ファーストエイド一覧

保育園ナースの専門性ってなに?

BLS横浜のサテライト、BLSくまもとのオリジナル企画。
 

保育園ナースの専門性とは? 小児BLSとアナフィラキシー対応(エピペン注射)できますか?
保育所ナースのためのワークショップ「保育園看護師の専門性とは?」 by BLSくまもと

 
子どもたちの命を預かる専門家として 、
『保育園 看護師』の専門性について再確認してみませんか。
 
保育園ナース同士の意見交換会です。
 
【ワークショップのテーマ】
 ・アレルギー・アナフィラキシーへの対応って?
 ・小児一次救命処置 PBLS (Pediatric Basic Life Support)って何?
 ・大人との違いは?
 ・こんな想定はしていますか?
 ・救急箱の中には何がある? 他
 
 
 

 
 
 
 

 

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喉にモノが詰まったときのセルフレスキュー

さて、お正月です。
 
この時期話題になるのが、餅による窒息。
 
他人が喉にモノを詰まらせた場合の対応は、救命講習でも指導されていますが、盲点なのは自分が喉に詰まらせたらどうするか? という点。
 
ガイドライン2000の頃は教えられていたのですが、最近はあまり話題にも上らないので参考まで書いておきますね。
 
ガイドライン2000当時、言われていたセルフレスキューの要点は次の二つです。
 
1.気道異物による窒息を起こしたことを周りの人に知らせる
2.救助が得られなければ、自分で自分に腹部突き上げ法を試みる
 
喉にモノが詰まったことを周りの人に知らせて助けてもらう、そのために考案されたのがチョークサインです。喉のところに両手を当てるあのしぐさです。
 
万国共通の窒息のサインなどといっていますが、昔の文献を見ると、このやり方を周知すべきである、と書かれていて、ある意味人為的なサインであることも伺えます。
 
米国ではそれなりに周知されているのでしょうが、日本においてはまだ有用といえるものではない気もします。
 
 
もし救助を得られなければ、自分で自分に腹部突き上げ法(ハイムリック法)を行うしかありません。
 
そのやり方として例示されていたのが、椅子の背もたれや、ドアノブなどの突起物を使う方法です。
 

窒息のセルフレスキュー:椅子を使ったハイムリック法(腹部突き上げ法)

 
突起に自分で腹部を勢いよく強く押し付けて、横隔膜を挙上させ胸腔内圧を上げて喉の詰まったものを飛ばそうという理屈。
 
どれだけ有効なのかはわかりませんが、「藁にもすがる」上での予備知識としては意味があるかもしれません。
 
 

 
 

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エピペンを巡る新展開

日本災害救護推進協議会 -JAEA-のホームページで、「反復継続の意思がない」市民救助者であれば誰でもエピペン注射ができる、とする厚生労働省の見解が示されました。
 
このことに驚かれた方も多いかもしれませんが、BLS横浜のファーストエイド講習に参加したことある方は、「ついに来たか!」と思われたことと思います。
 
そもそも医師免許を持った人と、診療の補助が認められた看護師以外には原則認められていない注射という医療行為。
 
それを医療者免許を持たない学校教職員と保育所職員が「できる」とされた法的根拠をご存知でしょうか?
 
それはひとえに「反復継続の意図がない」と厚生労働省が認めたからです。
 
医師免許を持っていない人が勝手に人に注射をすると、医師法違反が問われます。その医師法は医業を禁止する法律です。そしてその医業の定義は「医行為を反復継続の意思を持って行うこと」とされています。
 
つまり、「反復継続の意思がない」と認められる医行為は医師法違反にならないのです。
 
故に学校教職員がエピペン注射をしていいかと文科省が厚労省に聞いたら問題ないという回答を得たというわけです。
 

エピペン注射の法的根拠

 
 
子どもからエピペンを預かって、いざとなれば何度であっても注射をしようと備えている学校教員や保育士ですら、反復継続の意思がないと判断されるとしたら、、、、たまたまアナフィラキシー・ショックの現場に遭遇したレストラン従業員や通りすがりの人にこそ、反復継続の意思があるとは考えられません。
 
ですから、法律の仕組みを考えれば、学校教職員や保育所職員にエピペン注射がOKとされた時点で、すでに医療資格を持たない一般市民の立場の人が使えるというのは自明な話。
 
