推奨しているAHA講習では、テキストを気軽にテキストを開ける環境が望ましいですね。またメモを取るにもテーブルがあったほうが親切です。

そこで、マネキンと椅子の間にテーブルを配置した場合、テーブルの間に十分な隙間を取らないと、練習ごとの受講者の移動が滞り、これも学習に集中するのを妨げる要因となります。

さらにはマネキンとマネキンの間には十分なスペースがあるでしょうか?

インストラクターが指導に入っても前のDVD画面のじゃまにならないスペースはありますか?

見ながら練習を考えると、画面の高さが高すぎると見づらいですし、画面に近すぎても端っこの人は画面が薄くて見づらくなります。

受講者を戸惑わせない先回りの配慮を

さらに成人学習指導の柱である、モチベーションを高める働きかけを考えると、会場設営にはさらに注意が必要となります。

一言で言えば、快適に気持ち良くストレスなく学べるような配慮が大切ということです。受講者をとまどわせないこと、と言い換えてもいいかもしれません。

受講者が会場に入って来た時のことを想像してみてください。

第一印象って大事ですよね。

これから学ぶぞ! という意欲がゲンナリすることがないように、むしろ来てよかったという期待感を高めるような準備ができているでしょうか?

インストラクターたちがバタバタと準備をしていて、来たことにきづいてくれないとか、最悪ですね。会場に入ったはいいけど、どこに座ったらいいのか、荷物をどこにおけばいいのかなどわからず、キョロキョロしている。ありがちな光景です。

ですから、会場準備が整うまでは、受講者を会場に入れないということもプロに徹するためには必要なことかもしれません。

そのためには受付開始時間の明示や、早く着いた場合の待機場所の案内など、受講者への事前案内もインストラクションの一環に含まれていることには意味があります。(インストラクターマニュアルに受講者へのサンプルレターが載ってるのはこういう意味です )

受講者がいちばんとまどいを感じるのは会場に入ったときです。そのとき、会場がきちんと整っていて、インストラクターが笑顔で迎えてくれて、先回りした案内があれば、学習のモチベーションを良好に保つことができるでしょう。

そう考えると、オアシスとも呼ばれている茶菓子類をどこに置くか、アシスタントインストラクターの居場所をどこに設置するかという点でも取るべき配慮が見えてきます。

受講者が入り口から入ってきて、荷物をおいて席に着く。そして休憩時間にお菓子を取りに行くという導線を考えた時に、それを邪魔するように物がおかれていたり、インストラクターの席が設置されているようなことはありませんか?

こういった配慮のもと、はじめての会場であってもきちんと会場設営し、他のインストラクターをコントロールできるのが、いわゆるディレクターに求められる能力です。

インストラクターの立ち居振る舞い

学習環境を整えるはずのインストラクターが学習環境を邪魔しているケースは時々見られます。例えばDVD視聴中に後ろの方でインストラクターが次の打ち合わせをしていて声がうるさいとか。

インストラクター同士の私語もそうですよね。

例えば、私たちもお店の中でショップ店員どうしが仕事と関係ない私語をしていると、客としては気に障りますよね。それと同じです。受講料を払って学びに来ているわけですから、インストラクターに対してはプロフェッショナリズムを期待しています。それは指導内容だけではなくカスタマーサービスとしてもプロであることを求めています。

顧客サービスのプロであることを。

これが指導内容、指導方法云々の前にインストラクターに求められていることなのです。

この部分は新人だから経験不足でできないとか、そういう次元の話ではないのはお分かり頂けると思います。要はインストラクターとしての態度の問題、受講者という存在そのものをどう考えているか、という基本姿勢の部分なのです。

インストラクターに医療従事者が多いことから、とかくAHA講習はこの部分が弱い傾向があるかも知れません。

 

顧客目線で物事を考えること

 

そんな視点の切り替えで、講習会は設営も、その在り方も大きく変わると思います。


インストラクターの仕事は、学習環境を整えること【DVD操作編】

今日は、これからインストラクターを目指す人や、新人インストラクターさん向けに指導のコツを書いてみようと思います。

 

学習者は自ら学ぶ存在

 

これが成人学習の基本です。

ですから、インストラクターは教えるのではなく、学ぶのを支援する存在です。

特にアメリカ心臓協会の講習の多くはDVD教材が充実しています。

会場でDVDを見ることは、言い換えれば、受講者はDVD教材を通して自己学習を進めている、とも言えます。

ですから、インストラクターは、DVD視聴を妨げないようにし、そこに集中させることに神経を注ぎます。

つまり、インストラクターコースで教わるように、学習を阻害するものを排除するのがインストラクターの仕事。

そして、それは会場設営の段階から始まっているのです。

 

例えば、プロジェクターにDVDを投影する場合は、どのような点に注意しますか?

