PEARS®プロバイダーコース、G2015日本語版に移行しました

今日は「PEARS®プロバイダーコースwithシミュレーション」でした。

写真のDVD画面を見て分かる通り、AHAガイドライン2015正式日本語版です。



今月に発売されたばかりの新しい PEARS®コースDVD を使っての初公募講習になります。

ガイドライン改定によって、サイエンス的に変わったところはほとんどありませんが、コース設計としては、安定化の後の治療にも少し踏み込んできたのかなという印象があります。

また、これまでは省略が許されていたシミュレーションやスキルステーション(酸素マスクや輸液器具の使い方実習)も必須化されたので、これでようやく日本全国のPEARS®が統一されることになりそうです。

BLS横浜では、シミュレーション省略形のPEARSと区別するために、あえて「Sim-PEARS®」とか「PEARS ®withシミュレーション」という言い方をしてきましたが、今後はその必要もなくなりそうです。

今はどの団体も新コースに向けて移行作業中かと思います。AHAの慣例では、新教材が揃ってから移行期間は60日とされていますから、遅くとも年明けには、日本全国のPEARS®プロバイダーコースが完全にG2015正式版に切り替わることと思います。



これまで、BLS横浜でPEARS®を受講してくださった方は、新コース移行後も、資格の有効期限内であれば復習参加は無料です。

昨日も1名、復習参加の方が来てくださいましたが、BLSスキルステーションもシミュレーションも一般受講の方とまったく同じに、体験していただきました。(遠隔地での開催の場合は、見学のみになる場合もあります。)

新しいDVDでの学びを体感したい方は、資格有効期限内に、無料復習参加にぜひいらしてください。



PEARS®プロバイダーコース with シミュレーションの詳細はこちら
http://bls.yokohama/pears_provider.html


PEARSから学ぶ臨床推論 – 仮説演繹法とは?

先週は、長野の松本と静岡の浜松、2箇所での出張 PEARSプロバイダーコース でした。

PEARSプロバイダーコースは、看護師のための心停止予防研修ですが、急変対応に限らず、仮説演繹法という臨床推論の考え方を体験できるという点で、論理的な思考のトレーニングとしてもおもしろいプログラムです。

臨床推論というと、一般的には医師の診断プロセスの一つです。

看護師教育の中にも、「看護過程」とか「看護診断」という形で、論理思考プロセスが入っているのですが、お作法として形骸化して現実的にはあまり科学的な思考過程という捉え方での訓練にはなっていないのが現状です。

そこでPEARSに触れることで、臨床推論という考え方を初めて知ったという看護師さんが多い気がします。

仮説演繹法とは、PEARSの場合だと、心停止に至りかねない危険な状況を、呼吸器系4パターン、循環器系2パターンのどれかであると仮定して推理を進めていきます。

例えば、異常な呼吸様式を見たとき、「呻吟がある」、「呼気延長がある」と判断したとしましょう。
この情報から、肺組織疾患(肺炎や肺水腫)か、下気道閉塞(喘息や細気管支炎)があるという仮説を立てます。

この仮説を証明していこうというのが仮説演繹法の考え方です。

PEARSの体系的アプローチではこの後に聴診をすることになるのですが、肺組織疾患があるなら、ラ音(断続性の副雑音)が聞かれるという予測が立ちます。また下気道閉塞であれば、呼気性喘鳴が聞かれるのでは? という予測が立ちます。

このように、症状などから早期に予測を立てて、もしそうであれば、こういった兆候があるはずだ、という仮説を検証していく思考プロセスが仮説演繹法と呼ばれます。

この場合、漫然と聴診器を当てるのではなく、こんな音が聞かれるはずだ、と意識をすることで、微妙な音の違いに敏感になれ、見落としを防ぐこともできるかもしれません。

経過観察をする、というと、◯◯がある、ということを探すというイメージが強いですが、臨床推論の中でも仮説演繹法に立てば、◯◯がない、ということを確認することに意味があったりします。

仮説を否定する作業。否定できた先には安心が待っています。

このような臨床推論の考え方を実践し、その意義を体感できるという点で、PEARSはすべての看護職にとって意義のあるプログラムだと考えています。

BLS横浜では、小児とか急変対応とか、末端的なことに限らず、考え方を鍛えるトレーニングとしてPEARSを位置づけています。


デブリーフィングは誰のもの?

