ファーストエイド一覧

止血帯(ターニケット)使用トレーニング考

ガイドライン2015準拠日本語DVDが発売開始になって、ようやく本格稼働が始まった AHAハートセイバー・ファーストエイドコース 。米国のファーストエイド講習では、G2010に引き続いて止血帯の使用が解説されています。

ということで、今日は、止血帯(ターニケット)の話題を少々。

ターニケット・止血帯各種

圧迫止血でコントロールできない四肢からの大出血の場合には、上腕部や大腿部をきつく締め上げることで、動脈を遮断して出血を停める止血帯法が米国では推奨されています。

日本でも以前は折り畳んだ三角巾と棒きれを使った止血練習が救急法講習で取り入れられていましたが、2005年の「救急蘇生法の指針」の改定で止血帯は非推奨となり、そのままJRCガイドライン2015までは救急法教育からは封印されてきました。

しかし、ここ最近の日本国内事情を見てみると、東京オリンピックのテロ対策として、東京消防庁が救急隊に軍用ターニケットを配備するなど、日本においても止血帯への注目が高まってきています。

聞くところによると、日本国内の応急手当普及団体の中でも講習プログラムの中に再び止血帯使用を盛り込んでいくことも検討されているとか、、、、

BLS横浜では、ハートセイバー・ファーストエイドコースの中で、軍用ターニケットの使用を皆さんに体験してもらっていますが、基本的なスタンスとしては、市民救護にターニケットは不要であり、むしろ危険である、という立場を取っています。

この点を解説していきます。

1.止血帯が非推奨から推奨に転じた背景

米国においても、2005年版のAHA/ARCファーストエイドガイドラインで推奨されなくなった止血帯ですが、5年後の2010年には、再び推奨に転じました。

急展開に見えましたが、その背後にあったのはアフガニスタンなど戦線激化による米軍兵士による使用実績増加でした。

米軍兵士への軍用ターニケットの標準装備が進み、軍事衝突の機会が増えたので使用実績があがり、その有用性が確立されたというわけです。

つまり、ガイドライン改訂に至った止血帯が有効であるという根拠は、「戦時下において訓練を受けた兵士が既製品を使った場合」という条件付きのものであったという点を理解しておく必要があります。

・既製品としての止血帯
・軍人としての訓練を受けている
・救護が受けにくい戦闘状況での使用

こうした条件は、極めて特殊なものと言わざるを得ません。

このことを持って、市民の応急救護においても有用であると言えるのか? という点は熟考する必要があります。

2.止血帯使用のリスクと教育

応急救護、ファーストエイドの基本ですが、何かの介入をする、すなわち処置や手当を行う以上、それには必ず潜在的なリスクが伴います。

BLS/CPRは例外で、この場合は心停止という究極の条件下になりますから、それ以上、悪化することは論理的にあり得ません。メリットとデメリットのうち、デメリットは無視できるのです。だから、何もしないよりは、多少間違ってもいい、なんでもいいからやりましょう、と言われているわけです。

しかし、出血対応も含めてファーストエイド介入は生きている人間に対して行うことですから、それによって状態が悪化させてしまう、別の傷害を与えてしまうというデメリットを考慮しなければなりません。

つまり、止血法の場合は、止血帯使用の弊害やそれによって引き起こされる有害事象について知らない、判断できない人が使うべきではないということです。

ここでは詳説はしませんが、止血帯の使用に際しては下記のような有害事象が考えられます。

・締め付けによる疼痛(兵士にとっても耐えられないほどの痛み)
・神経損傷
・中途半端な加圧による出血量増加(静脈閉塞、動脈開存)
・末梢虚血による組織壊死(切断のリスク)
・圧迫解除によるクラッシュ症候群(高カリウム血症による心停止)

これらのデメリットを理解した上で、止血帯を使用するメリットの方が勝るという判断があって、はじめて止血帯が適応となります。

大出血を見たら止血帯! というものではないということです。

この判断のためには出血という事象に対する理解も不可欠です。

そもそもどれくらいの出血だったら止血帯が適応となるのか?
それをどうやって判断するのか?