ただ、それが公式見解として確認されていないことが問題でした。
 
そこを厚生労働省に正式に問い合わせを行なったのが、NPO法人 日本災害救護推進協議会さん。
 
詳しくは、ホームページをご覧ください。
 
 
ここでくれぐれも勘違いしないでほしいのは、誰でも気軽にエピペン注射をしていい、という話ではないということ。
 
学校教職員や保育所職員の場合は、親からの信託を得て、ある意味契約を交わして、代理注射を行うという図式になっています。
 
バイスタンダー的に注射を行うのとはわけが違うという点です。
 
例えばサマーキャンプに引率する自然観察指導員などは、「学校教職員」ではないとしても、学校と同じように親御さんとの信頼関係のもとにエピペン注射を行うことは可能となることでしょう。ただ、いずれにしてもリスクを伴う行為なので、エピペンを預かるかどうかは自己判断、自己責任です。
 
学校教職員や保育所職員ほど守られていないのはれっきとした事実です。
 
また少なくとも、人に針を突き刺すという傷害行為と紙一重の注射行為。
 
普通はありえない話です。
 
そこは再確認しておきたいところです。
 
 
 

 
 
 

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ハートセイバー小児ファーストエイドコースの奥深さ

先日、7月末にリリースされたばかりのAHAの最新講習プログラム、Heartsaver Pediatric First AId CPR AEDコースを開催しました。
 

AHAハートセイバー小児ファーストエイドCPR AEDコース

 
Pediatricというのは、「小児」という意味です。
 
つまり、ハートセイバー小児ファーストエイド&CPR AEDコース。
 
AHAコースの中でもハートセイバーシリーズですから、「対応義務のある市民向け」です。
 
米国労働安全衛生局OSHAが定める、職業上必要な救命スキルの、ライセンス認証をするプログラムになります。
 
子どものいざというときに備えなければならない職種、つまり、主には学校教職員や保育士向けのやや高度な応急処置&救命処置講習です。
 
成人傷病者を対象としたハートセイバー・ファーストエイドは、オフィスから工場、作業現場まで幅広い守備範囲がありますが、このAHA小児ファーストエイドコースは、学校や保育所に限局されています。
 
そのためより深く、具体的にファーストエイドの真髄に迫っている感じがあり、’開催していても新たな気づきが多く、改めて「ファーストエイドは個人スキルではなくシステムである」ということを痛感するに至りました。
 
特に小児だからこそ、そうしたファーストエイドの本質が見えやすいのかもしれません。
 
例えば、皆さんもよくご存知の通り、小児の救命の連鎖小児は「予防」から始まっています。(日本版ガイドライン2010では、成人も小児も共通で予防からになりましたが、米国版AHAガイドラインでは、依然成人と小児で違います)
 
子どもは予備力が少なくて心停止に陥ってしまったらほとんど助からない。
 
また、子どもは呼吸原性心停止が多く、いきなり心臓が停まることは少ない。
 
こんなことから小児BLSでも予防、というか心停止に至る前からの介入を教えているのですが、それがファーストエイドになるとさらに顕著になってきます。
 
コースDVDの各論部分の解説でも、必ずprevention、つまり予防から論じられているのです。
 
またファーストエイドはシステムであるという点が何度も示唆されているのも興味深いところです。
 
例えば、学校での授業中に糖尿病による低血糖発作を起こした子どもを救助する場面では、教員は携帯電話で職員室(保健室?)へ電話して、その子の応急救護計画は用意されているかと聞くのです。
 
教員の個人スキルとして、低血糖発作だとは気づいて処置もわかっているものの、糖分の入ったジュースを飲ませるという処置の前には、持病を抱えた子どもに関する情報と事前の打ち合わせ内容を確認しているという場面です。
 
低血糖発作と判断して、糖分を摂らせるというのは、見方を変えれば、診断→治療です。
 
無理矢理飲ませるのでない限り、大きな害もありませんから、ファーストエイドの範疇でいいと思いますが、厳密にいうなら本来は医師にしか許されていない判断です。
 
そんな心理的な負担を現場の教員ひとりに負わせるのではなく、予めリスクがある子どもに関しては対応をプロトコルとして決めておいて、学校のシステムとして子どもを守る準備をしておく。
 
これが本来の学校にあるべき応急救護計画ではないでしょうか?
 