先日のBLSプロバイダーコースでは、受講者にICLSのインストラクターの方がいらっしゃったので、講習の指導テクニックという視点も盛り込んだ展開をしてみました。

BLSプロバイダーマニュアルには、「デブリーフィング」の解説が載っています。インストラクターの指導手法の解説がなぜ? と感じる方もいるかもしれませんが、これは実臨床の出来事に対して受講者自身がデブリーフィングを行っていくといいですよ、というメッセージです。

実際の出来事や模擬体験の中での限局的な経験を、汎用性のある「知」に高めるための手法が、デブリーフィングです。

単純に白黒つけられない問題に対しての、問題解決手段とも言えるかもしれません。

BLSにしてもACLSにしても、デブリーフィングは、最後までインストラクターが行っていくのではなく、最終的には受講者たちが自然と自らディスカッションを始め、自己経験学習を行えるような道筋を作っていくのが目標です。


小児の人工呼吸比率、15:2を深掘りする

今から書く話は、主に医療従事者向けのBLSプロトコルです。市民向け救命法とは別の話なので、ご注意下さい。

さて、ヘルスケアプロバイダー(医療従事者や救命のプロ)向けの心肺蘇生法の中では、小児に関しては、30:2ではなく、15:2という胸骨圧迫と人工呼吸の比率がでてきます。

これはAHAガイドラインでは、思春期未満の子どもに対する二人法CPRの場合の圧迫対換気比です。

今日は、この15:2に着目して、掘り下げていってみようと思います。

まず、そもそも30:2に較べて、15:2という胸骨圧迫と人工呼吸比率のメリットはなんでしょうか?

肺に送り込まれる空気の量が多い。

ということですよね。

そして、この比率が適応されるのは小児・乳児の場合だけです。

なぜ、子どもの場合は、人工呼吸の送気が多いのか?

理由は、皆さん、わかりますよね?

BLSコースのDVDでも言っているように、子どもの心停止の原因として呼吸のトラブルが多いからです。

BLSプロバイダーマニュアルG2015では、52ページに、「乳児や小児が心停止を起こした場合は、呼吸不全またはショックが認められ、心停止に至る前から血中の酸素濃度が低下していることが多い」と書かれているとおりです。

その他の理由としては、PALSプロバイダーマニュアルにヒントがあります。

その114ページには次のように書かれています。

「小児は代謝率が高いため、体重1kgあたりの酸素需要量が多い。乳児の酸素消費量は6~8ml/kg/分であり、成人の3~4ml/kg/分よりも多い。」

子どもは大人に較べて、酸素の消費量が多いから、人工呼吸の比率が成人より高い、ということです。

このような理由から、子どもは酸素の供給量を上げてあげようということで、15:2という比率が採用されています。

ここまでは納得いただけるかと思いますが、よく考えると、さらなる疑問が湧いてきます。

子どもの場合であっても、救助者が一人のときは大人と同じ30:2とされている。酸素の消費量が多いのが理由であれば、救助者人数で違ってくるのはおかしいのでは?

この点は、皆さんはどう考えるでしょうか?

ここは単純な小児の生理学だけの問題ではなさそうですね。

そこで、30:2と15:2で何が違うのかを改めて考えてみると、、、

15:2の方が胸骨圧迫の中断時間が長い、という見方もできませんか?

そうなんです。15:2のデメリットは、胸骨圧迫の中断時間が多いため、累積で考えると、圧迫によって生まれる血流量が少ないとも言えます。

換気回数は多いため、肺胞に到達する空気(酸素)の量は多いですが、その後の組織への酸素運搬を司る血流量が少なければ、結局、心筋細胞や脳細胞へ到達する酸素量で考えたらマイナスになってしまう。これが30:2のデメリットです。

ましてや、一人法ですから、胸骨圧迫を終えたら、感染防護具を手にして、頭部後屈顎先挙上をし直してからの送気です。これには10秒弱がかかってしまいます。

しかし、二人法の場合を考えてみて下さい。

胸骨圧迫の間、バッグマスクを顔に密着させて気道確保して構えているわけですから、15回の圧迫が終わったらすかさず送気。そうすれば中断時間3-4秒程度ですぐに血流を再開することができます。

つまり、一人法で15:2で実施した場合は、血液の酸素化までは良くても、その後の血流が低下するために組織への酸素化を考えたら効率が悪い。救助者二人で、圧迫と換気を分担した場合に限り、血液の酸素化と組織への酸素化が有効に行える、というわけです。

この点は、BLSプロバイダーコースのDVDにも、テキストにも書かれてはいませんが、組織の酸素化の理屈を考えてみると、導き出されるひとつの理解です。

漫然と15:2と覚えるのではなく、理由を考えてみると、記憶に残りやすいのではないでしょうか?