そのためには、人体にある血液がどれくらいあるのか? そして命に関わる出血があった場合の身体症状といった基礎的な理解も欠かせません。

これらが止血帯を使う上での必要な基礎教育に含まれているべきでしょう。

これがターニケット使用訓練を受けている、ということの意味です。

単に器具としての止血帯の操作方法がわかるというだけでは不十分です。それだけしか知らない人が使うとしたら、それはかえって危険であると言わざるを得ません。

これは今後広がっていくであろう止血帯講習の質のバロメーターにもなるかもしれません。受講後の感想として「簡単だった」と言われるような止血帯講習は、止血帯を正しく伝えていないと言えるはずです。

3.軍隊におけるターニケット使用教育

今、日本国内の救護情勢の中で止血帯といったら、既成の軍用ターニケットのことを指します。軍用品で、戦地での実績から来たものなので、その使用方法は軍での教育が参考にされているものと思われます。

そこで軍隊におけるターニケット教育はどのようなものなのかということで、某陸軍の新兵向け教育を知る機会がありましたが、そこではっきり感じたのは、日本の市街地で医療従事者以外が使うことを前提としたファーストエイド訓練としては適さない、という点でした。

最大の問題と感じたのは、軍隊教育では、止血帯が適応となる出血とそうでない出血を判断する評価という視点がなかったことです。

戦地においては四肢を打たれたら、打たれた人は条件反射的に自分自身にターニケットを巻ように教育されています。

傷の大きさとか出血量とか、そんな判断はせずに、とにかく打たれて血が出たらターニケットを1秒でも早く巻く。

弾丸が飛び交っている戦場を想定したターニケット使用教育は、いかにすばやく確実に巻くかであって、理屈抜きの条件反射、単なるセルフレスキューのためのテクニカルスキルのトレーニングなのです。

4.日本の市民向けファーストエイドで止血帯が必要か?

このような背景を考えると、軍需から生じた止血帯のニーズを、日本の市民向けファーストエイド教育にそのまま入れ込むことは不適切と考えます。

戦場において、安全確保ができない状況下でのセルフレスキューとしてターニケットが発展してきました。

日本国内において、他者を救護する立場としては、直接圧迫止血法を試みるのが第一義なのは変わりません。他者が直接圧迫を続けることができれば、完全止血までは行かないとしても、ある程度は出血をコントロールできます。

出血をしながらも自力で、離脱しなければいけない状況ではないからです。

救急車が来れないような野外環境下などにおいては、ターニケットが適応となる場面もあるかもしれません。

しかし、そのための教育としては、軍隊式の「ターニケットありき」の教育をしたのでは、必要ないのにターニケットを使用して二次的な障害を負わせるという事故が多発するでしょう。

軍隊式の教育とは別に、市民向けに根本から再設計されたターニケット使用研修が必要です。

5.まとめ

日本では、米軍にならってかなり前から自衛隊員にもターニケットが配備されています。

そして去年になって、オリンピックのテロ対策という名目で東京消防庁の救急隊員にも軍用ターニケットが配備されるようになりました。

昨今ではコンバット・メディスン(戦闘救護)の官向け、民間向け研修も広がりを見せており、医療資格を持たない人に向けた止血帯使用トレーニングの機会も増えていくことが予想されます。

この点で、これまで当ブログで取り上げてきた ウィルダネス・ファーストエイドにおける医行為の問題 や、打ち方だけの練習で形骸化したエピペン講習と同じような、命と医療と救護の狭間のグレーゾーンな懸念材料が増えていくことを危惧しています。

使わなければ死んじゃうんでしょ?

そんな安直な考えに立脚した誤った正義感が、出血コントロールの問題にも広がっていかないように願っています。


止血法とショック、そして血液感染の正しい知識を!

ターニケット(止血帯)&血液媒介病原体 講習

ターニケットの使用方法だけにとどまらない出血のファーストエイド全般を扱うオリジナル講習を企画しました。血を浴びながら処置する可能性があるターニケット使用には、米兵に1年ごとに義務付けられている 米国OSHA基準に相当する血液媒介病原体 の知識が欠かせません。またターニケット使用が必要な状況であれば、ショックへの理解とファーストエイドも必須です。これらを2時間半にまとめました。


エピペン研修のシミュレーションネタとデブリーフィングツールを公開

今日は、千葉県の子育て支援事業として開催された保育所職員向けアレルギー・エピペン研修の講師で登壇させていただきました。

参加人数が120名と多かったので、ふだん横浜でやっているようなインストラクターによる傷病者の演技はできず、演技指示を紙に書いて、受講者に傷病者を演じてもらうことで対応しました。