 
また、DVDで示される別の場面。これは保育園のようですが、乳児をこれから預けようとしているママさんが、園の見学に来て、説明を受けている場面があります。
 
そこで母親は保育園の緊急時対応計画について尋ねています。それに答える保育士の説明が見事で、園で行なっている事故予防対策、救急医療機関との連絡体制などを説明しつつも、「私達も皆訓練を受けています。医療機関に引き継ぐまでの対処は、応急処置の範囲としてはしっかりとやらせていただきます」と毅然とした笑顔で伝えていました。母親は赤ちゃんに語りかけながら、「これで安心してあなたを預けてママは仕事に行けるわ」と。
 
こうしたやりとりの中から読み取れるのは、学校や保育所などにおいて、ファーストエイドは教職員個人のスキルではなく、学校施設全体の安全管理システムとして構築しなければいけないということです。
 
養護教諭や保育園ナースがすべてを背負うのではなく、個々の教員も含めて、皆、システムの一部。それがうまく動くようにするのは「計画」なのです。
 
もちろん学校は医療機関ではありませんので、専門的な対応は求められていません。
 
基本は119番して救急車を呼ぶこと。
 
しかし、その119番にしても対応計画を練っておかないとスムーズな引き継ぎはできません。
 
例えば職員室の電話から119を押しても消防にはつながらないかもしれません。外線のゼロ発信が必要な場合もあるでしょう。
 
また学校のどこに救急車が到着するのか? 普段は閉じているゲートを誰が開けるのか? 誰がどういう経路で学校内を誘導するのか?
 
親御さんへの連絡体制も強調されています。
 
 
これまで、BLS横浜では、子どものファーストエイドは、AHAのファミリー&フレンズ・ファーストエイドforチルドレンを中心に開催しており、学校教職員向けにもそれでいいかと考えていましたが、ファーストエイドを個人スキルとして考えるか、システムとして捉えるか、という点で、両者のプログラムは決定的に違っているということに、いまさらながら気付かされました。
 
学校の先生たちにも、学校現場におけるファーストエイドはどうあるべきか、システムという概念で考えていただくためにも、Heartsaver Pediatric First AId CPR AED(HS-PFA)コースは価値があると思います。
 
 

 
 
 
 

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養護教諭/保育所ナースのためのエピペン&小児BLS講習

BLS横浜オリジナル企画「養護教諭・保育所ナースのための小児BLS&エピペン講習」が終了しました。
 
ガイドライン2010になって、日本の一般的な救命講習からは小児の蘇生が消え去ってしまいました。JRC蘇生ガイドライン2010では、学校教職員や小さな子どものいる親などは、小児BLSを学ぶように推奨されているものの、どこでそれが学べるのかと言ったら、ほとんど絶望的な現状。
 
ということで、BLS横浜では子どもの救命法普及に力を入れていく方針なのですが、その第一弾として企画したのが「養護教諭・保育所ナースのための小児BLS&エピペン講習」です。
 
いまや学校の先生に求められる救命スキルは心肺蘇生法だけではありません。
 
心肺蘇生法というより、むしろエピペンがクローズアップされる今日この頃。
 
両方合わせて、学校の先生、中でも救命処置に関して専門職である養護教諭・保育所看護師にフォーカスした講習を組み立ててみました。
 
養護教諭・保育所看護師に求められる救命スキルは、自身がCPRができてエピペン注射ができる、ということだけではありません。
 
現場で唯一の医療・保健職。
 
そこに求められるのは、現場マネージメント能力であり、現場での他職員への指導力です。
 
心肺蘇生法は養護教諭が行うべきではないかもしれません。特に胸骨圧迫など、自身が行なっていたら、現場全体を見ることはできませんし、指示を出すこともできません。
 
つまり、養護教諭・保育所看護師は自分自身がCPRができることに加えて、他の人、場合によってはほとんど訓練を受けていない人をその場で即興で指導して、CPRを実践してもらう「蘇生インストラクター的なスキル」が求められるのではないかと思うのです。
 
また、子どもであっても人工呼吸はする必要がないと言い切る、適切とは言いがたい指導が巷で行われている現状を考えると、子どもの心停止の仕組みを理解して、何が正しいやり方なのかを、受け売りではなく、人に説明できる力も求められていると言えます。
 
子どもの心停止の仕組みを理解し、子どもに最適化された蘇生法が実践でき、そしてそれを人に指導できるスキル。さらにいうと、ACLSのチームダイナミクス的な現場で人を動かす力。
 
そんなところに主眼をおいて、CPRを約3時間、エピペン部分で約1時間の講習を行いました。
 
もうちょっと心肺蘇生部分とエピペン部分を関連付けて伝えられれればよかったなとか、詰めが甘かったり、焦点がぼやけてしまった部分もありますが、参加された方たちにとっては、これまでにない学習体験となったようです。
 
今、世の中が求めている講習プログラム。それは申し込みの多さや見学希望の多さからも見て取れます。
 
今回いただいた感想などから、さらなるチューンナップをはかり、可能なら11月にまた開催したいと思っています。今回、キャンセル待ちいただいていた方たちも、次回、ぜひご参加いただけたらと思います。
 