気道異物の窒息解除法-意識を失った後の方が取れやすい?

今日はBLSの範囲内から、喉にモノが詰まったときの解除法についての話題です。

まずはおさらいです。

誰かが喉にモノを詰まらせて、苦しがっているのを見つけたら、どうするんでしたっけ?

反応がある窒息者に対する気道異物除去法

  • ハイムリック法(腹部突き上げ法)
  • 背部叩打法
  • 胸部突き上げ法

 

米国ではシンプル化のためにハイムリック法しか教えていませんが、蘇生ガイドライン的には、背部叩打法と胸部突き上げ法も列記されていて、エビデンス的には優劣はないということになっています。

そして、複数の方法を試す必要があるかも知れないという記載もありました。

乳児の場合は、肝臓損傷のリスクから、腹部突き上げ法は推奨されず、一般的には背部叩打法5回と、胸部突き上げ法5回を交互に実施するように教えられているかと思います。

さて、ここまでは、皆さん、よくご存知のところなのですが、この先、異物が取れず、意識を失って反応がなくなった場合の対応については、曖昧なところではないでしょうか?

反応がなくなった場合の窒息解除法

ハイムリック法や背部叩打法をしているうちに、ぐったりと意識を失ってしまったら、そのまま継続は困難ですから、まずは床に寝かせます。

周りに人がいれば119番をお願いしますが、もし誰もいなければ、通報より優先して次の解除ステップに移ります。

それはなにかというと、傷病者を寝かせた状態で行なう胸部突き上げ法です。

窒息解除の胸骨圧迫は心臓マッサージとは違う

こういう言い方をすると、怪訝に感じるかも知れませんが、傷病者を寝かせて行なう胸部突き上げ法とは、すなわち胸骨圧迫のことです。

テキスト的には、「胸骨圧迫からCPRを始める」と書かれていますが、窒息で意識を失った直後は、まだ心臓は動いていますから、胸骨圧迫することは血流を生み出すのが目的ではありません。

胸腔内圧を上げて、喉に詰まった異物を外に押し出そうとしているのです。

通常のCPRとの手順の違い

胸を押す目的は、窒息解除です。ですから30回押した後は、人工呼吸の前に口の中を覗いて異物が目に見えるところまで上がってきていないかを確認しろ、という手順が追加されているのが、通常のCPRとは違う部分です。

異物が見えるところまで上がってきていなくても、30回も胸を押せば、それなりの空気圧がかかっていますから、異物がずれて気管内に隙間ができている可能性もあります。

ですから、その可能性にかけて、とりあえず人工呼吸の吹き込みをトライします。

少しでも隙間ができていて空気が入ればラッキーです。弱りかけて徐脈になっていた心臓に多少なりとも酸素を送り込めれば、心停止までの時間稼ぎができます。

空気が入らなければ入らないで、異物の位置がずれることを期待しつつ、また30回の胸部突き上げ(胸骨圧迫)を行っていきます。

通報と解除の試み、どちらが優先か?

2分間CPRと口腔内確認を続けてみても、奏功しない場合は、いちど手順をやめて119番通報を行い、あとは指令員の指示に従って救急隊到着まで、窒息解除の試みを続けることになると思います。

ここはAHAの小児BLSで教えている呼吸原性を疑った「目撃のない心停止」と同じで、通報よりも一刻も早い介入が優先されるところです。

119番をしたことがある人ならわかると思いますが、まずは住所を聞かれて、それから、何があったのかという状況を聞かれます。下手すると5分以上かかります。少なく見積もっても数分間。その間、息ができない状態が続いたらどうでしょうか? すでに意識を失うレベルまで酸素が減っている中で、さらに数分間放置したら、脳細胞のダメージがより深刻になります。

そこで、AHAガイドラインでは、呼吸原性が強く疑われる心停止や窒息の場合は、通報よりも解除手順着手の方を優先しています。

この点で、日本のJRCガイドラインでは、いかなる場合でも通報が先と規定している点は、指導者レベルの人は知っておいて下さい。

反応がなくなってから、異物が除去できる可能性

さて、窒息解除法は、反応がある場合とない場合で2つのステップがあるのですが、もし目の前で窒息が発生した場合、どちらのステップの方が解除できる可能性が高いのでしょうか?

