看護学生さんから見たPEARSプロバイダーコース

BLS横浜主催の PEARSプロバイダーコース with シミュレーション を受講してくださった看護学生さんから、感想を頂きました。

看護学生の実習前のトレーニングにも最適なPEARSプロバイダーコース

このときは、現役の看護師さん4名と、救急救命士さん1名、そして看護大学4年生の学生さん1人という6人編成。

そんななかで、学生さんが感じたこととは、、、

 

受講前は、他の受講者の方は臨床経験を積んだ上での受講で、学生の自分が参加するのは早すぎるのではないかと不安に思っておりました。

ですが、実際受講してみてPEARSで学ぶ体系的アプローチの方法は、小児だけでなく成人にも通ずる部分が多数あり、(第一印象による評価、ABCDEによる一次評価の方法など)これらの概念を実習へ行く前に知っておきたかったと感じました。

私は実習中、報告を行うことが苦手でした。

観察から得た情報を適切に他者に伝えていくことが重要であることは理解していましたが、いざ報告となるとあれもこれも…と情報を盛り込んでしまい、上手く報告することができていませんでした。

PEARSプロバイダーコースの中で、SBAR を用いた報告のシュミレーションを行いましたが、A-B-C-D-E評価を用いることで、どこに問題が生じているのかつかみやすく、おのずと報告の方向性を見出すことに繋がりました。

学生のうちに受講することは決して性急なことではないと感じています。

実習に行く前の基礎看護学や成人看護学などを学んだ段階など、もっと早い時期にPEARSを受講しておくと、基礎と実際の看護の結びつきがより理解でき、思考過程のみならず、実践に繋がる看護をより深めることに繋がったのではないかと感じました。

いずれにせよ、就職前にPEARSを学んだことは私にとって大きな収穫となりました。

 

本格的な病院実習の前に習得しておけば良かった、という感想でした。

BLSより難しい高度な内容、というイメージが強いかもしれませんが、PEARSは緊急事態の対応を学ぶというよりは、日々の観察の仕方を学び、そこで気づいたことをどう医療実践に活かしていくのかという、看護師としての業務を学ぶ講習と言えるかもしれません。

 

こんな学生さんの声もあり、医学科、看護学科、救急救命士学科などの医療系学生のみなさんが参加しやすいような学生限定PEARSプロバイダーコースを企画しています。

一般の医療従事者に混じって学ぶことでの学びもあると思いますが、緊張せずに等身大で学びたいという学生さんは、ぜひどうぞ。

 

【学生限定】 PEARS®プロバイダーコース
医療系学生(医学、看護、救急救命)向け特別版

2018年1月6日(土) 横浜


吸気性喘鳴→上気道閉塞が分かったらどうする?

PEARSプロバイダーコースは、生命危機に陥った原因が呼吸のトラブルか、循環の問題かを考え、それぞれ「タイプ」を判定することで、適切な安定化の介入を行い、目の前で命を落すのを防ぐ方法を学ぶプログラムです。

診断(判定)することが目的ではありません。ゴールはその先にあります。

PEARSで、生命危機の判定ができて、目の前にいる人が上気道閉塞だとわかったとしても、判定しか学んでいないと、「案の定、窒息で目の前で命を落としました」ということになってしまいます。何のために判定をするのか? 介入をするためです。

PEARSで学ぶ介入は一般論であっては、学んでいないに等しいと言っても過言ではありません。職種や、職場環境、訓練の程度によって、できることは変わってくるからです。

医師ならアドレナリンの筋注をするかもしれませんが、看護職はまずは医師に報告して指示を取り付けなければなりません。

救急救命士は救急車内にアドレナリンは積んいても、それを注射することは許されていません。また養護教諭も、本人がエピペンを持っていない限りは注射できません。

であれば、どうするか?

 

アナフィラキシーによる上気道閉塞への介入はアドレナリン筋注と知っていても、それぞれの立場に応じてどう行動するかはまったく違うということこそが重要です。

ですから、「アナフィラキシーによる上気道閉塞→アドレナリン筋注」という一般論を闇雲の教えるのではなく、ここに向けてあなたはどう行動しますか? という点を各自に考えてもらう必要があるのです。

この部分が如実に浮き彫りになるのが、シミュレーション・トレーニングの効用です。

座って他人事としてのディスカッションをするのではなく、(仮想訓練ながら)当事者として、自分の問題として考え行動することからの学び。

現場に自分を投入するからこそ気づき、学べる点が、机上の思考訓練とは違います。

それこそが重要です。

 