 


セアカゴケグモに噛まれたときの応急処置

東京上野にある国立科学博物館にセアカゴケグモの標本が展示してありました。
 

セアカゴケグモ(国立科学博物館展示より)

 
セアカゴケグモは、西日本や九州の方は特によくご存知の毒グモ。
 
もともと日本にはいない外来種で、1995年頃に大阪で発見されて以来、問題となり、日本の各地でその生息が確認されています。数年前に北九州の公園で大量に捕獲されたニュースを記憶している方も多いことでしょう。
 
毒クモというとタランチュラのような大きなクモを想像するかもしれませんが、セアカゴケグモの体調は大きくて1センチくらい。おなかが丸いのが特徴です。足が長いので全体としてはもっと大きく見えるかもしれません。
 
名前のとおり、黒い体に赤いラインがはいているのが特徴。
 
同種の毒グモで、ハイイロゴケグモというのもいて、黒や赤とは特徴が違うこともありますが、形や大きさは似ています。
 
攻撃性のあるクモではないので、触らなければ大丈夫といわれています。
 
気になる毒ですが、死ぬことは稀で、痛みや腫れといった局所反応で終わり、特別な治療は必要としないケースが多いそうです。吐き気や循環動態の変化などの全身症状に至ることも多くはなく、20%程度とのこと。
 
噛まれた場合、痛みの出かたに特徴があって、直後はほとんど痛みを感じず、5分~60分ほどしてから痛みが出現、時間と共に手足(噛まれた肢)に広がり、リンパ節の痛みが出てくるといわれています。熱感や痒みが出ることもあり3時間くらいの間にこれらが起こるそうです。
 
全身症状はかならず出るわけではなく、出たとしても1時間~12時間など比較的ゆっくり発現するようです。全身への痛みの広がり、発汗、振るえ、発心、嘔吐、呼吸困難、めまいなど。
 
それでも死に至ることはあまりなく、治療をしなくても多くは1週間以内に軽快するということを知っておくと安心できるかもしれません。
 
命に関わることは少ない、ひどく急ぐ必要はない。
 
ですから、落ち着いて医療機関へかかる、で、大丈夫です。
 
医療機関にかかるまでの処置としては、一般の虫刺されのファーストエイドと同じです。
 
噛まれた部位をよく洗って、冷やす。
 
切るとか吸うとか縛るといったことは推奨されていません。
 
全身症状を緩和させるための血清も地域によっては置いてあります。
 
もっとも血清は副作用が大きいため、必ずしも使うわけではありませんが、治療方針の決定のために、可能なら噛まれたクモを殺して病院に持参することが勧められています。
 
ただ、クモを殺すために二次被害にあっては本末転倒ですので、殺虫スプレーなどがあり、安全にできるのであれば、です。今の時代、スマートフォンで写真を撮るというのも有効かもしれません。
 
攻撃性はないクモなので足で踏みつけて殺すということもできますが、原型をとどめていないと判断できないので注意が必要です。
 
 
 
余談ですが、セアカゴケグモは漢字で書くと、背赤後家蜘蛛。
 
後家というのは未亡人のこと。この種のクモは、交尾後、メスがオスを食べてしまうという習慣があるためにこう呼ばれるそうです。
 
英語ではRed back spirderですが、文献によっては、Red-back widow spiderとも書かれています。
 
widowは日本語で未亡人。まさに直訳そのまんまですね。
 
 

 
 

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服が燃えたとき(全身熱傷)のファーストエイド

福知山市の花火大会会場で起きた爆発事故の報道では、目撃者のコメントとして、「人が燃えていた」というものがありました。
 
飛び散ったガソリンが体や服に付着して燃えていたものと思いますが、服に引火するという事故は焚き火などのアウトドア・レジャーでも起こりえます。
 
特に最近の衣類は化学繊維が多いため、一度火が着くとあっという間に燃え広がる恐れもあります。
 
もし、服や体に炎が引火している人がいたら、どのように救助ができるでしょうか?
 