イメージ的には、意識を失う段階までいってしまったら、窒息解除も厳しいんじゃないかと感じるかも知れませんが、G2015版のBLSプロバイダーマニュアルには、興味深い記述が追加されています。

 

窒息状態にある傷病者が意識を失ったとき、咽頭の筋肉は恐らく弛緩状態である。これにより完全な/重度の気道閉塞が部分閉塞に変わる可能性がある。

BLSプロバイダーマニュアルG2015版、p.74

 

イメージできるでしょうか? 喉にモノが詰まって苦しがっているうちは全身がこわばっています。これにより喉のあたりもギュッと収縮する力がかかっているので、取れにくい状態です。

しかし、意識を失ってしまえば、ダランと脱力して筋肉が緩むため、異物が取れやすい状態になるのでは? ということなんです。

そのため、次のような文章が続いていきます。

 

さらに、胸骨圧迫により、少なくとも腹部突き上げと同程度の力が生み出され、異物の排出に役立つ可能性がある。

 

もしかしたら、意識を失った後のほうが、異物が取れやすいのかもしれない。

そう考えると、反応がなくなった後のCPRという窒息解除法もきちんと理解しておきたいですよね。

ということで、表題のようなタイトルにしてみました。

 

さらにワンポイントアドバイスをすると、窒息解除としてCPRを行なう場合は、胸骨圧迫から開始して下さい。

くれぐれも脈拍触知は行わないこと。

CPR開始というのを、心停止の認識から始めてしまうと、まだ脈がある可能性が大なので、肝心の胸骨圧迫ではなく、補助呼吸の手順に入ってしまう恐れがあるからです。

そのため、BLSプロバイダーマニュアルでも73ページの手順の中で、「胸骨圧迫からCPRをを開始する。脈拍は触知しない」とはっきり書いてあります。

 

以上、BLSプロバイダーコース の中で受講者のみなさんと確認している窒息解除のメカニズムの話でした。

プロフェッショナル向けのBLS講習では、「なぜ?」という理解が重要ですね。


パルスオキシメーターは、いざというときは、あてにならない

今日は、PEARS®プロバイダーコースに基づき、「パルスオキシメーターはあてにならない」という話をしたいと思います。

現代医療界においては、すっかりとバイタルサインズ(vital signs)のひとつとみなされているパルスオキシメトリ(経皮的酸素飽和度:SpO2)ですが、アメリカ心臓協会AHAのPEARS®プロバイダーコースの中では、SpO2を過信しないように! というメッセージが強く打ち出されています。

AHA-PEARSプロバイダーコースwithシミュレーションの中では、酸素飽和度はあまり重要視されていません。むしろ五感を使った観察・評価に重きを置いています。

 

パルスオキシメーターでわかること/わからないこと

末梢循環が悪いとパルスオキシメーターは正しく作動しない

ショックなどの重篤な身体状況のときにはSpO2はエラーとなって表示されないというのは医療者の皆さんはよくご存知と思います。

大抵の場合、プローベは指先につけますが、ショックのときは末梢血管が締まって末梢循環を制限しますから、血管の拍動と血液の吸光度(簡単にいうと色)をもとに計算しているパルスオキシメーターは正しく作動しません。

これは、ショックに限らず、冬場で患者さんの手が冷たくて、血行が悪くなっているときにもよく見られる現象です。

皮肉な話ですが、状態が悪ければ悪いほど、パルスオキシメーターはあてにならない可能性が高いということです。

パルスオキシメーターでわかるのは呼吸機能の半分だけ

パルスオキシメーターで測ることができるのは、脈拍数と経皮的酸素飽和度の2つです。

正常に動作していれば、動脈血の酸素飽和度の近似値はとれますが、これを持って「サチュレーション98%だから呼吸状態はOK」と早合点することはできません。

酸素飽和度は、動脈血中のヘモグロビン総数に対して、酸素分子と結合した酸化ヘモグロビンの割合がどの程度かを示したパーセンテージです。

大事なことは、パルスオキシメーターでは、ヘモグロビンと酸素のくっつき具合しか判断できない、という点です。

ご存知のように呼吸の働きは、体内に酸素を取り込むことと、二酸化炭素を排出することの二つの側面があります。

つまり、パルスオキシメーターでは呼吸の2大機能のうちの半分しか見れていないということです。

酸素が十分に取り込めていても、二酸化炭素が吐けずに体の中に溜まってしまうと、これはこれで問題です。

ですから、パルスオキシメトリだけで、呼吸に関しては介入の要なし、とは言い切れない点に注意が必要です。

例えば、喘息発作などの下気道閉塞は、息が吐きづらくなる病態です。この場合、酸素化だけではなく二酸化炭素排出も、考慮しなければいけませんし、PEARS®で言ったら呼吸調整機能障害は「換気」の問題として、酸素飽和度が良好であってもバッグマスク換気(空気の出し入れ)が必要とされているものもあります。

