救命法普及と実行の方略一覧

服を切るトレーニング【AEDパッド装着】

今日は病院からの依頼でBLSプロバイダーコースを開催しています。

10分間のチーム蘇生では、いつもマネキンの服を3重くらいに着せて、一番内側は前開きできないシャツにしています。

いつもだと、皆さんは、なんとかシャツの裾をたくし上げてAEDパッドを貼ることが多いのですが、今日は、戸惑っているのAED担当を見た胸骨圧迫役の方が「ハサミを探して!」と建設的な介入。AEDのケースの中にあったハサミを見つけて、サクッと服をカット。

襟元から少し切れ目を入れた後は、手で引き裂くという時短ワザ、すばらしかったです。

実際の現場を想定した練習、大切ですね。

胸骨圧迫中断の時間を短くし、CCF(胸骨圧迫比)を上げようと思ったら、着衣の人に対して服をはだけるか、ハサミで切るかの判断をさせて、実際にやってもらうトレーニングをしておかないと、実際の現場でハサミで服を切るという発想、ふつうの人にはありませんし、無理です。

今日のケースでは、ハサミを使うという判断はたいへんすばらしかったのですが、服の正中を切ったため圧迫の中断が生じてしまいました。

胸骨圧迫を続けながら、服を着るならどこにハサミをいれたらいいか?

この部分は、シミュレーション後のデブリーフィングで皆さんで考えていただきました。

こういう体験をすると、忘れませんし、次回は実際に「できる」可能性も高まります。


市民が行う応急的に行う医行為ーそのリスクの比較

もともと市民向けの救急法の中には、医療行為は含まれない、というのが原則でした。

しかし、気づけば今はがっつりと医行為が入り込んできています。

  • 除細動(AED)
  • アドレナリン筋肉注射(エピペン®
  • 緊縛止血(ターニケット)

止血帯(ターニケット)とAED、エピペン注射。どれも市民が行う医行為ですが、リスクと危険性は違います

 
いずれも救急車を待つのでは間に合わない緊急を要する処置であるため、特例的に「医師法違反」を問わないという行政見解が出されることで市民向けにも教育がされるようになったものです。

もともと医療行為を医師以外が行うことについては、極めて慎重な姿勢があったのがこの国の特徴でした。

例えば、救急救命士精度が導入されるときの喧々諤々を医療関係者なら覚えているかもしれません。

最近で言えば、看護師に特定行為として医療処置に関する業務拡大についても紆余曲折がありました。

救急救命士や看護師と言った医学教育を受けた専門職が前提であっても、自身の判断で医療行為を行うことはまかりならない、というのが本来の医行為の「重さ」だったわけです。

この本来のスタンスを医療従事者や救命法の指導員は忘れてはいけません。

AEDによる不要な除細動実施のリスク

一般市民がAEDを使えるようになったのは、「反復継続の意図がない」という行政による合議により、医師法違反は問わないという解釈が成り立ったからですが、その背景には、AEDは自動解析機能により、不要な除細動を排除できるという「安全機構の存在」がありました。

必要のない人に除細動を実施してしまうリスクは低いという点が、機械的に保証されていたことが大きいです。(ただし脈ありVTに対して不要な除細動をしてしまうリスクが無いわけではないため、救助者は心停止確認をしてからAEDを装着する必要があります)

エピペン®誤注射のリスク

時系列でみたときに次に市民による医行為として上ってきたのがエピペン®によるアドレナリン自動注射です。

こちらは自動解析機能のようなものはありませんので、注射をする、しないの判断は注射する当事者である一市民が行うことになります。

判断をAEDのコンピューターに丸投げできる市民による除細動と比べたときには、格段にリスクが大きいと言えます。

ただし、現時点、行政文書で言及されているエピペン®注射を行える一般人は学校教職員と保育所職員だけというのがミソです。どちらも施設で預かっている児童・幼児を想定しており、見ず知らずの誰かに対して注射するわけではありません。

注射判断は、当該児の保護者だったらいつ打つか、ということを綿密に確認した上で行われるはずです。

また当該児は、アナフィラキシー発症リスクが診断されているからエピペン®を持っているのであって、その子がこういう症状が出たら打つようにという保護者が医師から受けた指示に従うだけです。症状の理解等の医学的な判断が求められているわけではありません。

ある意味、条件反射的に使えるのが、学校教職員と保育所職員のエピペン®注射です。

つまり、「エピペン®を預かる」というプロセスが、安全機構のシステムにもなっており、誤注射の可能性低く担保されていると言えます。

ターニケット誤使用のリスク

市民が行う医行為として3番目に上ってきたのが、止血帯(ターニケット)による緊縛止血法です。

こちらは、2019年4月から市民普及が始まるところなので、実際のところどのように運用されるのかは、今は未知数のところがありますが、使用するかどうかの判断は機械任せではなく、現場にいる人間が行うという点ではAEDと違ってリスクがあります。