AHAハートセイバー・ファーストエイドコースで言われているのは、「地面に倒れて! 転がって、転がって!」と声をかけること。
 
服に火が着いた人は気が動転して、炎をから逃げようとして走り回る傾向があります。
 
走ると風を受けますから、炎はかえって大きく燃え広がります。そこで先ほどのような掛け声になるわけです。
 
転がって地面に燃焼部分を押し付けて火勢を落とします。可能であれば厚手の衣類などをあてがって火を消します。ただ、薄手のナイロンジャケットなどだと逆に引火の可能性もあるので注意。
 
炎をが落ち着くまで転がってもらうというのが、現実できることかもしれません。
 
いずれにしても、救助者の安全が第一。ガソリンがあちこちに飛び散った場所であれば、遠くから声をかけること、しかるべき救助要請をすぐに行うことだけでも十分な援助です。
 
火が消えた後は、通常のやけど処置と違って「冷やす」のではなく、乾いた毛布等や、理想的にはエマージェンシーブランケット(薄いアルミのシート)のような皮膚に張り付かない素材のもので覆い、保温をします。皮膚が破綻すると体温調整が利かなくなって低体温になりやすいのと、全身やけどを負った人が命を落とす主な原因は、感染だからです。
 
体を覆うまえに、指輪などの装飾具をはずす、というのも大事なポイントです。この後、間違いなく腫れてくるからです。皮膚に張り付いておらず無理なくできるのであれば衣服も取り除くことが勧められています。
 
 
 

 
 
 

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「助ける?助けない?何をする?」― 応急救護の選択

応急救護に関して、「助けない」という選択肢があると公言することに関してご意見をいただきました。
 
手当を必要とする人が、手当を受ける機会を失することが無いような指導をお願いしたいという趣旨で、あえて、「助けない」という選択肢の存在を強調することを危惧するご意見でした。
 
確かにTwitterという140字という文字制限がある中での発言としては、部分的に切り取られると、真意が伝わりにくく、不用意であったと反省しております。
 
そこで改めて、「助けない」という選択肢の意味について説明させていただきたいと思います。
 
なお、ご指摘を受けた文章の全文はFacebookページのこちらに掲載されています。Twitterではこの文章を5分割して投稿しました。当該ツイート部分だけ、一人歩きを避けるという点で、削除しています。
 
 
まず、根本として理解していただきたいのが、BLS横浜は蘇生ガイドライン2010のコンセプトを受け継いで、心肺蘇生法講習をゼロから見なおした、という点です。
 
ガイドライン2010はこれまでにない画期的な内容です。これまで、こうすべきという蘇生科学上の理想に重きが置かれがちだった心肺蘇生法に「実行性」という、現実主義が持ち込まれたからです。
 
このことは心肺蘇生法の国際コンセンサスCoSTRに、EIT(education, implementation and teams)という新しい章が作られたことからもわかります。日本版蘇生ガイドラインでも「第七章:普及・教育のための方策」として採用されています。
 
例えば、誰もが心配する「胸を押したら骨が折れるんじゃないか?」という懸念。

それに対する答えを科学的に導き出して、迷ったら胸を押せという方向性を支持しています。

一方で、これまでとかく市民向け講習では、難しいとか、生々しすぎるという理由で言及が避けられがちだった死戦期呼吸に関しても、指導の必要性が強調され、映像教材の使用についても推奨されています。
 
あとは、「楽しく学びましょう!」とガイドライン2005以降の風潮に相対するかのように、CPRは肉体的にもハードな運動である点を講習の段階で伝える必要性が言及されています。

その結果、例えばAHAのBLSヘルスケアプロバイダーコースでは、胸骨圧迫練習はすべて5サイクルさせて、”ハードさ”をあえて体感させるような教材設計に変更されました。(結果、手の皮がむける人が続出していて、講習には絆創膏が欠かせません)
 
このように、これまでは、一般市民にとっては絵空ごとに近い観念的な学習体験であった救命講習にも、現実さが求められているのがガイドライン2010時代の蘇生法講習の在り方です。
 
そこで、BLS横浜では抜本的に講習を見直しました。変更点をあげたらキリがないのですが、例えば、、
 
・マネキン相手では呼吸確認練習はできない → 生身の人間で「呼吸あり」状態を認識する訓練
・「あなた119番!」では通報してくれない → 119番通報練習
・「周囲の安全ヨシ!」では、安全確保ができない → 具体例を示し、安全確認と安全確保の違いを理解してもらう
・一人では救助活動はできない → 周囲の人との協同、役割分担を体験、練習
 
といった工夫をしています。これらはできるかぎり、シミュレーションの中で、受講者自ら気づいてもらえるように務めています。
 
このように「現実」にフォーカスすると、さまざまな問題が浮上してきて、複雑な感情が沸き上がってきます。
 
現実問題、路上で膝をついてCPRをすれば、ズボンは汚れますし、女性でストッキングだったらボロボロになります。(女性研修医の救命事例の報道でそうものがありました)。また、とある有志の実験として1時間路上でCPRを続けたら膝から流血したという報告もありました。
 