アナフィラキシーによる上気道閉塞という生命危機状態。そこで注射用のアドレナリンがない、もしくは使えない状況だったらどうするのか? それでも当事者となれば対応しなければならないのです。ここでなにもできないと立ち尽くすのか、少しでも効果がありそうなことをやってみる、は、大きな違いです。

 

まとめとしては、受講者の個々の実行動につながる学習でないと、それは趣味としての勉強に近いものであり、実務上の研修とはいえない、ということです。

「わかる」と「できる」は違います。この隔絶はあまりに高いハードル。

このハードルを低くするのがシミュレーションの目的です。

 

アナフィラキシーによる上気道閉塞。これままさに学校教職員向けのエピペン講習でも言えることですが、さらに1つ付け加えると、自分で助けようと思うのではなく、システムとして助ける方法という視点に立つことも重要です。学校システム、消防や病院という救急対応システムとの協働をどうするか?

自分の手で、決定打となる救命処置ができないとしても、救命の連鎖というシステム概念の中で、自分がどんな役割をはたすのかという視座に立てば、なにもできないということは絶対にありません。


1月にBLSプロバイダー【更新】コースを開催します

来年の1月からBLSプロバイダー【更新】コースを開始します。

これは、BLSインストラクターマニュアルで規定されている Challenge Option が12月から解禁されることに伴っての新企画です。

Challenge Option とは、一言で言えば、BLSの実技試験と筆記試験に合格すれば、それだけでプロバイダーカードの取得(更新)ができるという特例制度。

コースDVDを視聴したり、段階的な練習をすることなく、いきなり実技試験、そして筆記試験という展開になりますので、所要時間としては1時間程度で終わります。そして費用も廉価にできます。

日頃、BLSを実施していて技術的にしっかりとBLSプロバイダースキルを持っている人が、資格認証を更新したいという場合に使われる制度です。

日本では、資格としてBLSプロバイダー・ステイタスを維持し続ける必要がある職業はあまりありませんので、米国ほど需要はないかと思いますが、今回、試験的に2018年1月に2回、設定してみました。

強いて言うなら、ACLSプロバイダーコースやPALSプロバイダーコースを受講したいけど、そのときにはBLS資格が切れてしまう、という人には需要があるかなと思っています。(もっともAHAルールとしては、ACLS受講にBLS資格が必要とは規定されていませんので、BLS横浜でACLSを受講する際には、BLS資格は不要です)

Challenge Option の条件はかなり厳しめです。

 

1.インストラクターによる指導や練習は行わない
2.試験を受けるチャンスは1回だけ
3.再試験はない
4.実技試験か筆記試験のいずれかが不合格だった時点で終了となる

 

受講から2年近くたって、それだけのスキルと知識を保持している方は、そうそういないかもしれません。

だからこそ、その名の通り、Challenge なんでしょうね。

挑戦してみたい方は、ぜひどうぞ。

 

2018年1月9日(火) 10:00~11:30
かながわ県民センター(横浜駅徒歩5分)

2018年1月18日(木) 18:30~20:00
地球市民かながわプラザ(本郷台駅徒歩5分)

詳細はBLS横浜ホームページより → http://bls.yokohama

 

実技試験前に、自主練習できる時間を30分ほど確保しています。テキストに載っているスキルチェックリストをよく見てイメージトレーニングの上で、この練習時間を活用してもらえば、あながち無理な話でもないかもしれません。


マンガで学ぶ「急変対応コースPEARS」

先日、姉妹サイトのチャイルドライフェス横浜主催の「PEARSプロバイダーコース with シミュレーション」講習にメディアの取材が入ったのですが、その記事が完成しました。

 

 

看護roo!
急変時に使えるアセスメント技術「PEARS」

「PEARS」は急変時に使えるアセスメント技術! 成人看護にも役立つ考え方が満載です。 特徴は、ナースが感じる「何かおかしい」を根拠に結びつけられること。 第一印象から評価まで。思考フローをマンガでわかりやすくご紹介します!

https://www.kango-roo.com/sn/a/view/5113

 

ディスカッションで、「気づき」のポイントと認知スキルを高めるだけではなく、マネキンを前にチームでアセスメント&介入するシミュレーションを通して、現場で第一発見者になる可能性が高い看護師の行動力を高めるのがSim-PEARS。

なかなかハードルが高い印象をお持ちの方が多いかもしれませんが、看護職としては臨床に立つ以上は知っておくべき基礎的な能力と言っても過言ではありません。

そんなPEARSがマンガでわかりやすく説明されています。28枚に渡る大作です。ぜひご覧ください。


PEARSの体系的アプローチは、ガイドライン2015でこう変わります

まだ公式な日本語訳はされていませんが、G2015のPEARS/PALSの体系的アプローチはこんな形に変わります。

ぱっと見た感じは、以前のG2010版の方がすっきりしていてわかりやすい印象です。PEARSに関しては、日本語への移行はまだ1-2年は掛かるかと思いますので、当面はG2015暫定コースとして継続していきます。