またエピペンと違うのは、使う相手が不特定多数であり、エピペン®のような使用すべき個別判断というものはありません。

救助者が、現場とケガの状況を見て、持っている知識や経験の中から判断し、決断しなければなりません。
 
 
止血帯(ターニケット)とAEDの危険性の違い

参考まで、こちらはBLS横浜のターニケット講習の際に示している表です。AEDと同じように止血帯の普及を! という意見を見聞きすることもありますが、AEDとターニケットを同列で語るには無理があるという点がおわかりいただけるかと思います。

拍動性の動脈出血=止血帯適応ではない

一般の人にとっては衝撃的な動脈からの拍動性の出血。見たことがない出血の様子に、止血帯適応と早合点するかもしれませんが、圧迫可能な創面であれば単純な圧迫止血で対応できる場合が多く、止血帯までは必要ない症例が多いでしょう。

例えば、大腿部の切断や、爆創や大型機械への巻込みなどで創面が複雑な場合など、客観的に止血帯が必要な状況というのをリストアップして、機械的な判断ができるようなガイドラインが作成されれば、また別かもしれません。

しかし、現時点では、ターニケットを使うためには、下記の項目を理解して、医学的な根拠をもって、現場でアセスメントして止血帯使用の有無を判断するようにということになっています。

  • 出血に関連する解剖、生理及び病態生理について
  • 止血法の種類と止血の理論について
  • ターニケットの使用方法及び起こりうる合併症について

医学的な理解を持って判断して、医療行為を行うように。

つまり「診断」が求められているという点が、これまでのAEDやエピペンとは決定的に異なる部分です。

市民に診断を求めるというターニングポイント【ターニケット】

「診断」という言葉の重み、医療従事者や福祉専門職にとっては身に染みて感じるところでしょう。

市民が行う医行為について、時系列で考えてきましたが、ターニケット緊縛止血が今までと決定的に違うのは、診断をした上で使うという、これまで市民救急法ではありえなかったことを市民に求めるようになってことにあります。

AEDもエピペンも診断は必要なかったので、そのトレーニング(AED講習やエピペン講習)は、テクニカルな手技をトレーニングするだけでも成り立ちましたが、止血帯は、その適応判断という診断をも教えなければいけないのです。

 
医学の素養のない市民に診断を教える
 

ターニケット講習は、極めてハードルが高いものです。

問題としたいのは、そのカリキュラムだけではなく、指導員の知識と理解、認識です。

本稿を読んでくださっている方は、この先、ターニケットを市民に教えなければいけない立場の方が多いと思いますが、本稿を読み、どのように感じたでしょうか?

教えるだけの知識や理解を持ち合わせていますか?

もしくは指導員のための教育カリキュラムで、これらのことがきちんと伝えられていますか?

現時点、指導員のための伝達講習が進行形で、実際の市民向け教育はこれからかと思います。だからこそ、この時期にターニケット教育に関する情報を集中的に提供させていただいています。


心停止|生存のための方程式

防ぎうる死から命を救うにはどうしたらいいか?

アメリカ心臓協会AHAは、2018年にこんな方程式を発表しました。

 

蘇生科学 × 教育効率 × 現場での実践 = 生存

 
科学と教育と実践が掛け算になって、生存につながるというのです。

これらは乗算ですから、どれか一つでも1以下になると生存という効果にマイナスに働いてしまいます。

教育の果たす役割

図のバランスを見てもらえば分かる通り、中でも大きなウェイトを占めているのが教育効率です。

いかに効果的な教育・トレーニングを実施するか? という点。

さらにはその教育トレーニングが医学的にも教育学的にも科学に基づいたものであること。

そしてその教育実践者を育てること。

この教育は教育現場で終わる話ではなく、学んだことを実際の現場に応用して実施することが目標です。

そこまでカバーするのが、教員・指導員の役割です。

この図からわかることは、指導員はクラスルーム内だけではなく、現場実践の部分までをフォローすることが見て取れます。

教えたら助けられるようになるのか?

私たちは救命スキルの指導員としていつも自問するのは、トレーニングを実施すれば人が助かるのか? という永遠の命題です。

私たちは、受講者がCPRをできるようにトレーニングします。そしてその評価は、例えば実技試験合格といった形で評価され、受講者を送り出していきます。

やもすると、実技試験に合格することがゴールと錯覚してしまうことがありますが、実技試験の先には、現場での実践があり、その先には生存があるわけです。

果たして、講習会場内で実施するCPR実技試験に合格したら、現場でCPRができるようになるのでしょうか? そしてそれで助けられるのでしょうか?