ましてや、とかくありがちな交通事故の対応の場合、救助者に駆け寄る前にしなくてはいけない点がたくさんあります。傷病者の安全よりは、周りの人たちの安全ですし、なにより自分自身の安全。
 
救命講習を受けていて、救命スキルが心得がある方は、とかく要救助者に目が向きがちですが、要救助者の優先戦順位は最下位です。多くの状況では、安全確保だけで手一杯、さらには周りの人の安全配慮だけで終わってしまう場合が多いです。救命講習の場面のように、要救助者に取り付ける場面は現実、あまり多くありません。
 
高速道路の事故などを想像してもらえば、理解しやすいと思います。この場合、車外に出て救助に向かうのはNGです。バイスタンダーとして出来ることは、道路公団や警察に通報すること。これが最大のファーストエイドです。さらにできることと言ったら、それが適正かはわかりませんが、安全な路肩から発煙筒を投げて、後続車への注意喚起をするくらいでしょうか。
 
このように、安全確保には明らかな優先順位があるのです。
 
自分 → 仲間 → 周りの人 → 傷病者
 
こうした現実問題に触れると、何がなんでも助けるべき、という考え方には自然となりません。
 
新聞や雑誌の見出しで、「レスキュー隊、決死の救助活動!」みたいな見出しが踊ることがありますが、決してそんなことはありません。危機管理のプロは勝算がある管理された行動しかしません。なにが危険かを判断し、それを回避しつつ助ける準備と公算があるから、救助に向かうのです。もちろんリスクはありますが、少なくとも命がけではありません。
 
ですから、当然、準備が整うまでは救助には向かいません。
 
海で沖に流された人がいて、先に救急車が到着しても、救急隊員が海に飛び込んで助けるということはあり得ません。ボートなり、水難救助の訓練を受けた人が来るまでは、残念ながらなにもできないのです。
 
これはまさに、「助けない」という選択です。
 
 
こうした現実を救命講習の中で考えてもらうことは、「手当を必要とする人が、手当を受ける機会を失する」問題ありな指導なのでしょうか?
 
安全にできることだけをする、それが私たちが伝えたい最大のことです。
 
CPRは現実、それなりのリスクがあります。精神的なインパクトは大きく、ほぼすべての人が多かれ少なかれ、心的外傷を受けます。
 
自信がない人は、あえて手出しはせず、119番通報し、人を集めるだけでも、それは立派な救助活動です。
 
そこで、自分の手ですぐにCPRを開始しなかった、ということが返って自責の念として後遺症となる可能性もあります。そういった方は、自信がつくまで訓練してほしいと思います。
 
ですから、プロのための講習(BLSプロバイダーコースハートセイバーCPR AEDコース)では、一人一体のマネキンを準備して練習量を多く取っていますし、その後、無料の復習参加の機会を提供しています。躊躇することがないように、後悔することがないように、いつでも感染防護手袋を持ち歩くことの大切さも強調し、ファーストエイド講習ではニトリル手袋を配布しています。
 
どこまで介入するかは、救助者ひとりひとりの訓練と準備の程度によってまったく違うのです。
 
これをしなくちゃいけない、という決まりは、対応義務のある人(医療者、学校教職員、警備員、スポーツインストラクター等)以外はありません。対応義務があり、準備をしていても、現実100%のことは難しいでしょう。
 
無理なくできる範囲でやればいいし、そもそも自分の心と体、さらには付随して自分の家族を守る上で必要があれば、あえて見て見ぬふりをするのも選択肢のひとつです。(できれば119番だけでもしてくれると嬉しいですが、それですら難しい精神状態も理解できます)
 
そうしたあらゆる選択肢を持った上で、できれば、すべての人に適正な訓練と準備をしてもらい、いつでも積極的に行動ができるようであってほしいと願っています。
 
東日本大震災のときに、世界的にも稀有といわれる日本人の善良さがクローズアップされました。日本人は助けたいという思いを潜在的に持っている。だからこそ、安全認識を正しく持ち、救助者と救助者の家族が不幸な目にあってほしくないのです。
 
少なくとも私たちは闇雲に、受講者の恐怖心を煽るような講習はしていませんし、無関心を増長するような講習展開もしていません。
 
もし救急法指導にあたる立場の方で、疑問に感じる方がいましたら、見学参加ウェルカムです。
 
見てもらった上で、直接ご意見いただけるとうれしいです。
 
 


エピペン注射の仕方は日米で違う!