プロジェクターを使う場合は、部屋の照明の具合にもこだわりたいですよね。白っちゃけて見づらいということがないように。

会場設営の際には、部屋の照明の消え具合を確認して、投影位置を決める必要があります。

また照明のオンオフが必要なら、誰が調整するのか?

自分ひとりしかいない場合は、映像操作をしながら、照明のオンオフができるような動線を考えた会場配置が必要かもしれません。

 

 

また、受講者を画面に集中させたいと考えたら、上の画面はどうでしょうか?

目障りなものがいっぱい表示されていませんか?

パソコンのツールバーとか、DVDソフトのコントロールパネルとか。

細かい点ですが、これらも受講者の注意を削ぐ要因のひとつです。

DVD再生ソフトもPowerPointも、全画面モードというのが必ずあります。

どう考えても、こちらの画面の方がスッキリと見やすいですよね。

 

 

また、パソコンのDVD再生ソフトを使う場合、マウスで一時停止をしようとすると、余計なツールバーがでてきてしまって、チカチカとうるさい感じになります。

これを解消するためには、DVD再生ソフトのショートカット機能を使うのが正解です。

これはソフトによって違いますが、たいていのDVD再生ソフトは、スペースキーで再生/一時停止をコントロールできるようになっています。マウスを使わずスマートに画面操作をすること。

こんなパソコン操作に習熟しておくことも、受講者にストレスを与えることなく、学習に集中してもらうコツと言えます。

いかにうまく教えようとか、そんな方向にばかり気を取られがちなのが、新人インストラクターさんの特徴。

教える、という以前に、学習を阻害しないように、インストラクター自身が学習阻害要因にならないように、というところから見つめ直したほうがいいでしょう。

 

スマートにかっこよく、いきましょう。


AHAインストラクターを目指す前に

アメリカ心臓協会(AHA)のインストラクターになりたい!

そんな相談をよく受けます。

BLS横浜の講習を受講した上でそう考えてくださる方もいれば、ネット検索等でホームページに行き着いて、メールをくださる方もいます。

BLS横浜では、インストラクターになりたいという希望があれば、まずはBLS横浜の講習に見学等にいらして下さいとご案内しています。

そして、BLS横浜での講習のスタイルを知って頂き、その上で、個別にお話をさせていただき、必要があればインストラクターコースを企画、参加いただくようにしています。(BLS横浜では、必要な方がいれば、その都度企画するオンデマンドの個別講習に近い形でインストラクターコースを提供しています)

AHA Instructor is Why.

インストラクターコース受講希望者に個別面談で必ず尋ねるのは、

 

AHAインストラクターになってなにをしたいか?

 

です。

このビジョンが、

  • 本当にAHAインストラクターになることで実現できるのか?
  • そして、その具体的な可能性はどうか?