実行性重視の波はG2010から始まった

教育団体としても定評のあるアメリカ心臓協会は、長年蘇生教育に関しても研究を続けてきました。

その中で大きなターニングポイントとなったのが2010年の蘇生ガイドライン改定でした。ここで医学的妥当性よりも現場での実行性を優先するという方向で大きく舵を切りました。

それが、例えば「見て聞いて感じて」の廃止や、A-B-C から C-A-B への変更だったわけです。

そして2015年のガイドライン改定では、Life is Why.というキャッチコピーを打ち出し、マネキン相手の絵空事の練習から抜け出すべく、リアルな日常生活という現実性を想起せよ、という強いメッセージを盛り込むようになってきました。

そうした流れを学術的にまとめて発表されたのが、2018年にCirculation誌に掲載された、

Resuscitation Education Science:
Educational Strategies to Improve Outcomes From Cardiac Arrest: A Scientific Statement From the American Heart Association

でした。

約30ページの論文で、PDFで無料配信 されています。冒頭の図はこちらからの引用になります。(日本語はBLS横浜オリジナル訳です)

今まで、救命は医科学で考えられてきましたが、そこに教育工学という武器をもって切り込んでいったのがAHAです。

そこで教育を変えれば生存確率が上がるのではないか? そのための方策は? ということで、

  • フィードバックとデブリーフィングの使い分け
  • 完全習得学習と計画的な練習
  • 反復学習
  • 革新的な教育方略
  • 文脈に即した学習
  • 評価
  • 実行性までも意識した指導員養成

などの具体的な項目が方略として挙げられています。

なんと全文が日本語訳されています

膨大な量なので、ここでは細かく説明できませんが、幸いなことに論文を有志の方が日本語訳してくれたものが、AHAホームページからダウンロードできるようになっています。

AHA公式ウェブの Education Statement Highlights のページの中から【日本語 論文全訳 (Japanese)】としてPDFでダウンロードできます。

ダウンロードページを見てもらえばわかるとおり、ハイライトと称するダイジェスト版は各国語に翻訳されていますが、論文そのものを母国語で読めるのは英語以外は日本語だけです。

翻訳くださった先生には感謝してやみません。

ぜひこちらを読んでいただきたいのですが、それでも用語が難しかったり、教育工学の理解がないと難しい部分もあるかもしれません。

「心肺蘇生教育AHA提言を読み解く」シンポジウム in 名古屋

そこでさらに朗報。

この翻訳をされた方が発起人となって、6月15日(土)に名古屋で「心肺蘇生教育AHA提言を読み解く」と題したシンポジウムが無料で開催されることが決まっています。

まさにこのAHA教育ステートメントを読み解くための1日セミナーです。

演者・シンポジストの中には、AHA幹部が来日して開催されたG2005-AHAインストラクターアップデートの中で日本人としては唯一登壇した池上敬一先生や松本尚浩先生の他、教授システム学の権威、鈴木克明先生など、インストラクショナル・デザインの日本の中枢とも言うべき方たちが話が無料で聞けます。

会場は名古屋で横浜からは少し遠いですが、新幹線に乗ってでも行く価値あり、です。

 

シンポジウム
「心肺蘇生教育AHA提言を読み解く」

 
6月15日(土) 10:00-16:00 名古屋
 
参加登録ページ

 

イベント参加は無料ですが、それとは別にクラウドファウンディングの形で寄付も受付中です。

長大な論文の日本語翻訳に加えて、大規模な無料イベントを企画は、日本の蘇生教育をより良くして、救命率を向上を目指す熱意ゆえ。これに共感いただける方は、ぜひ資金面でのサポートもよろしくお願いいたします。

 

シンポジウム
「心肺蘇生教育AHA提言を読み解く」
 
クラウドファウンディングページ

 

BLS横浜も、本企画に協賛として関わらせて頂いています。


日本で混在する2つの蘇生ガイドライン(JRC/AHA)の謎

先日、2月18日に実施された第108回看護師国家試験のBLSに関する出題を巡って話題になっているようですね。

呼びかけに反応のない人に対するBLSはとして医療従事者として優先度の高いものはどれか?、ということで、気道確保、胸骨圧迫、人工呼吸、除細動が選択肢として挙げられています。
 
これを心停止ケースと仮定するか、現段階は意識障害と捉えるかで意見が別れているようです。
 
正解は開示されていないので予想の域を超えませんが、AHAガイドラインとJRCガイドラインの違いをついた絶妙な出題だったとの見方もあるようです。

出題者の意図はわかりかねますが、この件で、2つの蘇生ガイドラインの混在、という日本国内に潜んでいた問題が浮き彫りになったのは間違いないようです。

そこで今日は蘇生ガイドラインの成り立ちについて解説します。

「国際ガイドライン」というものは存在しない

蘇生ガイドラインは国際的なものと思われている節がありますが、実はそうではありません。蘇生ガイドラインは国ごとに違います。

日本の蘇生ガイドラインはJRCガイドラインと呼ばれています。日本蘇生協議会(Japan Resuscitation Council)のホームページ から PDF で無料閲覧できるほか、JRC蘇生ガイドライン2015 として書籍 でも出版されています。