第一印象の中身も、表現は変更されていますが、実は、これG2005版に戻っただけ。BLS横浜で受講された方にはなにも目新しいことはないかと思います。ご安心ください。

一言でいえば、第一印象での評価項目「呼吸」が消えて、「外観:appearance」に変わったのですが、これは一次評価の呼吸の評価と紛らわしかったからじゃないかと思っています。

BLS横浜のPEARSを受講してくださった方たちは、第一印象の呼吸評価と、一次評価の呼吸評価は意味合いが違うということはよく理解くださっていることと思います。

まだ患者に触れる前の第一印象の段階で、しかも相手が乳児のこともあるPEARSでは、パッと見の意識の評価は、単に開眼しているかどうかという話ではありません。

筋緊張や注視の具合など、意識というよりは、見た目によって判断していくものです。

 

そこでG2005時代には、乳児の外観(意識状態)のパっと見の判断のポイントとして、TICKLSという憶え方がありました。

 

結局、5年経って、このTICLSに舞い戻ったというわけです。

 

この点、G2005時代からPEARSと関わってきたBLS横浜としては、G2010でC-B-Cの評価に変わってからも、本質的にconsciousness:意識をappearance:見た目として捉え、教えてきましたので、今までも今後もなんら変わるところはありません。

 

 


PEARSは難しい? 看護師と看護学生での違い

PEARSプロバイダーコース を受講した看護師さんは、「難しい!」とおっしゃる方が多いです。この難しさはなんなのか? 恐らく病態生理の理解を含めた論理的思考に対する難しさなのだと思います。

病院業務の実務では、まず動くことが求められます。パターン認識と条件反射に近いと言っていいかもしれません。

考えることより、動けることが優先されます。

それゆえに、置いて行かれがちな、「なぜ?」を突き詰めるのがPEARSの体系的アプローチ。

これまでの臨床で培ってきたノウハウとは、違う切り口だからこそ、戸惑い、難しさを感じるのではないでしょうか?

 

PEARSプロバイダーコースは、看護の学生さんもよく受講にいらっしゃいますが、「現場でのやり方」に染まっておらず、かつ、判断のよすがとなる解剖生理や病態生理の知識がフレッシュな学生さんのほうが、しっくりとモノにしていくような印象もあります。

網羅的に学んでいく基礎医学。学校で教えられているときには、それがどう看護実践に活きてくるのかイメージがしづらいかもしれません。しかし、PEARSを学ぶことで、それらの基礎理解が現場で活用できるということをダイナミックに体感できるのではないかと思います。

そういった意味で、学生のうちにPEARSを知っておくと、将来的な伸び代が大きく変わってくる可能性を秘めています。

PEARSでの学びが難しいいかどうかは、現役の看護師さんと、看護学生さんでは、印象がまったく違ってもおかしくない、と思います。

 

臨床経験のあるナースでさえ難しいのだから、学生には早すぎる、ということは絶対にありません。

 

【医学・救急救命・看護学生限定】
PEARSRプロバイダーコース


PEARSフォローアップセミナー開催報告

台風が通り過ぎていった今日、横浜で「PEARSフォローアップセミナー」でした。

AHA-PEARSプロバイダーコースを修了した人たちを対象とした勉強会。

PEARSの体系的アプローチを臨床で活用するために、シミュレーションで経験値を上げる目的で開催しました。

PEARSを受講したトレーニングサイト/トレーニングセンターは不問の公募講習だったため、BLS横浜での修了生以外からもご参加いただけました。

当初は、医師への報告と指示受け、介入のシミュレーションをひたすら繰り返す展開にしようとも思っていましたが、「呼吸障害とショックの理解」へのニーズが高いことに気づき、前半でこの部分に時間をかけました。

 

PEARSは思考を養うプログラム ー 理解が重要

PEARSプロバイダーコースは、BLSやACLSとは違って、アルゴリズムで機械的に動くことを教える研修ではありません。

白黒つけがたい事象にどう立ち向かっていくという、「思考」を養うプログラムです。

そのためには病態の理解は欠かせません。

テキストにはいちおう説明は書されているのですが、非常に端的にコンパクトにまとまって書かれているため、サラッと読み過ごしてしまって、きちんと腑に落ちる形で理解できるかというとなかなか難しいものがあります。

講習中は非常にタイトな時間枠で進むため、理解は事前学習で求める部分であり、講習会場でフォローアップするのは困難です。

例えば、

・呼気喘鳴と呼気延長はなぜ起きる? なぜそれが下気道閉塞の兆候なの?
・なぜ上気道閉塞では吸気時喘鳴が起きるの?
・循環の評価で、脈拍の触れを中枢と抹消の2箇所で確認するのはなぜ?
・呻吟はなぜ起きる?
・ショックで橈骨動脈の触れが弱くなるのはなぜ?
・血液分布異常性ショックでは手が温かいことがあるのはなぜ?
・神経学的評価で、瞳孔径と対光反射、血糖を測定して、それをどう活用する?