という点を、一緒に検討します。何事にもメリット/デメリットがあります、相応の妥当性があり、双方の合意が得られれば、インストラクターコースにご案内しています。

しかし、そこまでたどり着くのはかなり稀な話で、多くの場合は、「AHAインストラクターになる必要はない」という結論で、白紙に戻るケースが多いです。

その理由は、インストラクター志望者の、AHAインストラクターに対する理解や認識が不十分であり、実像を理解していないというのがほとんどです。

まず、ありがちな誤解は、AHAインストラクター資格は、ボランティア講習をするための資格ではない、という点です。

AHAインストラクターはプロの資格

AHAインストラクターは、米国労務省の職業安全衛生局OSHAの公認資格を発行する権限を持った救命法指導のプロフェッショナルです。

職業上の責務を負ったプロの職業人に対して、救命スキルを指導し、その技術認証を与え、資格証を発行するプロフェッショナルがAHAインストラクターです。

ご存知のとおり、アメリカ心臓協会講習のほとんどは有償です。それも決して安い金額ではありません。

このように対価を頂いてプロとして活動する職業資格とも言えます。

ですから、公務員のような副業・兼業が認められない立場の方に、AHAインストラクターは向きません。

そして、受講対象は対価を払って資格認証を受ける必要性がある人ですから、一般市民向けではありません。

一般市民向けの普及啓蒙活動を行うだけでしたら、AHAインストラクター資格は不要です。

AHAではファミリーフレンズCPRというプログラムがありますが、これを開催するだけなら、インストラクター資格は不要で、DVDを買えば誰でも開催可能です。

日本国内のAHA-ECCプログラム展開を理解する

もう一点の落とし穴は、日本国内のAHA講習を展開しているのは、AHA本部ではなく、国際トレーニングセンター(ITC)と呼ばれる活動単位であるという点です。

アメリカ心臓協会の講習は、日本国内ではAHA本部直轄での運営はされていません。

ある意味、フランチャイズのようなもので、日本国内の既存団体(NPO法人、一般社団法人、任意団体、株式会社、医療法人等)が米国AHAと提携して、講習実務を展開しています。

運営母体はAHAというよりは、あくまでも日本国内のそれぞれの法人組織なのです。

ですから、それぞれの活動母体(トレーニングセンター)によって運営方針は違います。

受講料や受講資格(ACLS受講にBLS資格が必要か不要か、など)が異なるのはそのためです。

当然、インストラクターになるための条件や、インストラクターになった後の活動範囲や権限も異なります。

インストラクターになってどんな活動展開をしたいのか?

それによって、インストラクターとして提携する活動母体(トレーニングセンター)を吟味し、選ぶことが重要です。

AHAインストラクターになる前に十分なリサーチを

AHAインストラクターを目指す方には下記の点を十分に調べましょう。

1.日本国内にはいくつの活動母体(トレーニングセンター)があるか?
2.それぞれのトレーニングセンターの特色は?
3.トレーニングセンターごとのインストラクターになるための条件や受講料の違い

上記の点を把握した上で、

1.自分がAHAインストラクターになりたいと考えたのはなぜか?
2.インストラクターになってなにをしたいのか?
3.AHAインストラクターになることでそれを実現できるのか?
4.自分の目的にあったトレーニングセンターはどこか?

という点と合わせて熟考し、事前に各トレーニングセンターや活動拠点に問い合わせをしたり、見学に行ったりして、十分な準備をして臨むことを強くおすすめします。

経費と時間をかけてAHAインストラクター資格を取得しても、2年後の資格更新を迎えずにフェードアウトしていく人が少なくないのが現状です。

だからこそ、BLS横浜では、安易にインストラクターになることを勧めませんし、希望者がいたとしても、十分なコンサルタントをした上で、受け入れを決定しています。

入り口に立つ前の十分なリサーチと、自身の目的・目標の吟味が重要です。


医療者にありがちなAED使用法の勘違い(充電中の圧迫)

 
AEDの解析とショックの間の充電中に胸骨圧迫を行うことは危険です。
 

なに言っているの? あたりまえじゃない? と思われる方は、ここでページを閉じてください。この先を読む必要はありません。

おそらく市民救助者の方の大半は、上記の点を正しく理解しているはずです。

 

しかし、なぜか医療従事者の中には、AEDの充電中に少しでも胸骨圧迫を行うことが正しい、と勘違いしている人が少なからずいるのです、そこで、このような記事を書かせてもらいました。

この勘違いの原因は、AHA の BLSプロバイダーコース で使われているDVDにあります。

AED使用に関するデモ映像の中で、心リズム解析のためにいったん患者から離れたのに、充電の最中に胸骨圧迫を再開している場面が描かれているのです。

さらにはDVDのナレーターの解説として、下記のような言葉が入っています。

 

「この圧迫担当者は、AEDの充電時間すら無駄にせず、数回、圧迫を行っています。これはとても重要なことです。」

 

これが受講者を混乱させ、誤解を生じさせている原因です。

さらに悪いことにインストラクターの中にも、これを真に受けて、「DVDのようにAED充電の間、少しでも圧迫するように」と指導し、実際に練習時にもそうさせている指導員がいる(らしい)ということも問題を増長しているようです。

しかし、結論から言います。

 

日本のAEDは、充電中に胸骨圧迫をしちゃダメです。

 

じゃ、AHAのDVDが間違っているのか? というと、そういうわけでもありません。

先ほどのナレーターの言葉には、前置きがあります。画面に表示されるクローズド・キャプションが途中で切れているので分かりづらいですが、つなげるとこのような一文になります。

 

また、AEDの指示に従うことも大切です。この圧迫担当者は、AEDの充電時間すら無駄にせず、数回、圧迫を行っています。これはとても重要なことです。」

 

つまり、この場面は、とある固有のAEDが充電中に圧迫するように指示を出したので、それに従って行動した、という場面なのです。

一般論の話ではありません。米国には、充電中に圧迫を指示するようなAEDが、数ある中の一つとして存在するということです。

参考まで、英語の原文では、このように言っています。

 

“And it’s also important to follow your device’s prompts. You may have noticed there that the compressor took advantage of the time the device was charging to deliver a few crucial compressions.”