一方、BLS横浜でも開催しているAHA講習は、American Heart Association が作ったアメリカ合衆国の蘇生ガイドラインに準拠した講習プログラムです。

アメリカ心臓協会AHA救急心血管治療とCPRのためのガイドライン2015アップデート   日本蘇生協議会JRC蘇生ガイドライン2015

日本の医療者の大半はアメリカの蘇生ガイドラインで学んでいる

現実問題として、日本国内で公募講習として開催されている医療従事者向けの救急対応トレーニングのほとんどは、アメリカ心臓協会 AHA の BLS と ACLS です。

つまり、日本の医療者の多くが、自国のJRCガイドラインではなく、外国のAHAガイドラインで学んでいるというのが現状です。

日本国内では、自国と他国の2つのガイドラインが共存しているという不思議な現象がおきています。

国際コンセンサスと各国ガイドラインの成り立ち

国際ガイドラインなるものは存在しないと書きましたが、国際コンセンサス CoSTR と呼ばれるものはあります。

これは、国際蘇生連絡協議会という、各国の蘇生委員会が集まる国際会議で決められる合意事項、ガイドラインの骨子となるエビデンスに基づいた勧告です。

この国際会議で5年毎に国際コンセンサスが改定され、それに基づいて各国が自国用の蘇生ガイドラインを作るのです。

日本のJRCの場合、国際コンセンサスとガイドラインがほとんど同じ部分もあったりするのですが、基本的には国際コンセンサスとガイドラインは別ものです。

コンセンサスはエビデンスに基づいた国際合意ですので、基本的にはエビデンスがないことに関しては記載がありません。

しかし、エビデンスがないといっても対応ルールは作らないと臨床では動けない。

そこでエビデンスがない、もしくは弱い、などでコンセンサスにない部分は各国が自国の事情に合わせて穴埋めする必要があります。

そうしてできたのが国ごとの事情が加味された各国ガイドラインです。

ですから、エビデンスが強い部分については、国が違っても大きく変わることがない場合が多いのですが、エビデンスが低い部分ほど差異ができやすいともいえます。

日本においては、JRC蘇生ガイドラインとAHAガイドラインが共存しており、内容は大筋では変わらないのですが、例えば呼吸確認の方法のようなエビデンスデータがないことに関しては、ちょっとした違いが出ています。

こうした違いがあると、どっちが正しいの? という議論になりがちですが、医学的な視点で言えばどっちでもいいというのが答えでしょうし、国の基準という点で考えれば、日本国内ではJRCガイドラインを優先すべきなのは言うまでもありません。

医療従事者国家試験においてはJRCガイドライン

医学的にはどっちでもいいところなので、治療方針に関して裁量権を持った立場である医師は自由に判断します。

その他の医療スタッフに関しては、ガイドラインの更に先にある病院内の対応マニュアルや方針に従った行動を取るべきでしょう。病院としてAHAガイドラインを採用しているであればAHAでいけばいいし、JRC準拠ならJRCといった具合です。

 

さて、今回の話の発端は看護師国家試験でした。

日本国の国家試験ですが、この場合、JRCガイドライン準拠で考えるべきでしょう。いくら巷でAHAガイドラインが優勢であったとしても日本がアメリカのガイドラインに従ういわれはこれぽっちもないわけですから、頭をJRCに切り替えないといけません。

今回の国家試験問題で医療関係者がざわついているのは、AHAガイドラインで考える故に迷路にはまり込んでいたり、そもそもガイドラインが複数あって自分が知っているものと国試で求めているものが違っていたという衝撃のようです。

ここは後で論じますが、日本の蘇生教育を考える上では、大きな落とし穴であり、学校教員や救命法のインストラクターの指導姿勢にも課題があることが露呈したのではないでしょうか?

臨床的には、つまり医学的にはどちらでもいいわけですが、医療系学生の国家試験対策としては、JRCとAHAの違いを認識して、学校の授業などはJRC準拠でいかないといけない、というなのでしょう。

なぜ日本では2つの蘇生ガイドラインが混在しているのか?

さて、今回の看護師国家試験で露呈した日本における蘇生ガイドライン混在の問題ですが、なぜこんなことになってしまったのでしょうか?