などなど。

今回のフォローアップセミナーでは、こうした「なぜ?」をじっくり掘り下げて考えてみました。

例えば、小児の肺組織病変(肺炎など)を判定するポイントとして出てくる「呻吟(しんぎん)」。

テキストには、

呻吟は小児が声帯が半ば閉じた状態で息を吐いた結果生じる。呻吟することで気道内圧が上昇して末梢気道や肺胞を開いた状態に保つことができる。酸素化や換気を改善するための努力なのである。

PEARSプロバイダーマニュアル p.32

と書かれています。

これを見て、なるほど! と合点できる受講者は多くはありません。

このことを理解するためには、肺組織病変(肺炎)によって、肺胞周囲がどのような状態に陥ってしまっているのかイメージできていなければなりません。

肺実質(つまり肺胞周囲)が炎症を起こして水っぽくなって、肺胞から完全に空気が抜けて虚脱すると、ぺたっと張り付いてしまって、表面張力で張り付いて、次の吸気時に開きにくくなって呼吸がしにくくなる。

それがわかっていれば、テキストの言葉も理解できるかもしれません。

しかし、さらには、炎症を起こすとどうして水っぽくなるのか? という炎症の病理を理解していないと、これも難しいかもしれません。

そこまで基礎の基礎に立ち返って説明している時間はありません。かといって、テキストを読むだけの事前学習では到底フォローできないこの部分。

 

実はBLS横浜のPEARSプロバイダーコースでは、この部分もある程度解説はしているのですが、日頃の講習の中ではあまり時間を割けないという事情もあり、悩ましいところでもありました。

今回、このあたりを時間をかけてディスカッションすることができ、これはこれで、PEARSとは切り分けた「生命危機の病態生理」というテーマの対話型セミナーにしてもいいのかもしれないと感じました。

参加者の声として、きちんと病態生理に立ち返って学べる意義という点はいくつも聞かれたことから、今後、検討していきたいと思っています。

 

 

SBARの論理構造を理解すると違う

体系的アプローチのシミュレーションに関しては、日頃のPEARSでも「報告」にフォーカスを当てているのですが、報告ツールSBARについては、もともとはAHA教材の守備範囲でないため、それほど時間をかけた解説や練習はしていません。

そこを、今回は、第一印象による介入から導入してみました。

バックグラウンド(B)で何を伝えるのか、この言葉尻からだとわかりにくいのですが、SBARの論理構造を理解すれば、スッキリ明快です。(このあたりの話は ブログの過去記事 で詳しく書きました)

そうしてやってみると、感じるのは、SBARは報告ツールであると同時に、思考ツールであるという点です。

報告して医師に何をしてもらいたい、どんな指示をしてほしいという点が明確になりますので、手順に従って漫然とアセスメントをするのではなく、意図をもったアセスメントになるのです。

 

PEARSプロバイダーコースは、もともとがかなり盛りだくさんな内容。

こうしたフォローアップセミナー以外にも、PEARSの事前学習会のようなものも企画して、この価値ある学びを形にするためのサポートはもっと積極的に行っていく意義がある、そんなことを感じた勉強会でした。


看護師の急変対応研修のアウトカムは報告にありーSBAR

この表は、PEARSプロバイダーコースのシミュレーションでホワイトボードに書かれた内容を再現したものです。

PEARS は、心停止前の危険な徴候(生命危機状態)を見分けるアセスメント能力を高めるアメリカ心臓協会のトレーニングプログラムです。

まずは観察して、この表のような情報を整理して、命を落とす原因となる6つ生命危機の中からタイプを判定し、さらに重症度を判定しましょうというのが、PEARSのアセスメントです。

結論から言えば、これは循環障害のうち、「循環血液量減少性ショック」というタイプの生命危機状態で、重症度は「低血圧性ショック」というのが答えです。

やもするとPEARSでは、この判定にたどり着くことがゴールと思いがちな節がありますが、なにもお医者さんごっこや病名当てクイズでやっているわけではありません。

看護師として、このステップのあと、どんなアクションを起こすのか、こそが重要です。

 

評価 → 判定 → 介入

このアクションのことをPEARSでは、「介入」と呼んでいます。

ショックが起きていると判定できれば、それに対する介入は「20ml/kgの等張性晶質液のボーラス投与」が正解です。

 

じゃ、その正解にたどり着いたとして、看護師のあなたは、独断でVラインを取って生理食塩水の輸液を始めますか?