SpO2が十分だから、酸素投与は不要、とは言えない

呼吸の評価という視点で見たとき、パルスオキシメーターでわかるのは呼吸機能の半分だけであるという話はしましたが、酸素化だけに着目しても、落とし穴がありますので、注意が必要です。

それは、SpO2は、組織の酸素化を示すものではない、という点です。

心臓や脳といった重要臓器の細胞に酸素が届かないと、人は命を落とします。

例えば、極度の貧血の人。

ヘモグロビンの量がふつうの半分しかない状態で、酸素飽和度が100%あったとしても、細胞への酸素運搬能力で見たら安心できる状態とは言えませんよね。

あとは出血多量などでショックを来している場合も、酸素飽和度だけをもって人体の酸素充足度をはかることはできません。

酸素飽和度が94%ないしは95%が基準値であっても、その人の生命維持の上で本当に酸素量が十分であるかどうかは判断できないのです。

サチュレーションが96%であっても、明らかに呼吸努力が見られて呼吸数も40回/分以上という人がいたら、酸素供給が十分とは言えません。当然、酸素投与を考えますよね?

考えてみれば当たり前の話なのですが、数字が出てくると、それだけでころっと騙されることが多いので注意が必要です。

バイタルサインズは個々の値ではなく総合的に判断する

今回は、酸素飽和度を例にとりましたが、バイタルサインというものは、個々には基準値がありますが、それを一個一個照らし合わせて個々に評価するものではなく、すべてを総合的にみて、判断する必要があります。

あたりまえといえばあたりまえなのですが、このためには、人が生きるしくみである「大気中の酸素が組織の細胞に届くまでの過程」がイメージできている必要があります。

言葉としては教わっているものの、きちんと理解しているかというと、現場で働いていてもなかなか怪しい部分はないでしょうか?

そんなバイタルサイン評価の原点を、生理学に立ち返って学びなおすのが PEARS®プロバイダーコース なのです。

 

最後にまとめとして、PEARS®プロバイダーマニュアルの中の一文をご紹介して終わります。

パルスオキシメトリで表示される数値の解釈
パルスオキシメトリはヘモグロビンの酸素飽和度を示しているだけであることを認識することは重要である。以下のことは評価できない。

  • 血液中の酸素含有量(すなわち血液によってどのくらいの量の酸素が運搬されているか)
  • 組織への酸素供給量
  • 換気の効率(血液中の二酸化炭素レベル)

PEARS®プロバイダーマニュアルG2010版 p.33


体系的アプローチは、すなわち臨床推論

ACLSの体系的アプローチですが、論理的な思考過程を整理したものと考えると、すなわち臨床推論のアプローチ過程とも言えます。

 

特にACLSの2次アセスメントなどは、まさに臨床推論の考え方ですね。

 

2次アセスメントの目的は、心停止の原因を特定して、治療に向かうことにあります。

心停止の原因としてACLSでは、10個ないしは11個が列挙されています。

その英語の頭文字をとって、”H”s & T’s”と呼ばれていますが、これらのうち、目の前の患者の心停止の原因がどれが該当するかを探るために、SAMPLE聴取というツールを使っていきます。

この場合のSAMPLEは、「焦点を絞った患者の病歴の収集」と表現されています。

つまり、ACLSにおけるSAMPLE聴取は、一般論的な闇雲の病歴聴取ではない、ということです。

常に頭の中にHとTで表現される心停止の原因を思い浮かべていて、それを同定するという目的をもったプロセスとして情報を集めましょう、ということです。

例えば、初期情報や心電図波形から、HとTのうち、これじゃないかと仮説を立てます。

すると自ずとSAMPLEで情報を集めるときには、意図的なものになるはずです。そうして仮説に対して集めた証拠(情報、根拠)により、その仮説が肯定できるか否定できるかと推論していき、原因に迫っていくのです。