歴史的な推移を見ると仕方ない部分はあるのかもしれませんが、現状として、日本の蘇生ガイドライン準拠の講習が展開されていない、というのが問題の根源です。

日本には日本独自のガイドラインがあるのに、それに基づいた医療者向け講習会となると極めて限定的なのが現状です。

日本救急医学界のICLSが、JRCガイドライン準拠の医療従事者向け救命処置研修ですが、公開講座としてはあまり開講されず、ディレクター資格を持ったドクターが院内研修としてやっていることが多く、つてのない一般医療者が救命処置を学ぼうと思ったら、地域でオープンコースを開催しているAHAトレーニングサイトに頼るしかないのが現状です。

本稿ではこれ以上は言及しませんが、ガイドラインだけがあっても、それを普及するための媒体や手段がセットで用意されていないと、現実的な運用は難しいようです。

一方、市民向けの救命法教育で言えば、消防も日本赤十字社といった組織だった普及団体があるため、ほぼ完全にJRCガイドライン準拠で固まっているわけで、組織立った教育普及の重要性は明らかです。

せっかく立派なガイドラインがあるのに、それが広まらず、国家試験にも影響している現実、大きな課題です。


幼稚園の救命講習 親向けと教職員向けの違い

先日、横浜市内の幼稚園で親御さん向けに「子どもと赤ちゃんの救急蘇生法」講習を開催させていただきましたが、同園では去年8月に教職員向けの「小児BLS&エピペン研修」を開催しました。
 

BLS横浜オリジナルの子どもCPRとファーストエイドのアルゴリズム

 
小児マネキンを使って、こども(1歳〜思春期まで)のCPRを教えるという点では同じですが、先生向けと親御さん向けで同じ展開をしたわけではありません。
 
それは幼稚園の先生と親御さんでは、立場がまったく違うからです。
 
例えば人工呼吸の方法が違います。
 
親御さん向けにはマウスtoマウスの人工呼吸を指導しますが、幼稚園の先生向けにはポケットマスクを使った人工呼吸で練習してもらいました。
 
唾液などへの接触によって病気が感染するリスクは高くはないとは言われていますが、子どもとは言え他人に口をつける動作を抵抗なくできる人はいません。
 
子どもの蘇生法では人工呼吸が特に大事と言われていますから、着実に人工呼吸をしてほしいと考えたら、フェイスシールド系のものではなく、やはりポケットマスクです。(園には2つ配備されています)
 
また幼稚園の教職員は、業務中の救急対応を想定していますから、一人法CPRだけではなく、胸骨圧迫の交代の仕方も含めて、二人法CPRの連携についても強調して練習してもらいました。

それに記録をつけておくことも重要ですね。119番通報を声を出して行ってもらうのはもちろん、シミュレーションの最後は、救急隊員への報告をしてもらうことで、時間経過や実施したことをきちんと記録に残すことの大切さを実感してもらえるような展開にしました。

学校で心停止時案ともなれば、その後、報告書をまとめることになります。なので時間記録はとても重要です。ここがはっきりしていないと訴訟に発展したりするのが一般市民とは違うところです。
 
また練習をする上での動機づけも、教職員は「救護義務がある」という点で親御さんとは決定的に違います。
 
いざとなったら救命処置を行わなければならないという責務を負っているのが学校教職員です。
 
ですから、職業意識やプロフェッショナリズムに根ざした動機づけや指導が必要です。中身も形だけの体験学習のようなものではなく、「しっかりと身につける」ためにはある程度の練習量と、それに見合ったマネキン配置、スタッフ配置、そして時間が必要となります。
 
命に関わることをインスタントに終わらせてはいけない、そう考えています。
 
 
同じ幼稚園で、続けて2つの救命講習を企画させていただきましたが、そんな違いについて再認識した次第です。
 
 


最新のAHA-BLSプロバイダーコース、BLS-IFPとBLS-PHPコースの違い

ながらくAHA-BLSとして知られていたBLSヘルスケアプロバイダーコースが、ガイドライン2015改訂に伴い、BLSプロバイダーコースと名称変更され、内容がガラリと一新されました。
 
教材設計的な違いについては、これまでも何度も取り上げてきましたが、今日はシナリオによって2種類の内容が混在していることについて紹介します。
 
すでに日本語化されているBLSプロバイダーマニュアルを見ても、まったくわかりませんが、この新しいBLSプロバイダーコースは、DVD教材の上では、完全に2種類に分けられています。
 
BLS for Prehospital Provider
 
BLS for in facility Provider
 
プレ・ホスピタルという単語は直訳すると病院前。
 
傷病者が医療機関に運び込まれる前に対応する人向けのBLSということです。具体的には救急隊員やプライベートで救急対応する非番の医療従事者、スクールナース(日本で言うと保育園看護師や看護師免許を持った養護教諭)などです。
 
in facilityというのは、あまり馴染みがない単語かもしれませんが、Facilityは施設という意味です。ここでも主に病院を主とした医療施設内で緊急対応する人のことを指しています。
 