今回は、県内の各保育園から集まってきた人たち。同じ職場の人はいないという学習環境です。

この場合の研修の目的は、参加して満足してもらうのではなく、トレーニング手法を各職場に持ち帰ってもらい、そこで身のある伝達研修をしてもらうことにあります。

120名を5人に分かれてもらい、アナフィラキシーを起こした園児役、119番指令員ならびに救急隊員役、その他3人の先生たちでエピペン注射と介助と記録と通報とを行ってもらいました。

全24組をインストラクター1名で管理するのはたいへん。

そこで、今回は紙の指示書を活用が、思いのほか、うまくいきました。

かなり盛り上がった(?)シミュレーションで、その後ブースごとの振り返りも非常に活発でした。

そのカラクリとなったシミュレーションの指示書を公開します。

参加者の皆さんは、自主的に携帯で写真を撮ってる方が多いのが印象的でした。(その後、コピーを全員に配りました)

シミュレーションの進め方は詳説はしませんが、見てもらえばなんとなくわかるんじゃないかと思います。
エピペン研修を手がけている関係者の方の参考になると幸いです。

エピペン講習傷病者指示書

エピペン講習救急指令員指示書表面

エピペン講習救急指令員指示書裏面


ABCDEアプローチの順番-酸素の流れを追う

PEARS/PALS、ACLSでもおなじみのABCDEアプローチ。
 
これは救急医療で標準の考え方でもあります。
 
D(神経学的評価)とE(全身観察)の評価内容と介入の中身については、外傷系や神経系では若干の方言がありますが、根本的な考え方は変わりません。
 

ABCDEアプローチ【体系的アプローチ】

 
生命危機というゼネラルな考え方の中で特に重要なのは、大気中の酸素が体の中の細胞に届くまでの過程を追っているという点です。
 
その上ではABCDという順番を無視することができません。
 
傷病者がパット見で「意識障害あり」と判断された場合、ついつい神経系の観察を優先してしまいがちですが、その意識障害がショックや呼吸不全による脳細胞の酸素供給不足だとしたら、どうでしょうか?
 
ですから、どんな場合でも、気道が開通していることと、呼吸機能が保てていること、循環機能が保てていることを、この順番で確認していくことが大切です。
 
 

 

続きを読む


ファーストエイドのシミュレーション

昨日は、久々の開催となるハートセイバー・ファーストエイドコースでした。
 
心停止以外のあらゆる急病やケガへの対応を学ぶ米国労働安全衛生局(OSHA)規格のプログラム。
 
BLS横浜では、部分的にシミュレーション・トレーニングを取り入れて、救急対応を「しっかり学びたい人」向けの展開を行っています。
 
ファーストエイドは、失神への対応、やけどの対応、など、ミクロな視点でいくと、内容があまりに膨大すぎてとても覚えきれるものではありません。
 
そこで、「呼吸、循環、神経系」という生命維持の3大要素と、優先順位の考え方という原点に、すべての処置を帰着させることを強調した展開を行っています。
 
ハートセイバー・ファーストエイドのDVDでも、どの処置を見ても最後は「CPRの必要を確認する」となっています。これは結果的には、反応と呼吸の確認を常に行うことの必要性を言っています。
 
いわゆるファーストエイド処置は、実は行っても行わなくても生命という点ではそれほど重要な問題ではありません。どんな状態からでも、いつでも心停止に移行してしまうという可能性を意識してCPRに備えるというのが、根底にあることを忘れてはいけません。
 
例え軽症に見えたとしても、もしこの人が命を落とすとしたらどんな経路を取るか? それを想像しつつ、いつも最悪に備えて監視するというのがファーストエイドの本質です。
 
 
ファーストエイドコース終了後に1時間半ほどかけて行った複合シミュレーションでは、ありがちな落とし穴をたくさん仕込んでいたのですが、皆さん、そこには引っかからず、命に関わる優先順位の高い問題に着目して行動していたのが印象的でした。
 
意識障害と呼吸障害の両方があった場合、どっちを優先した対応を考えるか?
 