 

と、考えると、ナースがショックという病態を認識して必要や薬剤(等張性晶質液)と投与量が分かったとして、じゃ、どうするの? というところが問題になってきます。

もしかしたら、ここが米国のナースと日本のナースの違うところかもしれません。

日本の看護師は、原則的に医師の指示がない限り、輸液も含めた薬剤投与はできません。となると、PEARSで安定化のための治療法が見えたとしても、最終的な業務としてのアウトカムは輸液の実施ではなく、もっと別のことになるかもしれないのです。

 

それでは、日本で看護師がPEARSコースから学べることはなんなのか?

ヒントはPEARSプロバイダーマニュアルG2010日本語版の20ページにあります。

「臨床状態の判定に基づいて、適切な処置により介入する。処置内容はプロバイダーの業務範囲と施設のプロトコールによって決定される。PEARSプロバイダーの介入には以下のものが含まれる。

応援を呼び、救急医療チームや迅速対応チームの出動を要請する
・CPRを開始する
・(中略)

最善の行動は応援を呼ぶことである。応援が到着するまでの緊急の処置を行う」

PEARSでいう介入(intervene)の第一義は、応援要請・報告なのです。

医師が不在の場で緊急事態に遭遇したのであれば、医師に状況を報告し、医師が来るまでの間の緊急の処置を行うのが日本のナースにおけるPEARSのアウトカムです。

そして忘れてはいけないのが、日本の看護師は、医師の指示があれば、かなりの範囲の医療行為を行えるということです。

この中には、PEARSプロバイダーコースに出てくる酸素投与や生理食塩水の輸液は含まれますし、ネブライザーによる薬剤の噴霧投与や、状況によってはアドレナリンの筋注もあり得るかもしれません。

そう考えると、日本のPEARSプロバイダー看護師に求められるPEARS学習のゴールは、医師に的確に報告し、迅速な治療に繋げること。そして、緊急度が高い場合は、処置に関する指示を受ければ、それを実施することも含まれます。

 

 

そこで考えたいのが冒頭の症例です。

もしこのような患者にナースだけで対応している場面があって、医師に電話連絡がつく状況だったら、どう報告するでしょうか?

 

こんなことをPEARSのシミュレーションで体験してもらっています。

インストラクターが医師役を演じ、受講者さんに報告をしてもらうのです。そうすると多いのは、一次評価の内容を最初から読み上げていって、「で、先生、どうしましょう?」という報告の仕方です。

冒頭の表を見てもらうと分かる通り、この症例では、呼吸に関しては回数が多めという以外は目立っておかしなところはありません。このあたりの報告を聞いている限りは、「だからなんなの? さっさとしてよ」という医師の心持ちは想像できます。で、肝心なところは中盤以降から登場します。

つまり、報告の仕方の善し悪しによって、伝わり方や緊急度が違ってきてしまう懸念があります。

 

SBARという報告ツール

そこで役に立つのが、最近流行りのSBARという報告の様式です。これはAHA講習の中で言及されているものではありませんが、日本の看護業界ではそこそこ広まっている印象があります。このSBARを意識するだけで、報告がぜんぜん違ったものになってきます。

例えば、こんな感じです。

「ショックと思われる患者さんがいます。HR136で頻呼吸、抹消も中枢も脈の触れが弱く、CRT延びてます。手は冷たいです。血圧も84/68と下がっており、意識レベルも低下していて重症度は高いと考えられます。すぐ来ていただけますか?」

これはあくまでも例ですが、SBARという論理構造がわかるでしょうか?

 

    S:Situation「状況:なにが起きてるのかをざっくりと」
    B:Background「背景:アセスメントの根拠となる情報」
    A:Assessment「評価:アセスメント、考えたこと」
    R:Recommendation「提言:どうしてほしいか?」

 

逆から考えていきます。報告をする目的はなにかといったら、Recommendation 提言のためです。医師に何かをしてほしいとか提案をしたい、それが報告の目的です。

そこにフォーカスしている点をまず認識して下さい。

忙しい医師にとにかくすぐ来てほしい! そのためには理由を伝える必要がありますが、死んじゃいそうだからとにかく来てよ、という結論めいたことだけを言っても、なぜ??という疑問が発生し、先方も迅速な行動には繋がりにくいです。