つまりざっくり言うと、BLSコースが、病院内対応と病院外対応でわけられるようになったということです。
 
AHAガイドライン2015は、Life is Whyというスローガンに象徴されるように、現場主義が強く打ち出されてます。お作法的に技術を教えるだけでは不十分で、それを現場で使えるようにするためには、応用力を培わなければいけない、という考え方です。
 
そこで、これまではあえて避けてきた現実の複雑な状況判断と意思決定の場面を、リアルなシナリオ動画の中で描くことで、身につけるべき基礎技術と、それを現場で使うために必要なノン・テクニカルスキルの例を提示するようになりました
 
その最大公約数が、病院内での急変対応と、病院外での救急対応の2種類というわけです。
 

AHAガイドライン2015正式版BLSプロバイダーコースのIFPとPHPシナリオ一覧

 
どちらを選んでも実技試験、筆記試験は同じで、学ぶコアコンテンツも同じです。しかし、提示されるシナリオ動画が、病院勤務の医療者と、病院外で活動する救急隊やスクールナース、警備員などで、現場をイメージしやすいように分ける工夫がされています。
 
今後、日本でもこのDVDが日本語化されて、公式開催されるようになったら、公募段階でBLS-IFPコースと、BLS-PHPコースが区別されて募集されるようになるのではないでしょうか?
 
これまで、BLS横浜では、FPとPHPをいいとこ取りををして混在型でコース開催していましたが、4月以降は公募段階で明示していくつもりでいます。
 
 
 

 

続きを読む


CPRをシミュレーションと振り返りで身につける

2017年度最初の講習は、ハートセイバーCPR AEDコース でした。
 
世界中のAED講習の元祖となったプログラムだけに、基本に忠実なベーシックな内容。
 
その分、時間も短時間で終わりますので、BLS横浜では、いつも最後に受講者に合わせたシミュレーションや、おまけの補講を付け加えています。
 
今日は、受講者さんから、「ポケットマスクの組み立てるタイミングはどうしたらいいですか?」と質問があったので、それをシミュレーションでやってもらい、デブリーフィング(振り返り)で考えてみました。
 
現実問題、日本でよく見かけるレールダル社のポケットマスクは、畳まれたマスクを広げて(これが冬場はけっこう固い!)、マウスピースを取り付ける必要があるので、意外と手間です。慌てるとマウスピースがコロコロと転がっていくし…
 
そもそも傷病者を発見した時点で、Myポケットマスクを持っている人もそう多くはないので、AEDを持ってきたら、一緒にポケットマスクがついていたという方がまだ現実的。
 
ということで、やってみました。
 

AEDと一緒にポケットマスクが届いたシミュレーション

 
1人で胸骨圧迫のみのCPRをしているところ、第二救助者がAEDとポケットマスクを持って到着。
 
そんなとき、さっそく二人は壁にぶつかります。二人が行うべきプライオリティの高い行動はどれか?
 
1.胸骨圧迫継続
2.ポケットマスクを組み立て→人工呼吸開始
3.AEDの電源スイッチを入れて、指示に従う
 
3人目がいれば、また違ってきますが、やるべきことが3つあって、二人しかいなければ優先順位を決断しなければなりません。
 
傷病者の年齢や発見時の状況などで違ってくるので、ここでは答え的なものは提示しませんが、こういうときこそ、シミュレーションでやってみて、振り返って、みんなで考える、という経験学習が重要になってきます。
 
答えを見出す、のではなく、考え方を醸成するような教育アプローチが必要です。
 
この日の午後に開催した 新しいG2015教材を使ったBLSプロバイダーコース では、まさにこうした経験学習とデブリーフィングによる学習が新たな手法として正式に取り入れられています。
 
今までは、ACLSやPALS、PEARS(シミュレーションを省略しているPEARSコースを除く)でのみ、採用されていた教育メソッドが、BLSにまでおりてくるようになったのです。
 
 
いままでは武道の演舞のような、型を身につけ模倣する心肺蘇生法教育が標準でしたが、G2015のAHA-BLSから、心肺蘇生法教育が変わっていきます。
 
 


G2015正式版BLSプロバイダーコースのインパクト

今日は4回目のG2015英語版DVDを使ったBLS Providerコースでした。
 
ガラリとコースデザインが変わった新BLSプロバイダーコース。それは受講者さんにもはっきりわかるようで、コース終了後に躍動的な感想をたくさんいただきました。
 
「今までのBLSコースと違って、リアルで現場医療者の食いつきが違うと思う」
「こうしなさい、ではなく、自分で考えて判断することが明確に示されて、すごく納得できるようになった」
「マニュアル化社会の米国人にとってはすごく大胆な方針転換な気がする」
 