 

言うまでもなく、AED操作の基本は、音声メッセージに従って行動することです。これはBLSプロバイダーコースであっても同じです。

BLSプロバイダーマニュアルG2015 の 35ページにはっきり書かれています。

 

「聞こえてくるAEDの指示に必ず従うこと」

そして、2018年現在、日本国内で承認されているAEDの中で、充電中に圧迫を再開するように指示を出す装置は存在しません。

ですから、今の日本ではAEDの充電中に少しでも胸骨圧迫を行なうように、という指導は適切ではない、ということになります。

この先、日本でもそのような機種が承認される可能性はありますが、現時点は少なくともありませんし、米国においてもすべての機種がそうだというわけではなく、あくまでも個別のAEDの指示としてそう言われたのであれば、それに従えというだけの話です。

このあたりはDVDの訳語が不親切なので、インストラクターが正しく整理して伝え直す必要がある部分と言えるでしょう。難しくはありません。「とにかく音声メッセージに従って下さい」とテキストに書いてあるとおりに伝えればいいだけです。

 

それでは、実際のところ、日本国内において、AEDの充電中に(指示もないのに勝手に)胸骨圧迫を行ったとしたらどうなるかというと、胸骨圧迫の刺激を「体動あり」と検出して充電がキャンセルされる可能性があります。

つまり、ショックが必要な心電図波形なのに、ショックができないという事態になりえるのです。

ご存知のように除細動は1分遅れると、助かる可能性が10%近く低下すると言われています。

AEDの指示を無視して勝手なことをして、それが救命の可能性を下げたということになったら、、、、

 
 

あくまでもアメリカ心臓協会のプログラムは、米国のものですから、社会環境や通念の違いをきちんと埋めてフォローアップするのが日本人インストラクターの役割です。

二次救命処置(ACLS)における手動式除細動器の充電中の圧迫とは、条件が違いますので、この点を混同しないように、きちんと日本の法的側面や機器としてのAEDの使用説明書にも習熟しておくことが必要でしょう。


4月14日(土)浜松で「BLS原理&心電図」公開講座を開きます!

静岡県浜松市内で精力的に活動している 命のバトン浜松 さんとの共催で、静岡での公開講座開催が決まりました。

心肺蘇生の原理とモニター心電図の基礎理解 公開講座by BLS横浜 at 静岡県浜松市

2時間半の講義スタイルのセミナーで、質の高いBLSに関する蘇生科学の理解と、AEDの動作に関連したモニター心電図の基礎をお話させてもらいます。

心電図というと、医療従事者のみと思われがちですが、今回は心肺蘇生法を深く知りたいと思う方であればどなたでもご参加いただけます。

少し難しい部分もあるかもしれませんが、救命法の指導員さんなどであれば、興味深く聞いていただけるのではないかと思います。

AEDでショックが必要な場合と、ショックが不要な場合の違いや、初期対応としてAEDを優先すべき場合と、人工呼吸を含めたCPRが優先される場合など、心肺蘇生法にまつわる「なぜ?」が、スッキリ解決するはず。

 
詳細と申し込みは、BLS横浜ホームページの専用ページをご参照ください。

 

「心肺蘇生の原理とモニター心電図の基礎理解」 公開講座
 静岡県浜松市浜北地域活動・研修センター
 9:30~12:00 参加費 500円(当日支払い)
 ※事前登録制

 http://bls.yokohama/seminar/bls-ecg_hamamatsu.html


「エピペン&小児BLS」講習は応用力を鍛えるプログラム

今日は、湘南のインターナショナル・スクールで「エピペン&小児BLS」講習でした。

 

これは単に「エピペン講習」と「小児心肺蘇生法講習」をくっつけただけではなく、その間をシームレスにつなげたBLS横浜オリジナル講習です。

この2つの間をつなぐのが、「生命危機の評価と観察の視点」です。

アナフィラキシーを起こした子どもがどのように命を落としていくか、またそこに「介入」することで、どのようにして生に向かって転じていくかを知れば、エピペン注射や気道確保、人工呼吸と胸骨圧迫の意味と必要性が理解できます。