ケースバイケースで明確な答えを示すことは難しい状況でも、どこに原則を置いて考えるか、というノンテクニカルな思考の部分が少しでも伝わったのかなという、手応えが嬉しい講習会でした。
 
ご参加いただいた皆様、傷病者役としての迫真の演技、またシミュレーション後の活発な意見交換、ありがとうございました。
 
インストラクターも含めて、学びの多い8時間でした。
 
 
 

 
 

続きを読む


幼稚園での「小児BLS&エピペン」研修

先日、幼稚園で「小児BLS&エピペン」研修を担当させていただきました。園の教職員ほぼすべての20名が参加してくださり、小児マネキンとポケットマスクを使った子どもの蘇生法とエピペンで2時間半で。
 

小児マネキンとポケットマスク

 
施設内の研修ですから、現実に即して日頃AEDが置いてある場所まで走って取りに行ってもらいました。ポケットマスクも現実的には日頃持ち歩くものではないので、まずは胸骨圧迫でCPRを開始して、AEDが到着したらポケットマスクで人工呼吸を開始、という流れで練習をしていきました。
 
講習会場で行う公募講習と違って、施設への出張講習では、シチュエーションを具体的に限定したトレーニングを行えるのが強みです。
 
エピペン研修では、BLS横浜得意のシミュレーション訓練で、119番通報の具体的なやり取りや、救急車の侵入経路の検討など、園としての救急対応全般について、全職員で同じ認識を持つことができました。
 
幼稚園や保育園、学校での救急法は個人技能ではありません。
 
システムとしての対応という視点が必要です。
 
救急法トレーニングは園を上げて行う防災訓練。
 
そんなメッセージが伝わったと確信を持てる感想を園長先生からいただけたのは、救命法インストラクターとしての喜びでした。
 
 
 

 
 

続きを読む


喉に物が詰まったときのファーストエイド【反応なしの場合】のメカニズム

ガイドライン2015のAHA-BLS講習で変わったところといえば、蘇生科学の解説が丁寧で詳細になったというところです。
 
旧G2010版ではハートセイバーコースにしか入っていなかった死戦期呼吸や心室細動の動画も盛り込まれましたし、古典的手技とも言える窒息解除についても、初めてそのメカニズムの説明が載りました。
 
ハイムリック法(腹部突き上げ法)で気道異物が解除できずに意識を失った場合は、「胸骨圧迫からCPRを行う」のが正解ですが、その理由が明かされています。
 

airway-obstraction.jpg

 
意識を失うと気道も含めて筋弛緩するため、隙間ができる可能性がある。そこに胸骨圧迫で間欠的に陽圧をかけることで異物が口腔内に押し出させる可能性がある。だから30回の圧迫を先に行い、そのあと口腔内を確認してから人工呼吸を行う。
 
このあたりはインストラクターでも知らない人が多かった印象がありますが、G2015ではプロバイダーレベルでの常識になりますね。
 
 


JRC蘇生ガイドライン2015-「ファーストエイド」策定の内情

今日、博多で開かれた日本蘇生科学シンポジウム(J-ReSS)に参加してきました。
 
ガイドライン2015発表後、最初のJ-ReSSだけに、ガイドライン2015の解説というのがメインテーマ。JRC2015の各章の共同座長の方たちが、ガイドライン改訂のポイントを説明してくれました。
 
中でも注目したのは、最後のファーストエイドについてです。
 

J-ReSS 日本蘇生科学シンポジウム in 博多

 
ファーストエイドという項目は、JRCガイドラインとしては今回初めて登場した章立てです。
 
すこし事情は複雑なのですが、AHA&ARCガイドラインとしては以前からファーストエイドがありましたが、今回の2015からCoSTR(国際コンセンサス)に格上げとなり、それにともない、日本版ガイドラインにも入ってきた内容です。
 
BLS横浜としては、日本語化されるまえにG2005時代からAHAのファーストエイドコースを手がけていますので、すっかりお馴染みの内容ではあるのですが、日本の応急手当の常識からするとかなり過激な内容となっています。
 
エピペン注射、アスピリン投与、止血帯、薬剤剤配合の止血包帯など、医療資格を持っていない人に求めるにはあまりに高度な内容。
 
日本版ガイドラインになるときには、CoSTRの内容がどれだけ日本国内事情に合わせてアレンジされているのかと注目していましたが、そのほとんどは、CoSTRやAHAガイドラインと同じで、ホントにこれで大丈夫なの??? と、クェスチョンマークが3つ4つ並んでもおかしくないくらいの内容でした。
 