 

例を挙げて考えてみましょう。

心停止で運ばれてきた患者にモニターを接続したら、130回/分の洞性頻脈によるPEAでした。とりあえずやるべきことはBLS評価と一次評価にもとづいて、質の高いCPRを確立することです。

PEAですから、除細動は適応外で電気ショックでは救えません。2分間のCPRと心電図解析、そして3−5分毎のアドレナリン投与をしても心拍再開は得られません。

そこで出てくるのが二次評価です。

PEAで洞性頻脈ときたら、まっさきに疑うべきは循環血液量減少です。(ACLSプロバイダーマニュアルG2015 p.40-41)

となると、受傷起点や発見時の情報などから、出血の可能性、脱水の可能性などをイメージした質問が出てくるはずです。つまりSAMPLEのE(イベント)ですね。

工場内でフォークリフトにぶつかって意識不明で運ばれてきた、という情報が得られたとしたら、どこをどうぶつけたのかとか、特に胸部や腹部の内出血の可能性、大腿部の骨折の有無などに視点が行くかもしれません。

その結果によっては、エコーなどの検査の必要性が出てくるかもしれません。

このように、HとTの中から、仮説を立てて、そこに向かって情報収集を進めていくのが、ACLSにおける2次アセスメントの目指すところです。

これは近年、看護師の特定行為研修などでも話題になっている臨床推論のプロセスの中でも「仮説演繹法」と呼ばれているものと同じです。

ACLSプロバイダーコースを受講する中でも、一歩視野を広げて、臨床推論と考えると、単純な心停止対応トレーニングに留まらない臨床に役立つ視点を得ることができるかもしれません。


AHAプロバイダーカードが廃止される?

アメリカ心臓協会の講習を受講し、合格すると発行されるプロバイダーカード。

これがなくなるという話題です。

実はこれは数年前から打ち出されていた方針で、米国ではすでにe-Cardというものに移行が始まっており、今年に入ってからはすべてのUSトレーニングセンターでe-Cardへの対応が義務付けられました。

▲ e-CardをLetterサイズに印字したバージョン

 

e-Cardとは何かというと、インターネットを使った電子上での資格認証制度です。

紙のカードだと紛失という問題がつきまとい、日本でも専門医申請シーズンになると、トレーニングセンターにカードの再発行依頼がかなりの数、舞い込みます。

こういったことを防ぐために、受講者はインターネット上のAHA専用サーバー内に自分の情報を登録し、そこに持っているAHAプロバイダー資格の情報が保管されるようにするのです。資格が有効期限内であれば、そのサーバーから、修了証がPDFファイルとしていつでも発行でき、それをスマートフォンの画面で提示することもできますし、プリンターで印字して、証明書として提出することも可能です。

そんな新しい資格証明システムの総称がAHAのe-Cardです。

 

▲ カードの形での印字も可能

 

このシステムのおもしろいところは、資格認証の有無と有効期限を確認できるのは、受講者本人だけではなく、病院の管理部門など、雇用者もAHAの専用サーバーにアクセスして従業員の資格をチェックできる点です。

米国の病院では、日本の医療従事者免許と同じような感じで、BLSやACLSプロバイダー資格の有無と有効期限情報を管理しています。

更新は2年毎ですから、何百人、何千人といる病院の職員の情報を更新し続けるのは、無視できないほどの煩雑さです。

そこで、このe-Cardシステムが考案されました。

従業員は事業所に対して、自分のe-Cardの固有番号(e-Card code)さえ伝えておけば、病院側はAHA専用ページから検索、確認ができますから、手間いらず、というわけです。

BLSやACLS、PALS、さらには非医療従事者であれば、CPR AEDやファーストエイドの資格取得と更新が業務上の責務となっている米国ならではの制度と言えるかと思います。

さて、日本においてですが、日本のITCに関しては、まだこの制度に移行しているところはないようです。

AHAの方針として、米国内においては紙のカードは廃止したいようですが、世界各国のITCについてはどうなるのかは未知数です。

日本においては、医療者にしても教職員や警備員などにしても、BLSやACLSなどの資格習得と更新義務は存在しません。ゆえに事業者が資格の更新を確認し続けるというタスクも存在しません。

つまり、日本ではe-Cardのメリットは、ほとんどない、というのが現状です。

受講者の立場からすると、カード紛失のリスクがなくなるというのはメリットかもしれませんが、何気にモノとしての修了カードを手にする喜びとか達成感というのが、大きいんじゃないかと思います。