その過程で体に起こる変化を見て、好転しているのか、悪化しているのかを予測して、介入し、観察・記録して救急隊員に引き継ぐこと。

こんな、エピペン講習だけ/BLS講習だけではない、新たな価値観で両者をつなげたのがBLS横浜の工夫です。

結局、「エピペン&小児BLS」講習の中身はファーストエイド講習の本質部分にかなり食い込んでいると言えます。アナフィラキシー・ショックとCPRを例題にして、末端技術にとらわれないファーストエイド的思考の理解を促したと言えるかもしれません。

その証拠に、この研修の後、受講いただいたインターナショナル・スクールの先生たち(特別な医療の知識がある方たちではありません)にこんな質問をすると、教えたわけではないのに自分たちで考えて答えを導き出せました。

 

「子どもが突然けいれん発作を起しました。痙攣が停まった後、意識がなさそうです。なにを観察して、どう行動したらいいですか?」

 

人が生きるしくみと死ぬしくみを理解すれば、痙攣のファーストエイドを勉強していなくても、問題の本質を考え、対応できるようになるのです。

実際のところ、けいれん発作の原因は、てんかんかもしれませんし、低血糖かもしれませんし、熱中症かもしれませんし、突然の心停止かもしれません。

病名を探ろうとすると、思考停止に陥ります。医師ではない人間がわかるわけありません。しかし原因は何であろうと、今は目の前に意識がない子どもが倒れているのです。そんな本質に気づけば、簡単です。

  • 呼吸確認をする → 10秒でよくわからなければCPR開始と119番
  • 呼吸をしていれば、気道確保(体位と口腔内確認)と119番、呼吸が停まらないか観察を続ける。余裕があれば転倒時の外傷チェック等
  • 呼吸が停まれば、CPR開始

基本的な考え方を「理解」すれば、ファーストエイドはそれほど難しいものではありません。

幅広い知識より、この本質部分を伝えていきたいと思います。

 

※「エピペン&小児BLS」講習は、次回、公募で6月12日(火)に開催します。若干名残席あります。 → BLS横浜ホームページ


止血帯(ターニケット)使用トレーニング考

ガイドライン2015準拠日本語DVDが発売開始になって、ようやく本格稼働が始まった AHAハートセイバー・ファーストエイドコース。米国のファーストエイド講習では、G2010に引き続いて止血帯の使用が解説されています。

ということで、今日は、止血帯(ターニケット)の話題を少々。

圧迫止血でコントロールできない四肢からの大出血の場合には、上腕部や大腿部をきつく締め上げることで、動脈を遮断して出血を停める止血帯法が米国では推奨されています。

日本でも以前は折り畳んだ三角巾と棒きれを使った止血練習が救急法講習で取り入れられていましたが、2005年の「救急蘇生法の指針」の改定で止血帯は非推奨となり、そのままJRCガイドライン2015までは救急法教育からは封印されてきました。

しかし、ここ最近の日本国内事情を見てみると、東京オリンピックのテロ対策として、東京消防庁が救急隊に軍用ターニケットを配備するなど、日本においても止血帯への注目が高まってきています。

聞くところによると、日本国内の応急手当普及団体の中でも講習プログラムの中に再び止血帯使用を盛り込んでいくことも検討されているとか、、、、

BLS横浜では、ハートセイバー・ファーストエイドコースの中で、軍用ターニケットの使用を皆さんに体験してもらっていますが、基本的なスタンスとしては、市民救護にターニケットは不要であり、むしろ危険である、という立場を取っています。

この点を解説していきます。

1.止血帯が非推奨から推奨に転じた背景

米国においても、2005年版のAHA/ARCファーストエイドガイドラインで推奨されなくなった止血帯ですが、5年後の2010年には、再び推奨に転じました。

急展開に見えましたが、その背後にあったのはアフガニスタンなど戦線激化による米軍兵士による使用実績増加でした。

米軍兵士への軍用ターニケットの標準装備が進み、軍事衝突の機会が増えたので使用実績があがり、その有用性が確立されたというわけです。

つまり、ガイドライン改訂に至った止血帯が有効であるという根拠は、「戦時下において訓練を受けた兵士が既製品を使った場合」という条件付きのものであったという点を理解しておく必要があります。