なぜ緊急度が高いと思ったのか、またそもそもなぜショックを疑ったのか、根拠となるデータを客観的に手短に示します。それがバックグラウンドです。

さらには、結論を最初に、ということも大事。まずは要件の全体像を伝えたほうが話が速いということで、Situation「状況」から話し始めます。今回は例としては、ショックというキーワードを入れましたが、そこまで絞り込めていなければ、「急変です!」の一言でもいいと思います。

報告の目的は、「死にそうだから速く来てよ」なわけですから、その部分とは直結しない呼吸に関する情報などはあえて言及しないことで、問題をクローズアップできます。余計なことをダラダラ言わない! ということです。

看護職の方の報告の傾向を見ていると、状況を伝えるだけで、なんのための報告かという、目的意識が弱い印象があります。

「先生、○○なんですけど…」という語尾をはっきりさせない感じで、現状報告だけを行い、判断やその先のアクションは完全に丸投げしている傾向がないでしょうか?

医学的判断は医師が行うという医療界の構造を考えれば自然なことなのかもしれませんが、体系的アプローチやアルゴリズムによって医師以外でもある程度、先行きが見通せるような状況が広まりつつあります。

そして、まさにそこを学ぶのがPEARSですから、判定により問題点がある程度見えるし、その安定化のための手立ても先読みできれば、それをぜひ積極的に報告に取り入れることで、医師が来てから診断をつけて処置の準備を始めるのではなく、先読みした準備が奏功すれば処置までの時間を短縮して、救命の可能性を高めることができるかもしれません。

 

「先生! すぐ来てください」のもう一歩先へ

そう考えると、SBARの最後のRecommendation「提言」が極めて重要で、単に「すぐ来てください」にもう一言、「何分で来れますか? 到着までの指示をください」などが入るといいですね。

さらにいえば、この先の処置や展開が予想できていれば、「ラインとっておきましょうか?」とか「生食1リットルつなげておきます」とか「ネブライザを準備しておきます」など、具体的な提言もできるかもしれません。

指示を受ければ薬剤投与も含めてある程度の処置ができるのが看護師免許の強みです。

それを活かすも殺すも、ナースからの報告次第といっても過言ではありません。


雨の中の野外救急法トレーニング

この前の日曜日、横浜は数日降り続いている雨の真っ只中でしたが、市内の山林でウィルダネス・ファーストエイド講習を実施しました。

雨の中、レインウェアを身に着けて、雨に打たれながらのレクチャー&即時の実践体験&シミュレーション。

蚊に刺されながら、泥だらけになりながらの1日講習でした。

BLS横浜では、ファーストエイド系のレギュラープログラムがいくつかありますが、その最終型とも言えるのが、このウィルダネス・ファーストエイドです。

BLSやACLSと違って、明確な答えがないのがファーストエイドの世界。

だからこそ、シミュレーションによって、観察、評価、判断、実践をしてもらい、「振り返り」を行う中で、「考え方」を固めていきます。

ファーストエイド訓練は、救急対応の「答え」を学ぶのではなく、「考え方」を学ぶの目的です。

だからこそ、机上のディスカッションだけではなく、体験をしてもらう必要があるのです。

通常の講習会場の中で行うシミュレーションでも、座学だけに比べると相当な気づきや学びがあるのですが、しかしそこはやっぱり講習会場。スライドで風景写真を流したりと工夫をしていますが、安全確認や搬送の必要性判断などの環境要因の現実性がどうしても乏しくなってしまうという限界があります。

その点、この部分で強烈に効くのが、実際の屋外フィールドで開催するファーストエイド・シミュレーショントレーニングです。

今回は肌寒い時期の雨の中でしたので、応援を待つ間、傷病者の安静を保つにはどうするかという課題が突きつけられました。

寒さと雨を凌ぐにはどうするか? 本来なら動かさないほうがいい傷病者ですが、救助がくるまでの時間と、日没までの時間を考えた場合、少しでも安全などこかに移動させるのか、それともその場で夜明かしする準備を始めるのか、など切迫して考えなければならない状況になります。

ウィルダネス・ファーストエイドでは、脈拍数、呼吸数、意識レベルといったバイタルサインの評価も含めていますが、雨に濡れた寒い環境の中、傷病者は健常者の演技にも関わらず、毛細血管再充満時間は3~4秒に伸び、本当に唇も青くなったりして、このあたりも今回、雨天の中、決行したからこそのリアルな学びだったと思います。

講習会というイベントを企画する側としては、安全上の問題から中止を決断することもありますが、テーマが野外救急法ですから、危険がない程度の悪天候であれば、むしろ学びの場としては好条件ともいえます。