それがなくなって、自分のパソコンから印刷して自分でパウチしてね、というのでは、受講のモチベーションに大きな影響を与えるのではないかと思います。(それは本来の意味からするとおかしな話ですけど)

BLS横浜は、日本医療教授システム学会AHA国際トレーニングセンターの活動拠点であると同時に、米国のナショナルトレーニングセンター American Medical Response(AMR-TC) の活動拠点でもあります。

USトレーニングセンター所轄としては、すでにe-Cardには対応しているのですが、上記のような理由からe-Cardではなく、紙媒体のプロバイダーカードを今も発行しています。

米国では紙のプロバイダーカードの発売がやがては中止されるものと聞いていますが、可能なかぎり、紙媒体のプロバイダーカード発行で対応していくつもりでいます。


インストラクターの仕事は、学習環境を整えること【会場設営編】

前回は、学習環境を整えるのがインストラクターの仕事であると書きました。

特にビデオ学習が中心に据えられているAHA講習では、それは顕著です。

インストラクターになると、うまく教えようと意気込んで準備をしてくる新人インストラクターさんが多いですが、その多くは空回りに終わります。

AHA講習はビデオベースです。つまり、教える主体はDVDであり、学習者はビデオを見て自己学習しており、ビデオに合わせて自己練習をしているというのが基本的な図式になっています。

インストラクターは、それをサポートするに過ぎません。

ここのメインとサブの関係性をきちんと理解していないと、一生懸命がんばってはいるけど、方向性が違うよ、ということになりがちです。

逆にこのことをきちんとわかっていると、会場セッティングがいかに重要かという認識が変わってくると思いませんか?

会場設営は、前準備という脇役的な位置づけではなく、人間のインストラクターが行なうべき最大の業務なのです。

受講者の導線を考える

プロジェクター投影する場合の照明の調整については前回書きました。

それ以外に注意するべきことは、まずは受講者の導線でしょうか。

BLSのように座席とマネキンの間を行ったり来たりする場合、その動きはスムーズでしょうか?

マネキンの前に椅子を配置するだけなら問題はないかもしれません。

しかしそれでは受講者がテキストを開いて置く場所がありません。

講習中にテキストを参照することを推奨しているAHA講習では、テキストを気軽にテキストを開ける環境が望ましいですね。またメモを取るにもテーブルがあったほうが親切です。

そこで、マネキンと椅子の間にテーブルを配置した場合、テーブルの間に十分な隙間を取らないと、練習ごとの受講者の移動が滞り、これも学習に集中するのを妨げる要因となります。

さらにはマネキンとマネキンの間には十分なスペースがあるでしょうか?

インストラクターが指導に入っても前のDVD画面のじゃまにならないスペースはありますか?

見ながら練習を考えると、画面の高さが高すぎると見づらいですし、画面に近すぎても端っこの人は画面が薄くて見づらくなります。

受講者を戸惑わせない先回りの配慮を

さらに成人学習指導の柱である、モチベーションを高める働きかけを考えると、会場設営にはさらに注意が必要となります。

一言で言えば、快適に気持ち良くストレスなく学べるような配慮が大切ということです。受講者をとまどわせないこと、と言い換えてもいいかもしれません。

受講者が会場に入って来た時のことを想像してみてください。

第一印象って大事ですよね。

これから学ぶぞ! という意欲がゲンナリすることがないように、むしろ来てよかったという期待感を高めるような準備ができているでしょうか?

インストラクターたちがバタバタと準備をしていて、来たことにきづいてくれないとか、最悪ですね。会場に入ったはいいけど、どこに座ったらいいのか、荷物をどこにおけばいいのかなどわからず、キョロキョロしている。ありがちな光景です。

ですから、会場準備が整うまでは、受講者を会場に入れないということもプロに徹するためには必要なことかもしれません。

そのためには受付開始時間の明示や、早く着いた場合の待機場所の案内など、受講者への事前案内もインストラクションの一環に含まれていることには意味があります。(インストラクターマニュアルに受講者へのサンプルレターが載ってるのはこういう意味です )

受講者がいちばんとまどいを感じるのは会場に入ったときです。そのとき、会場がきちんと整っていて、インストラクターが笑顔で迎えてくれて、先回りした案内があれば、学習のモチベーションを良好に保つことができるでしょう。

そう考えると、オアシスとも呼ばれている茶菓子類をどこに置くか、アシスタントインストラクターの居場所をどこに設置するかという点でも取るべき配慮が見えてきます。

受講者が入り口から入ってきて、荷物をおいて席に着く。そして休憩時間にお菓子を取りに行くという導線を考えた時に、それを邪魔するように物がおかれていたり、インストラクターの席が設置されているようなことはありませんか?