・既製品としての止血帯
・軍人としての訓練を受けている
・救護が受けにくい戦闘状況での使用

こうした条件は、極めて特殊なものと言わざるを得ません。

このことを持って、市民の応急救護においても有用であると言えるのか? という点は熟考する必要があります。

2.止血帯使用のリスクと教育

応急救護、ファーストエイドの基本ですが、何かの介入をする、すなわち処置や手当を行う以上、それには必ず潜在的なリスクが伴います。

BLS/CPRは例外で、この場合は心停止という究極の条件下になりますから、それ以上、悪化することは論理的にあり得ません。メリットとデメリットのうち、デメリットは無視できるのです。だから、何もしないよりは、多少間違ってもいい、なんでもいいからやりましょう、と言われているわけです。

しかし、出血対応も含めてファーストエイド介入は生きている人間に対して行うことですから、それによって状態が悪化させてしまう、別の傷害を与えてしまうというデメリットを考慮しなければなりません。

つまり、止血法の場合は、止血帯使用の弊害やそれによって引き起こされる有害事象について知らない、判断できない人が使うべきではないということです。

ここでは詳説はしませんが、止血帯の使用に際しては下記のような有害事象が考えられます。

・締め付けによる疼痛
・神経損傷
・中途半端な加圧による出血量増加(静脈閉塞、動脈開存)
・末梢虚血による組織壊死(切断のリスク)
・圧迫解除によるクラッシュ症候群(高カリウム血症による心停止)

これらのデメリットを理解した上で、止血帯を使用するメリットの方が勝るという判断があって、はじめて止血帯が適応となります。

大出血を見たら止血帯! というものではないということです。

この判断のためには出血という事象に対する理解も不可欠です。

そもそもどれくらいの出血だったら止血帯が適応となるのか?
それをどうやって判断するのか?

そのためには、人体にある血液がどれくらいあるのか? そして命に関わる出血があった場合の身体症状といった基礎的な理解も欠かせません。

これらが止血帯を使う上での必要な基礎教育に含まれているべきでしょう。

これがターニケット使用訓練を受けている、ということの意味です。

単に器具としての止血帯の操作方法がわかるというだけでは不十分ですし、それだけしか知らない人が使うとしたら、それははかえって危険であると言わざるを得ません。

3.軍隊におけるターニケット使用教育

今、日本国内の救護情勢として止血帯といったら、既成の軍用ターニケットのことを指します。軍用品で、戦地での実績から来たものなので、その使用方法は軍での教育が参考にされているものと思われます。

そこで軍隊におけるターニケット教育はどのようなものなのかということで、某陸軍の新兵向け教育を知る機会がありましたが、そこではっきり感じたのは、日本の市街地で医療従事者以外が使うことを前提としたファーストエイド訓練には使えない、という点でした。

最大の問題と感じたのは、軍隊教育では、止血帯が適応となる出血とそうでない出血の評価という視点がなかったことです。

戦地においては四肢を打たれたら、打たれた人は条件反射的に自分自身にターニケットを巻ように教育されています。

傷の大きさとか出血量とか、そんな判断はせずに、とにかく打たれて血が出たらターニケットを1秒でも早く巻く。

弾丸が飛び交っている戦場を想定したターニケット使用教育は、いかにすばやく確実に巻くかであって、理屈抜きの条件反射、単なるテクニカルスキルのトレーニングなのです。

4.日本の市民向けファーストエイドで止血帯が必要か?

このような背景を考えると、軍需から生じた止血帯のニーズを、日本の市民向けファーストエイド教育にそのまま入れ込むことは不適切と考えます。

戦場において、安全確保ができない状況下でのセルフレスキューとしてターニケットが発展してきました。

日本国内において、他者を救護する立場としては、直接圧迫止血法を試みるのが第一義なのは変わりません。他者が直接圧迫を続けることができれば、完全止血までは行かないとしてもある程度コントロールできます。

出血をしながらも自力で、離脱しなければいけない状況ではないからです。

救急車が来れないような野外環境下などにおいては、ターニケットが適応となる場面もあるかもしれません。

しかし、そのための教育としては、軍隊式のターニケットありきの教育をしたのでは、不必要なのにターニケットを使用したことで重大な傷害を残す事故が多発するでしょう。

軍隊式の教育とは別の市民向けターニケット使用研修が必要です。

5.まとめ

日本では、米軍にならってかなり前から自衛隊員にもターニケットが配備されています。

そして去年になって、オリンピックのテロ対策という名目で東京消防庁の救急隊員にも軍用ターニケットが配備されるようになりました。

昨今ではコンバット・メディスン(戦闘救護)の官向け、民間向け研修も広がりを見せており、医療資格を持たない人に向けた止血帯使用トレーニングの機会も増えていくことが予想されます。

この点で、これまで当ブログで取り上げてきた ウィルダネス・ファーストエイドにおける医行為の問題 や、打ち方だけの練習で形骸化したエピペン講習と同じような、命と医療と救護の狭間のグレーゾーンな懸念材料が増えていくことを危惧しています。

使わなければ死んじゃうんでしょ?