など。
 
これまでの「わからなくても体が動けばいい!」という体育会系のノリから、原則を理解して判断して行動することを求める方向へのシフトのインパクトは大きいです。(筆記試験もテキスト持ち込み可になりましたし…。つまり問われているのは暗記ではないということです。)
 
 

G2015英語版BLSプロバイダーコースDVDの映像
▲蘇生科学の「なぜ?」がガッツリ盛り込まれた新BLSコースDVD

 
10分間のチーム蘇生とその後のデブリーフィング。
リアルなシナリオ動画と、あまりにシンプルすぎる実技試験。
 
受講して満足して終わるのではなく、間違いなく、その先の実臨床に視野を持っていく教材設計どおりに進行できると、この影響力は半端ありません。
 
Life is whyから始まり、カークパトリックのレベル3(臨床現場での実践)への視座で終わるG2015のBLSプロバイダーコース。
 
つい先日、ようやくBLSプロバイダーマニュアルG2015日本語版が発売されましたが、日本語DVDの発売が未定なので、日本国内でまだ公式にはG2015講習は開けません。
 
このビックインパクトが広がるのはもう少し先になりそうですが、期待大です。
 
 
 
BLS横浜では、受講後2年間は同じコースになんどでも無料で参加できる制度を設けています。
 
今日の受講者さんたちには、日本語版DVDが出たら、必ず復習参加に来てくださいね、と話して終わりました。
そしてカードの有効期限が切れるギリギリ前あたりには必ず来てくださいとも。
 
この新コースの感動をいち早くお伝えし、そしてまた2年間に渡って技術をキープしていただき、より理解を深めていく。
 
そんな連鎖の手応えを感じた1日でした。
 
 

BLSプロバイダーマニュアルG2015日本語版

 
年明け後のG2015正式版BLSプロバイダーコースの開催は、BLS横浜ホームページ をご覧ください。
 
 
 

 

続きを読む


満足と自信につなげるBLS指導のポイント

G2015における「質の高いCPR」とは、下記のとおりです。
 
・強く押す(成人:少なくとも5cm、小児・乳児:少なくとも胸郭の1/3)
・速く押す(100~120回/分)
・リコイル(もたれない)
・圧迫中断は最小限に(10秒以内)
・胸の上がりが見える人工呼吸を行う(1回1秒)
・過換気を避ける
 
これを技術として身につけさせるのがBLS講習の目標です。そして、コース中のどの場面で、どのポイントを指導するか、という教材設計がしっかりなされているのがAHA BLSコースです。
 
日頃インストラクターコースでお話している内容をすこしご紹介します。
 
 
 
AHA-BLSヘルスケアプロバイダーコース(G2010ならびにG2015暫定版)では、練習場面は下記のように進んでいきます。
 
1.胸骨圧迫(30回の圧迫を5サイクル)
2.気道確保+人工呼吸(ポケットマスクを使った換気2回を5セット)
3.胸骨圧迫+人工呼吸(30:2を5セット)
4.評価(反応確認・呼吸確認・脈拍確認を映像に合わせて練習)
 
それぞれの練習の前には、上記の質の高いCPRのポイントがすべてテロップで映しだされます。
 
しかし、まず最初の胸骨圧迫の練習で強調すべきは、3点だけです。
 
「強く、速く、しっかり戻す」
 
これだけに的を絞って指導を行います。
 
余計なことは言わないで、ポイントにフォーカスさせます、
 
 
 
次いで、人工呼吸の練習。ゴールとしてのポイントは3つありますが、順番が重要です。
 
1.胸が挙がる
2.入れ過ぎない(過換気を避ける)
3.1回1秒で、速すぎず遅すぎず
 
最初から過換気を避けることを強調してしまうと、手技に問題があって胸が上がらないのか、吹き込みの量が足りないのか、わからなくなってしまいます。
 
だから最初は、まずは胸が目で見て挙がることに重きをおいた指導を行います。明らかに吹き込み過ぎであっても、まずは胸が上がったことを認めて、褒めるべきです。そうして安定してできるようになってから、次のステップとして、過換気を避けることや1回1秒ということを追加指導していくとうまくいきます。
 
 
 
胸骨圧迫と人工呼吸を組み合わせた30:2の練習の時に強調すべきポイントはなんだと思いますか?
 