BLS横浜では American Heart Association公式のファーストエイド講習 の中で、2008年頃よりエピペン注射の指導を行ってきました。
 
日本でエピペン(アドレナリン自己注射器)が薬事承認を得たのが2003年、当初はハチ刺されによるアナフィラキシーのみが適応でしたが、2006年から食物アレルギーにも適応範囲が広がり、今に至っています。去年あたりから事故が相次ぎ、今ではよく知られるようになりました。
 
エピペンってなに? という時代から、その指導を行なってきたので、日本の中では古参に入るかと思いますが、私たちはずっと米国の法定講習の中で教えてきたため、気づきませんでした。
 
どうやら、日本と米国ではエピペン注射の指導の仕方が若干違うようなのです。
 
この写真は、練習用エピペンの英語版と日本語版を並べて撮ったものです。
 

エピペン・トレーナー日米の違い

 
お気づきでしょうか? 注射の打ち方と、注射後に押し付けておく秒数が明らかに表現が違っています。
 
(米国)
・振りかぶって強く押し付ける(Swing and firmly push)
・10秒間保持(Hold on thigh 10 seconds)
 
(日本)
・強く押し付ける
・数秒間待つ
 
振りかぶって注射をするのは、前から危険だなと思っていて、当時、ガイドライン2005版のファーストエイド講習ビデオのデモンストレーション映像は、監修ミスかな、米国ゆえの大雑把さかな程度に考えていたのですが、新しくリリースされたガイドライン2010版ハートセイバー・ファーストエイドDVDでもみごとに振りかぶって注射をしています。
 
でも、このエピペン練習器の表記に気づいて、それは米国では正しいやり方だったのだと悟りました。(当時は旧タイプのトレーナーを使ってました)
 
また注射器を大腿に押し付けておく時間も、私たちはAHAのテキスト通り、10秒で教えていましたが、最近、保育園や小児科クリニックで指導させていただく中で、痛がる子どもを制しつつの10秒は長すぎるよね、ということで、AHA講習以外では数秒間保持という言い方に変えるようにしていましたが、実はこれも日本では公式なメーカー推奨のやり方だったことに後から気づいた次第です。
 
 
日本国内で他人に対してエピペン注射をできるとされているのは救急救命士を除けば、学校教職員と保育所職員。つまり注射を打つ相手は子どもに限定されています。
 
子ども故に怖がって暴れたり、太さ22G(ゲージ)、長さ1.5cmの針が刺さって痛いことを考えると、振りかぶると打ち損じたり、針が曲がったり、最悪折れる危険があります。また痛みを訴える中、10秒押し続けるのは困難。
 
そんなことはシミュレーション・トレーニングの中でも浮き彫りになってきます。
 
そういった意味では日本流の指導法は妥当と思います。
 
AHA公認講習(ハートセイバー・ファーストエイド)は、米国労働安全衛生局OSHAの労働ライセンスを発行する以上、米国流の注射の仕方で教える必要があり、そこは変更できません。特に注射時間の10秒というのは実技試験で問われている項目でもあるからです。
 
この点を注意しつつ、私たちは受講対象や講習の種類に合わせて、適正に指導を行なっていきたいと思っています。
 
 
 

 
 
 

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米軍基地内、憲兵隊(警察)のファーストエイド訓練

米軍基地内で行なわれた憲兵隊のCPR/First Aidトレーニングにお邪魔してきました。
 

米軍憲兵隊のファーストエイド訓練   米軍MPのFirst Aidトレーニング

 
在日米軍基地の中は米国です。
 
軍人はもちろん、基地内で働く従業員は米国内の法律や基準が適応されます。
 
それは心肺蘇生法教育などの職場安全対策も、、、
 
空軍、海軍、陸軍によっても多少の違いはあるようですが、軍人にはヘルスケアプロバイダーレベルの心肺蘇生法スキルが求められています。
 
また基地内のカスタマーサービスや技術系職員には、対応義務のある市民救助者としてHeatsaver CPR AEDライセンスの取得と2年ごとの更新が義務付けられています。
 
半年ほど前には米空軍横田基地で行なわれた電気技士さん向けのHeartsaver CPR AEDコースの手伝いに行かせてもらいましたが、横田基地ではカード自体は2年間有効でも、実務を考えて1年毎の更新にしているそうです。
 

AHA military Training NetworkのハートセイバーCPR AEDコース修了カード
▲AHA MTNの修了カードは独自デザイン。通常のAHAカードと互換性は保障されてます

 
日本国内と違って、教える方も教わる方もどちらも正式な業務のひとつとしてAHA講習が開催されています。
 
意識の高い人が自費で外部講習を受けに行くのではなく、職業義務なのです。米軍基地内では病院や、消防、憲兵隊など、セクションごとに職員にAHAインストラクター資格を取らせて、部署内のCPR教育をしています。
 