そんな安直な考えに立脚した誤った正義感が、出血コントロールの問題にも広がっていかないように願っています。


エピペン研修のシミュレーションネタとデブリーフィングツールを公開

今日は、千葉県の子育て支援事業として開催された保育所職員向けアレルギー・エピペン研修の講師で登壇させていただきました。

参加人数が120名と多かったので、ふだん横浜でやっているようなインストラクターによる傷病者の演技はできず、演技指示を紙に書いて、受講者に傷病者を演じてもらうことで対応しました。

今回は、県内の各保育園から集まってきた人たち。同じ職場の人はいないという学習環境です。

この場合の研修の目的は、参加して満足してもらうのではなく、トレーニング手法を各職場に持ち帰ってもらい、そこで身のある伝達研修をしてもらうことにあります。

120名を5人に分かれてもらい、アナフィラキシーを起こした園児役、119番指令員ならびに救急隊員役、その他3人の先生たちでエピペン注射と介助と記録と通報とを行ってもらいました。

全24組をインストラクター1名で管理するのはたいへん。

そこで、今回は紙の指示書を活用が、思いのほか、うまくいきました。

かなり盛り上がった(?)シミュレーションで、その後ブースごとの振り返りも非常に活発でした。

そのカラクリとなった指示書を公開します。

参加者の皆さんは、自主的に携帯で写真を撮ってる方が多いのが印象的でした。(その後、コピーを全員に配りました)

シミュレーションの進め方は詳説はしませんが、見てもらえばなんとなくわかるんじゃないかと思います。
エピペン研修を手がけている関係者の方の参考になると幸いです。


保育士さんがポケットマスクと初遭遇するとき

今日は、山梨県にある子育て支援センターからの依頼で、親御さん向けの1時間半のファーストエイド講習と、保育士・保健師向けの健康管理ワークショップで登壇させていただきました。

今回いただいた小児専門家向けワークショップのテーマは「子どもの日常的な健康チェック」だったのですが、なにをもって「この子は元気」と判断するのか? という点で、「生命危機の兆候が見られない」ことを日々観察するという流れでお話させていただきました。

子どもですから様子がおかしいことは、ちょくちょくあると思います。それが生命危機につながるものなのかどうかがある程度判断できれば、いざというときは迅速に対応できますし、そうでない場合は安心できます。

観察するというと異常を探すという視点になりがちですが、危険な兆候が見られない、だから大丈夫という判断も意味ある重要な考え方です。

生命危機状態の成れの果て、最悪の事態とも言えるのが心肺停止です。

ご参加頂いた皆様は基本的な心肺蘇生法は習得済みでしたが、子どもが命を落とす原因と絡めての話は新鮮な気持ちで聞いていただいたようです。

大人とは違う子どもに特化した蘇生法では、人工呼吸は必須です。決して積極的に省略して良いものではありません。

今日は、おまけの話として、小児BLSでは人工呼吸が大切という話をしたのですが、皆さんが「初耳!」ということで注目されたのが、ポケットマスクでした。

口対口人工呼吸は、フェイスシールドを使って練習したことがあっても、日頃、フェイスシールドなんて持っていないし、あったとしても(気持ち的に)できる自信がないというのが正直なところだったようです。

それが、今回初めてポケットマスクの存在を知り、「これならできる!」と感じていただけたようです。今回は心肺蘇生法講習ではなかったので、デモ用のマネキン1体しか持ってきていませんでしたが、念のためということで参加者人数分の一方向弁(マウスピース)を持ってきていて良かったです。

参加者のほとんど人が講習後も残ってポケットマスク人工呼吸を体験して行かれました。

「これならできる気がします。施設で買ってもらえるようにします」

そんな声が聞かれました。

蘇生ガイドライン2010で、心肺蘇生法の手順が人工呼吸優先のA-B-Cから、胸骨圧迫優先のC-A-Bに変更されたのは、人工呼吸の心的抵抗を考慮した教育心理的な方策でした。