なにかの間違いじゃないかと思っていたのですが、今日、ファーストエイド担当者の話を聞いて大いに納得。
 
結論からいうと、日本版のファーストエイドガイドラインとしては、「整備する時間がなかったから、CoSTERの忠実な翻訳に徹した」というのが真相とのこと。
 
詳しい事情はわかりませんが、CoSTERのファーストエイドの内容をもとに、日本版ファーストエイドガイドラインを策定するための時間が4ヶ月しかなかったそうです。
 
まったく新しい内容でもあり、作成者もファーストエイド教育への造詣があったわけではないようで、今回は「CoSTRをできるだけ忠実に翻訳することを目標とした」(発表スライドより)という点が明かされました。
 
内容を練ることが出来なかったため、明らかに不適切な部分は削除し、日本の事情に合わない部分は注釈を加えることで、どうにか発表日に間に合わせた、というのが今回のJRCガイドライン2015のファーストエイドです。
 
そう言われれば、なんとか納得できるかもしれません。
 
前回のJRCガイドライン2010のドラフト版もそんな感じだったなと思い出す方も多いかもしれません。
 
BLSやALSとは違って、今回からスタートしたJRCファーストエイドガイドライン。次回、5年後には日本らしさも入った本当のファーストエイド元年になることを願います。
 
 


JRCガイドライン改定-国際水準のファーストエイドがついに日本に!

明日はひさしぶりにハートセイバー・ファーストエイドコースを開催します。
 
ガイドライン2015が発表になって、日本で大きく変わった点といったら、やっぱりファーストエイドでしょう。
 
今回はじめて日本版ガイドラインにもファーストエイドの章が新設されました。これでようやく日本でも国際水準のファーストエイド文化がスタートすることになります。
 
この点、米国ガイドラインでは、少なくとも2005ガイドラインの時点で、ファーストエイドの基準を示していました。2010年では、ファーストエイド国際会議(ILCORとは別組織)を経て、ファーストエイド国際コンセンサスを策定、それを元にファーストエイドガイドラインを打ち出していました。
 
G2005時代には、日本でも「救急蘇生法の指針2005」の中では、ファーストエイドの項目があり、そこには米国版ファーストエイドガイドラインがほぼそのまま踏襲されて載っていたのですが、なぜか2010ガイドライン準拠の「救急蘇生法の指針2010」では、ほとんどアップデートされることなく、国際ファーストエイドガイドラインは無視した形になっていました。
 
というのは、ファーストエイド項目は、ILCOR(国際蘇生連絡協議会)の俎上には採択されず、国際応急処置学術審議会(International FirstAid Science Advisory Bord)という別の学術会議での扱いとなっていたからです。
 
一方、米国では、BLS/ACLS/PALS/NRPに関してはILCOR会議を経たものを、そしてファーストエイドに関しては国際応急処置学術審議会のコンセンサスをもって、AHAガイドライン2010を作成、その中には第12章としてファーストエイドが含まれていました。
 
今回、ファーストエイドの必要性が国際的に再認識されて、ILCOR審議にファーストエイドが乗りました。しかしそこで取り上げられるトピックは基本的に前身である国際応急処置学術審議会(International FirstAid Science Advisory Bord)の内容を踏襲していますので、以前からファーストエイド・ガイドラインを採用していた米国では、比較的マイナーチェンジだったと言えるでしょう。
 
G2005はともかく、G2010をスッポ抜かして、今回初めて公式初採択とした日本では、ファーストエイドの認識がガラリと大きく変わったといえます。
 
ということでファーストエイド・ガイドライン改定に関する温度差は日米では相当違うものであろうと想像できます。
 
 
さて、日本のファーストエイドはG2005で止まったままでした。しかし、アメリカ心臓協会のガイドラインは日本語訳されていますし、国際ファーストエイド・コンセンサスに基づいた、ハートセイバー・ファーストエイドコースも完全翻訳されて日本で細々とながら展開されていましたから、米国基準で学んでいたファーストエイド・プロバイダーにとって、それほど目新しい話はないかもしれません。
 
 
 