 
さて、今回は基地内で働く憲兵隊の定期訓練として行なわれたHeartsaver First Aid CPR AEDコースでした。憲兵隊というのは軍の中の警察官。基地のゲートで警備に当たっている人たちはたいてい憲兵隊員です。
 
ユニフォームが一般兵士と同じなので、パット見ではわかりませんが、胸元の徽章をみると、Policeという文字が。
 
憲兵隊は元々は軍人と同じヘルスケアプロバイダーコースを受講させていたそうですが、パトカーにはバッグマスクを積んでいないことや、病院外での安全的に不安定な場所での活動が中心ということで、ハートセイバーコースに切り替えたという経緯があったそうです。
 
 
 
ハートセイバー・ファーストエイドコースは、G2010版から公式日本語化されて、日本国内でもチラホラと開催されるようになっていますが、コースの中身は米国職業安全衛生局OSHAの法定講習。
 
日本の救急法とは基本概念も基準も違います。それゆえに日本国内で開催する上では、法律の問題とか注意が必要なのですが、米軍基地内はまさにアメリカ。
 
注釈なしにビデオを流すだけで済むのかと思いきや、、、
 
実際のところ、米軍基地内での講習の方が複雑で、さまざまな追加説明を加えないといけないことが判明。意外な驚きでした。
 
どういうことかというと、基地内で米国人に対して救護をするときは、講習内容どおりでいいのですが、基地内にはかなりの数の日本人従業員が働いています。傷病者が日本人の場合は扱いが違ってくるようなのです。
 
例えば救急車を呼ぶ場合でも、米国人なら基地内の病院へ救急要請を行います。しかし日本人の場合は、基地の外から日本の救急車を呼ぶことになるとのこと。しかし日本人であっても軍人の配偶者の場合は、119番ではなく、基地内の病院へ。
 
さらにゲートを一歩出ればそこは日本。プライベートで基地の外にいるときに、どこまでやってよくて、どれはしたらいけないのか、などふたつの基準を学ばなくてはいけない。そんな複雑さがあるようでした。
 
受講者からの質問もそんなところに集中していました。
 
「自分たちは基地の中ではエピペンを使えるけど、ゲートを出たらダメなのか?」とか。
 
日米の細かい法律の違いや、エピペンの扱い方などを含めて説明するには、インストラクターにも普通以上の勉強が求められる、そんなことを感じました。
 

米軍パトカー内に配備された個人用感染防護具PPEキット  日本ではあまり見ないCPR練習マネキン

 
 
ハートセイバーコースは、職業上、蘇生や応急救護を行なう必要がある人向けのプログラム。
 
憲兵隊、つまり警察官はもちろんそれに該当します。
 
講習の最初に、救助者の責任や血液感染への理解や、安全確保についての単元があるのですが、このあたりは日本の講習ではあまり見られない真剣で現実的なやり取りが見られました。
 
「制服を着た憲兵隊である皆さんには、手を出さないという選択肢はありません。そして一定の責任が生じるのです」
 
そんな前置きに大きくうなづく隊員たち。
 
本来のハートセイバーコースはこういうものなんだよなという点に感動でした。
 
 
話は飛びますが、数ヶ月前に、日本の警察官が不適切な応急手当をした結果、低酸素脳症で命を落としたという事件の判決がでました。1億2千万円の賠償金の支払を求める最高裁判決でした。
 
日本の警察官も救急法を勉強していないわけではありません。少なくとも就職直後の警察学校時代にはなんかしらの教育は受けているはずです。
 
しかし、心肺蘇生法は運動スキルですから、使わなければ、もしくは練習をしなければ半年もしたら完全に忘れてしまいます。また救急法の知識もしかり。しかも心肺蘇生法もファーストエイドも5年ごとに見直しが行なわれて、変わっていきます。特にファーストエイドはもともと医学的根拠が少ない分野ですから、5年ごとにころころと変わります。
 
つまり、救急法訓練は定期的にアップデートしなければ使えないのです。
 
もしかしたら、昔の救急法では、けいれん発作を起こした人には口に何かを入れて舌を噛まないようにと教えていたかもしれません。しかし、いま、それは完全に否定されています。
 
昔の知識、今となっては間違った情報を信じて、その通り行なって招いた不慮の事態。加害者にとっても被害者にとっても残念な事態としかいえません。
 
だから、救急法訓練は常に最新のものを受講し、更新し続けなければいけないのです。
 
今回、米国の警察官(憲兵隊)の訓練に立ち会わせてもらって、日本に足りない救命意識、特に職業上の責務としての救護の法制化の意義を改めて考えさせられました。