「息をして酸素を取り込んで、血液循環に乗せて体の各細胞に酸素を届ける」という人が生きる根源的なしくみを考えたら、A(気道)-B(呼吸)-C(循環)という流れは絶対的な真理なのですが、あえてそれを崩したのは、蘇生法を絵に描いた餅にしないため、心理的な障壁を下げるためでした。

しかし、子どもの心停止や溺水では必須とされる人工呼吸についてはビニールシート1枚で勇気を奮ってやるように、という教育がいまだ続いていて、呼吸原性心停止が多いとされる子どもの緊急事態に一定の対応義務が課されるチャイルドケア・プロフェッショナルに対しても自己犠牲的な勇気が求められるのは、あまりに非現実的なことです。

気持ち的には嫌なこと、でも嫌とは言えないし、どうしよう。

そんなもやもや感が、ポケットマスクという道具ひとつで解消されるのですから、なんでそれを知らなかったのだろう、という感想もいただきました。

古来からの救命教育は、「人間愛と根性」に支えられていたような気がします。

しかし、仕事の上で救命しなければならないのであれば、それは業務です。

もっとビジネスライクに、道具やシステムの改善でどうにかなる部分はどんどんそっちに任せて、個人の負担は減らすべきなのです。

たかだか2−3千円のポケットマスク。

それで保育者も傷病者も助かるのなら、、、と思います。


PEARS®を知ると看護業務の仕方が変わる

BLS横浜でも提供しているアメリカ心臓協会のPEARS®プロバイダーコース。

PEARS®を受講した看護師さんからは、「日々の仕事の仕方が変わった」という感想をいただくことが多いです。

PEARS®は、BLSやACLSと同じ急変対応研修のひとつと思われがちですが、そこで身につけるスキルは急変時だけに使うものではありません。ここがPEARS®とBLS/ACLSの大きな違いです。

PEARS®コースで学ぶのは、「酸素化と灌流」という人間(動物)が生きる基本的なしくみとそれが破綻するメカニズムを理解すること。そして、その変化を先読みして、予兆を探す訓練、さらに他者を巻き込み、救命の連鎖をつなげることで患者の安定化を図る(心停止を予防する)ということです。

通常の医療現場における観察は、現状維持を確認することがメインで、ある意味、「変わらない」ということを前提に見ていることが多いのではないでしょうか。

しかし、この視点を「変わるかも、、、こういう症状が出てくるかもしれない」に変えると、あたりまえですが、「気づく」レベルが上がります。

なにかあったら報告してください、とはよくいいますが、その「なにか」がわからないから、見落としてしまうのです。

その点、PEARS®を勉強すると、生命維持が破綻しかけてくると、人体にどんな変化が現れるかがわかるようになります。

そうなると、それらの「症状が出ていない」ことを確認するのが日々の観察の視点となるのです。

変化なしというのは、予想される症状が出現していないということです。この考え方は看護師教育ではあまり教えられることがない部分かもしれません。そんな思考をPEARSのシミュレーションから身につけることができるようになるのです。

 

これが、おそらく日々の業務の仕方が変わった、という感想につながってくる部分なのではないかと思っています。

看護師の記録では、「著変なし」といった現状維持を示す記載をよく見かけますが、病態から懸念される悪化傾向がはっきり頭の中にあれば、「○○は見られない」といった具体的な記載に変わるかもしれませんし、記録として残すアセスメントも、もっと焦点化された内容になるかもしれません。

先読みができるということ。

大抵の場合は、懸念していたことが起きずに終わることが多いと思います。

しかし、そこで「こんなことがあるかも」と考え、その生理学的身体的変化をイメージして、予測的に関わっていくようになると、日々の仕事の取り組みがまるで違ったものになる可能性があります。

 

例えはうまくないかもしれませんが、オフィスビルの入り口に立っている警備員を想像してみてください。今日もなにもないんだろうなと思いながら立っているのと、「もしかしたらあの人はテロリストかもしれない」と常に考えて立っているのでは、仕事の密度は違いますし、仕事が終わった後の達成感も違うかもしれません。

今日も暇だったなと思って終わるのか、今日も何事もなく仕事を負えられたと思えるのか。

 

PEARS®は、医療現場にいる臨床家としての基本姿勢や考え方にも大きなインパクトを与える可能性を秘めています。

 

PEARS®プロバイダーコース