今回、悪天候ゆえのデメリットといえば、「記録」が取りづらいという点はありました。

野外救急法においては、傷病者の状態と行った処置、そして時刻などの記録が重要となります。この点、雨だと書けないという、リアルな現場でもありうる問題点に直面しました。

また、参照資料を取り出すことができないため、学習者の持っているもともとのファーストエイドの引き出しが重要という点も、ふだんの好条件の講習より際立ったように思います。

やはりウィルダネス・ファーストエイドのシミュレーションに参加するには、ハートセイバー・ファーストエイド コース程度の疾病やケガの基礎知識はほしいところです。

 

 

さて、そんなウィルダネス・ファーストエイド講習ですが、今回はNPO法人日本災害救護推進協議会との共催でしたが、次回は春前くらいにBLS横浜主催として開催していきたいと思っています。

興味がある方は、年明けくらい過ぎくらいから BLS横浜講習スケジュール をチェックしてみて下さい。


PEARSのシミュレーションってどんなもの?

今日は、横浜で PEARSプロバイダーコース with シミュレーション でした。

PEARSプロバイダーコースのシミュレーション風景

気づけば、いつの間にか日本国内のPEARSプロバイダーコースは、シミュレーションを「省略」するやり方が一般化してしまったので、PEARSのシミュレーションと言ってもなんのことかわからないPEARSプロバイダーさんが多いのが現状かもしれません。

G2010版のPEARSコースのシナリオ進行は、「ラージグループ・ディスカッション」と「スモールグループ・シミュレーション」の2つのやり方から選べることになっています。(参考まで、今後移行していくはずのG2015版ではシミュレーション省略のオプションは撤廃されました)

教育工学を学ぶ立場である、私たち日本医療教授システム学会ITCメンバーとしては、シミュレーション抜きの「ラージグループ・ディスカッション」だけで終わらせることはありえないという考えから、旧来のG2005-PEARSのやり方を踏襲して、シミュレーションありの選択をしています。

PEARSのシミュレーションとはどんなものかを紹介しますと、、、



PEARSシミュレーションの例


PEARSのシミュレーションというのは、BLSを2人ないしは複数人で行うことではありません。PEARSの体系的アプローチ(アセスメント)をマネキンの前で展開し、障害のタイプを判定し、介入し、再評価を行うことを言います。


まずは、症例DVDの映像をちらっと見てもらいます。第一印象はパッと見の評価ですから、そう長々とは映像は流しません。数秒間、患児の様子を見てもらった後、第一発見者の受講者さんはマネキンの前に立ってもらいます。

先ほど見た映像の子が目の前にいますよ、どうしますか? という設定で、シミュレーションを始めていきます。

第一印象の評価で、自分1人の手に負える状態じゃないと思えば、他の医療スタッフ(受講者)たちに応援要請し、3人程度のチームでアセスメントを進めていきます。

第一発見者の指示で、チームメンバーが心電図モニターを装着すれば、手元のモニター画面に心電図波形と心拍数が表示され、パルスオキシメーターを装着すれば酸素飽和度が表示されます。(BLS横浜では iPadのシミュレーター を使っています)

それらのモニターの値や、映像で見た児の呼吸の様子から、呼吸数や努力呼吸の有無などをアセスメントしていき、判定をしつつ、必要な介入を行っていきます。

例えば、小児は舌が大きく、気道閉塞が起きやすいという解剖学的特徴があります。その為、体位を整えるという気道確保が極めて有用です。肩枕を入れたり、抱っこをしたり、ということを実際に試していきます。

酸素投与という話になれば、実際に手元にあるデバイス(経鼻カニューラ、マスク、リザーバー付きマスク、BVM)を選択肢、酸素流量を具体的に指示し、マネキンに装着してもらいます。そうするとリアルタイムにモニターの酸素飽和度が変化していきますので、それを見ながら流量や投与経路を調整します。

吸引も大切な気道確保の手技ですが、小さな子ども相手の吸引は難しく、泣いてしまったらより状態は悪化してしまうかもしれません。また酸素マスクを当てようとしても子どもは嫌がるかもしれません。机上のディスカッションではなかなか考えが及ばない部分です。

講習の前半で知識として学んだことを、マネキン相手ではありますが、アクションとして実施し、結果や反応を見ながら、考え、悩むのがシミュレーションです。

シミュレーションのゴールは?