もし、今回はじめて国際的なファーストエイド・ガイドラインの概念に触れて、これまで日本で考えられていた応急手当の範囲を大きく越えた応急処置の考え方を知った方にとっては、G2010版のハートセイバー・ファーストエイドマニュアルから学んでみることをお勧めします。(最新の日本語情報はまだまだ限定的ですので)
 
多少、変更されたところもありますが、
 
・気管支拡張剤の使用
・アドレナリン自己注射器の使用
・胸部症状へのアスピリン投与
・止血帯(特に軍用ターニケット)の使用
・低血糖症状への糖分補給
 
など、既存の日本の応急手当の概念からは驚くようなトピックスを含んだ内容について俯瞰することができると思います。
 
G2015版のAHAファーストエイドコースができるのは、予定では2016年1月頃(英語版)です。
 
日本もガイドラインに従ってファーストエイド教育を始めるのかもしれませんが、これまでの内容とはガラリと変わるために、カリキュラム策定には相当時間がかかることが予想されます。またなにより指導員育成がネックとなるのではないかと考えられます。
 
いままでは、ハートセイバー・ファーストエイドコースは、あくまで米国基準だったため、日本国内での適応が難しい部分がありましたが、今後は、この差はぐっと小さくなります。
 
今後は、
 
ファーストエイドを学ぶならハートセイバー・ファーストエイドコースで!
 
と、強く言える時代になるのではないでしょうか。
 
 


ファーストエイド講習で学ぶこと|【知識ではなく考え方】

先日開催した、ハートセイバー・ファーストエイドコースにご参加頂いた方から感想のメールを頂きました。ご本人様の了承を頂き、一部をご紹介させていただきます。
 
今までは、講習の中でもおっしゃっていたように、傷病名ありきの対応で学んでいたので、実際現場では応用がきかないなと感じていました。今回の講習で、シュミレーションから知識と行動がともなわずこんなにも何もできなくなるのかと自分の状況を実感することができましたし、また、何を優先にして考え対応していけばいいのかを、繰り返し伝えてくださったので、そのことが感覚としてわかったのがものすごくよかったです。
 
 
ファーストエイド(応急処置)講習は、とかく病名やケガの羅列になってしまい、雑多な知識の押し付けで終わってしまいがちです。
 
そんな情報の海の中に一本筋を通すのが大切かなと思ってコース進行しています。
 
枝葉に目を向けると難しい印象のファーストエイドですが、幹に着目すれば、意外とシンプル。どんなケガや病気であれ、それが原因で命を落とすとしたら、原因はなにか? 人が生きる仕組みの破綻という視点や、酸素の流れで考えていくとわかりやすいです。
 
ファーストエイドは病名当てクイズではありません。幅広い知識がなくても、エッセンスさえ抑えておけばどんな場面でも、考え、行動できるようになります。
 
そこに気づき、納得し、考える姿勢を学べるのがシミュレーションという経験型の学習です。
 
ファーストエイド講習では、知識ではなくそんな「考え方」を、なるほどと思って体感してもらうことが最大の目的かなと思っています。
 
 

 
 
 

続きを読む


窒息対応ホントにできますか?【シミュレーションでわかること】

窒息解除法といえば、救命講習の中でも定番で、度重なるガイドライン改訂でもほとんど変わらない古典的な技術です。

一般の救命講習でも、ほぼ必ず扱っている内容なので、なにをいまさらと、感じる方もいるかもしれません。(特に指導員は)

しかし、訓練方法を変えて、シミュレーションベースでやってみると、様相は一変します。
 
 
誰もできない、のです。
 
 
日頃救命法の指導員をしているような人でも、セオリー通りに動ける人は、ほとんどいません。

こうした現状を見ると、しばしばニュース報道でも見るような、現実の気道異物窒息事故で適切に行動できなかったのは仕方ないことなのかなという気にもなります。
 
 
ということで、BLS講習や救命講習を手がけている方は、ぜひ窒息解除法のシミュレーションを講習の中に含めることをお勧めしたいです。

特別な道具は必要ありませんし、時間もほとんどかかりませんから。
 
 
私達がやっている窒息解除のシミュレーションのポイントは、

1.テーブルの前に椅子に座った状態
2.苦しがる演技(できれば派手目に)