こういった配慮のもと、はじめての会場であってもきちんと会場設営し、他のインストラクターをコントロールできるのが、いわゆるディレクターに求められる能力です。

インストラクターの立ち居振る舞い

学習環境を整えるはずのインストラクターが学習環境を邪魔しているケースは時々見られます。例えばDVD視聴中に後ろの方でインストラクターが次の打ち合わせをしていて声がうるさいとか。

インストラクター同士の私語もそうですよね。

例えば、私たちもお店の中でショップ店員どうしが仕事と関係ない私語をしていると、客としては気に障りますよね。それと同じです。受講料を払って学びに来ているわけですから、インストラクターに対してはプロフェッショナリズムを期待しています。それは指導内容だけではなくカスタマーサービスとしてもプロであることを求めています。

顧客サービスのプロであることを。

これが指導内容、指導方法云々の前にインストラクターに求められていることなのです。

この部分は新人だから経験不足でできないとか、そういう次元の話ではないのはお分かり頂けると思います。要はインストラクターとしての態度の問題、受講者という存在そのものをどう考えているか、という基本姿勢の部分なのです。

インストラクターに医療従事者が多いことから、とかくAHA講習はこの部分が弱い傾向があるかも知れません。

 

顧客目線で物事を考えること

 

そんな視点の切り替えで、講習会は設営も、その在り方も大きく変わると思います。


インストラクターの仕事は、学習環境を整えること【DVD操作編】

今日は、これからインストラクターを目指す人や、新人インストラクターさん向けに指導のコツを書いてみようと思います。

 

学習者は自ら学ぶ存在

 

これが成人学習の基本です。

ですから、インストラクターは教えるのではなく、学ぶのを支援する存在です。

特にアメリカ心臓協会の講習の多くはDVD教材が充実しています。

会場でDVDを見ることは、言い換えれば、受講者はDVD教材を通して自己学習を進めている、とも言えます。

ですから、インストラクターは、DVD視聴を妨げないようにし、そこに集中させることに神経を注ぎます。

つまり、インストラクターコースで教わるように、学習を阻害するものを排除するのがインストラクターの仕事。

そして、それは会場設営の段階から始まっているのです。

 

例えば、プロジェクターにDVDを投影する場合は、どのような点に注意しますか?

プロジェクターを使う場合は、部屋の照明の具合にもこだわりたいですよね。白っちゃけて見づらいということがないように。

会場設営の際には、部屋の照明の消え具合を確認して、投影位置を決める必要があります。

また照明のオンオフが必要なら、誰が調整するのか?

自分ひとりしかいない場合は、映像操作をしながら、照明のオンオフができるような動線を考えた会場配置が必要かもしれません。

 

 

また、受講者を画面に集中させたいと考えたら、上の画面はどうでしょうか?

目障りなものがいっぱい表示されていませんか?

パソコンのツールバーとか、DVDソフトのコントロールパネルとか。

細かい点ですが、これらも受講者の注意を削ぐ要因のひとつです。

DVD再生ソフトもPowerPointも、全画面モードというのが必ずあります。

どう考えても、こちらの画面の方がスッキリと見やすいですよね。

 

 

また、パソコンのDVD再生ソフトを使う場合、マウスで一時停止をしようとすると、余計なツールバーがでてきてしまって、チカチカとうるさい感じになります。

これを解消するためには、DVD再生ソフトのショートカット機能を使うのが正解です。

これはソフトによって違いますが、たいていのDVD再生ソフトは、スペースキーで再生/一時停止をコントロールできるようになっています。マウスを使わずスマートに画面操作をすること。

こんなパソコン操作に習熟しておくことも、受講者にストレスを与えることなく、学習に集中してもらうコツと言えます。

いかにうまく教えようとか、そんな方向にばかり気を取られがちなのが、新人インストラクターさんの特徴。

教える、という以前に、学習を阻害しないように、インストラクター自身が学習阻害要因にならないように、というところから見つめ直したほうがいいでしょう。

 

スマートにかっこよく、いきましょう。