障害の「タイプ」と「重症度」を判定するのがPEARSコースのゴールと思われがちですが、臨床で使うスキルとしては、判定結果をもとに自分がどう行動するか? が重要です。

判定だけで終わってしまったら、ただの診断ごっこです。

特に、BLS横浜では、看護師向けにPEARSを展開しています。

看護師としては、例えば患児の呼吸障害のタイプが「下気道閉塞」で重症度は「重症」と判断して、すぐに酸素投与と気管支拡張剤のネブライザー投与が必要だとわかっても、ナースの判断で勝手に薬剤を使用することはできません。

となると、臨床的な実行動としては、状況を医師に報告し、必要な医行為の指示を取り付けるというのが看護師の実務です。

そこでPEARSのシミュレーションでは、医師へ電話で報告する、という介入をしてもらっています。

インストラクターが医師役となり、報告を受けるのですが、実際にやってみると、要領のよい報告はなかなか難しいものです。

そんなときは、AHAコンテンツには含まれていませんが、SBARという報告様式を提案してみると、これがしっくりと収まるということに皆さん気づいてくれます。


看護師は、独断や単独で医療処置を行うことはできませんが、医師の指示があれば薬剤投与を含めた大概の医療処置は合法的に行えます。医師がその場にいなくても、医師の目となるような観察をして報告をし、指示を取り付ければ、救命処置を行えるのが看護師です。

そして、体系的アプローチの視点や考え方は、医師も含めた医療界で標準的なもの。

それに則れば、診断は行わない看護師であっても、状況の先読みはある程度できます。しかしそれを診断として行えない立場だからこそ、主観ではなく、客観的な事実の情報を含めて医師に報告して、科学的な推論をアセスメントとして述べて、必要な処置を提案し、具体的な指示を取り付けること。これがSBAR報告です。

そんな風に、指示を待つのではなく、提案(recommend)するという一歩踏み込んだ思考で考え、行動し、実際に声に出して行動してみるというのが看護師にとってのPEARSシミュレーションの主要なゴールと考えています。

そんな医師への報告までの間は、チームメンバーで情報共有し、意見交換し、記録や処置などの役割を分担しながら、評価を進めていくというチームダイナミクスも体験し、「できる医療者が1人」いるだけでは、物事はうまく進んでいかないという大事なポイントも実感していくのです。

PEARSプロバイダーコースの教育的意義

PEARSコースの画期的なところは、嘘偽りのないホンモノの生命危機状態患者の映像を使って観察・評価の練習ができるところにあります。

これは、AHA-PALSやAHA以外の標準化教育プログラムをもってみても類を見ない、PEARSの唯一無二な部分です。

これにより認知スキルが鍛えられます。

例えば、PALSプロバイダーコースでも、陥没呼吸や呻吟といった異常な呼吸様式は出てきますが、主に言葉として出てくるだけで、「見て判断する」という部分は「できてあたりまえ」として扱われており、教育フォーカスは症状の認知ではなく、その先の診断(二次アセスメントと診断的検査)に向けて重きが置かれています。

PEARSをアセスメントのための認知スキルトレーニングと位置づけるなら、映像を見て、受講者同士でディスカッションしながら理解を深めるという学習方法で十分かもしれません。

しかし、それはアセスメント訓練で終わってしまいます。

生命危機状態に陥っている患者をアセスメントする目的は何か?

もちろんそれは命を救うため。状態が悪化して目の前で命を落とすことがないようにするためです。

安定化のための救命処置という「介入」を行うための方向性を定めるツールとしてアセスメントを行うのです。

アセスメントはゴールではなく、過程です。

アセスメントを現場で使えるツールに格上げさせるのがシミュレーション

BLS横浜でPEARSコースを受講した方たちは例外なくシミュレーションの効用を口にします。


  • 座ってアセスメントするのとマネキンの前で立ってやるのではまったく別物みたいで驚いた
  • さっきはわかった気になったけど、いざやってみると意外とできない、わかっていないのを痛感した
  • やったことの反応がちゃんと返ってくるので再評価の大切さを感じた
  • アセスメントを進めるばかりじゃなくて介入のタイミングが重要
  • アセスメントができても、報告につながらないと意味がないとわかった


「わかる」と「できる」の間には大きな隔たりがあります。
そのギャップに気付けるのが模擬体験であるシミュレーションです。模擬体験と実体験もまたギャップがあるものですが、知と行動の溝を認識して隔たりを軽減できる働きが期待できます。

シミュレーションであっても、慌てますし、冷汗びっしょりになることもあります。軽いパニックになることも。

こうした心の揺さぶりを少しでも体験しておくとは、いざというときのためのパニック対策にもなります。

BLSにしてもACLSにしてもPEARSにしても、受講することが目的になってはいけません。

自分はどうなりたいのか、なにができるようになりたいのか?

その最終的なアウトカムに向けての階段のひとつが標準化教育です。

その研修で得たものは、実臨床で実践するためのどのステップに相当しているのか? そこでカバーできていないのはどの部分か?

そんな学びの構造解析をしてみると、学ぶ意義が違ってくるように思います。