です。

演技の迫真さ(?)が大切ですので、傷病者役はインストラクターがやっています。

受講者の中で誰か一人に第一発見の救助者役をやってもらいます。

腹部突き上げや背部叩打は”振り”だけで、力を入れないようにお願いしておきます。しかし、それ以外のことは本気でやってほしいことも。

その他の受講者はその場に居合わせた通りすがりの人ということにしておいて、なにか頼まれたら、嫌でなければ協力してもらうことにします。(拒否するというハプニングのシミュレーション的にはアリです)

そんなブリーフィングをしてから、職場の食堂などで食事中に喉にものを詰まらせたという設定で、インストラクターが気道完全閉塞の演技をはじめます。

そこで救助者は教わったとおり、腹部突き上げ法(ハイムリック法)や背部叩打法をしようとしますが、問題となるのは傷病者の姿勢です。

椅子に座った状態でどうやって、腹部突き上げ法や背部叩打法を実施するか?

そこでとまどう方が多いです。

教わったはずの立位の姿勢でないために、どうしたらいいかわからなくなってしまうのです。

 
助け舟を出す場合は、窒息介助の手順を思い出してもらいます。

いきなり背中を叩いたり、お腹を押したりはしないですよね?

まずは状況評価と救助の宣言。

「詰まったんですか? 今から助けますね」という事になってましたよね?

この時に、座ったままで背部叩打や腹部突き上げ法がしにくいようであれば、立ちあがってほしいという旨を伝えればいいわけですね。

もしくは自分が膝をついて傷病者の腹部圧迫を行うというのも手です。

肘掛けがある椅子の場合や、老人ホームの設定で車いすの場合は、自分で立ってもらうのも困難で、座位での腹部突き上げも難しければ、座ったまま出来る方法として、背部叩打法ということになるでしょう。

 

つまり、チョーキングチャーリー(窒息介助練習専用マネキン)相手に腹部突き上げや背部叩打の技術(テクニカル・スキル)を練習しても、問題となるのはその手前のノン・テクニカルな部分が重要な鍵だということです。
 
 
シミュレーションの中では、背部叩打や腹部突き上げ法だけでは終わらせません。ファーストエイドの基本は常に最悪の状態を想定すること。つまり、そのまま意識を失う演技を続けます。

意識を失うタイミングは、現実の時間で言うと1分~2分の間くらいです。

窒息解除法は意識(反応)がある場合とない場合でやり方が違ってきます。そこをきちんと認識して対応できるか、というのも、このシミュレーションのポイントです。

市民向け講習の中には、意識消失した場合の対応をきちんと教えていない講習もあるようですが、反応がなくなった場合は、床に寝かせて胸骨圧迫からCPRを開始するのが国際コンセンサス。

それがわかっていても問題となるのは、どうやって椅子から床に下ろすのかという点です。

ここで固まっていたり、試行錯誤しているうちに平気で数分が経過してしまいます。

人が息を止められるのは何秒か? そんなことを考えるとこの時間の遅れの重大さがよくわかると思います。

シミュレーションで学んでほしいのは、窒息介助は時間との戦いであるという点です。

この点と合わせて通報をどのタイミングで誰が行うかというのも問題です。

このあたりを受講者全員でディスカッションして、考えられるといいですね、
 
 
やっていることはあくまでもシミュレーションであって、リアルな現場ではありません。

シミュレーションゆえにどこまで本気になっていいかわからないからこそ、うまく行かなかったという部分もあるとは思います。

しかし心肺蘇生法の国際コンセンサスCoSTR2010のEIT(教育、実行性、チーム)の章でも明記されているように、いざCPRができなかった最大の要因は「パニックになった」という点です。

あたまが真っ白になる。それはリアルな現実でも起きることです。

知っているはずの技術がいざというときに使えないという現実をシミュレーションで知ることで、本当に動けるためには何が必要なのかが見えてくるはずです。

窒息解除もCPRとおなじで、決して難しい技術ではありません。

しかし、それはお作法をこなすだけの講習では使えるレベルでは身につかないという現実を直視すべきです。

ほんのすこしだけ踏み込んで、5分程度でできるシミュレーションを取り入れることで、受講者意識は劇的に変わるはずです。

せっかくの学びの時間をムダにしないために、、、、

ぜひ、指導法を検討してみてください。