もちろん、強く、速く、を引き続き強調してもいいのですが、それはすでに前の練習で習得済みです。この胸骨圧迫と人工呼吸の組み合わせで初めて出てくるのが、「圧迫の中断を最小限に」という項目。
 
ここに着目させてから練習を行うべきです。
 
AHAコースの場合は、ビデオに合わせて練習しますので、ビデオのデモンストレーターが人工呼吸が終わって胸骨圧迫に戻ったら、あなたも途中でも圧迫に戻ってください、という点を伝えます。最初はうまく行かなくても5サイクルもやっていれば、自然と10秒以内で2回の人工呼吸ができるようになります。
 
もちろん、複合練習になっていますから、流れの中できちんと人工呼吸ができるのか、とか、質の高い胸骨圧迫ができているか、というところもポイントですが、そこに拘泥してしまうと、肝心の中断時間を10秒以内に留める練習ができなくなってしまいます。
 
 
 
このように、AHAの講習は、簡単な手技から段階的に習得していって、その組み合わせで自然とできるようになる、ということを狙って作られています。ですから、各ステップの学習目標を理解して、きちんとゴールに到達させてから先に進むことが肝要です。
 
AHAのBLSインストラクターは、その教材の意図を理解して、仕様のとおりに使うことによって最大のパフォーマンスが発揮できるようになっているのです。
 
 
成人学習の動機付けでARCSモデルというのがあります。受講者の注意を引き、関連性や学ぶことの妥当性を提示して、それから満足と自信を得られるように支援するというのがポイントです。
 
いきなりCPRの全体の流れをやらせても、あちこちで引っかかってうまくいくわけはありません。そこを一歩ずつ階段を登るように段階的に指導して、自信を持たせて、最後には、「できた!」という達成感に到達させるような指導方法。
 
それを私たちはAHA教材、特にコースDVDから学ぶことができます。
 
 


心停止認識の評価-意識ではなく反応の確認

昨日、Twitter の上ですこし書いた点ですが、こちらにもシェアしておきます。
 
BLS手順において、「大丈夫ですか?」と尋ねながら確認するのはなにか?
 
それは「反応」の有無です。「意識」ではありません。
 
英語でいうなら、Responsive であって、consciousness ではありません。
 
英語では、昔から、この単語が明確に使い分けられていますが、日本語になったときには、Responsive(反応)が意識と訳されてしまったり、成書では、反応と書かれているのに、指導員レベルで意識と言い換えられてしまうケースが散見します。
 
 
医療者レベルの理解でいけば、それほど大きな問題はないのかもしれませんが、市民向けのBLS指導ではこの違いをしっかり区別をした方がいいと思います。
 
医療の素養がない一般の人に、意識がないとはどういう状況か、と尋ねてみたら、どんな返事が返ってくるかを考えてみるとわかりやすいかもしれません。
 
例えば、「大丈夫ですか?」と呼びかけた時に、「うーん、、、」とかすかなうめき声をあげただけで、目を開かず、動かなかった、という場合、どうでしょうか? 意識なし、と判断する人が多いのではないでしょうか?

しかし、この状況はBLS手順で言った場合、「反応あり」であって、CPRは適応ではありません。
 
これが、反応でとらえた場合と、意識でとらえた場合の違いです。
 
医療者的に言ったら、JCS300以外はCPR適応外と判断できるかもしれませんが、そういうレベルの話ではなく、救命講習で教わった一般の方たちがどのように理解して、何をどうみて判断して、どう行動するか? という実質的な中身で考えるべきです。
 
ということで、絶対的な間違いとはいいませんが、CPR手順の中で「意識の確認」という言葉を使うのは不適切と考えます。
 
そこで、どのように指導すればよいのかという話になると、私たち指導員が「反応確認」という言葉を正しく使うことと、最初に、「反応」という言葉の概念を定義することが重要です。
 
先日、4月26日にリリースされた最新版の Heartsaver CPR AED Student Workbook の中では、その冒頭の3ページで下記のように定義されています。
 
You should know that during an emergency, it’s possible that someone might become unresponsive. Here is how to decide if someone is responsive or unresponsive.
 
Responsive : Someone who is responsive will move, speak, blink, or otherwise react to you when you tap him and ask if he’s OK.
 
Unresponsive : Someone who does not move, speak, blink, or otherwise react is unresponsive.
 
傷病者を軽く叩きつつ、大丈夫ですか? と声をかけたことに対する「反応」に着目します。その刺激に呼応して、動きや、発語、瞬きなどの目元の動き、その他の反応が見られた場合、「反応あり」つまり、心停止の兆候ではない、と考えます。
 
これを簡略化して「動きの有無」としてしまうと、正しくはありません。あくまでもこちらからの刺激に対する反応として動きがあるかどうか、です。
 
反応とは関係のない痙攣や死戦期呼吸のような「目的のない動き」を除外するためです。
 
疑わしければ胸を押せ、という原則からすれば、先ほど上げたようなケースで胸を押すということは間違いではありませんが、指導指針の中で、きちんと意識と反応を区別して、弁別の閾値が設定されているわけですから、少なくとも指導員レベルでは、この点はきちんと認識したいところですね。